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9話 一本道はやがて二本の道へと

 門を一歩越えるとそこは見渡す限りに広がる草原のほかに、木もところどころにまとまって生えており、その木が集まれば木々になり、林となる。その林はやがて人々を不気味に招き入れる森になるのだろう。

 

 武器など振ったことなどない、ましてや剣なんて振ったことあるわけがない。

 街から出るまでは、道具屋の女性がタイチをリードしているかのように見えた。

「危ない」

 前から人の声が聞こえたと思ったとほぼ同時に、タイチは大きく後ろに飛ばされた。

 尻もちをついたタイチは、臀部を触って感触を確かめた。そして、何かが飛んできた方向に目をやる。

 

 ――林の中から何かが見ている――

 

「逃げましょう」

 と警告をしてくれた声が更に続ける。

「俺からは逃げられないさ。この矢がどれ程まで届くと思う。試してみたいか」

 と林の中からゆっくりと出てきた男は言う。

 これはモンスターなのだろうか……いや、違う。

 他のオンラインゲームで聞いたことがある。モンスターを倒して経験値やお金を集めたりするプレイヤーがいる中で、好んでプレイヤーを攻撃するプレイヤーもいるという話を。

「あれが……」

「そこのガキ、何か言ったか」

 と男は問う。男は更に、

「お前初心者だろう」

「なんでそんなことがわかるんだ」

 とタイチは問い返してはみたが、理由は聞かずとも想像はできた。初心者パッケージを装備していたからなのか、レベルを見たのか、動きが初心者だったのか、いや、その全てかもしれない。

 問い返したタイチに不適な笑みを浮かべた男だが、その問いかけに答えてくれるほどの親切心は持ち合わせていないようだ。

「その剣で打ち落とせるか。俺の矢はかなり速いぜ」

 男が弓を構えると、次の矢が放たれた。

 矢が利き腕をかすめた。幸いなことに大きなダメージはない。

「外したか。その剣を振れなくしてやった後に、そのままいたぶるってのも悪いアイデアじゃねえな」

 続けて、三本目の矢がタイチを襲う。

「うっ……」

 せめて矢を捉えられないにしても、軌道さえずらせればと思い構えた剣。しかし、剣を振り軌道を反らせたかのように思えた矢は、確実にタイチの左膝を刺した。

「ちっ、次は左膝。左腕に左膝、次はどこが良い」

 このままあの男にやられっ放しで良いわけがない。どうにかして反撃しないと……

 怪我をしたのは左腕、ただこの剣を右手には持ち替えるわけにはいかない。

「右手使わねえの」

 と小馬鹿にしたように笑う男。

「うるさい……」

「なら次ね」

 男は弓に矢を番える。

「振ってみろよ。この矢は刺すぞ」

 男が構える弓は大きくしなった。

 左腕と左膝に傷を負っているせいか、肉体的なダメージ以上に精神的なダメージを受けているようにも見える。

「このままじゃ……」

「怖気づいたのか。今進んで来た道を引き返すか」とあざ笑う。

「このままじゃ、だめだ……」

「何がだめなんだ、ここまで走ってくるか。その足で」

 男が弓に番えた矢は放たれる。

「避ける? 軌道を反らす? それじゃいつまでたってもこいつと戦えない!!」 

 男は矢を射る、刹那、その矢を顔の正面に捉えたタイチは、残された力を込めて一振り。


 ――反らすんじゃない。お前に届ける――


 剣身は矢を確実に捉え、男の矢を打ち返した。

 男の目の色が一瞬変わったかのように見えた。

 男は打ち返された矢を捉える。

 男は一切その場から動かずに一言、

「惜しくはあるが……」

 と言うと、矢は男の面元を横切り、後ろでじっと動かない大木に突き刺さった。

「惜しくはあるが、やはり惜しくもないか」

 と言うと、男は左手を空に掲げる。そして、これまで使っていた弓とは異なる大弓を掴んだ。


 ――黒煙の大弓を装備しました――


「力もないのに冷静さを保てないようなら、救われねえよ。教えてやろう、次はお前のど真ん中だ。救ってやろう。次はお前じゃ打ち返せねえ」

 大弓が激しくしなり、矢は放たれた。これは音速?

 いや……黒い煙のようなものが纏わりついて矢が見えない。

 ただ、さっきの弓矢から放たれた矢と比べ物にならない速さ、この矢は捕まらない。

 タイチは思わず目を閉じる。

「そこまでに……」

 タイチよりも一回りは小さく見える男の子が黒煙を纏う矢を捕まえた。

「そこまでにしてください、先生!」

 先生と呼ばれる男とタイチの間に立つ小さな男の子。

「オビアットか」

 どうやら、この少年の名前はオビアットというらしい。

「僕はオビアット。さっきまで君を攻撃していたのは、僕の先生で、オーハ先生。僕達も君と同じプレイヤーなんだ」

 展開に戸惑うタイチは、後ろから人の気配を感じ、振り返った。そこには、にこにこと笑みを浮かべただただ立っているだけの女性。さっきまで戦っていた僕達を見て、どうして笑顔でいられるんだと自問してみたが、そういえば、彼女がNPCだということを思い出した。

 タイチはとりあえず自己紹介をする。男の子はともかくとして、さっきまで敵だと思っていた男に対して自己紹介するのは不思議な気分だった。

「さっきは悪かったな。少し試してみたかった、遊びみたいなもんだ。ここで打ち抜かれたって死にはしないさ。ところで、タイチ、お前は今来た道を引き返すか」

「オーハ先生、いきなり何を言っているんですか。せっかく先生の弓に反応できる人が見つかったっていうのに。それに引き返したってしょうがないじゃないですか」

「反応はできた……」

 と言いどまり、何かを考えているかのように話をやめた。

「この先に進みます。塔で助けを待っている人がいるから」

「そうか、それなら止めはしない。この長い一本道が辛くなったら、引き返せばいい」

 先程の様子とは違うオーハは優しい言葉でタイチを送り出した。


「あのー、さっきタイチさんに遊びみたいなもんだったって言ってましたけど、殺そうとしてませんでしたか。まぁやられても街に戻るだけだから良いんでしょうけど……」

 

「お前にはそう見えたか?」

 

 それ以上オビアットがオーハに何かを追求することはなかった。

 

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