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68/68

#68「テンションがたぶん3倍だからぁ!」

転移ポータルを抜けた先は……やはり雪に覆われた世界だった。


ただし、ひとつ前の雪原には雪が降っていなかったが、今度の雪原ではかなり強い吹雪がティアの身体に当たった。



「バニースーツのおかげで寒くはないけどさ! めっちゃ視界悪いんですけど! 10メートル先も見えないよー!」



見通しが利かないので走るのは危険だった。


またこのような状況では自分の現在地がわからなくなることが多い。

もし遭難のようになってしまった場合は配信用ドローンをバックトラックモードにして来た経路を逆にたどり、転移ポータルまで一度戻らないといけなかった。



“すっごい雪!”

“ティアっちは視覚で敵の特徴を読むから難易度爆上がりだな”

“また暗視モードでコメント欄がサポートするのは?”

“あのドローンの暗視モードは赤外線タイプだから雪に反射するよ”

“熱感知のサーマルタイプだったら雪が降っていても問題なかったのか”

“雪が新しいから足が沈み込んで戦いづらそう……”

“ティアさん! 無理しないでくださいね!”



ティアは吹雪の向こうに影のようなものを見つけて立ち止まった。

その影はゆっくりと近づいてきて、止まった。


うっすらと姿が確認できたそれは、真っ白な毛に覆われた狼だった。

体長は2メートルを超え、鋭い牙を剥き出しにして低く唸っている。


同じような狼が、ティアを取り囲むように次々と現れていた。

気がつかずにここまでの接近を許してしまうことは彼女は珍しい。


この沖縄県洞3号は低すぎる気温がシーカーにとっての最大の敵だったが、さらにこの第二エリアは吹雪による視界の悪さによっていつの間にかモンスターの接近を許してしまうという危険があった。



“スノーウルフだ!”

“雪の中でも四本足ですばやく動けるやつ”

“10匹以上いる?”

“群れか……多いな……”

“完全に囲まれてる”



ティアは腰のナイフケースから魔剣ビヨンセを抜く。



「同時に攻撃してくるっぽいねー。真っ直ぐ突っ込んでくるやつもいれば、ジャンプして上から襲いかかってくるやつもいる感じ? この雪だとあーしは動きにくいから移動しないで戦うよー!」



魔剣ビヨンセは7メートルの長さに伸びた。



「最上位パッシブスキルのおかげで、走力2倍! 跳躍力2倍! 腕力2倍! 反射神経2倍! 動体視力2倍! 持久力2倍!! 全部かけ合わせて64倍!!」



スノーウルフたちが全方向から同時に襲いかかってくる。


ティアは右足で雪面を蹴り、身体を回転させた。

続けて左足、右足と小刻みに踏み替え、回転速度を上げていく。



「さらにいつもの10倍の高速回転でぇ!! 640倍!! そしてぇ! あーしのテンションがたぶん3倍だからぁ!!」



その場で猛烈な勢いで回りながら、ビヨンセを握る腕の角度を上下に変える。

剣の残像が半球状に広がり、ティアを覆うドームのようになった。



「1920倍のギャルパワーだぞぉぉぉぉ!!!!」



ドームに飛び込んだスノーウルフたちは次々と斬り裂かれ、雪原に倒れていった。



“持久力を攻撃力に掛けるなw”

“テンションたぶん3倍ってなんだよwww”

“いつもの10倍の回転……いつもって?”

“ウォーズ理論キター!!!!!”

“この技に跳躍力って使ってるか?”

“トンチキ計算すぎるwww”

“まあ、倒してはいるので……w”

“とんでもない技なのは間違いないけど……”

“気持ちの問題というやつですね”

“あれ? 目が回ってるっぽい?”

“またスライムキングの時と同じかw”



スノーウルフを全滅させたティアだったが、いつものような勝利のポーズを決めることはできなかった。

四つん這いの体勢になり口を押さえている。



「き……気持ち悪い……どっかで休みたい……うぷっ」



ふらふらしながら歩いていたティアの目の前に、巨大な岩壁が現れた。

その麓にはぽっかりと穴が開いていて、奥へと続く洞窟になっているようだ。


ティアは休憩するために洞窟の中へ入っていった。

洞窟は、迷宮タイプのダンジョン内と同じように壁や天井が発光しているので、ライトや松明は必要がなかった。



――――なにか音がした? モンスター?



洞窟の奥は右に曲がっていた。

ティアは聖剣ブリトニーを抜いて、音が聞こえた曲がり角の向こうを警戒しながら覗いた。



「…………へっ? 女の子ぉ?」



ティアは変な声を出した。


そこにいたのは、地面に置いた魔鉱石式ポータブルヒーターに手を当てている、ふたりの若い女性だったのだ。


ふたりとも分厚い防寒着を着ていたが、そこらじゅうが大きく破れている。

……というよりも服が溶けているようにも見えた。


ティアの声が聞こえたふたりが、驚きの顔で見てきた。



「どうして、こんな場所にバニーガールが? ついに幻覚?」


「ちょ、ちょっと待って……このお方って……うそっ!?」

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