揺らぎ2
「残念ながら、こんな状況で問い質さない訳にゃあいかねぇんだよな…。嬢ちゃん、何があった?」
一先ず落ち着かせるのが先決だと考えたのか、私の目元を執拗に拭いながら頬を掴んで来る男を一瞥。
「別に?何も無いわよ。目に塵でも入ったんじゃない?というか気安く触らないで。」
擦られ過ぎて少しひりつく目元がまた濡れて感じたのは少しの痛み。
強気な言葉は零れたけれど、抵抗する気が無いことなんて目の前の男には筒抜けで。
「はぁ、相変わらずだな?」
ゆったりとした笑みを湛える男を睨みつけるも相手は余裕を崩さない。
嗚呼、その表情は無いでしょう?
悔しいかな、この男に私はどうやら敵わないらしい。
「……黙ってじっとしてて。」
辛うじて私の口から出たのは懇願とも取れる言の葉だけだった。
半刻程過ぎた後でようやく戦火が切って落とされる。
口火を切ったのは他でもない男。
「で?」
たった一言。
しかしこの一言に含まれた重みを理解してしまっている私には残酷な言葉。
無言を貫く事は容易いけれどもそれは肯定へと変わる。
それだけは避けなければならない。
他でもない両親の為、愛する家族の為にも。
「あぁ、『別に』とかは無しな?『貴方に関係ない』ってのも無しだ。ここまで来たら関係のある無しじゃねぇだろ?」
口を開こうとした矢先に封じられたのは私が決まって言う言葉であり私の唯一の護り刀。
泣き止む前に見た笑顔はもう影すらも見えない。
「…っ。」
小さく息を吸い込んで、言葉を発そうとするも口から零れるのは僅かな息ばかり。
私は何時まで経っても決めきれない。
「…わかった。嬢ちゃんがそうなら俺は何も聞かない。それともう一つ。俺は明日から此処には来ない。」
迷いを映す私の瞳を確りと見ながら一句一句切るように告げるのは離別の言葉。
それは私と本気で向き合おうとしている男の覚悟。
掴まれていた頬からはするりと手が離される。
これで何もしなければ私は?
ここまでしてみせた男の覚悟は?
背を向けて歩き出す男の姿は今にも霧に紛れそうで。
「…待ちなさい。」
咄嗟に出たのは矢張り可愛げの無い命令口調。
ゆるりと振り返った男の口元には笑みが浮かんでいた。
スランプ脱出に向かっていますので暫しお待ちを・・・




