学園祭編
十月一日
「いやぁ〜あれは本当面白かった。」
修学旅行が終わり約一ヶ月がたった。
今は通学中、修学旅行が終わって三日後に行われた発表会の話しをしている。
「あんたね、確かに先生達も笑ってたけどさ、私達までおこられたじゃないの」
『本当面白かったよね。校長の歴史とかいって勝手に映画作っちゃったし』
そう、修学旅行最終日に鏡介が作っていたのは、校長の昔の写真や卒業文集を面白おかしく画像化したものだった。
「っていうか、あの写真とかどっからとってきたんだ?」
「フフフ、昔の事などとっく〜に忘れてしまった。」
「そういえば、私達大事な事忘れてない?」
香の発言に皆が考える。
学校に着くとそれがなんなのかわかった。
「後一週間で文化祭です。皆さん案出してください。」
朝のHRで委員長である香が黒板の前に立つ。
「喫茶店とかでいいんじゃない?時間かかんないし」
とある男子生徒がいう。
それに対して、お祭り男の俺達が黙っていない。
俺と鏡介は同時に立ち上がり
「「どうせなら賞取ろうぜ!」」
その発言に皆は「おぉ〜」と声をあげる。
そして鏡介は俺に抱きつく。
賞とは文化祭でもっとも素晴らしいクラスに送られる物で、生徒、先生の票によってきまる。
「しかし、なにをやったらいいんだ?」
確かに、一五クラスと委員会の出し物が戦うわけだけら簡単には勝てないだろうと思う。
「・・・劇」
だんが挙手をしてパソコンを広げる。
どうやら過去五年間のうち四回が劇で賞を取ったらしい。
『じゃ劇だね、何にしようか?』
「夕がヒロインやって、人魚姫とかは?」
朝鈴のそんな発言に夕は少し考えて
『やだよ、私にはコウ君刺す事なんて出来ない』
実際刺さないのだから問題ないのではないか、っていうか俺が王子役なんだと思いながら聞く。
「フフフ、じゃシンデレラだ、当然俺様は魔法使いのおばあさん役だ〜!!」
「・・・そのおばあさん悪役になるよ」
しかも、鏡介を悪役にした場合誰も勝てない。
そうやって騒いでいると、香が「静かに」と叫ぶ。
そして、十分間、自分一人で考えるように言われた。
俺は色々昔話を思い出そうとするが、案がいまいち合わない。
何分か経つと黒板に何個か案がでる。
二十人で出来るという物はやはり難しいらしく、みんなも困っているみたいだった。
誰が言ったのかは分からなかったが、クラスの票の結果、白雪姫と人魚姫の僅差のすえ白雪姫となった。
配役は推薦という奇抜な策が取られた。
つまり、この人ならこの役を完璧にこなすだろうという物だった。
とりあえず、役の種類を考える事になったのだが、なんだが景色が暗くなる。
『コウ君、コウ君』
なにかが俺を揺すり、目を覚ます。
黒板には色々書いてあった。
すると黒板の右から二番目、カタカナで二文字「コウ」さらにその上に王子役とある。
「全く、あんたが寝てるせいで」
朝鈴が肩を震わせ話す。
俺はとりあえず状況の確認をする。
最近確かに睡眠時間は毎日三時間と短かったが、どうやら寝てしまっていたらしい。
「役決まったって事でいいのか?」
「フフフ、波瀾万丈だったぜ、まさにミステーリさ」
とりあえずもう一度黒板に目をやる。
王子ーコウ
監督+選曲ー香
作本+小人その6ー団
悪の女王+衣装ー鏡介
小人その2ー大河
照明ー夕
姫ー朝鈴
「質問が一つや二つではないんだが・・・」
「はいはい、だいたい分かってるわよ」
「とりあえず、朝鈴が姫なのと鏡介が衣装やってる事はありえないだろ」
「あんたのせいなのよ。」
俺はわけが分からなかった。
「フフフ、その謎はだな、我が親友・・・よし皆のもの三十分前の回想だ」
そう言うとみんな鏡介のかけ声で元の位置に戻る。
みんな面白いな〜と思いながら見守る。
「はい、じゃ役も決まったから、推薦して」
香がそういうと真っ先に手を上げたのは鏡介だった。
「フフフ、木の役はとりあえず大河だろ、歩いていても犬に尿をかけられ、手を広げれば野良猫に引っかかれ、汗には大量の虫が止まる。か〜んぺきな木なのだからな」
「僕そんなことされませんから」
「監督は水村さんがいいと思う。このクラスまとめられるの水村さんくらいだろうし」
クラスの女生徒がそういう。香は独り言で「やっぱり私劇の上に上がれないんだ」と言う。
「その代わり私監督なら台本書くのは団だからね」
団と香は顔を真っ赤にさせる。
クラス全員で「おお〜」と言う。
「これさっきも言ったのか?恥ずかしくないの?」
「はい我が親友は黙って寝たふ〜りしてろ」
鏡介に注意された。
そして夕が手を上げる。
『姫役は姉さんがいいと思う』
「えっ!?私?無理無理絶対無理」
ぼ〜っとしていたのか、朝鈴は夕の発言に驚く。
そこで鏡介は、立ちながら夕に対して
「フフフ、いいのか夕よ、俺が一言コウを王子役にしたいといったら、朝鈴とコウは・・・そんなことが許されるかこ〜のやろう、朝鈴ふざけんなよ。コウは俺様のもんだ」
「なにいってんのよ。あんたに姫やらせたらそれこそ終わりよ。悪の女王でもやってなさい」
「・・・正確には一応城の王妃らしいぞ」
「いいじゃないのよそこらへんはオリジナルよ、オ・リ・ジ・ナ・ル!!それに姫って言ったら夕じゃないの普通に」
「ね〜はやく終わらせない?もう六時よ」
ちなみに今は七時を少し回ったあたりである。
ここで鏡介は
「フフフ、ここに役の種類の書いてある紙が十九枚あ〜る。さあみなのものここに役を人の名前を書きまくれ!!!」
「鏡介、あんたいつの間に、まっ気にするだけ無意味か、じゃみんな書いて」
香がそういって全員分配る。
その結果を書いた結果が今の黒板の状態らしい。
朝鈴がさっきから怒ってたのは、俺の一票があったら夕と同票なると思っていたのだろう。
俺が朝鈴に向かって
「おまえ馬鹿だな」
と言うと朝鈴は
「うっさいな、なにが馬鹿なのよ」
「だって俺が夕ちゃんに負担かけさせるわけないだろう、それに夕ちゃんが姫役になっていたらお前どうするんだよ。お前裏方やったら全部壊しちゃうし」
「どういう意味よ」
「あ〜、ほらそこ喧嘩しない、姫と王子が喧嘩するとか前代未聞でしょ。じゃこのまま提出してくるからみんな帰っていいよ。」
香がそういうとみんな解散する。
「じゃ待ってようか」
『そうだね』
「フフフ、我が親友、それに夕よ何もわかってないな〜、ここは団一人に任せて邪魔も〜のは立ち去るんだよ。じゃあな団よ。そしてあの世に逝ってしまった大河よ」
「僕を殺すなんていい度胸だな、お前の家に根を張って居座ってやる。」
俺が「やっぱ木じゃん」って突っ込むと大河は「しまった〜」と言う。
「じゃあな団、台本しっかり頼むぜ」
『バイバイ〜』
そして帰り道、やはり話すことは文化祭だ。
「香とか団とか二役もこなすの大変だろうな」
「そうね、二人とも責任感強いからね。」
「フフフ、我が親友よ俺様も二役だぜ、衣装は任しと〜け、完璧な衣装を作ってやるよ。」
そう、この鏡介が衣装を作る。
残念ながらこいつは本当に器用なのだ。
どれくらい器用かと言うと、ゴミから自転車を作ったり、廃車を復活させたりを小学生でおこなっていたのだ。
つまりこいつに言わせると、衣装作りは寝てても作れるのだ。
「まあ俺様だからな」
「人のモノローグまで読むな」
その後、俺の家の前まで着く。
「そういえば小春は元気か?」
『大丈夫だよ。今日もクラスの文化祭の準備で朝先に行っちゃったし、あっコウ君絶対に来てだって』
あの日から、小春という少女は高橋家でお世話になっている。
あの時から状況は何も変わってないのは残念だ。
とりあえず俺にできることは、会って話すことだけである。
「そんなことないわよ。あの子今とても元気よ。まあ私たちの親もすごいんだけどね、毎日の様にパーティーだかなね」
「俺って考えてること口に出してる?」
朝鈴は「なんのことだろ?」といって顔を背ける。
正直怖い。
「じゃ〜夕ちゃんまたね」
『うん、また明日』
「・・・」
朝鈴がこちらを向いている。
「朝鈴」
「えっなに!?」
「いくら姫役が嫌だからって休むなよ。」
ドスッ、鞄が俺の頭に当たる。
「じゃまた明日」
そういって夕と朝鈴は少し離れたところの大きな家に向かって歩き出す。
俺は「また明日か」と一人で呟く。
田舎に戻ってから一ヶ月ぐらい経つが、言葉の大切さを改めて感じた気がした。
夕食後、俺は自分の部屋にいる。
修学旅行から帰ってきてから、俺はまた勉強をしている。窓からは高橋家が見える。
そこらじゅうが明るく、盛り上がっているようだった。
小春は今幸せなのだろうか、俺はどうしたらいいのかな?と思いながら勉強する。
そして勉強が終わると次は日課なっている・・・
十月二日
目が覚める。
ピキッ、体中が痛い、どうやら机の上で寝てしまったのであろう。
椅子から立ち上がると布団が落ちる。
誰が乗せたんだろ?と思いつつリビングに向かう。
今日は土曜日、都会とかだと休みなのだろうがこの学校ではちゃんと午前中だけ授業がある。
とはいっても、午後は文化祭の準備があるので平日と対して変わらない。
下におりると、朝食を食べてる夕と朝鈴と小春の姿があった。
俺の姿に驚いたのか朝鈴はご飯をのどに詰まらせる。
「コウ兄さんおはよう」
『コウ君おはよ〜』
「何であんたがこの時間に起きてるのよ」
「みんなおはよう、それにしても朝鈴、早く起きても遅くおきても文句言うのなお前」
今日の俺はいつもより三十分近く早く目覚めていたらしい。
夕と朝鈴は制服姿、小春は走っていたのかジャージ姿だった。
今はこうして小春もうちで朝食をとるようになったが、最初は大変だった。
しかし、俺の祖父母はどうやら小春の家に電話したらしいのだがそしたら「うちには娘はいません」と言ったらしく。
今では
「小春さんここをあなたの家と思って使っていいからね」
と言う状況になっている。
少しはやめに家を出る。
『はい、コウ君お弁当』
「ありがと夕ちゃん、いつも悪いね」
俺はそう言い、夕の頭を撫でる。
最初の一週間近くは大変だった。
なにせ、俺が食べるたびに『これ好き?』と聞き、俺は当然嫌いとは言えない、 夕の作る料理は確かに美味いし、見た目もいいのだ。
しかし、次の日に出るのは、前日好きだと答えたものに新たな料理を追加されまた質問される。
危うく、重箱を持ってきそうな勢いだった(実際一週間後、重箱を用意したらしいが、朝鈴がたまたま起きて止めたらしい)。
今でも、質問はされるが量は本当にちょうどよくなって助かっている。
しばらく歩くと、いつも鏡介と出会う場所に着く。
どんなに早かろうが遅かろうが、ジャストタイミングで現れるはずの鏡介は来ていなかった。
「さすがの鏡介もあんたの早起きまでは見抜けなかったようね。」
『でも逆に、俺とそんなに早く会いたかったか、我が親友とかいいそうだけどね』
「でもどうしたんでしょうね、鏡介先輩」
時間には余裕は全然あるのだが、先に行くことにした。
さらに、行く途中で小春に文化祭で何をするのか聞かれたが、「今は内緒、当日のお楽しみ」と言っておいた。
その後、良し姉さんは鏡介が欠席するとのことを告げた。
俺は真剣に驚いて良し姉さんに理由を尋ねた。
なぜなら、あいつは何よりも学校で楽しむことを好きなやつだからだ。
幼稚園も小学校も中学校も高校の今まで全部来ているのだ。、インフルエンザでも内緒で学校に来て、学級閉鎖でも学校に来るほどのやつなのだ。
確かに早退は何回かあるけれども、欠席したことは一度もないはず。
しかし、良し姉さんにも理由は分からないらしい。
俺は多少心配になりながらも、授業は聞かず、自分の勉強にいつも通り行う。
この間、光に頼んで俺の元学校の授業の資料と、受験用の資料を送ってもらっているのだ。
今はそれを行うことしか俺には出来ないから・・・
どうやら、鏡介に心配されるという文字はないらしい。
鏡介は、帰りのHRが終わると同時に教室に入る。
なにやら大きな風呂敷を持ってきて、鏡介は珍しく肩で息をしていた。
そして、鏡介は俺のほうを見て
「フフフ、ついに完成した〜ぜ、我が親友との時間、とてつもなく大事な時間、俺にとっては一億払っても取り戻したい大切な時間を使〜い、全員分の衣装を作ってきたのさ。受け取れこのやろ〜ども」
そういって鏡介は風呂敷の中にある衣装を、みんなに投げ渡した。
「しかし、どうやったんだよ」
「フフフ、愚問だよ我が親友、そしてこれが王子役の衣装さ」
鏡介の用意した服は、ピッチピチのボタンつきの青い服に王冠、よく絵本などで見るカボチャパンツ、そしてとどめが純白の白タイツという服を、こともあろうにこの男は作ってきたのだ。
「お前、俺がこんなの着てうれしいと思ってるのか?」
「フフフ、どうせなら何も着ないという手もありかもな・・・じゅるり」
俺は一瞬背筋が凍った。
この男ならやりかねないからだ。
そう徹夜なんて簡単なものかと思うかもしれないが、おそらくこれだけの量を作るだけの集中力をつかったのだ、今の鏡介はいつも以上にやばいかもしれない。
少しの間の後鏡介は俺の肩を叩く。
俺はビクッと仰け反る。
鏡介は急に大笑いを見せる。
いつもの不敵な笑みとは違うものだ。
「悪い悪い、我が親友よ。お前の反応があまりにも面白いのでな、しかしこの服の配色に5時間を費やしたんだが、いかに結果が分かっていたとしても残念だ。」
「そんな時間あるなら、学校来いよ!」
俺は、ため息をつきながら、鏡介服を渡し、代わりに白いタキシードみたいな服と赤いマント、そして王冠。
どうしても王冠は外せないらしく、鏡介徹夜してまで頑張ってくれたので、王冠も受け取ることにした。
「しかし、あんたもマメよね、監督の服まで作ってくるなんて、とりあえずみんな試着してみて」
香はクラスメイト全員にそういうと自分の服を確かめる。
深めの帽子に作業服のような上着にサングラスまで用意していた。
皆がそれぞれの役の衣装を着る中、俺はパソコンを打っている団のところに行く。
「調子はどう?進んでる。」
「・・・とりあえずね」
そういって団は椅子の背もたれに体を預け、腕を伸ばす。
俺はパソコンの中身を見ると、もしかしたらこいつも徹夜組だろうと思うほど、いや実際には徹夜組かもしれないが、かなり進んでいる。
ちゃんと役名とコメントさらには表情まで細かく書いてあるのに、後半まで終わっている。
「・・・香に聞いたらグリム童話風のでいきたいらしいからね、資料探したら後は簡単だよ。」
「お前寝てないだろ、少しは休めよ。」
「・・・鏡介ほどじゃないって、それに俺が出来ないと何も進まないし、授業サボってまでやってるからね、早く終わらせないと」
団には珍しく、長く俺に話しかける。
団は本気なのだろう。
団どころか、このクラスにはふざけてるやつはいるけど、皆本気で挑もうとしている。
そこへ、鏡介入ってくる。
「ほれ、受け取れ、我が親友たちよ。」
そういって、俺にはブラック、団には微糖の缶コーヒーを渡す。
「俺は要らないのに」
俺がそういうと鏡介は
「フフフ、コウよ、人の心配をする前〜に、自分の心配をするんだな、分かってるんだぞ、お前が最近夜遅くまで起きてることくらい」
俺はあわてて鏡介の口を塞ぐ。
どうやら団以外には聞こえてないらしい、別に聞こえてもかまわないのだが、夕に嘘はつきたくない、これが俺の本音だ。
「おい、我が親友よ、皆の前で照れるじゃないか」
そういわれると俺は手をすぐ離し、皆の目線が集まるなか、缶コーヒーを一気飲みする。
「とりあえず、サンキューな鏡介、あと団本当に無理はするなよ。手伝えることあったら言ってくれ」
「・・・ありがと」
そういった後、俺の肩を誰かが叩く。
振り返ると、そこには長い髪をつけ、白をベースに青や黄色を使ったドレスを身に纏う女の子の姿があった。
『どうかなコウ君、姉さんから借りたんだけど』
と手話で話す女の子、俺はその子に対して・・・
「いたっ、何すんのよコウ」
デコピンをした。
そして、この女の子の正体は朝鈴だった。
俺も一瞬と惑うほど似ていた。
手話も使ってきたのでさらに悩んでいたかもしれないが、それほど朝鈴がきれいに見えてしまった。
「馬鹿だろお前」
俺がそういうと朝鈴は俺の足に蹴りを入れた後、自分の席に座る。
クラスの皆は俺が朝鈴と夕の区別が出来たことに対して歓声を上げる。
「フフフ、さすがは我が親友だ、しかし実は簡単に見分けがつくんだよな、胸というところで」
「確かにそれは簡単に区別がつくかもしれないが、同時に友としての地位を失うぞ。」
朝鈴はすぐに元気になり、笑顔で俺の頭を鞄で殴った。
結局、団は俺たちに助けを求めず、一人でパソコンを打っていた。
この日はとりあえず舞台をどうするかとか簡単なものしか決められず、明日は全員学校前に集合してまたいろいろ文化祭のために準備するらしい。
その後家に着いた俺は、いつもと同じくことをする。
その時、劇で着る衣装が一瞬目に映り、なぜだか俺は笑みが出て、勉強に取り組み始める。
→夕
コウ君が夜遅くまで起きている。
私は耳が聞こえないが鏡介君がそういってたことは分かった。
そしてコウ君は私達にそのことを知られたくない雰囲気だった。
何なのだろう?
それに、姉さんは何をしていたのだろう?
照明係の私は劇を上からしか見えない、想像すると、少し孤独を感じた。
なぜか今は悪い考えしか出ない、自分が自分じゃないみたいだ。
とりあえず忘れて寝ることにした。
そして、皆疲れてるかもしれないけど明日パーティーでもしたらどうだろ?などと思いついた。
十月三日
→夕
いつも通り朝五時に目を覚ます。
私の周りは人形がたくさんある。
自分で買ったもの、姉さんが買ってくれたもの、そして、コウ君のくれたもの・・・
みんな私が孤独を感じないためにある。
これらの人形がなかったら私は未だに一人で寝れなかったかもしれない。
今日は日曜日なのでパパもママも寝ているのでこっそり台所に向かい料理を始める。
今日は学校は休みだがお弁当を作る。
もしかしたらコウ君が喜んでくれるかもしれないからだ。
ほうれん草のあく抜きをしているとき、階段の方から人の気配を感じる。
おそらく姉さんだろう。
「おはよー夕・・・って今日は休日じゃん、もう一眠りしなきゃ。」
『駄目だよ姉さん、今日は文化祭の準備なんだから、主役がいないとはじまらないよ。』
「はいはい」と返事をして姉さんは欠伸をしながら、洗面台に向かう。
「ん〜いいにおい、料理美味くなったんじゃない?それよりもあんたのまじめさにも驚きよ。」
姉さんが髪を梳かしながら、こっちを向き話す。
はっきりいって私の料理は姉さんに全然及ばない。
私は結構量とか気にして作り、姉さんは完璧に目分量なのに美味しい。
姉さんの料理は食べるたびに微妙に味が変わるが決して不味くならない、逆に美味くなっているのだ。
「あれっポストになんか入ってる。」
そういって姉さんは玄関に向かう。
そして、白く少し厚めの二冊の本、ついに私達の舞台が始まった。
→幸一
カチ、カチ、カチ、カチ
部屋の中、時計の音が大きく感じられる。
現在の時刻は四時である。
明日、いや今日は学校がある。一応集合は九時だった気がする。
「よしもうちょっと頑張りますか」
そういって俺は本のページをめくる。
勉強の本ではない、俺にとっては勉強より大切と即決に言えるものがこの本によって得ることが出来るかもしれない。
本のページ数は全部で千を超える。
さらにその本が俺の部屋の至る所に隠してある。
決して十八歳未満は読んではいけないという本ではない。
とりあえず窓から外の景色を見ると・・・鏡介の顔があった。
驚くのだが、夜なのでうるさくするわけもいかず、窓を開けて鏡介に入るように促す。
「邪魔する〜ぜ、我が親友」
「こんな時間にどうした?なんかの悪巧みか」
「フフフ、それもナ〜イスな意見だが、残念ながら俺様は今クラス全員にこれを配っているのだ。」
そういって渡されたのは白い厚めの本、文化祭の台本だった。
「今日は団の家に泊まってて〜な、台本出来たらすぐ動けるように準備していたの〜さ」
「いってくれれば俺も手伝ったのに」
俺がそういうと鏡介は少し悲しい目つきで、まじめに話しかける。
「コウにはこれがあるからな、真剣な話、俺様はコウにこんなことをしてほしくない、ただ昔のように遊べればそれでいいじゃないか」
「やめるわけにはいかないんだよ。諦めたくないんだろうなきっと」
「俺はそれには手伝えない、でも少しでもお前に問題が出たらやめさせるからな」
鏡介は言葉を強めにはなった後、いつもの表情に戻り、窓枠に足を掛け
「フフフ、我が親友よ、ちゃんと寝るんだぞ、ではさらば〜だ」
そういって鏡介は普通に二階のこの部屋から降りていった。
俺は鏡介の言葉が思ったより響いた。
なので、少し寝ることにした。
何日かぶりのベットの中で
目が覚めたのは八時だった。
リビングに着くと、ボーっとしている夕とイライラ台本と向き合う朝鈴の姿が見えた。
先に気づいたのは夕だった。
『おはようコウ君、九時集合だから一応ぴったりだね、姉さんはご立腹だけどね』
「おはよう夕ちゃん、朝鈴は台本覚えたか?」
「コウ、遅い!それにこんなの覚えられるわけないじゃない、あんたはどうなのよ」
明らかにいつもの朝鈴より言葉遣いが悪い、まっ主役だしねと思いつつ、鏡介に渡された俺は台本をぱらぱらめくる。
俺の出番は後半だけなので
「問題ない」
そういって俺は、台本をテーブルに置く。
『コウ君すごいね、もう覚えちゃったんだ。』
「いいわよね、楽なやつは」
俺はその後朝食を取るが、朝鈴が隣でぶつぶつ念仏のごとくつぶやくのが気になり、せっかく祖母が作ってくれた朝食を食べることが出来なかった。
三人で学校に向かう。
今日は制服ではなく、私服であるので気持ちは軽い。
昨日は会えなかった所で鏡介と会う。
「残念ながら我が親友よ、今日は団はこれないのだ。」
理由は大方分かっている。
昨日もギリギリまでこの台本を作っていたのだ。
たった二日でこれほどの台本を作って平気で学校にこれたらそれこそ俺の友達はみな鏡介レベルになる。
「フフフ、香とデトーらしいぞ」
「「おいまてこら〜」」
俺と朝鈴が同時に突っ込みをいれる。
この後、学校の門の前に香がいて、分かってはいたが少しでも疑っていた自分がいたので、とりあえず誤っておいた。
団は本当に休みらしいが、鏡介と香が細かく聞いていたので、学校の教室に忍び込み、準備をはじめる。
俺は最初夕と一緒に大道具の方の準備を手伝う。
とりあえず、前半に出る役の人だけ香の所でミーティングを始めているらしい。
ふざけて時々遊ぶやつはいるが、それでもサボるやつはいない、いいなこういうの
『コウ君これ運べるかな?』
そういって倉庫の中の夕が指さしたのは、大きな箱だった。
「何が入ってるの?」
『照明用のライトだよ。』
箱からはコンセントが二、三本出ていた。
俺は力を入れて持ちあげると、夕は『さすがコウ君』と言ってくれた。
倉庫から教室に戻る途中、俺は夕に話しかける。
「姫役じゃなくてよかったの?夕ちゃんなら似合うと思ったのに」
『駄目だよ私なんかじゃ、皆に迷惑かけるだし、音聞こえないから、照明ももう一人手伝ってもらわないと出来ないし・・・ただでさえ、私駄目な人なのに』
「そんなことない!」
そういって俺は、夕の手を掴む。
すると箱が落ちる。
「やっちゃった」と俺がいう。
どうやら中身には故障はないみたいだった。
一応あとで鏡介に見てもらいうか、と考えながら箱を再び持ち上げる。
夕はまだ黙っている。
「少なくとも、夕ちゃんがいなかったら今の俺はないよ。過去に模試で全国一位取った俺、友達を大切に思える俺、それに・・・ってこんな恥ずかしいこと言わせるなよ。」
『そんなのコウ君が努力しただけだよ。私なんて』
「あ〜、もう自分を低くみるなよ。少なくとも俺にとって夕は大切なんだから。」
夕は驚いた顔をする。
夕は何か聞こうとしたみたいだが教室に着いたので黙ってしまった。
教室の中には校長がいた。
一応、胃潰瘍は治ったらしい。
俺に気づいた鏡介は、俺に対して片手で
『校長にばれた。どうやら文化祭なんてしょうもないものだと思っているらしい。』
なるほど、校長の考えそうなことだ。
「だいたいね〜、学生なんて勉強してればいいんですよ。」
俺はその言葉にカチンときた。
東京でも何度も同じ言葉を受けてきた。
俺はたまらず校長に対して
「じゃあ、学校の期末で結果出せば問題ありませんよね。」
俺がそういうと校長は、少し笑みを浮かべ
「君は松葉君だったね、君と森君、水村君、高橋君それに加藤君、君達には全国模試を受けて結果を残してもらう。」
ちなみに森君は団で加藤君は鏡介のことである。
俺も一瞬忘れていた。
「結果と言うと具体的に?」
俺がそういうと校長は「ほう、受ける気かね?」そしてさらに笑いをこめて
「では文化祭の一ヶ月後に行われる昨年二万人が受けた模試で、一人でも千番以内に入ってもらおう。」
俺は一瞬驚く。
千番以内と言うことは偏差値で言うと七十近く取らないと不可能だろう。
「フフフ、いいだろうその条件のもうじゃない〜か、しかし、達成できなかった場合は?」
鏡介は自信満々でそういうと、校長は笑いながら教室のドアの方に向かい。
「君のクラスみな、私の監視下で勉強してもらう。行事などの参加は一切なしだ。」
「そんな馬鹿な、いくら校長でもそんな権利」
クラスの皆わめく。
「黙りなさい。本当なら全員停学にして、文化祭を参加させない方法もあるんだぞ。」
そういうと、全員が静かになる。
こんな沈黙を破るのは・・・いや破れるのは鏡介だ!
鏡介俺の肩に腕を回し。
「フフフ、望むところ〜だ、いいよなみなのしゅう!!」
するとそこらじゅうから、「おう!」「まかせたぞ」など様々な声が飛び交う。
クラスが盛り上がる中、校長は教室からいなくなる。
夕は俺の袖を引っ張り
『大丈夫かな?心配だよ。』
「任せとけ、それより文化祭だ。とりあえず勉強はそれからでもこのメンバーなら問題あるわけがない。」
みんなの盛り上がってる中、文化祭の準備始める。
校長はいつの間にか消えていた。
とりあえず今日は前半の台本についての話し合いと舞台作りを行う。
「そういえば後半のところなんだけど、アドリブの
ところどうするのあんた達?」
香の言葉に俺と朝鈴は反応する。
後半のアドリブというのは、お姫様を起こすシーンについてである。
台本を何度見ても、このシーンはアドリブとしか書いていない。
「とりあえず、背中叩いて林檎はきださせればいいんじゃないのか?」
たしか原作でも林檎が吐き出された記憶がある。
「え〜、そこはキスでしょ。」
香がそういった瞬間作業をしていたはずのクラスメイト達がみんないっせいにこちらに注目する。
「ちょっ、な、なにいってるのよ」
朝鈴が顔を真っ赤にさせてこれでもかと言わんばかりに動揺している。
とても高二の対応には見えない。
「まあ、待てちょっと落ち着けよ。ほらほら夕ちゃん泣かないで、そんなことするわけないんだから」
『泣いてないもん、コウ君でも動揺するんだね。』
動揺?俺が?
どうやら外から見ると、俺は動揺しているみたいだ。
俺は一度大きく深呼吸して
「大体高校の出し物でそんなものやったら、それこそ退学だよ。」
「それはそうだけど、ほらたとえば二人が何かの上に乗ってるときに、それを引いちゃったりしたらアクシデントで片付くし、ね〜みんな」
香がそういうと、皆が大きく頷く。
どうやら俺の味方は、顔を真っ赤にしている朝鈴だけらしい。
俺が頭を片手で抱えていると、不意に一人の男子クラスメイトが
「第一さ、お前、朝鈴と夕どっちと付き合っているわけ?まさかこの期に及んでただの幼馴染で通るとは思っていないだろ。」
そういうと、クラス皆に、俺と朝鈴、それに夕まで囲まれる。
頼みの鏡介はと言うと、真ん中あたりで香と笑いながら話している。
「おい、劇の準備は?もう時間もないぞ」
「ああ、そんなものどうでもいいわよ。実際に演技するのは明日からだし、こっちの方が大事なんじゃない?」
今、この人自分の彼氏と友達が徹夜して作ったものをそんなもの呼ばわりしたぞ。
皆に囲まれて、絶対絶命のピンチ、このとき俺の左右の手が握られる。
『コウ君こっち』
「コウ、こっちよ」
さすが姉妹、見事二人同時に俺を引っ張って逃げようとする判断にいたる。
しかし、残念なことに、二人の引っ張った方向はまったくの正反対。
つまり俺は、腕が取れそうな痛みを味わっている。
それを見ていたクラスメイトは、さっきまでの殺気と違い、はちきれんばかりの大声援に変わる。
夕を応援するもの、朝鈴を応援するもの、そして俺の今の苦痛に耐える顔を見て笑っているものまでいる。
当の本人達は、むきになり、俺を引っ張る。
その後、何とか香が俺を救出してくれて助かった。
この騒動の間に皆、なんで俺達を囲んでいたのか忘れてしまう。
その後五時頃まで作業は進む。
「はいはい、今日はここまで、そして今から朝鈴アンド夕の家でパーティーをします。早めの前夜祭です。本番直前は皆絶対それどころではありません、私がそうさせないからです。なので来たい人は来ちゃってください。では、解散」
帰り道、香は団を迎えに行くといって途中で別れ、鏡介は、「俺様にはやらなければならない使命が」と言いながら分かれる。
一応皆後で来るらしい。
三人で帰る途中不意に夕が
『あ、お弁当』
「お弁当?」
『ごめんね、コウ君弁当作ったんだけど、渡すの忘れちゃった。』
夕がものすごい今にも泣きそうな目でこちらを見る。
今日は準備してる時間があまりにも多く(途中で大分おかしな方向に進んだが)食べる暇がなかったのだ。
「まだ残ってる?」
『うん、これなんだけど、もうさめちゃってるし、ごめんねコウ君』
俺は夕の手の上に置かれている弁当を取る。
『えっ!?コウ君?』
慌てる夕を尻目に、俺は弁当の箱を開け、中身を取る。どうやら作業中にも食べられるようにと、おにぎりにしたらしい。
俺は素手でそのおにぎりをつまみ、口に入れる。
そして、何回か噛んだ後夕に向かって。
「ありがとう、美味しいよ。」
夕はそんな反応されると思っていなかったのか、一瞬固まり、いつも通り涙を流す。
「まったくあんたも、コウがこうすることぐらい分かってるんだから、毒でも塗っときなさいよ。」
「おいおい、そんなことするなよ。」
その後、高橋家で盛大なパーティーが行われる。
夜桜さんの料理や昼野おじさんの酒?でさらに盛り上がった俺達はその盛り上がったまま、男子用の泊まり部屋に案内される。
軽く三十人は寝れる広さがあるので問題はない。
俺は、夜風に当たろうとベランダに出ると、庭に朝鈴の姿が見えた。
女子人はほとんど酒を飲んでいない。
おそらく部屋で話している女子がほとんどのはずである。
俺は二階のベランダから飛び降りる。
その音に気がついたのか朝鈴はこちらを見る。
そして、後ろに白い本つまり台本を隠す。
「どうしたのよコウ、皆もう寝たのかと思った。」
「それは、お互い様ってことだろ、こんな日にまで練習してるなんて・・・お前らしいな」
俺は笑いながらそういう。
朝鈴は昔からそういうやつなのである。
努力の才能ってのは、きっとこういうやつの事を指すんだろうと思った。
「なによ。私が何しようと別にいいでしょう。」
朝鈴は顔を真っ赤にして俺に言葉を返す。
「そういえば懐かしいよなこの木、昔から大きいと思ってたけど、今見てもでかいと思えるもんな。」
庭に生えてる木の中でも、ひときは異彩を放ち、高橋家、いやここら辺の民家に生えてる木の中でももっとも大きい木、昔だけでなく戻ってきた初日にも部屋に入るのに利用した木である。
夕がまだギリギリ会話できるころはよくここではしゃいでいた。
少しの間二人とも思い出に浸っていたのか黙っている。
その沈黙を朝鈴が破った後、俺達の昔から続いていた関係は、小さいようで大きく、浅いようで深く変わってしまう。
十月四日
「ほら、そこ声小さい、恥ずかしいならやめてしまえ!」
香という名の鬼監督がここに誕生した。
今日は朝練として皆で体育館を借りて練習、団と香は舞台のまん前に座り、悪いところを指摘する。
「ほら〜、もう何度いったら分かるの?客にね背中見せちゃいけないの」
「オイオイ、そんなかりか〜り怒るなよ。もっとのんびりいこうぜのんびり」
舞台の端にいた鏡介がそういうと、香は不気味な笑いをして、鏡介に対して
「鏡介く〜ん、そんなこといってていいのかな?私は監督なのよ。私の権力があれば、あなたをコウに抱きつかせたりさらにはキスまでできるのよ。」
「フフフ、俺様がそんな言葉に動じるとでも・・・何なりとお申し付けください、どうかわたくしめを部下としてあなたのそばにいさせてください」
弱いな〜、そう思いながら俺はカーテンの裏にいる。
舞台の上、俺の位置からギリギリ見ることの出来る範囲に、笑っているが明らかにいつもとは違う朝鈴の姿があった。
昨夜、あいつは俺に
「コウ、私さあんた一人に夕のこと背負わしたくないんだ、私もあんたと一緒に背負いたいの、苦しみでも何でも・・・でもその気持ちは半分ぐらいかな、正直に言うと私あんたのこと好きなの。ずっと一緒にいてほしい・・・付き合ってほしいの」
突然の告白だった。
俺は、その返事を引き延ばそうと
「返事は今じゃなきゃ駄目か?」
「今じゃなきゃ駄目、ほら私馬鹿だから、きっとあんたに言いくるめられる。だからコウの今の本当の気持ちをおしえてほしい。」
答えは不思議と早く出た。
「ごめんな朝鈴。俺にはお前と付き合う資格なんてない、俺は本当はお前らに恨まれなきゃいけないんだぞ、俺の父親は一人の少女さえ救うことが出来なかったんだから。なのにさ、皆優しくしてくれるんだよ。だから俺は一人でやらなきゃいけない」
俺の頬には涙が流れた。
「誰もあんたを恨んでない、そんなの当たり前じゃない。皆あんたと一緒にいたいの、逆にあんたが一人で解決してることの方が腹立つ。じゃあさ、そういうのなしで、私を見てくれることは出来ないかな?」
俺は服で涙を拭き、目の前の朝鈴を見る。
姉なのに、少し夕より小柄だが、曲がったところが嫌いで、言葉もきついが学校の皆からも実は人気がある。
俺からしてみれば、この世で一番長く一緒にいた人である。
夕の検査のとき、いつも俺を見つめて「大丈夫だよね?」と聞いてきた女の子。
最高の『仲間』である。
「ごめん、俺にはお前をそうは見ることは出来ない。」
そう言い放つと朝鈴は俺の横まで来て、こちらを向いて「そっか」といって、俺の頬にキスをする。
「じゃあさ、今告白したのが夕だったらどうなってたかな?」
俺は少し間を置いて
「今まで一番近くで見てたやつがなににいってるんだよ。決まってるだろそんなこと」
朝鈴に言われた条件だったら、俺の答えはおそらく、初めて夕と会ったときから決まっていただろう。
「夕のことあんたに任せるからね」
そういって、朝鈴は戻っていった。
俺はただその場に立ち尽くし、隣にある大木をただ見上げているだけだった。
→夕
「次のシーンって何色だったっけ」
『・・・』
「あの〜高橋さん?」
私は同じ照明係の人に肩を叩かれて反応する。
『へっ!?えっと何かな?』
「今やってるシーンの色を聞いたんだけど、大丈夫?ぼ〜っとしていたけど」
どうやら私はぼ〜っとしていたらしい。
私は『ごめんね』と頭を下げて謝る。
昨夜、姉さんに言われた言葉が私の頭から離れなかった。
昨夜、ベットで横たわっていた私はなぜか急に孤独に感じて、眠ることが出来なかった。
すると、扉が開く。
廊下の光で一瞬誰か分からなかったが、姉さんだというのに気づくのに時間はかからなかった。
「あっ夕起きてたの?こんな遅くにごめんね」
『どうしたの姉さん、大丈夫だよ。今眠気がなかったから』
すると姉さんは私のベットの足元に腰掛ける。
私も上半身を布団から出し、姉さんの顔を見る。
暗くて表情が分かりにくかった。
しばらくすると姉さんが
「私ね、コウとキスしたんだ」
そういって姉さんは顔を上に向けてしゃべる。
私はきっととんでもなくあっけにとられた顔をしていたのだろう。
「私、負ける気ないからね、おやすみ」
姉さんは私に何も言わせないまま部屋をちょっと早歩きをして部屋を出る。
キス?姉さんとコウ君が?負ける気ない?
私の頭の中でぐるぐる回っている。
そして、今は寝不足も加わってさらに回る。
朝、コウ君も姉さんもいなかった。
一瞬、二人で一緒に学校に行ったのかと思ったのだが、どうやら姉さんは早くいって練習していて、コウ君は自分の家に戻って寝ていたらしい。
二人の様子はどう見てもおかしい。
姉さんは普通にコウ君と話しているのだが、コウ君は話しにくそうだった。
そして、二人とも元気がなかった。
私はどうすればいいのか?
姉さんを応援する?姉さんと喧嘩する?
「・・・告白すれば」
いきなり目の前に現れたのは団君だった。
告白?新たな選択肢が出た。
でもコウ君には絶対迷惑になるに決まっている。
それよりもなにか団君は知っているのか、私は疑問に思いたずねる。
しかし団君は首を横に振りその場を立ち去る。
私が答えを出すのに、そこまで時間はかからなかった。
姉さんももちろん大事だが、私の頭の中で多くの割合を占めていたもの、思い出が濃いものはコウ君だったのだから。
「あっ高橋さん、そんな照明の機械動かさないで、壊れちゃうって」
→幸一
放課後に入ると香のテンションはさらにヒートアップした。
昼飯中に朝鈴は鏡介に呼ばれて外に出て行くのを見た。
朝鈴はなぜかいつもの自分に戻っていた。
午後の授業中に俺が鏡介にたずねる。
しかし、鏡介は「フフフ、安心するがいい我が親友」といって寝てしまう。
寝る前に、我が親友とのキスといっていたのは聞かないことにした。
「ほら、大河!なんでそこでアドリブ入れるかな?次ぎやったらあんた本当に木の役だからね」
「ひ〜じゃ小人2の役は?」
「私がやるわよ。皆もそうだよ、やる気がないなら別の人入れるから」
こういって皆気合を入れて、劇を始める。
準備は夜八時頃まで続き、とりあえず、台本持ちながらの通しは出来た。
香いわく、感情がこもっていない、動きが鈍い、自分を捨ててないなどまったく納得していなかったが、そんだけ吼えても嫌われないのが香の凄さかもしれない。
香から「解散」と声が出たのだが、台本を読んで暗記したり、香や団のところに行って、自分のことについて詳しく言ったり、皆ほんとに劇をしようとしていた。
俺も便乗して台本を読む。
そして、最後のおおとりアドリブの部分はどうするか?これが俺達のクラスの売りのひとつと言われたら手を抜くわけにはいかないのだが・・・俺はため息を付く。
家の前に着くころにはもう十時になっていた。
皆と一緒に帰ったのだが、微妙なぎこちなさも感じた。
高橋家の前では小春が待っていた。
俺達に気づいた小春は橋って近寄る。
「幸一兄さん、おかえり〜」
「『あの〜私達は?』」
「わっわ〜ごめんなさい、お帰りなさい朝鈴さん、夕さん。」
小春とこの二人はすっかり仲良くなっていて、本当の家族と言っても過言ではない様に思えた。
そして、俺はいつものごとく、勉強と例の事を行い夢に落ちる。
十月七日
→夕
朝、学校の下駄箱、人は誰もいない。
いるかも知れないが私は音を聞き取れないので分からない。
私は紙の封筒をコウ君の下駄箱を三、四回確認してから入れる。文化祭本番まであと三日、日にちに関しては問題ないと思う。
ここで断定できないのは、私は誰かに告白というものをしたことがないのだから・・・
私は誰もいない筈の教室に向かう。
本当に誰もいなかった。
登り始めた太陽が少し眩しかった。
→幸一
朝鈴も夕も先に家を出てしまっていたため、いつもより遅めに家を出る。
言い訳だが、実は夕に遅く学校きてね、でも遅刻しちゃ駄目だよと言われたのだ。
今、俺の隣には小春がいる。
二人っきりでいるのは久々、いや初めてだったかもしれない。
「そういえば幸一兄さん、劇どうするんですが?その、なんというか朝鈴さんとキスするの?」
「はっ?えっと誰が言ったの?そんな話」
俺はわけが分からなくなって小春にたずねる。
そうすると小春は鞄の中から少し大きめの紙を取り出す。
[何が起こるか分からないクライマックス
二年A組の豪華キャストが送る
白雪姫]
そう書いてあるポスターと写真にはでかでかと朝鈴の写真を中心に回りに小さく皆の写真が張ってあった。
「クライマックスってあれですよね?キスとかそんな感じですよね?」
「いや〜それはないだろう、ってか俺にもわからないんだよな」
そういうと、小春はなぜか「そっか〜」といいながら笑顔でこちらを見つめる。
その後、文化祭の話で盛り上がる。
今日は鏡介にも会わない不思議な朝だった。
下駄箱で小春と分かれて、下駄箱の中を開けると中に手紙が入っていた。
えっ!?なに?今の時代、こんな時代錯誤なこと・・・そして俺はそれを見て落ち着くとその手紙はおそらく夕なんだと思った。
そして、その考えは見事当たる。
いつも一緒にいるのに、手紙で話すということは、よっぽどの内容なんだろう。
そして、夕が遅くくるように言った理由も分かった。
俺は屋上に行き、畳の上に座って手紙を広げる。
内容はとても短いものだった。
『コウ君へ
文化祭初日、朝のミーティングが終わったら、一緒に回ってください。返事はそれとなく返してくれればいいです。』
これだけだった。
手紙の裏も確認したが何も書いてない。
返事はもちろんOKなのだが、こんなこと普通に言えばいいなと思いながら、手紙をポケットにしまおうとしたが、少し大きかったので、それに落としたくなかったので、財布の中にしまう。
その時、チャイムが鳴ったので慌てて俺は鞄を持ち教室に駆け込む。
「ギリギリか?」
「残念アウトだよ。」
と良姉さんが出席に斜線をつける音が聞こえる。
『残念だったねコウ君』
「まったくなにやってんだか」
と夕と朝鈴
「フフフ、具体的には屋上で何をやってたかだ〜な」
「おいおい何の冗談だよ。」
そう俺が鏡介返すと、まあ「シークレットだもんな」といわれた。
まったくどこにいるんだか。
そして俺は夕に向かって久々の手話を使う。
文化祭の返事はOKと伝える。
夕は満面の笑みを見せる。
この笑顔を見せられると、何でも出来る気がするのだが、まっ実際には何も出来ないのだが。
逆に涙を見せられると断れないことになるんだけどな、甘いな俺、と心の中で思う。
しかし、夕と一緒に行くことを決定しといてよかった。
俺、鏡介、団、大河つまり【公共団体】で休み時間、廊下を歩いていると、いろんな人に回ってくださいといわれた。
それも2,3人ならよかったのだが、まあ色々騒がせてる面子と言うこともあり、何十人にも声をかけられる。
小春にも断ったがさすがに胸が痛んだ。
鏡介の交渉により、なぜか今度(正確な日にちまで決められたのだが)買い物に付き合うことになった。
団は声をかけられるたびに「・・・香がいるから」で切り抜ける。
実は隠れファンが多かったみたいで、本人は毎回毎回赤面していた。
俺も大体は先約があるですんだ。
鏡介は今日はじめて知った真実なのだが、生徒会を陰で操ってるらしく。
やることが多いと言う理由で断った。
大河は断られた人に片っ端から声をかけるが、すいません。とことわられ、最後の方には声も聞いてもらえない始末だった。
「僕ってきっと不幸の星の元に生まれたんだろうね」
そういって大河は壁に寄りかかり、体育座りをして落ち込んでいた。
「・・・あれは哀れじゃない?」
「鏡介、あれはなんとかなんないの?」
「フフフ、まっもう少し離れてみてみろよ」
まるで予言者の様に語る鏡介。
離れたところから見ていると、大河のところに一人の影が近寄る。
なんと、同じクラスの女生徒 華歌果 花梨だった。
いかにも言葉が詰まりそうな名前だったので、目立つ、しかも、黒くて長い髪にくりっとした目つきで結構人気があったりするらしい。
「え〜っと鏡介、俺に分かるように説明してほしい」
「フフフ、昔から気があったみたいだぞ、まっ普段はあんな役回りだから、話しかけられないみたいだが、なんだったら好きになった経緯まで細かく説明する〜が」
「・・・大河にはもったいないけどな」
「何気ひどいよね」
そして、大河はダッシュでこっちにくる。
口をパクパクさせている。
言葉にならないみたいだ。
その後、しばらく大河をからかう。
大河もまんざらではない顔をする。
放課後の練習では、どうやら二人とも小人役だったらしく。
大河にも春が来たのかと思いながらも殴られたりしてて、そこらへんがいつもの大河なのでほっとした。
そして、ついに文化祭当日を迎える。
「ところで鏡介、あいつが幸せってどう思うよ」
「フフフ、許されるわけないじゃ〜ん。まっ文化祭を見てるがよい」
「・・・お前も結構ひどいじゃん」
文化祭初日
目を覚ますとそこは教室の中だった。
昨日はほとんど徹夜で最後の小道具作りや劇の確認、ポスターを町や学校に張りまくった。
そして、ついに今日最後の通しを行って本番を向かえるところまで来た。
短い期間で、いや短い期間だからこそ、皆が緊張を・・・多分そんなものないのだろうけど、ここまでのものが出来た。
俺達の学校では、文化祭は二日間行い、劇は二日目なので今日は自由に遊べるのだが、皆鏡介が作った練習用の衣装を来て校内を周り、一人五十枚チラシを配らなければならない、出来なければ鏡介がなにかすることは目に見えているので、多分皆真面目に配るだろう。
そして、時計を見る。周りの連中もまだ寝ているので大丈夫かと思ったが、あと五分でチャイムが鳴ることを知り、急いで練習用の衣装に着替えて、一枚体にポスターを張り、教室の中に入る。
残念ながら何人かは、これから行われる鏡介のオープニングセレモニーを見れないと言うことになる。
現在教室には三分の二ぐらい教室にいる。
もちろん鏡介や団はいない。
ここでチャイムが鳴る。
もう一度チャイムが鳴るとき、つまりあと三十分後に文化祭が始まる。
そして、放送室から聞き慣れた声が聞こえる。
「フフフ、元気にしてるか諸君、放送室は我々【公共団体】が乗っ取った。」
いやいや待て俺はここにいるんだが、確か大河はまだ寝てるはずだし・・・皆の目線が痛い。
放送で走る音が聞こえる。
そして、扉が開く音
「おい、どういうことだラジカセじゃないか」
これもおそらく鏡介の演出だろう。
「さ〜皆の〜者、校庭を見るがいい。そして文化祭を楽しもうじゃない〜か」
ここで、放送室に入ってきた生徒は「鏡介の兄貴最高でした」といってラジカセのスイッチを切る。
皆校庭を見る。
するとそこには色々筒みたいなものと、マイクを持った鏡介の姿があった。
そして、体育館を指差す。
するとそこから‘紙’で出来た校長の巨大(おそらく縦横十メートルは超える)写真に文化祭とでかでかと書かれたものが吊り下がる。
上に立っているのはおそらく団だろう。
皆が拍手をするがいまいちもりあがらない、すると鏡介は
「フフフ、さ〜皆の者、ここに文化祭をは〜じめようじゃないか」
そういって筒についているひもに火をつける。
筒の数は合計五個、それら全部に火をつけ終えると、鏡介は皆気をつけろといってダッシュで逃げる。
そして撃ちあがったのは花火だった。
もう日が出ているので、花火の綺麗さは半減してしまったが、その花火の火の粉が‘たまたま’校長の写真に当たり、全部燃え上がった瞬間学生のボルテージは最高潮を初っ端から迎える。
おそらく、鏡介が校長に提案したのだろう。
校長の巨大ポスターを貼っていいかと、もちろん校長はこれを断るわけがない。
そして、‘たまたま’花火の火の粉がふりかかっただけなのだから、校長も文句は言えないが
「いいわ〜最高だよ鏡介」
『コウ君お腹、お腹がハハハ、笑いすぎて痛い。』
花火の音で皆目が覚めたのだろう。
学校中が笑いの渦である。
その後鏡介たちも教室に戻ってきて、良姉さんの朝のホームルームを行う。
そして、最後に「みんな、青春しろよ!」と言うと、みんなが先生年寄り臭いと言いながら終わる。
チャイムが鳴る。
このときは、まさかのちにあんなことが起きるとは想像できるわけがなかった。
俺は正門に向かう。
夕が集合場所は絶対ここだと言ったからだ。
理由はまあ簡単な気がするが、初めから、全部見たいらしい。
俺に気づいて近づいてくる女の子。
「で、何でそんな格好なんだ?」
『コウ君意地悪だよ〜』
今日は俺達のクラスはそれぞれの役の格好で学校でチラシ配り、夕の役は照明担当、ここまで来れば予想がつくかもしれない。
夕の格好は・・・白雪姫役の衣装だった。
おそらく、鏡介がすべてを知っていて渡したのだろう。
果てしなく似合っている。
贔屓があるに違いないがそれでも似合っている。
『コウ君いこ〜』
そういって夕は手を俺に向けて出す。
俺はその手を握り
「よっしゃ〜、全部回ってやる。」
夕は『そのいきだよ』と返す。
本来最初に散らし配りなのだが、白雪姫の夕と変な格好といったら鏡介に怒られるのだが、それでも変な格好な俺とが一緒にいるので、向こうから人が来るので開始10分で終わってしまった。
外の露店は食べ物類が多かったので、クレープだけ買って校内に入る。
校内に入るとそこは人が大勢いた。
おそらく街の人の半分近くはこの学校に集結しているかもしれない、そんな感じがした。
俺達はどこか展示品の教室にでも避難しようとしたのだが、当然のごとく邪魔と言うか、いたずらというか・・・
「フフフ、皆の者楽しんでいるか〜な?」
鏡介の声だった。
「ここ〜で、明日行われる我がクラスの劇【白雪姫】のメンバーでちょっとミニゲームをやりま〜す。内容は我が愛の親友達つまり【公共団体】メンバーを捕まえろ、捕まえて俺のところまで連れてきた人に〜は、永遠に結ばれ〜る愛を願った腕輪を授けよう。」
俺は初っ端、四面楚歌にあってしまった。
『コウ君どんまい』
ドンマイじゃない、俺は逃げる。
夕の足は遅いので、抱きかかえた方が俺のスタミナはともかく早いことに気づき、抱きかかえる。
そして走る。
目標は・・・小春のクラス、きっとあの子なら俺をかくまってくれるはず。
中に駆け込み、夕をゆっくりおろして呼吸を整える。
もちろん中ではクラスの活動が行われていたわけで、喫茶店をやってるところまではいいのだが、おそらくこの間の修学旅行で東京行った人が見たんだろうな
『コウ君・・・なにあれ?かわいい格好なんだけど』
夕よそれを俺に言わせるのか?
あれですよ、メイド喫茶って言ってしまいたいんだけどさ、なんか言いにくいんだよ。
「あっ幸一先輩、いらっしゃいませご主人様」
いや待て、思いっきり人の名前言ったぞ小春。
そのせいで、小春のクラス全員に目を向けられる。
そして、こっちにじりじりよって来る。
どうやら、ここでは俺よりも鏡介のほうが人気があるらしい、というよりもこの学校自体鏡介が占領しているようなものなのだが・・・
「小春、とりあえず似合ってるよ。じゃあ皆白雪姫よろしく」
そういって、教室を出る。
いい加減足が疲れてきた。
すると夕は何を思ったのか、俺の手を引っ張って
『コウ君こっちこっち』
そして、着いたのは放送室だった。
「えっと夕ちゃんまさか」
そういい終わる前に、夕は放送室を開けてしまった。
「フフフ、待っていたよ。最初に来たのは誰かな?」
『鏡介君、腕輪もらいに来たよ。』
「フフフ、夕よ、お前がここに来ることは俺様はかんぺ〜きに予測して〜たのだよ。」
そういって鏡介は放送で「コウを確保したの〜で、後2人だ」といった後、銀色で何かの花のように加工されたものを一個ずつ渡す。
「この花はルピナスか・・・」
ルピナス、花言葉は確か【多くの仲間】だった気がする。
俺がそう尋ねると、鏡介は
「さすが我が親友、ちなみに夕の腕輪は椿だ」
椿・・・か
『じゃあ、私達もういくね、また後で』
そういって俺の手を引っ張る。
鏡介は「存分に楽しむがよい」と言って、手を振る。
教室を出る前に鏡介の顔が見えたのだが、なんかいつもの鏡介とは表情が違っていて、哀しい様に見えた。
その後、俺と夕は何も考えず、ただ騒いで遊びまくった。
お化け屋敷や喫茶店、ゲーム、服屋、映画、さすがに全部は回れなかったけど、かなりのものを見れたと思う。
あの後ちゃんと小春のところにもう一度行ったし、かなり満喫できたと思う。
夕方になり、夕と俺は階段近くにいる。
『コウ君のど渇かない?屋上行って飲もうと思うんだけど』
「じゃあ、俺買ってくるよ。屋上で待ってて、知らない人にこえかけられたら、ダッシュで逃げること」
そういって俺は、近くにある店で自分の分のコーヒーと夕の分で紅茶(夕はレモンティーに目がない)を購入して屋上に向かう。
「あっ、コウ」
階段を上る途中で、俺は静かな感じの声に反応する。
その声に反応して後ろを向くとそこには、朝鈴がいた。
片手にはカメラを持っていた。
その目線に気づいたのか朝鈴は
「あっこれ?鏡介に頼まれたのよ。私今日暇だったからね」
白雪姫の格好でカメラと言うのもなんか合わない気がするが、あえて口にはしなかった。
「じゃあ、夕ちゃんまたしてるから俺行くね」
「本当に行くの?」
朝鈴がとめに来る。
「分かってるんでしょう。この後あの子が何をするのか、いくら鈍いあんたでも、今ならまだ間に合うのよ。」
「いや、行くよ」
俺は合間を入れずに答える。
そして、俺は逃げるようにして、屋上に向かう。
後ろで「待ちなさい」と朝鈴の声が聞こえたがそれでも俺は止まらなかった。
屋上に着く。
目の前には再開したときと同じで夕日に照らされる夕の姿があった。
ほかにはもちろん誰もいない。
「はい、夕ちゃんレモンティーでよかったよね」
俺は夕にレモンティーを渡す。
『うん、コウ君ありがとう』
そして、俺達は飲み物を飲む。
少しの間無言だった。
そして夕はペットボトルの蓋を閉め、俺の正面から約一メートルぐらいととても近い距離でこちらを見つめる。
そして、言葉は短かかった。
『コウ君、私あなたのことが好きです。』
この言葉がくることは、なんとなく予想していた。
答えもいくらでも考えていた。
それでも俺は黙っていた。
『コウ君、私と男と女として付き合ってください』
夕は勇気を出して入ったに違いない。
その証拠に夕の瞳には涙が見えた。
俺はこの子が大好きである。
おそらくはじめてあった時から、これからもずっと、それでも俺は・・・
「・・・・・ごめん」
夕はうつむいたまんま屋上の扉を開けて出て行く。
俺は壁に思いっきり頭を打ち付け、更に壁を殴る。
血が出たが、痛みは感じなかった。
俺は最低だ、こうなる結果は分かっていたのに、朝鈴
にも止められたのに・・・
俺は壁にもたれかかり座る。
答えは決まっていた。
‘何も関係なし’だったら、俺は自分から告白していたに違いない。
俺はとりあえず、何も考えないでボ〜っとすることにした。
なんか体から、一部分大切なものがなくなった気分だ。
次に俺が顔を上げたとき、もうすでに夕日は沈み、色んな人が帰っていた。
そして目の前には鏡介が立っていた。
「いつからそこにいた?」
「フフフ、お前が頭ぶつけてそこに倒れこむとこは見てた〜ぞ」
俺は「そうか」と別に何の驚きもなく返す。
おそらく本当のことなんだろう。
もしかしたら、告白もみてたかもしれないけど、鏡介は続けて
「夕は家に送ったぞ、あいつは一人で何人もの人を誘いこむからな、ちなみにこの後のクラスの最後のリハはお前出なくていいから、一人でいなさいBY朝鈴とのこだ」
鏡介は朝鈴の真似をしながら俺に伝える。
俺はまた「そうか」と返す。
鏡介には悪いが突っ込む気になれない。
鏡介はそんな俺を見つめて
「まったくお前ら〜はそろいもそろって、フフフ、これだから我が親友はたまんないね〜、オケ〜イ、コウは明日ちゃんと演劇をやる様に、俺様はやることがあるんでな、大丈夫、俺様をだれだと思って〜る。」
そういって鏡介は俺の前からいなくなる。
「あと、家帰れよ。何せ寝てないんだからな、そんなとこいると俺様に食われちゃうぜ」
そういって屋上から鏡介は出て行く。
一応、いやかなり鏡介は心配しているのだろう。
俺はおとなしく家に帰って寝ることにした。
文化祭最終日
目を覚ますと自分の部屋にいた。
現在の時刻七時、学校に行きたくなかった。
俺は夕をこれ以上もないくらいに傷つけてしまった。
劇は十時開始、鏡介いわく、その後遊びまくりたいらしい。
さすがに学校に行かないわけには行かないのだが、夕は確か家に帰ったはずだから会う可能性がある。
俺はいつもと違う道で学校に向かうことにした。
いつまでも逃げられない事は分かっている。
でも、会いにくい。
俺は意を決して家を出る。
いつもは玄関から右に曲がる道をまっすぐ向かうことにした。
しかし、玄関には朝鈴と夕が待っていた。
「遅い」
いつもの通り朝鈴が声をかけてくる。
『コウ君おはよう』
「ああ、おはよう」
きまづかった。
とにかく、誰もしゃべらず、ずっと静かな状態で学校まで歩く。
多分今までで一番長い登校時間に感じた。
時間自体はいつもと変わんないのだが、もう何時間何日何ヶ月も経っているように感じた。
なんとか学校に着いた。
さすがに演劇にまで引くことは、クラスメイトの今までの努力を無にすることになる。
とはいっても、過去には夕一人でひきづったりもしたわけだが、などと考えつつ、俺は一人で廊下で気合を入れる。
「はいはいはい、みんなしゅうご〜、円陣組むよ。」
香の声でみんなが体育館のステージ裏で肩を組む。
中心には鏡介が腕を組み構えている。
別に学級委員でもなんでもないのだが・・・まあ一番盛り上がるからみんな何もいわない。
「フフフ、みんな初めに言ってお〜く。俺のため、いやこの我が愛の親友コウの為」
そういって円陣から俺を引き抜き、大笑いしながら
「死んでく〜れ!!!」
みんながノリで「お〜!」と叫ぶのだが、俺一人、いや鏡介以外みんな頭の中で分けわかんないはずだろう。
それが鏡介でもあるのだがな。
‘ブー’
香がスイッチを押して幕が開く。
「昔、あるお城に美しい王女がいました。その人の名前は朝鈴、みんなからは白雪姫と言われていました。」
香があらかじめ用意していたナレーションが劇内に響きランプがともる。
俺達の白雪姫は役名を自分の名前で行うことになっていたのだ。
そして話は進んでいく。
「朝鈴が七歳になったころ、王妃鏡介は魔法の鏡にたずねました。」
「フフフ、この世で一番美しいのはだれ〜?もちろんこの私よね、この私だわよね」
「いえ、この世で一番美しいのは朝鈴様でございます。」
「キ〜、なんてこと、この私を差し置いてあの朝鈴が最〜も美しいなんて・・・ありえないわ、殺してやる」
会場は笑いのあと、更に鏡介の「殺す」と言う発言が本当に恐怖に感じたのか、静まる。
ここまでは順調だ、俺は本当に最後の最後でしか出ないので、のんびり見ている。
そして、大河が馬鹿をやったり、何気息の合う様に見えた大河と団のコントがあった後、鏡介により毒りんごを食べさせられた朝鈴が倒れてガラスの棺おけに入り、俺の出番となる。
鏡介と俺は幕で入れ違いなる。
鏡介は一言
「フフフ、キスしてくれよ。今日だけは何があっても許す。」
鏡介の考えはまさか俺と朝鈴をくっつけて、夕を諦めろとのことなのではないかと脳裏にかすめる。
俺は、夕がいる上にある照明場に目を傾けることは出来なかった。
「その時、本当は白馬に乗せたかったのですが、資金と学校と言う場所の関係上無理だったので、徒歩で現れたのは王子幸一である。」
「長々しい、ナレーションに感謝する。」
俺はそういってから、舞台の上に上がる。
客席を見ると、本来ある座席数をはるかに超える人数が体育館内にそんざいした。
まさに、休みのラッシュで140パーセントを超える新幹線内を連想させる。
俺は見たことはないが・・・
「おお、これはなんと美しい。おい、そこのチビこの美しいものの名は?」
みんなの目線が大河に行く。
「ひ〜、ぼ僕ですか?名前は・・・」
「・・・‘夕’と言います。」
後ろに控えていた団がそう言う。
今なんていった?夕?そんな馬鹿なわけが
→夕
私は今、ガラスの棺おけにはいっている。
薄目を開けるとはっきりとコウ君の姿が目に入る。
昨日私のことを振ったコウ君の姿が・・・
昨日、コウ君に振られた後、私は誰もいないであろう美術準備室にいた。
いつもなら、ニスや油や絵の具のにおいがするのだが、なぜかにおいは感じない、でも理由は鼻水と言うことに気づいたので、鼻をかんだ。
涙が止まらなかった。
ずっと一緒にいた。
ずっと憧れていた。
ずっと私を助けてくれた。
ずっと恋焦がれていた。
ずっと並ぶことが出来なかった。
ずっと好かれていると勘違いしていた。
『・・・』
‘ガー’
扉の開く音がする。
私は扉の方を向く。
そこに立っていたのは・・・
『鏡介君』
「フフフ、ずいぶんとひどい顔だな夕よ。」
私はあわてて顔をハンカチで拭く。
「まった〜く、朝鈴も夕もそしてコウもなんでこうお互いがお互いを噛み合わなくしてるのか〜ね、まっこれだからお前らと愛の親友をやめられないわけだ〜がな」
何のことか分からなかった。
鏡介君は更に言葉を続ける。
「知ってるか?コウは多分夕がコウのことを好きになる前か〜ら夕のこと好きだったんだぞ、いや残念なことに今でもそうなわけだ〜が」
「なんで敵に塩ふってる〜んだろな」と言う。
ならなんで私のことを振ったんだろう。
「コウはまだ親父の事を引きずってるんだよ。コウが夕のことをどれほど大事に思っているの〜か、それを語るには、明日の文化祭はでれなくなるほ〜どになるぞ」
鏡介は笑いながら一方的に話す。
私はコウ君の気持ちも知らなかった・・・
それなのに、ただ私の気持ちを伝えただけだった。
引き金になったのは、あの姉さんの言葉だったんだよね
「ちなみに、朝鈴はコウに告白して振られたぞ、だから夕には成功してほしい、自分で向かっていかせるためだろ〜うな、あの言葉は」
鏡介君聞いてたんだ、いまさらもう驚かないけど
「俺ばっか〜りしゃべってるのも飽きたし、とりあえず俺が伝えたいこと〜は、何も迷わずコウにもう一回告白する〜。あと、さっさと家に帰れ」
私はわけが分からなかった。
コウ君の気持ちは分かってしまったのに、でも私は・・・諦めたくなかった。
『コウ君は?』
「あん?」
『屋上にいるから、風引いちゃうよ。帰るように言っておいてくれる?』
鏡介は私の方をみて、何かを納得したのか
「その仕事は俺が責任を持っ〜て承った。」
こうして、朝私は鏡介君に言われて、‘このような’状態になっている。
覚悟は決まった。
多分これで失敗したら私は・・・
私は首を横にブンブン振り、悪い考えを吹っ切る。
→幸一
俺は驚きながらも何とか言葉を発する。
「そうか、この美しいものは夕と言うのか、この姫は私の国で預かろう。君らも来ないか?」
「こ、幸一様、このような汚いものたちを」
俺の横にいたしもべ役の人が言う。
「うるさい!!さっさと運び出さないか」
俺は出来るだけ迫力を出しす。
それにしたがって二人のしもべが夕の入った棺おけを運び出す。
「ひ〜、ま、待ってください」
そういってこけた大河、その衝撃で夕の入っている棺おけが地面に落ちる。
朝鈴に聞いたが、これはかなりの衝撃がくるらしい。
って言うか、夕にあんな衝撃あたえて、大河め後で死刑だなどと思いつつ、急いで夕の元に駆け寄る。
そして、棺おけを開けると同時にりんごのかけらを客に見せるように落とす。
夕が上半身を起こしてこちらを見つめる。
「・・・夕様が目を覚まされました!!!」
夕は、小人役に向かって微笑む。
そして、俺の方に向かう。
少しの沈黙。
会場全体が完璧に静まり返っている。
ここで夕は‘言った’
「お、おうふん、だひぃふぅき(コウ君、大好き)」
それは、言葉としては伝わりにくいものだった。
しかし、何年ぶりかに聞いた夕の声は 綺麗だった。
声が綺麗という表現はおかしいかかも知れない、しかし、観客はほとんど夕の状況を知っている。
みんな、驚いていた。
俺の今の表情はおそらくとんでもないものだろう。
鏡介の仕業なんだろうな、いや、団、大河、香、朝鈴、みんなのほうを見る。
みんな微笑んでいる。
そんな顔でみんなに見られると安心してしまう。
俺は夕を見つめる。
瞳には涙がたまっている。
夕のこの姿は見たくない、それなのに、何日もこんな顔を見てしまった。
「・・・俺達も入るよ」
と団は小声で俺に話しかける。
本当に本当に本当にこいつらは・・・
‘がばっ’
俺は夕を抱きしめる。
夕には聞こえないかもしれないそれでも俺は言った。
言わなければならなかった。
「大好きだよ夕ちゃん、ごめん夕ちゃん、俺一人じゃ何も出来なかった。でも、それでも俺はお前のこと」
そういって顔と顔を見つめあうように少し離れて
「大好きだよ」
そういって、ごく自然にキスをしてしまった。
その後のことはみんなあまり覚えてなかったみたいだが、一応成功の部類に入ると思われる。
キスをしてしまったことに対して色々問題を生じてしまったが、そこらへんは促した張本人である鏡介が何とかしてくれたらしい。
とにかく俺達はみんなの前で、カップルと言うものになってしまった。
劇直後、俺達は教室にいた。
「フフフ、完璧〜だ、俺様のシナリオ通りだったぞ、コウに夕よ」
「・・・まさか本当に告白するとは」
団が少しあきれた顔で言う。
「まあいいじゃんいいじゃん、ってこれ監督の私が言うことじゃないんだけどね」
夕のほうを見ると、朝鈴と一緒に話していた。
二人は少しの会話の後、夕が泣き始めて、それに朝鈴が続いた。
夕は泣き終わった後、俺の所まで来て
『コウ君私達、その〜えっとあの〜』
「カップルってやつだろ、俗に言う」
夕は顔を真っ赤にする。
ああ、きっとこれでよかったんだと思う。
後悔はするかもしれないけど、これでいいと思う。
それよりも前に
「そういえば、夜桜さんとおじさん来てたよね・・・俺大丈夫なのか?」
「いいんじゃない?どうせいつかこうなるって思ってたみたいだし」
『だってどっちと結婚するかかけてたもん私達の親は』
あの人たちは、まあ余計な心配だったのだろう。
「フフフ、しかしこれからはコウを借りるときは夕の許可が要るの〜か」
『そうだよ。誰にも渡さないんだから』
「おいおい、俺借り物かよ。それより夕ちょっと遊び行かないか?昨日全部は回りきれなかったし」
「・・・やめといた方がいいよ」
俺の提案に団は注意をする。
「そうだね、今歩くとね、今あなた達この学校どころか街中の注目の的だしね」
「フフフ、つまりみんなで回るということ〜だ」
「まさか鏡介、ここまでおまえの予測ずみ?」
鏡介は「なんのことやら」といって流したが、おそらくこれも鏡介が計画したことなんだろう。
まあみんなで遊ぶ分には大賛成だけどね。
『コウ君行こう。』
そういって俺の手を握り、引っ張る。
夕の手首には昨日鏡介からもらった腕輪があった。
椿の花・・・花言葉は『思い』
その後、俺達はみんなで文化祭を回る。
昨日回ったところもあったが、とてつもなく面白かった。
夕がずっと俺の手を握っていたことと、周りからの視線は恥ずかしかったが、そこはかとなくうれしかった。
夕方にどの出し物が最も良かったかの投票が行われる。
この投票は生徒は自分のクラスを選べないらしく。
俺は小春のクラスを選んだのだが、中身がメイド喫茶だったので、俺の書いた紙をみていた香と団に引かれた。
夕は最後まで疑問してきたが、俺は最後の最後まで黙っていた。
そして今現在、俺は屋上に来ていた。
隣には夕、みんなで内緒でこっそり来たのだ、鏡介あたりにはばれているだろうが、多分覗いているかもしれない。
下を見下ろすと、みんながキャンプファイヤーで踊っていた。
香と団はちゃっかりペアを組み、あんだけ邪魔する予定だった大河は邪魔をするまでもなく、一人で体育座りをして壁と話していた。
小春は恐らくクラスの男子らしき人と踊っている。
『綺麗だねコウ君、ここだよね昨日コウ君が私を振った場所』
「そういうこというなよ。俺だって・・・いやなんでもない」
危うく、恥ずかしすぎる言葉を発するところだった。
「フフフ、ハイ〜、エブリバ〜デ皆の者、注目!!」
炎の中から出てきた鏡介は「あちち、熱いって、ここここれがラブなの〜か?」といってみんなの中心に立つ。
俺達も屋上から鏡介の姿を見る。
「みんなの盛り上がってる中申し訳な〜い、先ほど我等が生徒会長から命を受〜け、この学校でもっともエレガ〜ントナ出し物を発表しようと思〜う。皆の者、用意はいい〜か」
みんなが盛り上がる。
夕は下に下りるか聞いてきたが、俺は夕と二人きりで居たかったので、夕の手を握り無言で止める。
夕は、少し顔をうつむけたが握り返してきた。
「さあナ〜ンバワンは・・・こういうときは下から呼ぶのかもしれない〜が、俺はあえて、あえて言おう。
決して早く終わらせ〜て遊ぶというわけじゃないぞ。」
いや、絶対めんどくさがってるだろうとみんな思ってるに違いない。
「ナ〜ンバワンは、二年A組【白雪姫】だ、みんなサ〜ンキュウだ!!!」
そして、どっからとり出したのか、ロケット花火を放ち、さらに極大の打ち上げ花火が撃ちあがる。
みんな、さらに踊りまくる。
『コウ君踊らない?』
夕が俺に尋ねる。
もちろん俺が断れるわけ、断るわけがなかった。
俺達はみんなと同じように踊る。
しかし、夕は音楽が聞こえないので、俺の口の動きを見てリズムを取る。
そのため、ずっと見詰め合う形になる。
この日は、先生も誰も止めず。
後夜祭は徹夜で続いた。
「しか〜し、まさかこの後、この幸せが続〜く事はナッスイン〜グ。」
「・・・鏡介変なモノローグ入れるなよ」
俺らの文化祭は団の突っ込みで幕を閉じた。
十月十二日
→夕
「くちゅん」
自分のくしゃみで目を覚ますと、目の前にコウ君の顔があった。
「あっ、夕ちゃん起きた?」
私はわけが分からなかった。
昨日屋上で花火を見ながらコウ君と話していたところまでは覚えている。
そして、どうやら私はそのまま寝てしまっていたようだ、しかし屋上で畳の上で毛布に包まれ、更にコウ君の腕が私の頭の下にあった。
きっと今の私の顔は真っ赤になって、慌てているのだろう。
『えっ?あっあの〜』
「あっ夕ちゃんあぶない!」
‘ドスッ’
畳から落ちてコンクリートに落ちた。
コウ君は心配そうな顔で見てくる。
『痛いよ〜コウ君』
コウ君は笑っていた。
「とりあえず教室戻ろうか、多分からかわれるだろうけどね、昨日の今日だし」
私は苦笑いを浮かべる。
私は立ち上がろうとすると、コウ君は手を差し伸べてくる。
私はちょっと恥ずかしながらもコウ君に手を借りて立ち上がる。
外は普通に寒かったけど、体は火照っていた。
廊下を歩いていると、ちょっと後ろを歩いてた私に対して
「何で後ろ歩いてるの?隣来いよ。」
コウ君は顔真っ赤にして言う。
『恥ずかしいなら言わなきゃいいのに』
コウ君は「いいよじゃあ先行くから」といってちょっと早く歩く。
私は珍しくコウ君をからかう事が出来たことに笑いながら、コウ君の隣に移動する。
今までコウ君の後ろでしか歩けなかった私にとって、それはとてつもない意味を持っていた。
→コウ
教室に入ると、すでにみんな教室内で騒いでいた。
「フフフ、我等が英雄のお帰りだ」
鏡介がそういいながら両手を挙げる。
そして、朝鈴は俺の横の夕のところまで走っていって
「夕、大丈夫?コウに何もされてない?」
そういって夕の肩を掴んでブンブン前後に振る。
夕は俺の方を見る。
人に対してまったく疑うことをしない夕の目、俺はこいつに何も出来ない、出来るはずがない。
『コウ君何もしてないよね?』
「おいおい、俺との夜を忘れたのか」
みんなが俺の方を見る。
確かに俺の声だったが、俺がそんな事言うはずがない。
犯人はもちろん鏡介だった。
「おいおい、声帯変えるのはやめてくれよ。普通の人には出来ないぞ」
「フフフ、一緒の毛布に包まり何もなかったと、コウはこう言いたいのか、俺も寝たいぞ」
「ほらそれよりも」
香がこのタイミングで会話に突っ込んでくる。
「みんなで遊ぼうよ。今日を逃すと、来週から始まる中間テストに、私達は来月の全国模試まであるからね」
俺は夕と二人っきりでいたかったので、夕の手を取りこっそり抜け出そうとした。
みんなが騒いでいるのでチャンスだと思ったのだが、廊下に出る直前に肩をつかまれる。
後ろを振り返るとみんなの笑顔に向かえられて、騒動の中心地まで拉致されもみくちゃにされた。
「フフフ、これを我が愛の親友に着せるの〜だ」
そういって鏡介の手にあったものは、小春のクラスで行われていた喫茶店の女物の服装だった。
「ちょっと待った!俺が着てもつまらないだろう。なあみんな」
そうは言ってみたものの、みんながそんな言葉聞くわけもなかった。
俺はこれだけは阻止しようと
「夕ちゃんがこの服着たら似合いそうだな」
夕はえっ!?とびっくりした顔でこちらを見て
「夕ちゃんがこの服着たの見てみたいな〜」
「かわいい夕ちゃんなら似合うと思うんだけどな、いや絶対似合う」
『そうかな?』
夕は顔を赤くさせる。
もう一息だと思ったのに
「フフフ、コウよこの世にはペ〜アルックって物があるのだ〜よ」
そういって手品のごとくもう片方の手から同じ服を取り出す。
隣の夕をみると目を輝かせてこちらを見る。
おそらくペアルックと言う言葉に反応したのだろう。
『コウ君着ようよ』
あ〜、ドンマイ俺
夕の目をみたら俺はほぼ百パーセント夕を裏切ることは出来ないだろう。
こうして俺はみんなに服を着せられ、外に出る余裕も勇気も持たせられないまま、結局夜まで学校を使って遊び、服を返してもらった。
夕は俺が似合うと言ってしまい。
夜学校から帰るまでずっと着ていた。
おそらく東京にいたらそれこそ大変な目にあっていただろう。
『コウ君楽しかったね』
「そうだね」
それでも楽しいのだから、やめるわけにはいかない、2度とやめないと誓う。
「フフフ、コスプ〜レをか?」
「違うって」