マール3-2
それにしても、「筋力5」と「持久力5」のコンボは凄いわ。犬人族の獣人の中でもリカオン種のアルトは元々持久力が高いけど、ウチを軽々と抱き上げた状態で、トップスピードに近い速度で、結構な時間走り続けとる。魔物等のスピードでも追いつけん位のスピードや。
こりゃあ、逃げ切れるな。
そう思た途端、アルトが前にコケた。
アルトに抱かれとったウチは、慣性の法則に従って前方に放り出されて、地面に落ちて、そのまま転がるしかなかった。
「物理防御5」のおかげで痛も痒もないんやけど、この姿を他人に見られとはないな。
すぐに立ち上がって、何があったんかアルトを確認すると、アルトも転がった状態から起き上がったところやった。
ウチから見えたんはアルトの後ろ姿やけど、アルトのふくらはぎの後ろ側に、切り裂かれたような傷が数本、斜めに並行に走って、血が流れとる。
ように見たら、アルトの皮鎧の背中の部分も斜めに裂けとる。
皮鎧はともかく、ウチと同じ「物理防御5」のアルトの身体にこれだけの傷を付けられるんは、よっぽど強い・・・・・これは、「風魔法5」・・・エア・カッターやな。
おっさんを乗せとる、あのでかい犬か。
そんなことを考えよったら、おっさんが犬から降りて近付いてきた。
「お前達は一体何なんだ?」
おっさんが何か訊いてきたけど、ここは怪我をしてるアルトに受け答えを任せて、ウチはその間にチャチャッと「治癒魔法・中」でアルトの怪我を治す。
「ハンターだ。見て分かんねーのか? ジジイ」
アルトはファル以外の男には大抵塩対応やけど、このおっさんには特に容赦ないな。
「ハンターなのは見りゃ分かんだよ。このバカ共め。
人とは本当に頭の悪い奴ばかりだな。俺様が何を訊こうとしてるのか、察することも出来ないのか。
駆け出しのハンターに見えるのに、見た目からは考えられないほどの強さを持っているお前達は、本当に獣人族とエルフ族なのかと訊いてるんだ。バカ共め。
まあ、エルフに関しては、見た目通りの年齢とは限んねーがな」
このおっさんも、口悪いわ!
ウチが年齢、鯖読んどるみたいに言わんとってくれるかい。
最後にこっちを見られたけど、もうアルトへの治癒魔法はかけ終わっとるから気付かれてないやろ。
さあ、ウチも口撃や!
「汚えジジイが何寝惚けたこと言ってんだ!
私達が獣人とエルフ以外の何か、ってことが有り得るのか?
馬鹿だから仕方ないとは思うが、少し考えてから喋った方が良いぞ、クソジジイ!」
と思たけど、アルトが容赦なく続けた。
ウチもちゃんと確認と口撃しとかんとな。
「お前か?最近、この国で小さな村を滅ぼして回っとる馬鹿は」
「頭悪い上に口も悪いとは、最低の女共だな。
答えてやる義理は無えが、どうせすぐに殺すんだ。冥途の土産に、特別に教えてやろう。
お前の言うとおり、俺様とこの魔獣達こそが、愚かな人族の住む村をいくつも滅ぼしてやったんだ。感謝しろ」
「何のために、そんなことしよんや?」
「はあ?
今言ったばかりなのに、他人の話を聴くことも出来ないとは、本当に人族は馬鹿ばかりだな。
馬鹿ばかりでどうしようもないから、滅ぼしてやってるんだよ。
この魔獣達を見てみろ。
俺様の言う事を素直に聞いて、一所懸命に他の魔物共を倒してSPを稼ぎ、どんどん強くなってる。
文句も言わない。
それに比べて人族はどうだ!
わざわざ俺様が強くなる方法を教えてやっているのに、文句ばかり言って、すぐに怠けたり休んだりばかりで、自分を鍛えようとしない。
そうやって自分で強くなる訓練を拒んでいるのに、強くなれないのを俺様の指導が悪い所為だと言う。
しかも・・・・・。
しかもだ。
この俺様のことを理解しないそんな人族を、たった一人傷つけただけで、この国は俺様を牢屋に放り込み、その上、この国の軍は俺様をクビにしやがった!
この魔獣達はそんなことはしない。
常に俺様の言う事を理解し、命令に従う。
どっちがこの世に必要かは、誰でも理解できるだろう。
だから俺様は、世界にとって害にしかならない人族を、神に代わって滅ぼしてやってるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いかん。
コイツとは話にならん。
話の前提が全く噛み合わん。
常識が根本から違い過ぎる。
コイツは自分の事しか考えとらん。
軍で居ったんなら、人の集団の中で居った筈やのに、人が集団で生きていくための法とか、秩序とか、一切が抜け落ちとる。
こんな奴をこのまま放置しとくんは、絶対にいかん!!
「どうした!
自分の考えが間違っていたのに気付いて、言葉も出ないか?」
「あぁ・・・。
ウチが間違とったわ・・。
お前は絶対に、この場で捕らえるか、殺しとかなアカンちゅうことに・・・、今・・・気付いたわ!」
「まだ、何が正しいか解らんのか?」
その時やった。
ドンッッ!っとウチのすぐ横で大きな音がしたと思たら、
「アルトさん、マールさん、お待たせ・・・しまし・・た?」
ファルがおった。




