24. 約束 -オーキッドサイドー
少し短いですけど。
「お願い……ですか?」
握られた手をそのままに、彼女はおずおずと顔を上げた。
「そう、お願い。貴女にしか聞けないお願いなんだけど」
少し警戒されたかな? 彼女の手がピクリと震えたのが判った。
「そんな心配しないで。何も無体な事をしようとしている訳では無いからね? まずは貴女に見て貰いたい物があるんだ」
「見て貰いたい物ですか?」
目をぱちくりと丸くして、私の目を見ている。小首を傾げているその姿は小さな小鳥だな。
「そう。でもここに持ってこれる物じゃないんだ。見るためには少し時間を掛けないと駄目なんだけど、お許しが貰えるかが問題かな」
「それは、遠い所にあるという事ですか?」
さすが賢い。
「うん。そうなんだよね。貴女を連れ出すのには作戦を立てなきゃならないね。まあ、とにかく付き合って貰いたいのは事実だから、少し待っていてね?」
「ご一緒に行けば、黙っていて下さるのですか?」
再び目が潤んできた。何か凄い勘違いをされているかもしてない。不埒な事を考えている訳じゃないから、ここはちゃんと否定しないといけないね。
「念のため言っておくけど、何も取って食おうという訳じゃないし不埒な事を考えている訳じゃないからね? そこは誤解しないで欲しいんだけど」
「……判りました」
まだ100%信じて貰えてないよね? そりゃそうだよね。
「とにかく、そうだなぁ、来週の金曜日。金曜日を空けておいてくれる? 朝早くからで申し訳ないけど」
「……」
「迎えに来るから」
「……はい」
警戒心の解け切らない返事だったけど、なんとか本人の了承を得た。
「私からご両親にはお話しするから。それまでは待っていてね。いい?」
「はい。よろしくお願いします……」
不安そうな顔で頷くと彼女は私の手に目線を下げた。ああ、ずっと握ったままだったね。
「それじゃあ、またお伺いするけど待っていてね。今日はこれでお暇するよ」
私は彼女の隣から立ち上がると、少し離れて淑女の礼を執った。さすがにこの格好で、騎士の礼は無いよね?
「あ、あの、オーキッド様」
「なあに?」
彼女も立ち上がって私を見上げた。
「あの、色々、ご迷惑をお掛けしました。それに、あの、ありがとうございました」
少しどもりながら小さな声で言う。赤くなった頬も、未だ潤んだままの瞳も何とも言えず可愛らしい。
ちょっと、私、変かも。彼女から目が離せないんだけど?
後ろ髪を引かれながらも、何とかサロンルームから退室した。玄関まで送るという彼女を振り切って、私は侯爵家の廊下を歩く。すぐ前を歩く執事の後ろを、考え事をしながら進んでいた。
「奥様」
執事の呼びかけにふと目線を上げると、ミラノ侯爵夫人が私に向かって手招きをしている。
私は引き寄せられるように、夫人に近づいた。
「オーキッド様。カレンで遊ぼうなどとは思わないで下さいませ? あの娘は、これから伴侶を探さなくてはならないのですから」
扇で顔半分を覆いながら、口調はにこやかだが目が笑っていなかった。さすが社交界の情報通で、侯爵家を牛耳る夫人だけあるね。表情と声色と言葉の意味が全く違うのだから。
「ご心配無く。そんな事は致しませんから」
こちらもにっこりと微笑んで返す。
「そうですか。それは残念ですわ。オーキッド様があの娘を貰って下さるなら、それでも宜しいのですけど」
何を言い出すかと思ったら、随分と思い切った事をおっしゃるね。
「あら、ご存じありませんの? 昨夜の事、すでに社交界中に知れ渡っていますわよ? パルマン辺境伯が、若草色の眠り姫を抱いて夜会のホールから出て行った。と」
そのことか。確かに彼女を姫抱きして運んだけど。
「カレンにとっては、初めての経験ですわ」
「それは、お互い様ですね。私も女性を姫抱きしたのは、カレン嬢が初めてですから」
「……」
「……」
お互い一歩も譲らない感じで対峙している。
「まあ、よろしいわ。でも、これだけは覚えておいて下さいな。今朝になってから、あちこちのご令息方から、沢山のお誘いが来ていますの。さては、あの娘の雰囲気が変わった事で、気付いた殿方もいらっしゃたみたいですわ。あの娘の良いところ、貴方はお気付きではないこと?」
パチンと扇を閉じると、夫人はグイっと私に近づいた。
「手に入れたいと思ったら、タイミングを逃さない事ですわ。ねえ、オーキッド様?」
執事に聞こえない小さな声で囁かれた。
「それでは、オーキッド様。御機嫌よう、またのお越しをお待ちしておりますわ」
真意を確かめるべく夫人の顔を見ようとしたけど、貴婦人の優雅なカーテシーで見送られてしまった。
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カレンママ登場です。
さあ、オーキッドさんは
何をするのでしょうか?
あれ、後1話?
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