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泡立つ雲に押し上げられて、開いた天は明るさを増し、細めた目も熱に潤むかのような、そんな季節がやってきて村もまた一段と活気に満ち溢れる。
日がまだ目覚めきらぬうちに水を汲みにいき、身なりを整え、掃除をして、その後食事の支度をする。
野菜のかすやパンを細かく砕いたものを小鳥にやる。小鳥は羽根を撫でられる違和感を別段気にもせず、餌を啄んだ。
女もまた僅かばかりな食事をとる。
そして隣室の機織り機の許へ向かい、ほぼ日がな一日そこにこもっている。
変わることのない時を、まさに少しずつ織り上げていくかのようで、そこには一つの綻びも破れも見出だせない。
太陽は高々と駆け上がり、時に厚く雲がかかり、そして熱の中にも時折涼やかな風がすぎる。
日々は回り、日々は去る。
そんなある日に。
女は水を汲みに行く。戻ってくると、朝靄の狭間から何か影がふるえた。
そしてそれは女の家のすぐ前に、夜の欠片が取り残されたといったようにじっと立っていた。
女は手桶の握りを持ち替えると、何事もなかったかのように進む。
影が身動きし、こちらを振り返ったようだ。だが女は立ち止まらず通り過ぎ、そのまま家の中へと入ってしまった。
鼻の先で閉じられた戸の、低い音を聞けばやがていなくなるだろう。
だがややあって女が戸を開けると、影はまだそこにいた。
すでにかなりはっきりした陰影が生まれつつある風景の中、陽射しから浮かび上がったのは女の腰元よりも低い、華奢な少女だった。
静かに開けたために、女の視線があっても自分の足元に気を取られていた少女は、不意に顔を上げて女と目を合わせた。
そこには異様としか言えない容貌があった。
女はしばらく見つめ、また戸を閉めた。
再び戸に手をかけたとき、太陽は真上も過ぎようかという頃だった。
少女は膝を抱えて座り込み、はい上がろうとする蟻をひたすら押し潰していた。
女はまたもや彼女をじっと見つめた。無言の問いかけと答えの後、女が踵を返すと、戸は開いたままだった。
少女は愛らしい栗色の縮れ毛をもっていた。が、かわいらしい或いは子供らしいといえるのはそこだけで、なぜなら少女の顔半分は汚らしい包帯が巻かれてあり、何やら血のようなものがこびり付いているのだった。
榛色の瞳はつぶらで無邪気であっても、人を凝視する癖があるらしく、その容姿からでは何とも恐ろしいものにしか感じられない。
少女は何度も指で包帯を押し上げて、両目で女を見ようとしている。隠されていた片方の目には、爛れた赤い皮膚が垣間見えた。
着ているものも服というよりは布の切れ端に見え、どうやら寸法も合ってはいない。
しかし見た目、殊に顔かたちに目を奪われがちだったが、少女の突き出た手足の細さは十分に刮目に値した。
女が余りものの食事を出すと、意外なことに少女はあまり食べなかった。ただ目元を緩め、女に向かって大きく唇を押し上げてみせた。
包帯を剥がそうとすると、少女は戸惑い、困ったような照れたような曖昧な表情を浮かべた。
榛色の瞳は決して人を脅かすようなものは含まれず、ひたすら澄んでいる。
だが少女は距離を置こうとした。何よりも触れられることを拒んだ。




