3話 魔王様。メイドになるにゃん?
街の中を歩いていた財布を開いてエクセリアが大きなため息を漏らす。
「はぁ~、お金がない……バブルスライムに剣以外の装備を溶かされちゃって、全部買いなおさなきゃいけなくなったのが悪いのよ! これじゃ魔王退治したくても、旅に出れば野宿しかないだろうし……あの変な子に会ってから碌なことないわね」
大きなため息をついてがっくりと肩をを落としている。
意気消沈しながら街道を歩いていたエクセリアは求人募集の看板を目にする。
「にゃんダフルワールド? 即日入金で日当金貨一枚!? 可愛い制服を着てご主人様を癒す簡単接客? 輝きたいスタッフと店長が笑顔で働くアットホームな職場です? いかにも胡散臭いわね……でも、金貨一枚かぁ~。金貨一枚あれば1ヶ月は遊んで暮らせる……」
エクセリアは財布を開いて中を見つめる。
「これじゃ、今日の宿代もない。どうしよう! こんないかにも危なそうな仕事なんて……」
怪しい求人と財布を交互に見ていたエクセリアの背後から最近何度も聞いた笑い声が聞こえてきた。
「ふはっはっはっ!! 勇者め! 今度こそ魔王のこのボクがお前を倒してやるぞ!!」
振り向くとそこには目鼻立ちの整った顔に白銀の美しい長い髪に綺麗な紫色の瞳の女の子が立っていた。
エクセリアは財布と広告と女の子を交互に見ると二チャッと笑ってゆっくりと近づいていく。
圧倒的な威圧感に押されて女の子は後退り、壁まで下がるとエクセリアはドンッと壁に手を突いて怯えて涙目になっている女の子を見下ろす。
「……ちょっといい?」
怪しく笑うエクセリアに対して、目の前の女の子は怯えたようにうつむいた。
まるで雨に濡れた子猫のようにブルブルと震えている女の子の顎に手を当て顔を上げさせる。
「可愛い顔に綺麗な髪……ふむ、いけるか?」
「……な、なに?」
怯える女の子の視線の先でエクセリアはニチャッと従悪な笑みを浮かべた。
「あなたのせいで私はお金がないの……だから、責任取ってもらえる?」
「……うっ……ひぐっ……でも、ボクお金なんて持ってな……」
「責任! 取ってくれるわよね?」
泣き出した女の子を脅すように強い口調で問いただす。
「……なんでもします……」
「よろしい……なら、ついてきて!」
エクセリアが歩き出すと女の子がトコトコと後ろを付いてくる。
「そう言えばあなたの名前なんて言うの?」
「……ボクは魔王」
「な・ま・え! は……なんて言うの?」
「……ソ、ソアラです」
顔を合わせずに小さな声で呟く女の子に笑顔で答える。




