前編
今作品は誰もが思うようなハッピーエンドものではありません。
また、暴力行為、流血的表現、過度ではありませんが性描写が存在します。
それらが苦手な方はブラウザバック推奨します。
それでもいいよという方は、お付き合い頂ければ幸いです。
繰り返しを望んだのは俺自身だった。
だけど、こんな結末を望んだわけではない。
失ったモノ。
なくさずにいられたら、ただそれだけでよかったのに。
どうして最期はいつも、なくしてしまうんだろうか?
――悲鳴、痛み、嘲笑。
意識が戻れば、いつものように、当り前にあるもの。
幼馴染みが泣き叫び、盗賊達が好き放題やって、そして倒れている俺。
もう、何度目だろうか?
そう思って思わず口を歪める。
「――――はっ」
答えは当然知っている。
もう、数えるほども馬鹿らしいぐらい、だ。
そう思って、痛む身体を無理矢理起こした。
「・・・・・・」
右腕は折れている。
身体の至る所は内出血で紫色に変色、頭は割られ、血が流れて右目の視界を塞ぐ。
「――――」
周りに意識を向けると、焦げた匂いと鉄さびの匂いが混じり合っている。
いくつもの家屋は燃やされ、黒煙が辺りを漂っていた。
そんな状況の中。
「――――」
視線をずらせば、幼馴染みのサラは何人もの男に組み敷かれており、俺の名前をひたすら叫んでいる。
「――――」
サラの叫びに引き寄せられるように、痛みを無視して歩きだす。
そんな俺を目にして、盗賊達は嘲笑を浮かべたまま、こちらに向かってくるのが見えた。
構わずに歩き続けた。
歩く度に、ザリっと地面をこする音が聞こえる。
「・・・・・・」
あいつらに、焦りはない。
俺が剣を握っていても、それは変わらない。
当然だ。俺はこの時まで、全くの素人。
村の仕事で身体が鍛えられているといっても、所詮一般人レベルの話し。
荒事になれている人間が集まっている中で、そんな存在が脅威になるなんて普通思わない。
ただやりたいように、奪い、犯し、満たされることしか頭にない顔。
当初は憤怒の対象でしかない見慣れた顔も。
今は少しだけ――。
そう、少しだけ、羨ましいと思ってしまう。
「・・・・・・」
そうやって、少し立ち止まっている間に。
一人、手にもつ斧で襲い掛かってきた。
乱暴に振るわれたその一撃はそれなりの力が込められていて、当初はその一撃に何度絶命したか。
けれど今は「当たれば死ぬな」ぐらいの感想しか浮かばず。
「――――ふっ」
俺は頭をかち割られる前に、右腕を振るい、剣を一閃、相手の首を跳ね飛ばす。
一瞬の間、首から噴水のように血を吹き出し、盗賊の一人の身体壊れた玩具のように地面に沈む。
それを横切りながら、呆然とする面々に襲い掛かる。
冷静な心とは裏腹に、ブチブチと身体の中で何かが切れる音、灼熱ような熱さ。
「――――」
俺の身体は、やり直しの時点で、元に戻っている。
ボロボロの随分頼りない状態。
だが、構わない。
どれだけ身体が貧相になろうと、繰り返して得た経験と意識があれば。
なぶる経験しかしていない連中に負ける道理などない。
そう思い、やたら重い身体を無理矢理動かしていく――――。
「――――」
折れた右腕を振るい、首をはねる。
「――――」
身体を沈み込ませ、再度腕を振るい、胸を裂く。
「――――」
痛みで身体が軋む、視界は紅く、それでも手は止めずに、一人ずつ仕留めていく。
時に躱されて、反撃を受けても構わない。
「お前、可笑しいだろっ、何でとまらねぇ!?」
「――――」
傷がいくら増えたところで、止まるつもりなど微塵もない。
「あ、あくま・・・・・・」
最後の一人が、腰を抜かして俺をみて、そう呟く。
「そうかよ――――それがどうした」
恐怖で震えた声や怯えた表情を見ても、何の感慨もわかず、頭から真っ二つにして、相手を絶命させた。
首なしの死体が倒れ込む。
「・・・・・・」
血だまりを作る肉塊を見下ろしていたところで、剣が手から滑り落ちる。
カランと乾いた音共に、ドサリと倒れ込む俺。
限界を超えた身体を酷使続けたツケがここでやってきた。
痛みも熱さも失われていき、徐々に意識を保てなくなる。
この感覚も、何度も味わった。
だから、恐怖も何事もなく、身を任せる。
そうして、意識を失う直前。
今度こそは――――。
ただ願った。心から。
――――今度こそは、未来を変えることができますように――――。
“一度目”の事は、よく覚えている。
全て無くして、そして無様に殺された。
意識を途切れるその時まで、盗賊達の嘲笑と、サラの叫ぶ声だけが耳残る、最悪の結末。
だから、死ぬ間際願ったんだ。
自分はどうなってもいい。
それでもサラだけでも、助けたいと。
村も、友人も、両親も。
全部助けることができなくても。
幼馴染みの彼女だけは、救いたい――。
そう願い、そして気づけば戻っていたのだ。
全てを失う間際に。
この繰り返しは、そんな俺の願いが始まりだった――――。
それが例え、今ある苦しみを生むきっかけであろうとも。
俺はその願いを無くしたいとだけは、思えないままでいる――――。
「―――マ」
声が聞こえる。
薬草の匂いに紛れて。
「ソーマ――――」
誰か、なんて問う理由もない。
「ぁ――」
名前を呼んだつもりだったが、声にならなかった。
繰り返しで、“今”の身体の状態を把握していても、毎回つい同じ事をしてしまう。
あまりにも、サラの声が悲しみに満ちているから。
それを払拭したくて。
「だ、い・・・・・・じょ・・・う・・・・・・ぶ、か?」
声を絞りだしても、虫の鳴き声よりか細い自分の声。
「ソーマ、気づいたのっ!? あ、いいよ、無理して喋らなくても――――」
俺の手を握って、涙まじりに話すサラ。
ぼんやりとした意識と、鈍い痛みに晒されても、彼女の声と温もりだけははっきりしていた。
「・・・・・・」
今、全てをなくして、俺もサラも決して幸福とはいえない状況だ。
事実、サラの表情は以前のような明るさは微塵もない。
それでも、当初は繰り返しの先で、ようやくここまで辿り着けたことに。
俺自身は。守れたことに安堵していた――――。
だから、悲しみ中に、確かに希望はあった――。
――それが。
――単なる幻想だとしるのに、そんなに時間はかからなかった――――。
村の建物は殆ど燃え尽きてしまって。
それでも残ったボロボロの家屋に二人で過ごして数日。
その間サラは俺を看病し、俺は寝たきり。
正直、精神的な事を含め、彼女にも休んでいて欲しいところだが、そうもいってられない。
・・・・・・言ったら言ったで、余計サラを不安定にさせるのは、経験済みだ。
『これ以上無理したら、私自分を刺すからっ!』
この後を知っている身としては、休む事より、身体を鍛えたり、モノを揃えたいところなのだが、無理をしすぎた結果、そんな事を言われてしまった。
あの時は、土下座とか誓いとか、あとはまぁ・・・・・・。
嘗てのサラとの触れあいを思い浮かべてすぐに振り払う。
「ソーマ、どうしたの、苦しい?」
なんでもない、と声を上げようとして、その結果どうなったかを思い返し。
「――すこし、ま、でも大分良くなったよ。だからサラも、もう少し休む時間を増やせ」
あえて肯定し、話題を切り替えることでやり過ごす。
サラは元々面倒見がよくて、しかもこっちが無理をすると、それを把握している節が昔からあった。
そして、盗賊の件以降、精神の不安定さもあってか、サラはこれでもかというくらいに俺にべったりになった。
それは、別に構わない。
元々恋慕を抱いていた相手だ。その相手が弱っていても、支える立場で近くにいれることは、正直嬉しい。
けどそのせいか、やたら身体を重ねるきっかけがおおくなってしまい、そうなると鍛えることすら難しくなる。
なので、その機会は極力減らす事にこしたことはない。
その時。
『ソーマは、あの子がいいの?』
嘗ての首を傾げて、声音が一切変化しないサラが脳裏に浮かぶ。
・・・・・・サラを避けすぎると、別の意味で大変な目にあうが、今は大丈夫だろ、うん。
「うん、わかってる、でも」
「動いてないと落ち着かない・・・・・・だろ? けどそれは俺も同じ――だから、お互いに、休むときは休もう、・・・・・・俺もさ、無理はしないし、それに、サラが癒やしの魔法を使えるようになって、大分動けるようになったんだぜ」
折れた右腕を軽くまわす、少しの重さと、違和感以外は、問題はない。
「正直、ケガは問題無い。けど、瀕死の状態だったから、体力が全快になるのは時間がかかる。だからサラがいいというまで、俺は休む。だからサラも――――無理はするな、そういう約束、だろ?」
こくりと頷くが、納得はいっていない、といった表情を浮かべるサラ。
頑固なのは変わらないな。
そんな苦笑しつつも、ちょいちょいと手招きをしてサラを呼ぶ。
「ソーマ?」
ゆっくりと近づいてきたサラをそっとだきしめる。
「大丈夫だ、俺はこれから先、いつでも、どこでも、お前の傍にいる」
叶わぬ願い、守れなかった誓い。
数多くあるなかで唯一守れているもの。守り続けていること。
それだけが、今俺を支える糧となっている。
「無理に笑わなくて良いし、辛いなら泣けば良い、どうしようもないなら、その気持ちを俺にぶつけて良い――だからサラ、ありのままでいいから、今日は傍にいてくれよ、そして明日から、一緒に少しずつ、頑張って生きていこう?」
そういって、髪を一房なでて、その髪に口づける。
「・・・・・・っ」
「俺は、お前が好きだよ、サラ」
俺はある程度の繰り返しの中で、確実に実行する事をいくつか決めている。
身体を鍛えること、情報を揃えること、何事にも対応できるように身構えること。
そして自身の気持ちを伝えること。
タイミングとか場所、それは繰り返し度に変わるが、そこは重要じゃない。
大事なのは自分の思いを相手にはっきり伝える事だ。
繰り返しの中でそれを学んだ。
言わずに、なぁなぁにして、そのまま一緒にいるということは、相手を不安にさせるのだと。
『――あなたが優しいから、甘えていたの』
優しい笑みで、いつも甘えていてごめんなさい、と言われたときは衝撃だった。
繰り返して、なかったことになっても、しでかした事実を忘れず、そして二度と繰り返さないと決めた。
この思いはどれだけ摩耗しても失っていけないもの。
「ほんと?」
「ああ」
「慰め、とかじゃなくて?」
「違うよ」
首を振って、笑う。
「サラ好きだから一緒にいたい、それだけだ」
他に理由なんて何もない。
そう告げると、サラは嗚咽を零しながら俺に抱きつき、そんなサラを愛おしく思いながら、彼女を包み込む――――
「――――」
この世界は、残酷でクソッタレだ。
でも、それでも、今はどうか、柔らかな日差しや、時折外からそよぐ風が、彼女の心すこしでも軽くしてくれるように。
そんなことを思い、彼女の温もりを感じながら、時間は過ぎていった――――。
彼女と何度も愛を確かめあって眠りにつくと、夢に見るのは、今まで繰り返してきた出来事の数々――。
盗賊を撃退して、サラが魔法の才を発現し、癒やしの魔法を覚えたあと――――。
俺とサラはどこにいっても、何をしても、災難に見舞われた。
それは人災であり、天災であり、運が悪い、ただそれだけの時もあった。
最初は、今度こそはと、降り懸かる災難を振り払ってきた。
けど、振り払っても振り払っても、どこかで俺は死んでしまう。
いくら鍛えても、繰り返しの知識を用いても――――。
ひたすら殺され続けた。
ひたすら殺し続けた。
ひたすらそれらを繰り返し続けて。
次第に自分の命も、相手の命も、無価値にしか思えなくなった。
当初は、命を奪うことに恐怖や嫌悪感があった。
自分が死ぬ事にだって、何度も怯え続けた。
けれど今はそれが全くない。
きっと、サラという存在がいなければ、俺はとっくに壊れきっていただろう。
逆にいえば、サラがいるから、俺はまだ、この繰り返しに耐えていられる。
だが、そんな俺に前回、重大な事実を突きつけられた――
それは――――。
夢から覚めて、橫を見ればサラは眠っていた。
「・・・・・・」
そっと手を伸ばし、髪に触れる。
嘗ては明るい栗色だった、今は白髪の髪。
多分、相当ショックだったのだろうと思っていた。
髪色の変化も、癒やし魔法の覚醒も。
失ったことと、襲われたことによることが原因だと。
――――バカなお前にとびきりの絶望をプレゼントしてやんよ。
ハービット。
前回の繰り返しで出会った、最低なクズ野郎。
――よう、同類の阿呆。
――嬢ちゃんはどうでもいい、けどお前は面白そうだな、殺しがいがありそうだ。
――いいねぇ、いいねぇ! 自分の命も! 相手の命もっ! 全部どうでもいいとならなきゃ、そんな風になれないっ! いやぁいい退屈しのぎになりそうだっ!
快楽殺人者であるヤツがサラを狙い、それにより殺し合いを重ねて、その結果満身創痍のなりながらも、ヤツの心臓に刃を突き立てた時。
――俺様は未来が視える・・・・・・知りたくもねぇ事実を視せられ続ける。だからわかる。お前の願いは絶対に叶わない、何故か? そりゃお前さんの願いは――――このクソッタレの世界が否定しているからさ――――嘘だと思うなら、バベルという神殿の神官のジジィを尋ねろ。そいつがお前さんの願いを悉く踏みにじってくれるから―――――はははははははは!
笑いながら絶命したヤツが残した言葉。
俺はその言葉通りにバベルを訪れ、責任者である市債に話しをきき、確かに絶望した。
聞き及んだ事実と、これまでを照らし合わせ、それが真実だと実感したからだ。
そうして、その絶望と降り懸かる災厄の数々に耐えきれなくなり。
前回の“最期”は――――。
――俺はサラを殺し、そのあとに自らの首を切り落としたんだ――――。




