【創作の色彩学】ただの「黒」で終わらせない!「漆黒」と「墨色」の濃度で感情をハックする手法
1.どのくらいの利用度か?みんながイメージする「漆黒」の定番をデータで紹介!
漆黒は68件ヒットしました。日常の『会話』で頻出するわけではありませんが、小説、ブログ、雑誌などの『書き言葉』のデータ(1億語)から68件もヒットするため、日本人が表現として普通に目にする、定番の言葉(日常使いの言葉)と言えます。
私が定番としてイメージしていたのは、漆黒の闇と漆黒の夜。そして闇は7件、夜は2件ヒットしました。
その他、あった言葉は、「チーム名」「髪」「瞳」などです。チーム名は、別々の作品ではなく、実は全てクローズのキャラクターブックからです。いやあ、たくさんのキャラクターがいますねえ。
「髪」や「瞳」は日本人だけでなく、海外やファンタジーの人物からのものもあります。こちらの存在を、すっかり忘れていました苦笑。
1番多かったのは、「髪」です。艶やかな髪は、いつの時代でも、人々を惹きつけています。
2.どのような言葉と対になっているか?
①抽象的なもの(比喩)
→「神」1件、「チーム名」10件、「悪」1件、「心」2件。
②実際の具体的な「色(物質の色)」
→「空洞」2件、「鎧」1件、「髪」11件、「瞳」4件、「身体」1件、「獣」2件、「柚薬」1件、「アンダーヘア」1件、「階段」1件、「犬」1件、「翼」3件、「石」1件、「カラス」1件、「鉄」1件、「肌」1件、「武器」1件、「海」1件、「腕」1件、「体毛」3件、「マント」1件、「ガンダム」1件、「リボン」1件、「鳥居」1件。
③自然現象・景色(視覚的な色)
→「闇」7件、「夜」2件、「宇宙空間」3件。
『漆黒』で特徴的だったのは、単に「黒い物体」を指すのではなく、直接的な言葉を隠す「比喩や間接的な表現」が多かったことです。
件数だけで見ると②の物質的な色が一番多いですが、その中身はストレートに「黒いカラス」と書かれているわけではありません。実際の表現では『漆黒のシルエット』と書かれており、前後の文脈を読んで初めて『死体に群がるカラスのことだ』と分かる、といった風です。
また、①の「心」や「悪」のように、目に見えない感情や概念を例える比喩としても使われています。
『漆黒』はどうやら、何かを隠し、イメージさせる想像力のある色のようです。
3.どのような感情や状況で使われているか?
①【定番】背景・自然の描写
(25件)
・自然の描写
→「描写(木、動物、人物、背景)」15件、「変化(鳥から人へ、翼を出す)」3件、「飛行」1件、「回想」1件。
・背景
→「夜」4件、「闇」1件。
全体の3割近くがこの王道な使い道となっています。
②【ポップカルチャーの華】バトル・異界・ファンタジー
(21件)
・クローズのキャラクター
→「人物紹介」10件。
・バトル
→「戦闘」2件、「魔法」1件、「ゲーム対戦」1件、「ゲーム画面」1件。
・戦闘よりのもの
→「破壊衝動」1件、「変化(武器)」1件、「開眼」1件。
・異界
→「異界」1件、「神話」1件。
現代の創作物において、漆黒は『強さ』や『カッコよさ』の象徴として大人気です!
③【ドラマチック】心の闇・不穏な予兆・大人の恋愛
(18件)
・不穏、ホラー系
→「怪現象」1件、「不気味」1件、「不穏」1件、「息苦しい」1件、「追い詰められる」1件、「警戒」1件。
・感情・エロス系
→「感情(未練、郷愁、不思議)4件、「肌を重ねる」2件、「エロス」1件、「胸が高鳴る」1件、「虚ろ」1件、「告白」1件、「再会」1件。
・哲学的なニュアンス
→「光と影は表裏一体」1件。
特に感情で際立っていたのは、言葉にできない思いです。『ぷつぷつと泡立つ漆黒の心を我が子のように抱きしめた』とあり、どす黒い感情をしかし大切に抱きしめ、自分の感情を主人公は抑えます。
そして「告白」は、『罪の告白』です。なぜか?それは彼女が『漆黒の澄んだ目』をしており、たぶん純粋過ぎて彼は良心の呵責に耐えられなかったのかもしれません。
④【その他・おもしろトピック】
(4件)
→「物作り(鉄・釉薬)」2件は、陶芸の伝統技法(引出黒)という、職人の世界でも漆黒が使われていました。「目立ちたい」1件は、あえて背景を漆黒にすることでスポットライトを浴びるという、目立つために使われている面白い例もありました。「石の説明」1件、こちらは物作りに近い豆知識です。
4.「五感」の表現とどう結びついているか?
直接的なもの、間接的なもの、合わせて【触覚、体感覚、視覚】の10件がありました。
・【触覚・エロス】
(3件)
→「肌を重ねる」2件、【触覚】肉体のダイレクトな接触と【視覚的】な『漆黒のアンダーヘア』や情事後の乱れた『漆黒の前髪』が表現されています。「エロス」1件、【視覚】1ヶ月後の記念にとプレゼントされる『下着にかけられた漆黒のリボン』が高級娼婦をイメージさせています。
・【体感覚・内臓感覚】
(5件)
→「息苦しい」1件、「胸が高鳴る」1件、「破壊衝動」1件、「追い詰められる」1件、「虚ろ」1件。【体感覚(内臓感覚)】空は花曇り、そしてまわり全てが『漆黒の闇で息苦しさ』をかんじていたり、『漆黒の髪が首にかかるのが艶っぽく』感じたりして胸を高鳴らせます。目の前のものを壊せと『漆黒の身体』が訴えかけたり、『漆黒の犬』に噛まれそうになって追い詰められる。【体感覚・内臓感覚・視覚】目も頭もボーッとして『漆黒の空洞』を見つめ続けたりもします。
・【視覚・感覚の研ぎ澄まし】
(2件)
→「開眼」1件、「警戒」1件。【視覚】ずっと伏せられたままだった瞳が、カッと見開かれると、『漆黒だったはずの瞳が翡翠のような深い緑色に輝いて』高貴な雰囲気になります。【視覚・感覚の研ぎ澄まし】『深い漆黒の瞳』は何を考えているかわからず、主人公は警戒します。
5.「ポジティブ/ネガティブ」の反転現象
「漆黒」は、ポジティブとネガティブが不思議に共存・反転しています。
○ポジティブ( 23 件)
・【美と官能】
(7件)
→「肌を重ねる」2件、「エロス」1件、「胸が高鳴る」1件、「開眼」1件、「告白」1件、「再会」1件。
・【強さ・憧れ・ファンタジー】
(16件)
→「人物紹介」10件、「変化(武器・翼など)」4件、「目立ちたい」1件、「飛行」1件、「魔法」1件。
●ネガティブ(17 件)
・【不穏・ホラー】
(9件)
→「怪現象」1件、「不気味」1件、「不穏」1件、「異界」2件、「息苦しい」1件、「追い詰められる」1件、「警戒」1件、「虚ろ」1件。
・【戦いと葛藤・ゲーム】
(8件)
→「戦闘」2件、「ゲーム対戦」1件、「感情(未練など)」4件、「影と光は表裏一体」1件、「ゲーム画面」1件。
︎︎◌中立( 28 件)
・【景色・データ・神話・回想】
(28件)
→「描写」15件、「夜」4件、「闇」1件、「宇宙空間」1件、「物作り」2件、「石の説明」1件、「神話」1件、「回想」1件。
前回書いた「薔薇色」が「100%ポジティブな色」だったのに対して、漆黒はポジティブ(23件)とネガティブ(17件)が真っ向からせめぎ合う、非常に二面性のある色だということが分かりました。
本来、光のない「黒」は、恐怖(不気味、息苦しい)や人間のドロドロした情念(未練、破壊衝動)といったネガティブな意味で使われます。
しかし、現代の日本語において、漆黒は「圧倒的なカッコよさ(人物紹介、武器、翼)」や「大人の色気(エロス、肌を重ねる)」という、強烈な憧れを誘うポジティブな言葉へ反転しています。ただの「黒」ではなく、極上の「漆黒」だからこそ、ネガティブを飲み込んで魅力に変えてしまうパワーがあるようです。
6.「色名のグラデーション」と「言葉の選ばれ方」
①「黒」
黒色は、6828件ヒットしました。
その中から創作や描写に関わる使われ方を抽出したところ、トップグループには、『名字』『肌』『服』『食べ物』『動物』『囲碁の石』がありました。
前回の「赤」と同様に、「黒」も日常に深く根ざした色だということがわかります。「赤」と違うのは、肌の色が入っているところでしょうか。
「漆黒」は前回の「薔薇色」と比べると、まだ「黒」に似た『生活の匂い』がします。でもやはり「黒」と比較すると、カッコ良さ、シリアスさが際立ちます。
「黒」も「赤」と同様、【現実の土台】を支える色です。そして世知辛いことに、データの世界でも『黒字』は『赤字』に比べて登場する割合が低
かったです。また『肌』の色が取りだたされると、差別が根強く『現実の厳しさ』を感じます。
「漆黒」ではそれがより抽出され、『心の闇』『不穏な予兆』があらわされている色です。そしてポジティブさもあわせもち、『カッコ良さ』、より『魅力』があるものとして描かれます。
②「薔薇色」
「薔薇色」は、17件ヒットしました。
王道の使い方は、『頬』『人生』『服』です。特に『人生』は、『特定の輝かしいライフイベント』に対してピンポイントで使われています。キャンパスライフや結婚などです。
『外側に向けてパッと広がる光の感情』が「薔薇色」だとしたら、「漆黒」は『内側へ、底へ、深く沈んでいく影の感情』。内面に泡立つどす黒い心や、大人の秘めやかなエロスなどが、対比することにより鮮やかに浮かび上がります。
③「墨色」
「墨色」は、32件ヒットしました。
王道の使い方は、『水墨画』。これは圧倒的でした。しかしよく見ると、「黒」という色の濃淡によって、選ばれる言葉が変化する見事なグラデーションが見えてきました。
まず「漆黒」。こちらは濃度100%で、光沢があります。「絶対的な強さ」や「妖艶なエロス」をイメージさせます。光をすべて吸い込む、最高密度の若々しく強い黒。圧倒的な強さ(武器や異界)、妖艶な美(肌を重ねる)といった、エネルギーが満ち溢れた主役の色です。
つぎに「墨色」。こちらは濃度80%で、静寂があります。「侘び寂び」や「シックな大人の世界」をイメージさせます。水墨画のような、少しかすれのある静かな黒。シックな静けさ、引き算の美徳を表す色です。
最後に「薄墨色」。こちらは情事後の海面を見た際に使われていました。濃度30%で、哀愁や儚さがあります。「お葬式の香典(薄墨の筆)」や「夕暮れ・涙・消え入りそうな気配」をイメージさせます。水分が多くて今にも消えてしまいそうな、最も切ない灰色。儚い情景など、切なさに寄り添う最果ての色です。
これらを見ていると、日本語の創作物の世界では、「色の濃度が薄くなればなるほど、感情の切なさや儚さのパラメーターが上がっていく」という、もの凄く美しい言葉の選ばれ方のルール(グラデーション)があることがわかります。
7.「生年代(世代)」による使い分け
「漆黒」という言葉の歴史を紐解くと、世代間で劇的な『主役の交代』が起きていることがデータから証明されました。
かつては上の世代(1939年以前のシニア層)が、世界のリアルな暗闇(夜、宇宙、伝統のやきもの)を表現するために使っていた渋い言葉が、平成の若者世代(1980年代以降。ラノベやネットカルチャーの台頭)によって、『最高に格好良いファンタジーの装備(翼、武器)』や、『淫靡で艶やかな大人の色気(エロス、髪)』を引き立てるための、ドレスアップの言葉へと鮮やかに生まれ変わったのです。
時代と共に、色が変わったのではない。人間がその色に託す『ロマンの形』が、シリアスからポップカルチャーへと進化した。それこそが、この漆黒という色が現代でこれほど愛されている理由なのかもしれません。
8.比喩表現の「ベタ(王道)」と「オリジナル」の境界線
私が定番としてイメージしていたのは、漆黒の闇と漆黒の夜。そして闇は7件、夜は2件ヒットしました。こちらでも間違いではないのですが、王道のベタはというと、それは【髪・闇】といった言葉たち。これらが「漆黒」の定番の落ち着き先なのです。
しかし、このカラーブックのデータ大捜索の中で、私たちは「漆黒」という言葉が持つ、定番の枠組みを鮮やかに飛び越えた『オリジナル(独自の表現)』の瞬間に立ち会うことになりました。
「薔薇色」のオリジナル表現が、言葉そのものを突飛なものに変える変化だとしたら、「漆黒」のオリジナル表現は、【王道の言葉を使いながら、その中身(感情)を180度反転させる】という、もの凄くドラマチックな手法を取っています。
本書が自信を持って取り上げたい「漆黒」のオリジナル表現は、次の2つです。
① ポジティブとネガティブの共存:『漆黒の髪』
本来、「漆黒の髪」といえば、大人の妖艶さや美しさを引き立てる定番の(ベタな)褒め言葉です。しかし、これがポップカルチャーや現代のライトノベルの引き出しに入ると、意味合いが変わってきます。
例えば、心を閉ざしたキャラクターの頑なな拒絶や、内に秘めた『心の闇』の象徴として、あえて「漆黒の髪」というビジュアルが選ばれるのです。「美しいけれど、触れたら凍りつきそうなほど恐ろしい」。定番の美の言葉の中に、不穏な心理描写を潜り込ませるこの使い方は、現代の作家たちが生み出した見事なオリジナル表現の境界線です。
② 弱さから最強への反転:『漆黒の翼・武器』
もう一つのオリジナルは、若者層のファンタジーカルチャーに見られる「漆黒の翼」や「漆黒の武器」です。
本来、黒い翼や黒い闇は「悪魔」や「不吉な予兆」といったネガティブなベタ表現でした。しかし、これが現代の創作物では「誰にも縛られない圧倒的な格好良さ」「孤独な最強のヒーロー」という、最大のポジティブ表現へと反転しています。かつて忌み嫌われた闇の色を、あえて「自分の身にまとう誇り高き装備」として選び直す。ここに、言葉の選ばれ方のスリリングなオリジナル境界線が存在します。
漆黒における「ベタ」と「オリジナル」の境界線。それは、単に新しい言葉を組み合わせることではなく、「誰もが知っている定番の黒(闇、髪)に、どれだけ新しい感情の光を当てられるか」という、クリエイターたちのレジスタンスの境界線でした。
日常に溶け込んだ【現実の土台】としての黒だからこそ、ほんの少し角度を変えるだけで、妖艶なエロスにも、最強のファンタジーにも化ける。この「化け方の振り幅の大きさ」そのものが、漆黒という色が持つ、他の色には真似できない唯一無二のオリジナル性なのです。
9.ここから打てる、小説で使えるオリジナルな表現のアイデア!
①定番の美の言葉の中に、「漆黒」という不穏な心理描写を潜り込ませる。
例:彼女が微笑むたび、シルクのように艶めく漆黒の髪が揺れる。だがその瞳の奥には、光をすべて吸い込んで一滴も返さない、絶対的な拒絶の闇が広がっていた。
ただの「黒髪の美人」ではなく、その美しさの奥にある「冷酷さ」や「心が完全に壊れて閉ざされている不穏さ」を演出するアイデアです。
②かつて忌み嫌われた闇の色を、あえて「漆黒」を身にまとう。
例:その刀身は、おぞましい呪いを宿したかのように漆黒に染まりきっている。だが、少年はその呪われし武器を恐れることなく、己の右腕のように強く握りしめた。これこそが、絶望の淵から這い上がるための唯一の牙だからだ。
不吉や悪の象徴だった暗闇を、主人公が「覚悟」や「誰にも縛られない強さ」の象徴としてあえて自分の武器や装備、アイデンティティにする、いわゆる「ダークヒーロー・中二病的な格好良さ」を爆発させるアイデアです。
作家が創作のなかで使いがちな色は、ダントツで「黒」と「白」です。どのような作風かによっても違いますが、やはり「黒髪」「黒い瞳」「白い肌」といった描写は鉄板の王道と言えます。
もちろん、あえて「色鉛筆にあるような分かりやすい色」だけでシンプルに表現する良さもありますし、色に注意を払わずに、あえて色彩を無くしたモノクロの世界を描く手法もあります。
でも、せっかく私たちの生きる日本には、何千もの豊かな伝統色があるのですから、それを使わない手はありません。
誰もが使うお決まりの「黒」から一歩踏み出して、あなただけの手で、物語に命を吹き込む『新しい漆黒』を生み出しませんか?
あなたの作品から、まだ見ぬ美しい色彩のドラマが生まれるその日を、心から楽しみにしています!




