#18「スキル習得ってゾクゾクしない?」
最上ティアは新しいスキルを習得するために、新宿区にあるダンジョン庁の支局施設へと向かった。
「ギャルスタイル」ではなく「お嬢様スタイル」に変身をして。
ダンジョン庁の発足は2000年代半ばである。
当初は通商産業省の一部局としてダンジョン行政を担当していた組織が、ダンジョン産業の急速な拡大に伴い独立したのだ。
現在では全国のダンジョンの管理からシーカーの登録、魔鉱石や心核の流通管理までダンジョンに関するほぼすべての行政業務を担っている。
スキルポイントの測定とスキルの習得は建物の二階で行われていて、整理券番号で呼ばれたティアは担当窓口に向かった。
窓口の眼鏡の男性はティアが記入した申請用紙を読んでいる。
「ええと、お名前は山寺佐紀さんですね。現在保有しているスキルポイントは……えっ? 270!? 書き間違いではないのですか? いくらなんでもこのポイント数は……」
「あーし……じゃなかった、私は地道にコツコツと貯めていたんですよ。先日こちらで測定した際の結果用紙もあります、どうぞご確認ください。うふふ」
「ほ、本当に270ポイントだ。これは失礼いたしました。200ポイントを消費して「モノいじり」スキルを習得ですね。準備いたしますので少々お待ちください」
男性はパソコンを操作したのち、マウスパッドのような薄型の黒い機械をカウンターに置いた。ティアはそこに開いた手を乗せる。
「このスキルを習得される方はここでははじめてです。ではいきます」
ティアは後頭部にじんわりとした熱を感じ、風邪のときの悪寒のようなぞくぞくした感覚が全身を駆け巡った。
正直不快ではあったが、昔は大きな機械の中に全身を入れてこの感覚を5時間以上耐えないとスキルの習得はできなかったので、これでもかなりマシになったそうだ。
習得手続きが終わり、これで晴れてティアは「モノいじり」が使えるようになった。
もちろん発動できるのはダンジョン内だけなので、現在の自分の体には変化が起きているようには感じない。
ダンジョン庁を出たティアは、そのまま新宿の繁華街を歩いていた。
いつもなら猥雑なこの街に溶け込んでいた彼女だったが、今日のお嬢様スタイルでは少し浮いていた。
1本裏通りに入ったティアに、前から歩いてきた男が声をかけた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「……はい?」
二十代後半くらいの男だった。
清潔感のある服装ではあるが、髪型や眉毛から軽そうな雰囲気が滲んでいる。
「俺さ、芸能関係の仕事してるんだけどね」
「あー……」
スカウトマンだ。
ティアは仕事柄スカウトマンは何人か知っていたが、この男は知らなかった。
「モデルとか興味ない? 君すっごく可愛いから人気でるよ」
「モデルはあまり興味ないですね」
「そっかー、じゃあどんなのなら興味ある? 女優とか?」
「女優は別に……AV女優には興味ありますけど」
「え?」
冗談っぽく言ったティアの言葉に一瞬驚いたスカウトマンだったがすぐにスーツの内ポケットから名刺を取り出して、少し得意げに笑った。
「君みたいな子がAV女優に興味あるなんて驚きだよ! もしかして結構エッチだったりして? あのさ、最上ティアって知ってる?」
ティアは足を止めた。
そして、スカウトマンの顔をじっと見つめる。
「やっぱ有名だから知ってるよねー」
――――そりゃ知っているわ。宇宙で一番詳しいわ、アホ。
「今すごいでしょ? SSS級ドラゴン倒したギャル系AV女優って話題でさ」
「……そうらしいですね」
「実はね……あの子をスカウトして業界に入れたのは、俺なんだよね」
男は胸を張った。
ティアは思わず瞬きをした。
「あの子さー、最初は全然ダメダメだったんだけど、俺が親身になって相談に乗ったりサポートしたりして育てたんだよ。シーカーの才能を見抜いたのも俺ね」
「…………」
「まあ、俺がいなかったら今の最上ティアはなかっただろうね。今日は俺に出会えて最高にツイてるよ! 君だったらティアみたいなAV女優になれるよ!」
男はにっこり笑ってティアの肩に手を置いた。
ティアはスカウトマンの先の尖った革靴が目に入る。
「…………その靴ダッセーな。おめーみたいなダサ男にお似合いかもだけどー」
「はい?」
スカウトマンの革靴にティアは自分の靴の踵を思いっきり落とした。
新宿の裏路地に情けない悲鳴が響き渡る。
「痛ってええええ!! な……何を……」
ティアはスカウトマンの胸ぐらを掴んで顔を近づける。
まるでお嬢様には似つかわしくない動きだ。
「おめーさー、あーしの名前使ってなに勝手に商売してんの?」
「へ? え? その声って……えええっ!?」
混乱して立ち尽くすスカウトマンに振り返る事なくティアはすたすたと歩いた。
――――最上ティアを育てたのは、あーし自身だよ!!!
自分の名前が使われたことにしばらくムカついていたティアだったが、新宿のダンジョン用武器店に入って買い物をしていたら、どうでも良くなった。
彼女は楽しい事ですぐに感情が上書きされる(単純な)性格だった。
選んだ武器を店のカウンターにどんどん乗せていく。
白髭の店主は「戦争でもおっぱじめるんか?」と目を丸くした。
――――よしっ! これくらいでオッケーっしょ! 次の配信、あーしの「モノいじり」でカスタムしまくるぞー!!




