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#08「ちょ、バズってて草」

ダンジョンから帰還した翌朝。

最上《もがみ》ティアは自室のベッドから体を起こした。



彼女の住むマンションの一室は、自身の性格そのものを表したような統一感のない部屋だった。


ガラスのローテーブルの上には飲みかけのエナジードリンクと、途中まで進めたゲームの攻略本……そして、ヴァルディアスの心核。


壁際には大きな姿見とコスメボックス。

香水やネイル、つけまつ毛のケースがドレッサーの上にずらっと並び、床には脱ぎっぱなしのパーカーと、コンビニで買ったままの雑誌。


その一方で、テレビの前にはゲーム機が何台も並び、棚には人気ゲームのフィギュアやアクリルスタンド、限定グッズがぎっしり。

壁には某人気JRPGのライブイベントで買ったポスターまで貼られている。


さらには部屋の隅に置かれた、ダンジョン探索用プロテクターやレイピア。


ギャルの部屋なのか、オタクの部屋なのか、ダンジョンシーカーの部屋なのか、この場所に踏み入れた者は絶対に混乱するだろう。



ソファーに腰掛けたティアは、ローテーブルの上のヴァルディアスの心核を手に取ってニヤリと笑う。



「昨日はマジ疲れたけど……めっちゃ楽しかったなー」



ヴァルディアスの心核をテーブルに戻すと、スマホを開いてまとめサイトやインスタを順番に見ていく。

これが彼女の朝のルーティーンだった。


……そしてある文字がすぐに目に入り、スクロールしていた指が止まる。



『昨日、SSS級ヴァルディアスを単独討伐した謎のギャル』



ティアは、それが自分の事だと瞬時に理解した。


ネットニュース。

まとめサイト。

SNS。


巡回すると、どこを見ても昨日の自分の話題で持ちきりだった。


「Tバック」「安物レイピア」「アゲぽよギャルさんぽ」「煮卵」といった文字が、ネット中に洪水のように溢れていた。



「うっわ! すっご! てか、煮卵ギャルで定着してんの? ケツと煮卵を並べた画像まである……まあ、たしかにラーメンの味付け卵っぽいわ」



動画サイトを開けば、再生数が数十万、数百万になっている昨日の戦闘を切り抜いた動画がいくつも並んでいる。


さらに自分の配信チャンネル「アゲぽよギャルさんぽ」が、いくつものまとめ記事や動画で紹介されていた。

海外からのコメントまである。



「え、海外ニキにも知られてんの? あーしの戦いとケツ……」



もしかして……と今度は自分の配信チャンネルを確認した。


登録者数51万人超え。

見間違えかと目を擦ってもう一度見る……52万になった。



「もとが50人だったから……えっと、何倍? 一晩で? ヤッバ!!」



自分が一夜にして、とんでもない有名人になっている。

こんな事はもちろん人生ではじめてだった。



「世界中で話題の謎の女シーカーの正体は、実はAV女優の最上ティアでしたーってあーしが名乗り出たらどうなるんだろ?」



ティアは想像してみたが、ポジティブな事とネガティブな事の両方が浮かんでくる。


金銭的な面でいえば仕事が減ってきているAV女優を続けるよりは、人気配信者としてやっていく方が得られる収入は多いだろう。


ただ、だからといってAVの仕事をすぐにでも辞めたいかと言われると、そういうわけでもなかった。

AV女優としての自分を、ティアは別に嫌いではないのだ。


公表すべきか、しないべきか。

彼女には考える時間が必要だった。



ブーブーブーブー。


スマホが振動する。

画面には「冨安」と表示されている。彼女のマネージャーからの着信だった。



「なんだよぉ、こんな朝っぱらから……何時だと思って……」



ティアは壁にかけられたゲームキャラのシルエット型の時計を見る。

朝にマネージャーから着信がある……最も多いケースは集合時間に女優がまだ来ていない時だ。


ティアはすうっと血の気が引いて、一気に目が覚めた。



「うわっ! 今日撮影じゃん! マズいマズい! 遅刻しちゃうって! つーかもうしてるって!」


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