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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第3章 音色の違う行進曲
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第33話 流心

 シヴァの目がゆっくりと開いた。

 消えかかった焚き火の横で、カルランが眠っている。

 背後にある荷馬車からは、エルフとドワーフの穏やかな寝息が聞こえていた。


「やっと明け方か……」


 彼は心の中で呟くと静かに立ち上がった。

 地平線と混ざり合う遠くの空から光が漏れる。

 それに背を向けて、暗い夜へと足を踏み出す。穏やかな水流の音を頼りに、歩き始めた。


 段々と踏み締める野草が少なくなって、泥濘んだ土を踏むようになる。


 既にあった足跡を、彼は踏んだ。

 その眉がピクリと動く。


「もっと上流が良いな……」


 息を抜くように、小さな声をシヴァは出してみる。

 仲間の息遣いは変わらない。消えかかった灯りしか、その目には映らない。


 だから、目を逸らして彼は歩く。

 足についた泥を拭うように、野草を踏んで進んでいく。


 1分

 2分

 まだ歩く。

 5分が過ぎて、歩速が緩む。


 歩きながら、大きく息を吸ってゆっくりと吐く。


「この辺りなら、だいぶマシだな」


 シヴァはそのまま、小川に足を踏み入れた。

 暗くて見えない水底にある幾つもの石を足裏で探り、慎重に進む。


 夜の空気よりも、水は冷たい。

 夜明けを待つ時間よりもその流れはずっと早い。


 そんな小川の流心でシヴァは立ち止まると、身を屈めて肩まで浸かる。


「ちょうど良い深さだ」


 上流に背を向けて川底に尻をつくと、足を伸ばす。

 上体を後ろに傾けていき、ゆっくりと後頭部から水中に潜っていく。

 前に突き出た鼻だけが水面から出ていた。


 緩やかな流れに全身の毛が靡く。

 音のない世界。

 冷たい水に体が順応していく。


「境界……」


 シヴァは心の中で、言葉を紡ぐ。


「だから、ビジネスが成り立つわけか」


 彼は静寂の中で、考え続ける。

 頭の中を整理して、思考を組み立てていく。


 10分

 20分

 まだ暗い水底にいる。


「凄いな……。境の中で生きてたら、気づけない」


 天狼山からの景色をシヴァは思い返す。

 世界の全てを取られた感覚が、少しだけ遠のいている。


「人間同士の奪い合い……」


 そして、カルランの言葉が頭を過ぎる。


「亜人の方がマシなんだろうな」


 そうして、彼は起き上がる。上体を水面から出して、顔を洗う。


 朝方の風が少し寒い。

 太陽が山から這い出て、周囲が明るくなっている。


 シヴァは立ち上がって、全身を揺らす。

 水気をきって、大きく伸びをする。


 そんな時にふと、対岸が横目に映った。

 彼はそれを真っ直ぐに見つめる。


 真っ白な骸骨が転がっていた。眼窩の奥は何もない。

 腐った木板。錆びた鉄片。

 それが、伸びた野草に埋もれている。


「境の向こうも見てみたいな。きっと、付け入る隙はまだある気がする……」


 川から出たシヴァは、仲間の元へと歩き始めた。

 遠くの荷馬車が豆のように見える。


 野草を踏む。体から水が滴る。


 ふと、シヴァの耳がピクリと動いた。

 遠くから地響きのような音が聞こえ始めたのだ。


 シヴァは咄嗟に振り返る。

 通ってきた道の遥か奥から、大きな砂煙が近づいてきている。


 彼は大きな雄叫びを一つ上げた。

 そして、すぐに地面に伏して、草に隠れる。


 鼻に届くのは、馬と鉄と人間の匂い。

 耳を覆うのは、馬蹄が地面を叩く音。


 何百という騎馬隊が、逃げようもない速度で迫ってきていた。

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