塔の幼女メアリー
「ダネル、ここから見下ろすと平民どもはまるでゴミのようね。よく見なさい」
「ヒィ、ミレーヌ姉上、怖いです」
・・・ここは戦時の際の連絡塔、魔道通信が発明されてから廃れていることよ。
幼少期よりお気に入りの場所よ。
今、侯爵令嬢との婚約締結を拒絶した弟の教育を行っている。
「どう?平民どもは汗と泥にまみれて労働という業に苛まされているのよ」
「はい、姉上・・」
「それを踏まえて質問するわ。貴族とは何かしら?」
「はい、血統です。色です。確かにメアリー嬢は貴族の色でした」
「違うわ」
「姉上、まさか民衆派でしたか?」
「更に違うわ。馬鹿ね」
このノース王国は北の海の海賊集団が作った国だわ。王家も海賊出身だわ。その分家のグルジア家も海賊だわ。金髪碧眼など北の大地に適応した結果に過ぎない。
「・・・貴族とは『匂い』よ」
「匂い?」
「一代目は平民の匂いそのもの。二代目も初代の平民の匂いを嗅いでいる。
三代目も祖父の匂いを嗅いでいる・・・そして、やっと四代目以降に貴族になるのよ」
「そうだったのですか?」
「あの男爵令嬢からは平民の泥の匂いがプンプンしていたわ。貴方、分かった?」
「・・・分かりませんでした」
「それでね。試練を与えるわ。そこのレンガを取りなさい」
「はい」
「レンガをあそこのウジャウジャ沸いている平民どもに投げなさい。貴族は時には平民を犠牲にする政治をしなければならないのよ。平民は道具、貴方、道具相手に罪悪感を持つの?」
「ヒィ、そんな」
「お父様はカンカンよ。廃嫡するというのを私が止めているの。私の報告次第で貴方はあの平民の中に混じることになるわね」
「はい、姉上、投げます!エイ!」
・・・フフフ、弟に罪を犯させる。私は弟の犯罪を目撃し秘密の共有になり親近感がわくわね。
そして、弱みを握ってもいるので生涯弟は私の言う通りになるわ。
正に一魔法二ドラゴンね。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・そのレンガはメアリーの馬車に直撃しそうになった。
【危ない!】
「キャア!」
・・・何だ。いきなりヨサブロウさんが飛び上がり剣を抜き何かを叩き斬った。石か?
「次弾があるかもで候!マリー殿、馬車を降り。姫と路地裏に!」
「はい!」
「ヒヒ~ン?」(僕は?)
「トニー殿は馬車から外すでござる!避難されよ」
「ヒン、ヒヒ~ン」(ご主人様の所に行く)
「待て、忠義は素晴らしいが目立つで候!」
しかし、次弾はなかった。もし、直撃したら馬車の屋根を突き破って私に当たったのかも知れない。
あの塔から石を投げて来た奴がいたのだ。それしか考えられなかった。
衛兵隊に通報したが犯人は捕まらなかった。
トーマス商会で会議が開かれた。
「串焼きストリート全体を天幕で覆えばいいんだ」
「ゴホン、ロクな意見がないネ・・」
結論は。
「メアリーを狙った可能性があるネ。しばらく串焼きストリートに行くのは禁止ネ」
「受け入れられないの~、メアリーを狙ったのならいいの~」
そう、これは私を狙ったのなら良い。謹慎して安全が確保されれば良いのだ。
しかし。
「もし、誰構わず狙った悪戯だったらタチ悪いの~、目処が立つまでメアリーは謹慎しないの~」
「・・・うむ。ヨサブロウがいるから大丈夫ネ、でも過信は禁物ネ」
対策はどうしようか?常に最悪の事も考えておくべきだ。
そうだ。塔は普段は閉鎖されている・・・
軍の管轄だ。
「調査するの~」
この世界ネットはない。王都内に残る連絡塔を調べるために冒険者を雇い。数、状態を調べた。
「どうも、逢い引きや。物珍しさのために料金を払って登っている人いるみたいですね。軍は黙認です。安い賃金の門番の臨時の収入扱いでダンマリですね」
「分かったの~」
石を投げた事件が広まった。串焼きストリートの客足が鈍る。
だが、隠すつもりは毛頭ない。間違った情報が流れないようにこちらから発信する。
「メアリーの馬車に石を投げられたの~、その後はないの~。油断禁物なの~」
事件の概要をビラにして配った。情報提供もお願いする。
そして、現場の対策はとりあえず・・・
冒険者を雇い。最新の双眼鏡を貸与した。
串焼きストリートの目立つ所に物見台を設置。
これ見よがしに塔を監視していると見せた。
だが、これは対処療法に過ぎない。根本的な解決に至っていない。
塔の門番から苦情がくるが構うことはない。
「・・・当方の管理が不十分だと?」
「不十分なの~、明らかに人が入っているの~」
「な、何?!」
「でも、分かるの~、栄光ある王国軍通信兵なのにお給金安いの~」
門番さんたちは有事の際、魔道通信が故障したときに手旗で王宮まで知らせる役目をもっているのだ。
それに門番さんたちもお客にもなる。フォローは入れる。
次は泣き落としだ。
「グスン、グスン、この前に入った人を教えて欲し~の」
「・・・分からない。お忍びだからな。かなりの高位貴族だった。知っていても教えられない。お互いの身の破滅になる・・・」
ダメか。対策はあるが・・・・串焼きストリートの主要メンバーを集めて会議を行った。
「いっそうの事、串焼きストリートを閉鎖するべきかもなの~」
「「「メアリー様」」」
「そ、そんな商売あがったりです」
安全と商売、リスクは何にでも内包しているが、買い物をしていたら上からレンガが落ちてくるはリスクを超えている・・・
悩む。悩む。悩む。悩み抜いての決断だ。
「ウ、ウワ~ン、閉鎖をするの~、人が死んだらヤーなの~」
「「「メアリー様」」」
「でも、7日間待って欲しいの~、欲し~の、その間に解決するの~」
まるで欲しがり妹のように欲し~のを連発した。
一番最初に反応したのはヤキトリのナタリーさんだった。
「ええ、メアリー様のいうことなら私は閉鎖しますわ。ウフ、その間、息子とどっかに行きますわ」
「う皆、連休みがないからな。休暇と思えばいいじゃん」
「おう、そうだな」
「「「そうだ。そうだ!」」」
「みなしゃま有難うなの~グスン、グスン」
これは嘘泣きではない。本気で泣いた・・一日でも早く犯人を見つけてやるぜ。




