22. 麗人の訪問
少し短いですけど。
「体調は如何ですか? ああ、少し顔色が良くありませんね? 大丈夫ですか?」
我が家のサロンにお迎えしたのは、オーキッド・フォン・パルマン辺境伯、その人です。
通常であれば、男性の訪問など私一人で対応させて貰えません。でも昨夜の事があるので、さすがに無下にお断りも出来ませんし、何よりあのお母様が 『きちんとお礼を言わなければなりませんよ』 等と笑顔で言うものですから、今このサロンルームには二人きりでお会いしています。
心配そうに私を見詰める黒い瞳。差し出された香り良いミニバラを受け取りながら、正面にいる御仁を凝視しています。
「あの、お花ありがとうございます……体調は、すこぶるイイです……」
もごもごと小さな声でそう言うと、目の前の麗人はにっこりと微笑んでいます。
「それは良かった」
ああ。今日も何て艶やかな出立でしょう。
深いグリーンの細身のドレスに、胸元には大輪の赤い薔薇が飾られています。掌位の大きな薔薇は、しっとりとした光沢のある天鵞絨、花弁の所々にはウォーターオパールの雫が付けられていますわ。
そうです。今日は紛れも無いドレス姿ですわ。
きっと、このドレスもレディ・パトリシアのデザインなのでしょう。だって、オーキッド様にとっても良くお似合いですもの。
「あの、オーキッド様。昨夜は本当に申し訳ござませんでした。大変ご迷惑をお掛けしてしまいました、それに、ハンカチもお借りしてしまって……」
お見舞いに来て下さったのでしょうけど、今の私にはお詫びする事しか出来ません。真っ直ぐお顔を見る事も憚れます。
「とんでもない。私こそ、年若いご令嬢に配慮が足らず申し訳ありませんでした。もっと気を付けるべきでした」
「いいえ、私の方こそ醜態を晒したうえに、オーキッド様にお世話になりっぱなしで、お礼も言えませんでした。ホ、ホールから、は、運んで頂いて、お母様が来るまで付いていて下さったり、倒れた理由も別に作って下さったり……」
ああ、最低です。言いながら自己嫌悪に陥りましたわ。
「ああ、そのことなら気にしないで? だって、貴女がシャンパンを飲み過ぎたのは私のせいでしょ? 私が変な質問をしたからでしょ?」
「うっ……」
艶っぽい流し目でそう言われて、私は返事に困って固まってしまいました。
そうです。昨日の話はまだ終わっていなかったという事。オーキッド様は私をB・Bだと疑っているのですわ。あんな小説の、それも主人公のモデルにした事を怒っていらっしゃるのよ!
「カレン嬢? やっぱり本調子では無さそうですね。お顔の色が宜しくないですけど、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。あの、本当にオーキッド様には、色々とご面倒をお掛けしてしまって」
「迷惑なんて思っていませんよ? 寧ろ貴女を休憩室にお連れできたのは、役得だと思っていますし。因みに、女性を姫抱きしたのは貴女が初めてです。そう言う意味では、貴女は私の初めての女。とも言えますね」
「っ!?」
な、何てことをおっしゃるの!? それも満面の笑顔で! やっぱりこの方、変わっていますわ!
「という事ですから、貴女は何もお気になさらず。そうだ、今日伺ったのは昨夜のお見舞いもあったのですけど……」
オーキッド様はそう言って、ドレスと共布でできたオーモニエールに手を入れました。
何でしょう。
「これ、カレン嬢、貴女の物ではないですか?」
そ、それって!
見覚えのある小さな手帳。特注のインクを仕込んだペンと、青緑色の掌に載るくらいの手帳。
間違るはずありませんわ。だって、あれは、私とエルメーヌ様、マリオン様の三人しか持っていない特別な手帳ですもの!
なんで? ナンデ、オーキッド様がそれを持っているのですか!?
だって、だってソレは、大切なネタ帳なんですよ! アレやコレや、その他諸々が書き込んであるのですよ!
はっ! 思い出しました! 昨日、夜会で何かネタを拾えればとドレスの隠しポケットに入れていたのですわ。
あぁぁぁああああああああ!
「……」
血の気が引くというのは、こういう時の事なんでしょう。
「これね、貴女を抱いて休憩室に行った後、戻って来たら座っていた椅子の下に落ちていたの。抱き上げた時に落としちゃったんじゃないかなぁ」
しれっとそう言うオーキッド様の視線が痛いです。
だって、絶対私の物だと知っているのでしょう。あの青緑色の表紙の色は、まさしくこの間聞かれた時に、売り物でなくて友人からの物だと言ったばかりですから。
「これ、貴女のでしょう? ねえ、ビビアン・ビルドレッド嬢?」
ブックマーク、誤字脱字報告
ありがとうございます。
感想とかも頂けると嬉しいです。
遂に、物的証拠を突き付けられました。
オーキッドさんはカレンさんを
ドウシタイのでしょう?
楽しんで頂けたら嬉しいです。
評価ボタンの☆も頂けると
頑張るパワーになります。
気に入って頂けたら、ポチリと
お願いしますね。




