はじめての街とこれからは
次の日、ガゼフとともに解体したキングベアを荷車に載せ、街へ向かった。
荷車を引く牛や馬はいないため、アドルフは体作りと称しこき使われていた。馬車にはガゼフも乗ったため、予想より到着が遅れた。
街に到着すると、まずキングベアの素材を売るために素材屋に訪れた。キングベアは金貨2枚と銀貨8枚になった。相場を知らなかったアドルフにしても周りの反応を見ると大きな金額だと理解できた。
「これからお前の装備を調達しに行く。俺の騎士時代からの付き合いのある鍛冶屋がある。顔はこえーが腕は確かだ。」
鍛冶屋は少し通りから外れた所にあった。中に入るとしかめっ面の老人がいた。ガゼフより少し年上だろうか。
「よお、モーガン。元気にしてるか。」
「何だガゼフか、狩猟用のナイフでもおったのか?」
「ちげーよ。今日はこいつの剣を探しに来たんだ。」
「横のガキのことか。見た所チビだが非力ってわけじゃねーな。肉が付けば一端の剣士になれそうだ。靴の減りからして軸足は右足。しかし、剣を背負うなら、肩がどちらかが下がるがそれが全く無い。つまりは、使ってた獲物はガキの体格から見るに軽くて小さいもの、ナイフだな。剣を使うなら軽いものがいいだろう、軽量なものはそっちだ。」
一目見ただけで使ってた武器を当てるとは、ガゼフが言ってた通り、腕は良さそうだ。アドルフは剣を見ていたが、どれも名剣といっていいものだったがいまいち馴染めなかった。剣を使うが魔法も使うから片手で振れる剣が良さそうだ。
(そうだ、魔力視を使ってみようか。)
魔力視で見てみるといくつか魔力を発していた。その中でも最も魔力がはなっていた剣を手にとってみた。持ってみると不思議と持っているという感覚はなかった。剣を振ってみても体の一部のような感じだ。
「まさか、それを選ぶとはな。そいつは実験的に作ったものでな、数種の金属を使ってな丈夫なんだ。頑丈というわけではないんだが、とにかくこわれねー。まあ、研がないとダメだがな。」
「この剣がいい。値段は?」
「そうだな。金貨3枚だな。」
「足りないな。仕方がない。また買いに来るよ。」
「うん?金ならガゼフが捨てるほど持ってるだろう。用立ててもらえるだろう。それに何故交渉しない。いや、値引いてこの値段だから変わらんけどよ。」
「いや、これは自分の命を預けるモノなんだ。それぐらいは自分で稼いだ金で払いたいし、この剣の価値を下げたく気がしたんだ。」
「えらい!ボウズ、名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
アドルフもそういや名乗って無いと思った。
「アドルフ」
「アドルフか。じゃあ、アドルフ、今日いくらか頭金を払いな。残りは今度来た時でいい。」
「いいのか?お言葉に甘えて。」
アドルフはそう言うとモーガンに金貨2枚を渡した。
その後は、鞘やベルトなど装備を買い、モーガンと一言、二言会話して店を出た。ガゼフは先に店から出ており、店の前で待っていた。
次回一人でもこられるようにいろんな店に案内してもらった。アドルフにとって、この街は新鮮なものであふれていた。脱出していなければこんな気持ちにはなれなかっただろう。
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家に帰ってきた。買ってきたものを片付けて、ガゼフと今後の話をした。
「剣術を教える前に確認するが、獲物は片手剣で魔法も使用する。そうなると、所謂魔法剣士という奴にあたる。魔法剣士は過去に何回かやり合ったことがあるが、どいつも中途半端なやつが多かった。剣術よりの奴が少し魔法が使えるであれば牽制とかに使うんだが、そんなんよりも石投げることと変わりない。それだったら剣の腕を鍛えたほうがいい。逆に、魔法よりの魔法剣士は存在しない。魔法がある程度使える奴は近接も魔法で対応すればいい。つまり、魔法剣士はな、魔法の運用方法で強さが決まる。それを決めるのはまだ早いが今のうちに考えておけ。魔法に関しては俺が教えてやれることは無い。そのへんはお前一人でどうにかしろ。」
魔法を使うにしても基本的な魔法しか使えないので、魔法の練習も必要だろう。火力もだが一番の問題は発動にかかる時間だ。発動に時間がかかるとそれだけ隙を見せることになるし、まず相手に避けられる。魔法に関しての課題は見つかった。後はどう解決していくかだ。
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翌日から剣の修行も追加された。早朝は狩りへ行き、帰ってきたら体作りトレーニング。ガゼフ曰くこのトレーニングは毎日やると逆効果らしい。そのため、3日に1日の頻度で行った。その後は剣術の手解きを受けた。夜になると食事を済ませ、就寝するまで魔法について実験を行っていた。
そうして、3ヶ月ほどを過ぎると、まだ完全ではないが体もできており、ガゼフからの一通り剣の修行も受けると後は反復の練習を行う段階まで進んだ。
魔法についても目安がついてきた。施設で学んだ魔法の知識では足りないと思い、街の本屋や図書館があったため、そこで魔法の参考となりそうな本を集め、知識を貯めていった。
従来の詠唱による発動は時間による制約があるため、別の方法がないか研究した。最初は直接魔力を放てるか調べた。結果は魔力の放出は可能であるが攻撃力もなく、一定時間すると霧散する。次に、放出した魔力で魔法陣を成形する方法を試そうとしたが、上手く魔法陣を成形できなかった。
(方向性はこれで良さそうだが、成形方法が上手くできれば後少しなんだが…。魔法陣の図形情報をもっと単純な情報、数値で表現すれば。いや、それだと変換しないと。魔法の放出についてもう少し調べてみるか。)
魔力の放出はどういう仕組みなのか気になり、魔力視を使いながら放出した。まず体内の魔力の溜まり場のようなところがあり、そこから一本の血管のように魔力が体内で細く伸びていって左手の手のひらに到達すると魔力が放出された。放出されると魔力の線は消えていた。
(この魔力の通り道を魔力回路とでもいおうか。魔力回路を複数作って放出すれば、図形を作れないだろうか。)
しかし、試そうとしたが魔力が減っていたため、明日になったら試そうと床についた。
登場人物
アドルフ … 主人公。実験と考察大好き。
ガゼフ・アームストロング … 爺。元王国騎士団団長。よく人を殴る。剣より拳のほうが強い。
モーガン … 目利きでかなり洞察力の持ち主のスーパー鍛冶屋。