軽大娘皇女
軽大娘皇女
窓の外では梅雨の晴れ間が強く照りつけており、蝉の声が庭の桑の木からうるさいほどに響いていた。私は麻の織物で作られたお気に入りの浅黄色の衣の裾を指先でつまみ、膝の上に置いた白磁の皿に目を落とした。皿の上には少し乾きかけた塩辛い鰆の焼き魚がのせられており、箸をつける気力も起きないまま油の固まった白い断面を見つめていた。ふと、床に散らばったままの履き古した革の草履が目に入り、部屋の隅に澱んだ湿った空気が自分の胸の詰まりと重なるような気がして小さく息をついた。
「お姉様、またそんな風にただぼんやりと魚を見つめて……。せっかく厨房の者が朝早くから塩加減を調えて焼いてくれたというのに、このままでは本当に猫の餌にしてしまいますよ」
軽皇子は私よりも鮮やかな紅色の衣を揺らしながら歩み寄り、私の手から箸を取り上げると、自分の膳の上に無造作に放り投げた。彼女の髪に結ばれた紫色の紐が微かに揺れ、部屋の中にはどこか甘ったるい梅の香油の匂いがふっと広がった。私は弟のその落ち着きのない仕草を眺めながら、自分の爪の間に先ほど庭の草むしりをしたときの黒い土が微かに残っていることに気づき、無意識に左手の親指でその汚れを隠すように強く握りしめた。
「食べる気になれないだけよ。それよりも、あなた、昨夜は一体どちらの部屋で夜更かしをしていたのですか。机の上には読みかけの漢籍が開きっぱなしになっていましたし、灯火の油が皿の縁まで垂れて固まっていたではありませんか」
私は弟を真っ直ぐに見据えながら、わざと少し強い口調で問い返した。軽皇子は私の言葉を軽く聞き流すようにふっと鼻で笑い、窓枠に肘をついて遠くの青空を見上げながら、わざとらしく大きく一つ伸びをした。
「そんなことどうだっていいでしょう。退屈な宮中の決まり事ばかりを気にして生きるなんて私には窮屈すぎるし、それよりも今日の夕暮れ時に庭の東屋で冷たい水菓子を食べようと厨房の女官と約束したことの方がずっと大切よ」
弟はそう言って私の肩を軽く叩くと、足音を立てて廊下へと走り去っていった。私は一人取り残された部屋の中で、冷え切った鰆の皿をそっと引き寄せ、誰にも聞こえない声で小さく「勝手なことばかり言って」と呟きながら、わずかに湿った箸をゆっくりと持ち上げた。




