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生まれ変わっても佐藤だったので婿入りしようと思います  作者: とおりすがりのもの
第一章

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10/10

婿入りしようと思うのでモテる為に頑張ります。赤ん坊時代編7

「あぃううぇお。くぁぎうげぼ。すぁじずぜぇじょ(あいうえお。かきくけこ。さしすせそ)」


 お婆さんの一件があって以来、俺は発音の練習量を更に増やした。


 伝えたいことが伝わらないのはどうしても支障が出る。

 ずっと思っていたことが悪いカタチで現実に起きてしまった。


 本当なら事故を事前に防げていた筈なのに、俺の言葉が聞き取りづらいばっかりに、すぐに意味が伝わらず、お婆さんに怪我を負わせてしまった。

 今回は大事には至らない程度の擦り傷と打ち身だったけど、あれがもし段差じゃなく、自転車や車との接触に関わるものだったらと思うと、今でもゾッとする。

 

「いおぱにゅぼぇお、ぢりゅうむも(いろはにほへと、ちりぬるを)」


 だから俺は練習を続けた。


「あえんばぁいあぁうえお(あめんぼあかいなあいうえお)」


 あんな思いを二度としないように。


「なぁういなぁもえまだまぁも(なまむぎなまごめなまたまご)」


 何度も何度も繰り返す。


「とぅあびにょあきゅわおくきゃきゃうぎゃあ(となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ)」


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


「あがあはぁみゃわらぁ(あかさたなはまやらわ)」


 それなのに。


「じゅえんじゅぎぇん、ぼぼーおうりきゅえ(じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ)」


 何でできないんだよ?

 

「わぃじゃりゅちゅいみょぉ、しゅいびょあちゅ、うーわぁいみゃう(かいじゃりすいぎょの、すいぎょうまつ、うんらいまつ)」


 何でだよ?


「くーめうとぅおおいしゅんおろろ、やびゅわきょうじぬぉぶりゃおうび、ぱーぽぱびぽあぴっぽ――」


 何でだよっ!!


「あああああああああああっ!!」

「は、陽斗君どうしたの? ダメよ物を投げたりしたら!」

「ううぁあぃっ!(うるさいっ!)」

「うっ!?」

「だ……」

 

 手当たり次第に投げつけた車のおもちゃが母様の手にぶつかり、床に落ちた車のおもちゃがガシャンと音を鳴らす。


 俺の頭は急激に冷えた。


「陽斗君、ママは大丈夫だから、落ち着いて、ね?」

 

 逆の手でおもちゃが当たったところを隠しながら母様はそう言った。


 隠したってもう遅いよ。

 

 手の甲が少し赤くなっているのが見えた。


 痛かった筈だ。


 正真正銘の八つ当たりをしてしまった。


 マジで最低だな、俺。




◆  ◆  ◆




「逢さんこんにちは~」

「お、おおお邪魔しますっ!」


 昼下がり、我が家に来客が訪れる。

 今や馴染み深い関係であるママ友の佐藤椛さんと、桜庭柚葉さん。

 そしてその子供である陽菜と(ふう)だ。


「二人ともいらっしゃ~い。陽菜ちゃんと風君もこんにちは」

「こんちは」

「ばぁ~」


 それぞれのママ友さんに抱き抱えられた陽菜と風は母様に挨拶を返す。

 風は俺や陽菜よりも一つ歳下の一歳で、今はまだまともに喋ることはできない。

 それでもあと数ヶ月もすれば、簡単な単語くらいなら喋れるようにはなるだろう。


 俺みたいな出来損ないの口でなければだがな。

 

「さあ上がって上がって~」

「うぁあああ、逢さんのお家ぃ、オオおお恐れ多いぃ」

「いや、もう何回も来てるでしょ?」

「そそそそんなこと言っても、やっぱ、緊張しちゃうんですよぉ!」


 柚葉さんは毎回来る度に緊張しまくってなかなか部屋に入ってこないんだよな。

 玄関先でそんなおどおどしてたら不審者に間違われそうだ。


「も~、いいから入って入って~」

「あああああっ!? わわかりましたから、逢さん服を引っ張らないでぇ!?」

「お邪魔しま~す」


 しびれを切らした母様が強引に柚葉さんを引っ張り入れる。ここまでが柚葉さん入室までのルーティーンだ。

 もうすっかり見慣れたもんだ。


「って、あれ? 逢さんその手どうしたの? どっかにぶつけた?」

「あ、あ~、うん。ちょっと掃除中にうっかり、ね?」


 俺が付けてしまった痕に気が付いた椛さんが母様に尋ねるが、母様は事実を誤魔化して話した。

 別に誤魔化す必要はなかったとは思うが、それも母親としての優しさなのだろう。

 モテ男を目指しているくせに、そんな優しい母様相手に、俺は一体何してるんだろうな。

 

「いやぁあああああっ!? あああ、逢さんが怪我をっ!? 待っていてくださいすぐに救急車をっ!」

「呼ばなくていいから!? ホント少しぶつけちゃっただけだからっ!?」


 スマホで素早く緊急通報番号を押し、通話ボタンに指をくっつけようとしたところで母様が止めに入る。

 行動が早いな。旦那の時は全然救急車呼ばないのに。


「はると」

「だ?」

「はると、あそぼ」


 いつの間にか降ろされていた陽菜が俺の服を引っ張りながら言う。

 正直、今はあまり遊ぶ気になれないんだが。

 そんな時間があるなら、発音の練習に回したいところだ。


「は~」 

「だ?」

「ば~」

 

 いつの間にか降ろされていた風が俺の服を引っ張りながら何か言う。

 言葉は分からないが、何をしたいかは何となく伝わった。

 風、お前もか。


「あそぼ」

「ば~」


 くっ、二人掛かりとは卑怯な。

 だが、今日の俺は屈しないぞ。

 たとえ陽菜が不機嫌になろうとも、風が泣き出しそうになろうとも。


 今俺に必要なのは練習なのだ。


 俺は子供部屋を指差して赤ん坊二人に言う。


「むぉべあぞびぇ(向こうで遊べ)」

「あははは」


 陽菜はまた俺の発音を聞いて笑う。

 ……今は発音のことで笑うのはやめて欲しいんだが。


 とりあえず、遊び道具を置いてある子供部屋にこいつらを連れていくか。

 そっちに連れてけば、何だかんだ勝手に遊び始めてくれるだろう。

 俺が子供部屋に向かって歩き出すと、赤ん坊二人も俺の後ろを付いてき始めた。


 ハイハイで。


「………………」

「ん?」


 陽菜、お前――


 まぁだ歩けないんかぁああああああっ!!


「だぁっ!!」

「わっ!?」


 俺は陽菜の両手を掴み、強引に陽菜を立たせる。


「な、なに?」

「……うぇんじゅ」

「え?」


 この野郎。俺が必死で発音練習してるってのに、気にせずいつまでもハイハイで動き回りやがって。


 お前も俺みたく練習しろやぁあああああっ!!


「うぇんじゅうううううっ!!(練習うううううっ!!)」

「わっ、と、とっ」


 俺は陽菜の手を引きながら一歩一歩後ろへ下がる。

 陽菜も俺の進みに合わせるように、おぼつかない足取りで一歩一歩前に進んでいく。


 そうだっ! そうやって少しずつ進んで歩く感覚を掴むんだっ!

 焦るなっ! ゆっくり一歩ずつだっ!


「うぁん! ちゅー! うぁん! ちゅー!(ワン! ツー! ワン! ツー!)」

「うあん? ちゅー? うあん。ちゅー」


 陽菜は俺の掛け声に合わせながら右足と左足を交互に動かして前へ出す。

 そうだいいぞっ! その調子だ陽菜! 


 ある程度歩かせてみたところで俺は片手を放してみる。


「わっ!?」


 バランスを崩して倒れそうになった陽菜の手をもう一度掴む。

 安心しろ! 倒れそうになったら俺が支えてやる! だから怖がらずに歩け!

 さあもう一度だ!


「うぁん! ちゅー! うぁん! ちゅー!(ワン! ツー! ワン! ツー!)」

「うあん。ちゅー。うあん。ちゅー」

「ばぁ~」


 横で見ていた風が俺の方に片手を差し出してきた。

 風、お前もやりたいのか?

 多分遊んでいると思われたんだろうが、それならそれでいい。

 遊びから覚えるのが赤ん坊というものだ。  

 よかろう! 一人も二人も変わらないぜ!


 俺は陽菜が倒れないようゆっくり座らせてから風の手を取り、同じように練習をさせてみた。


「うぁん! ちゅー! うぁん! ちゅー!(ワン! ツー! ワン! ツー!)」

「うー、ちゅ。う、ちゅー。きゃぁああ」


 やはり風は遊びだと思っているらしく、楽しそうに笑っている。

 それでいいぞ風! 楽しめてるなら歩くコツを掴むのも早いかもしれん!

 俺の次に歩き始めるの早い子になるかもな!


「つぎ、あきなのばん」


 陽菜が俺の方に両手を差し出してきた。

 あ、陽菜! ようやく自分から歩く練習をする気になったか!

 いい心がけだ! それでこそ我が女幼馴染ポジ!

 佐藤でなければより良かったけどね!


「や~」


 しかし風はまだやり足りないらしく、俺の手を放そうとしたがらない。


「だめ。かわって」

「や~」

「あきなも、やりたい」

「やぁー!」


 こらこら、順番に面倒見てあげるから喧嘩するでない。


 そうして俺はどちらかがぐずり始めないよう様子を見つつ、交代で陽菜と風の手を引いて歩く練習をさせていく。

 まだ二人ともフラフラだが、少しずつバランス感覚を掴んできているような気がする。

 歩行を教える者として、教え子の成長は嬉しい限りだ。


 ……て、自分の発音練習ほっぽり出して、俺一体何してるんだ?

 つい陽菜の現状が許し難くて強制練習始めさせちゃったけど、そんなことしてる場合じゃないだろうが。

 俺は俺の練習をしっかりやらなくちゃ――


「はると」

「だ?」

「たのしーね」

「………………」


 まあ、させたのは他の誰でもない俺だし。

 もう少しくらいなら、付き合ってやるか。

 

「きゃー! 三人で歩く練習してるー! めっちゃかわいいー!」

「風ちゃん! もう歩く練習してるの!? なんていい子っ!」

「陽斗くーん! 陽菜ちゃーん! 風くーん! こっち向いてー!」


 そんな中、奥様方はかなり興奮気味に俺達の写真をパシャパシャ撮り続けている。


 見せもんじゃねぇぞ保護者ども! 

 見ろ! 心なしか陽菜の顔がほんのり赤いぞ! 恥ずかしがってるじゃねぇか!

 風なんて勢いが強すぎて怖がってんぞ!

 ていうか手伝えやぁ! 赤ん坊がやることじゃねぇんだわこれ!


 と思いつつも、スマホのレンズを向ける母様の手の痕に目が向いてしまったので、お詫びを兼ねてしばらく俺達の歩行練習風景を撮らせることにした。

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