第七十五話 温泉卵って美味しいよね。ただ作り方が様々だから一概に言えないのが困りものだね。おっさんの近所では蒸気で蒸して作っていたよ。イメージとなんか違うよね。
75.
「タロウ殿! 温泉に行くでござるよ! にんにん」
季節外れの麗らかな陽気が差す冬にしては暖かい日に、クームが突然そんなことを言いだしてきた。
「それはね~、実はこの間シュリちゃんと狩りに出た時にね。東の山の麓で温泉が湧いているのを見つけたの!それで、皆を誘って行こうって話をしてたの~」
なるほど、温泉か。よくそんなものを知っていたな。彼女達の風呂に入る文化はマッドスキッパーに来てからのはずだから、誰かから聞いたのかもしれないな。妙な入れ知恵はマツオさんの十八番だから、マツオさんだろうなぁ。
「なんでも、そのままでも浸かれる温度らしいでござるよ。これは行かざるを得ないでござる!さぁ、皆を誘い合わせて行くでござるよ~」
まあ、そうだな。久しぶりに風呂に入りたい気もする。新マッドスキッパーでは、銭湯はまだ建築されていないから水浴びで凌いでいたのだが、冬場は厳しいものがある。しかし、そのままで浸かれる温泉など随分珍しいものがあったな。
それじゃあ、暇な連中に声をかけてみよう。
俺、グウェンちゃん、クー、ナクアさん、クーム、シュリさん、三羽スズメで出発することになった。
キーちゃんとカロちゃんは入院中で無理、アテナさんは建築作業が忙しく無理、委員長はマツオさん達と会議があるらしく無理、カドちゃんとアキちゃんも仕事で無理だった。
キーちゃんとカロちゃんはともかく、他の皆さんは忙しそうに働いていらっしゃった。温泉に行こうと提案するのは、少しだけ気まずかった。
「それじゃ~、出発~」
ご機嫌なナクアさんの号令で俺達は温泉へ向けて出発した。
あれ? 俺以外は女性しかいない……。これって、俺はスズメと一緒に行水することになるの?そこら辺どうなの?
「チュン~」「チュチュン~」「ヴァ~テレチャウ~」
三羽とも頬を赤らめて俺を見ている。何その顔? 俺に何をする気なの? ちょっと! 誰かー、男の人呼んで!
「プルンッ」
あ、背中でマントになっている運担当が自己主張してきた! お前も温泉に入る気なのか!? 大丈夫なのか、ふやけて中身が流出しないのだろうか。いや、中身があるのかわからないけど。相変わらず暗銀色の良く分からない存在だ。
「タロ~……毎度のことながら、愉快なことになってるね~……。大丈夫、クーが一緒に入るから平気だよ!」
そんなシナッと体の曲線を見せつけるポーズを決めてから、無い胸を叩いて自信満々の様相を呈されてもなぁ~。えっと、どう対応したらいいのかな?こうかな、やめて! 年若い女人がそのような事を言ってはなりませぬ!
「えー! 前はクーをお風呂に入れてくれてたじゃない! どうして最近は一緒に入ってくれないの~」
うわ、勘違いさせる様な事を言わないでよ。
人化したからです。女の子になってしまったからです。恨むなら女になったその身を恨むのだな。
「きゃっ、モズタロー様……エッチです! えっと、不潔! ……不潔では無いですね、お風呂で洗っているのですから」
あ~、ほら事情を知らない娘さんが冷静に勘違いしちゃったじゃないか、どうするんだよ、この娘は面倒くさいから無視しようか。
「ちょ、ちょっと、待ってください! わ、私、面倒くさいですか? ……え、その顔は本気で言っていらっしゃるのですね……そんな、私のどこに、落ち度が……」
俺の事をゴリラゴリラ、としつこいからね。ネタもそれだけ繰り返されると鮮度が失われていくのだよ。
「せ、鮮度ですか……。確かに皆さんよりは少しだけ年を重ねていますけど……私は、私は年寄りじゃないです!」
え!? そうなの? え、いくつなの?見た感じ、俺と変わらないと思っていたのだけれど、もしかして、すごい年上なのか。
「!? モズタロー様! 女性に年を聞くなど、失礼ですよ!プンプン」
ふわぁ、急にプンプンとか言うキャラになった!? やめてよ、自分のキャラを模索するのは、夜ベッドの上でもんもんとしながらしてよ! 俺を巻き込むな!
「本人もキャラが立たんと焦っていたのじゃな……。王族でもキャラが立たんとは、どれだけわたし達のキャラが濃いのじゃか……」
グウェンちゃんは十分にキャラ濃いから大丈夫だよ。大丈夫さ、シュリさんは残念と言うキャラ立ちをしていってくれるさ。
ただ、うざい絡み方をしてくるのは迷惑だね。天然系でごり押ししてくるのは汚い戦略だと言わざるを得ない。シュリさんに天然キャラは無理ですよ、すぐに発狂する天然キャラとか誰得だよ。まったく、シュリさんにも困ったものだ。
「タ、タロウ殿、拙者、その、たくさん、迷惑をかけたでござるから、その、お背中、その、お背中を流して……うわぁぁぁ!!! 拙者には無理でござるよ! にんにん~」
クームの奴はどうしたのだろうか、ブツブツ言っていると思ったら急に走りだしてしまった。
「あはは~、残念! クームには勇気が足りない! あは、はぁ~、もっと初歩的なことから攻めて行くべきなのになぁ~、戦略ってのがクームにはないよぉ~。行き当たりばったりなんだからぁ~、これは助力し甲斐がないなぁ」
ナクアさんはクームの行動を短評し始めている。あれだけの行動で評価できる部分があるとは、彼女の洞察力は侮れないものがある。俺には何が何だかさっぱりだ。
「モズタロー、お主のぅ……」
グウェンちゃんが残念な物体を見る目をしている。俺をそんな目で見ないでよ。なんだか、俺が残念みたいじゃないか。残念なのはシュリさんだけで十分でしょ。
「ちょっと待ってください! なぜ、なぜ私が残念なことになっているのですか!? え、皆さん、その残念な物を見る目をやめてください! 泣きますよ! 恥も外聞も気にせずワンワン泣きますよ!? あ、そんなスズメさん達まで!? あ、いや、私を、私を見ないで!!」
別に普通の顔で見ているだけだけど、深層意識で残念だと自分で認識しているのだろうな。セルフ発狂されても困るな。
「当て身」
首をトンッてしたくらいでは人は気絶しない。よって、首をボグシャ! しておこう。
「はぐはぁ! ……ぐったり」
それじゃあ、イヒッ、悪いけど運んであげてくれ。
「ヴぁ~ザンネンヒメ」
まあ、そう言ってやるな。彼女は彼女でがんばっているのだからね。あ、気絶しながらも土に指で俺の名前を書いている!? ダイイングメッセージとは中々やるじゃない、王族としての教養なのだろうか。教育内容にダイイングメッセージの正しい書き方が入っている帝王学は嫌だな。
「シュリ殿は残念なのでござるか? にんにん」
シュリさんの残念具合を知らないクームだけが、不思議そうな顔をして皆を見ていた。いや、それほど残念では無いと思うよ? ロス帝国王族は良く知らないが、貴族的な生活をして来たことを考えると十分に努力していると思う。少々、優雅さと礼儀と気品と冷静さが足りないだけだ。
温泉はまだなのだろうか? かれこれ、三時間ほど移動している。ゴブリンやオークなどの魔物にも度々出会っている。これでは帰りの道中で汚れてしまうな。
「あはっ、もう見えてきたよ~、ほらあそこ~、湯気が立ち昇っているでしょ~」
ナクアさんが指さす方角を見ると、確かに湯気らしきものがあがっていた。本当に温泉があるようだ。
「ふむ、結構な時間がかかったのぅ、これは野営を視野に入れるべきじゃな」
そうだね。温泉旅館気分で朝風呂もしたいから、寝床を作成するとしよう。
ようやく温泉に辿り着いた。おう、ちゃんと温泉になっている。硫黄の臭いが心地よいね。いや、硫黄は無臭らしいから、硫化水素の臭いと言うべきなのか? 硫黄臭いの方が浸透している表現な気もする、難しいね。
湯の温度は四十一度くらいだろうか、夏には少し熱いだろうが、冬には入りごろの温度になっている。
「くさっ、おならみたいな匂いがする!? むぅ、これに浸かるのかぁ、どんな感じなんだろ、さっそく入ろうよ~」
その前に囲いくらいは作ろうか。外から丸見えなのはちょっと困る。
何時でも使える様に、異次元鞄に簡易柵を入れてあるので、その柵を並べて行く。この策の上に魔物革を被せることで、即席の囲いを作る。
俺は野営の準備をしておくから、女性陣は先に温泉を楽しんでください。
「ヴぁー」
お前じゃねぇよ! お前……もしかして、雌なのか?
鳥の雌雄は柄が異なるか、鶏冠があるとか、目立った特徴がある種じゃないと見分けをつけるのが困難だな。それにイヒッの生別とか、世界でこれほどどうでもいい情報が存在するのだろうか。いや、待てよ。クーの時にそれで一悶着あったような気がする。いや、イヒッは人化なんかしないよね?
「ヴぁ?」
うん、きっと大丈夫だ。俺はイヒッを信じているからね。万が一、雌だったのなら毎朝新鮮な卵が頂けるとか、そんな邪なことは考えていないよ。スズメに毎朝卵を産めというのは無理な話だろうか。
「タロウ殿がいると便利でござるなぁ、それではお先に失礼しちゃうでござるよ。にんにん」
「モズタロー、覗きはいかんのじゃぞ~」
そんなニヤニヤした顔で言わないでも、覗いたりしませんよ。
「タロー、ごめんね。先にお湯貰っちゃうね~」
「温泉ですか、楽しみです。お風呂に入るのは気持ちいいですからね。私も『オリアブ島』で知ったことですけど。それにしても臭いです。これは腐乱臭でしょうか、このような臭いがするお湯が温泉なのですね」
雪国であるロス帝国ではお風呂の文化が無かった。湯冷めすると危ないのだろう。色々話を聞いたが、庶民はまともな食べ物を食べていないことや、体が小さい事などを考えると貧乏な国なのかも知れない。貧乏とは少し違うのかな。なんだろう? 適切な言葉が見当たらない。
ダンジョン『オリアブ島』内にいるとき、俺が岩を掘って並べたものを湯船にして風呂に入っていた。水を汲み、沸かすのが大変だったが、その価値はあるものだったと思う。
水を汲むのは異次元鞄で直ぐできるし、沸かすのは焼き岩を放り込むだけだったので、それほど大変でも無かったかな。
「あ゛あ゛ぁぁ~、ぎも゛ぢい゛い゛です~。……温泉とはこれほど素晴らしいものだったとは……これは国に帰った時、ぜひとも広めなくてはなりませんね」
温泉とは格も気持ちが良いものでしたとは、このシュリの眼を持ってしてもわかりませんでした。
はぁ~、お風呂も気持ちが良いのですが、肌をチクチク刺すような感じがしていたのです。その刺激があまり好ましくなかったので、お風呂はそれほど長時間入っていられなかったのですが、この温泉と言うものはなんともまろやかな肌触りがします、いくらでも入っていられそうです。
はぁ~、湯溶けてしまいそうですぅ~。それに何だか、お肌がツルツルするような気もします。これは美容にも効果がありそうですね。アテナも来られればよかったのですが、帰ったら自慢することにしましょう。
「シュリ、おっさん臭いよ。そんな声出すと、ますます残念扱いされちゃうよ~」
はわぁ!? すみません、すみません。耳障りな声を聞かせてしまいましたね。はふぅ、これでは七王家の末端を汚す物としての矜持が……。ほふぁ、でも、温泉が気持ちいいです。
「クーム~、しっかり石鹸で洗わないとダメだよ~。ほら、泡をちゃんと立てなくちゃ~汚れが落ちないよー」
「ナクアが拙者の頭を洗うと、耳に泡が入るので嫌でござるよ! もうすこし、優しく丁寧に洗ってほしいでござる~、にんにん。ほわぁ、抱きつかないでほしいでござる! この、背中に胸を当てるなでござる! 豊かな双丘が……殺意が湧いてきたでござる、にんにん!!」
ナクアさんはおっきいです。……女性は胸が全てでは無いです。胸で女性を判断するなんて最低です!帝国人は皆さんと比べて小柄な様ですから仕方がないのです。……そういえば、リンさんは同じ帝国人なのに豊かな肉体をしていましたね。
……はぁ、帝国人の食生活としては豊かな物を食べていたはずなのですが、どうしてなのでしょうか。あぁ、そういえばお母様も、お婆様も、皆が皆、貧相な体つきをしていますね。結論、血筋が悪いのです。……帝国でそんな発言をしたら、投獄されてしまいそうです。
「やっぱり、風呂で飲む酒は良いの~、グビグビッ、ぷはぁ~。最高じゃ~」
私と同じ、いえ、私よりもよほど貧相な体をしたグウェンさんは、湯船に浮かべた酒をぐいぐい飲んでいます。なるほど、湯をテーブルの代わりに使えるのですね。お盆に乗せるとあのように浮かべることができるのですか。温泉に入りながら、酒盛りとは随分と高尚な趣味なのではないでしょうか。
「なんじゃ、シュリ? そんな物欲しそうな顔をしおってからに。ほれ、お主も飲むがよいのじゃ」
あえぇ! そんな物欲しそうな表情をしていたでしょうか。確かにご相伴にあずかりたいとは思っていたのですが、考えていることが直ぐに表情に出るところが残念と言われる所以なのかもしれません。がんばって表情を揺らさないようにしましょう。
……あふぁ~、お酒がおいしいですぅ。これは堪りませんよぉ。温燗は素晴らしいです~。はっ!? 表情に出ない様に、出ない様に……はぁ、おいひいです。
「やれやれ何考えてるか、分かり安過ぎるよ~。これはもう、ダメかもわかんないね」
クーさんが残念な表情で私を見ています。もう、残念で良いです。お酒がおいしいので、どーでもいいです。
「シュリ殿は、……残念なのでござるなぁ~。王族と聞いていたでござるが、ごく普通の女性でござるよ。安心したでござる。にんにん」
簡易テントを作って、焚火を作り、野営の準備は整ったな。食事の用意に取り掛かるかな。今晩は何するかな、温泉旅館風な物を食べたいけど、そんなの作れないからね。お米があるからキリタンポ鍋でも作ろうかな。おっさん、あの食感が結構好きですよ。
「タロウ殿、ありがとうございまする。良いお湯でござった~、にんにん」
早湯だな。猫だから長湯は嫌いなのかな?
「食事の用意でござるか?拙者も手伝うでござるよ、にんにん」
風呂上りだろ、俺がするから休んでいてくれ。湯冷めしない様に、しっかり火にあたっていてくれよ。
「あぅ、わかったでござるよ。それではよろしく頼みますでござる、にんにん」
水を打った様な静寂が広がるなかに、トントントン、リズミカルに野菜を刻む音が響く。鍋の用意はこんなものだろうか。塩味だが肉で出汁を取ってあるから、そこそこ美味しく仕上がっている。さて、キリタンポを焼かなくては、すり潰したお米を鉄串に張り付けて、焼くのは焚火でいいな。
「……タロウ殿」
ん? どうかしたのか?
「オリアブ島では多大な迷惑をかけてしまってでござる。本当に申し訳なかったでござるよ。にんにん」
くどいぞ、クーム。俺も皆も気にしていないさ。だから、そんなに気に病まないでくれ。クームが気にしていることを気にしてしまうじゃないか。魔法の影響下にあったのだから、仕方がないさ。今回の事は魔法がどれほど強大で危険な物かをしる良い機会になったと思おうよ。
「うぅ、拙者。あそこにいる間、毎晩、皆が囚われて苦しんでいる夢を見続けていたでござるよ。そして、最後には夢と現実の区別がつかなくなっていったのでござる・・魔法の影響であったとしても、皆を傷つけるような選択をしてしまったことが、自分を許せないでござるよ……にんにん」
自分で自分を許せないのならば、俺が何を言っても無駄かもしれないな。
ほれ、キリタンポが焼けたぞ。鍋に沈めて……よし。完成だ、盛りつけてやるよ。ほい、お食べなさい。
「これは、お米を潰した物でござるか? ハムハム、うん、味が染みていて悪くないでござるな。……それに、とてもあたたかいでござるよ。にんにん」
まあ、喰って飲んで遊んで寝て忘れるしかないさ。美味しいものをたくさん食べて、たくさん飲んで、たくさん遊んで、たくさん寝て、そんで元気になってくれ。クームに元気がないと、ナクアさんが怖いからね。
「ふふっ、そこでナクアが出てくるでござるか~。そこはもう少し気を使ってほしいでござるなぁ。まったくタロウ殿は、乙女心がわかってないでござる、にんにん」
乙女じゃないからね。おっさんだから、乙女心はわからなくても、立ち直り方ならいくらか心得があるのさ。おっさん流の落ち込んだ時の対処療法という奴だ。
「あたたかくて、美味しいでござるよ、にんにん。タロウ殿、拙者は、拙者は……その、タロウ殿を、……その」「あー、ずるいのじゃ。先に飯にするなど、いけない子じゃ! わたしも一緒に飯を食うのじゃ~」
「ふぁ~、良いお湯だったよ~」
「もう、クームったら、さっさとあがっちゃうんだもん~、しっかりあったまらないとダメだよ~」
「はぁふぅ、目が回ります・・・温泉でお酒を飲むと、こんな風にグルグルするのですねぇ~、これは大発見ですよ! モズタロー様! すぐにこのことをまとめて、報告しなければなりませんよ!!」
おっと、皆も風呂からあがってきたのか。はいはい、食事の用意をしますから、髪をしっかり拭いてくださいね。そのままだと風邪をひいてしまうよ。あと酔っ払いが居るから、誰か面倒見てあげてください。
「ちゅん」「ちゅちゅん」
あ、ジローとサブローが面倒みてくれるのか。優しいね、手荒に扱ってあげてね。
「ふぁふぉ! きゃぁあ、羽毛が、羽毛がぁ! くすぐったいですぅ! あ、あ、ちゅるちゅるする! なんだか、ちゅるちゅるします! 体の水分を根こそぎ奪われます~」
アホなことを叫んでいるなぁ。表面の水分だろ、体内の水分を根こそぎにするスズメとか怖すぎる。それとも、俺の知らない力がスズメ達に有って、浸透圧か何かで水分が排出されるのだろうか。
あれ、クーム?どうしたの?なんだか、変な顔しているよ?
「はぁ……、つーんでござる。なんでも無いでござるよ! にんにん!」
つーんって、……良く分からないな。女心と秋の空という奴かな?真冬だけど。それに正しくは男心らしいけど。
「キィエエエエエエ!! もう、スズメさん達は! 絞めて毟って捌いて焼き鳥! 焼き鳥にしてあげます! 私は子どもが嫌い草との相性がいいと思います! てりゃあ! この、この、うわぁ、すごくもふもふですぅ~、はぁはぁはぁ、すぅすぅすぅ……」
ひとしきりジローとサブローと戯れたシュリさんが、ジローの胸に顔を埋めて眠ってしまったな。ジローの胸はハト胸だから心地いいよね。スズメなのにハト胸でいいのだろうか。スズメ胸と言っても状態がわからないと思うのだけれど。
美しい桃銀色の髪は水気を帯び輝いている、あどけない寝顔、頬はほんのり上気しているし、ぷっくりとした唇は健康的でやわらかそうだ。大人しく眠る姿は美しい、さすが俺の審美眼が100点満点を出しただけはある。どうして、動くとあれほどコミカルになってしまうのだろうか。ギャップ萌という奴なの? 望んじゃいない、望んでいた物は今ここにある。
「おう、この餅みたいなのはうまいのじゃ~」
「お汁を吸うとふわふわ、そのまま食べるとシャクシャクとした歯ごたえになってるね~。う~ん、これはなかなかおいしーかなー。モズタローくんは妙な料理を作るね~」
「うーん、クーはご飯のままで食べた方が好きかも~。クーはうどんのほうがいいよ!」
キリタンポは賛否両論みたいだな。ホウトウのほうがよかっただろうか。でも、うどんをつくるのに時間が掛かるからな。うどんなら大量に作って、持ち歩いても良いかもしれない。マッドスキッパーでは小麦はあまり手に入らないから、フォーになってしまうけど、うどんと称して食べても良いだろう。
長屋で暮らしていた頃は、良く作って食べていたのだ。思い出があるせいかわからないが、クーはうどんが好きみたいだな。
さて、皆がご飯に食い付いたから、俺も温泉に入ってくるとしよう。
「温泉に入ってくるけど、覗かないでよね!」
颯爽と宣言して温泉に向かう。後ろから妙な視線を感じるが、気にしたら負けだ。
「ヴぁー」「ちゅん」「ちゅちゅん」
おや、三羽とも共に行くのかい? よかろう、よかろう、洗ってやろうではないか。ジロー、シュリさんはどうしたの?
「ちち、ちゅん」
なるほど、火の側で寝かせてきたのか。ふむ、毛布もかぶせてきたのか。偉いぞ~、シュリさんが寝ぼけて火に突っ込まなければいいね。
「ちー、ちゅん」
そこまでアホじゃないか。そりゃそうだね。はっはっは……、やはり完全に意思疎通している。これは絶対に、新たなスキルだな……。
それじゃあ、お湯につかる前にしっかり洗いましょうね。
ゴーシゴーシ……
「ちゅーん」「ちゅーちゅーん」「ヴぁーソコ、ソコカユイ」
……この三羽を洗うのがマイクロバスの洗車と同じくらい重労働なのだけど。なぜ、俺は温泉で汗だくになりながらスズメを洗っているのだろうか。絵面がシュールすぎるよ~。
まあ、せっかくだからしっかり洗ってあげることにしよう。石鹸でしっかり泡立てましょうね、あわあわあわ、うーん、羽毛のおかげか泡立ちがいいね。おっさんが頭を洗うと一回目全然泡立たないのだよね。頭皮の脂が泡立ちを妨害しているのだろう。それに比べて、このスズメ達の泡立ちの良さは侮れないものがある。
それじゃあ、その泡立った体で、俺を洗っておくれ。
「ちゅん!」「ちちゅん!」「ヴぁーアワプレイ!」
うおっ、これはなんだ、あんまり気持ち良くない。普段のふわふわ感が無くなっている。うわ、泡が眼に入った、ゴロゴロするよ。あ~、充血したらどうしようかな。
ふぅ、それじゃ、石鹸を流してお湯に浸かりますか。
カッ、ポーン……
この音どこから響いているの!? なんでこんな音がするのだろうか……不思議だ。温泉界七不思議のひとつに数えられるよ。
あ~、湯温はこれくらいが丁度いいね。おっさんが住んでいた、日本のある県の温泉は総じて四十五度くらいの温度に設定されていたので、熱くて長時間入っていられたものじゃないのだよ。そのせいで子どもの頃は温泉が好きじゃなかった。やっぱり四十度くらいの温度でゆっくり長湯したいね。はぁ、気持ちいいなぁ。
「ちゅん~」「ちゅ~ちゅん」「ヴぁータマラン」「ぷるりん」
なぜ、俺は裸マントで湯船に浸かっているのだろうか……。
さっきもそうだ、マント以外は全裸でスズメを洗っていたのだぞ! その姿は見紛うことなき変態そのものだろうさ。ちなみに、運担当が洗面器に変形してくれて洗うのが捗ったのは内緒だ。
異次元鞄は数メートルくらいだったら離しておいても大丈夫になったので、今は温泉の端っこに置いてある。魔力消費は距離が空くほど上昇してしまうが、この格好で鞄まで持って温泉に浸かっていたら変態レベルが大変なことになってしまう。裸マントの時点で手遅れな気もするけど。
はぁ、誰か新鮮な話題でもないのかい? 温泉でトークをエンジョーイしたいのだけど、スズメには無理か。
「ちゅちゅちゅ」「ちちちちゅんちちち」「ヴァーソウダネ~」
ははは、ジローは面白いことをいうなぁ。
「ちちちゅんちちゅん」
「ヴぁーソレハスゴイ」
イヒッはどんなのが好きなのさ~。
「ちゅちゅん、ちゅんちゅん」
まじか、イヒッはなかなかアブノーマルだな。サブローはなんでそんなことを知っているんだ?
「ヴァヴァヴァー!」
あ、こら、そんな温泉で暴れるなって、飛沫がすごいじゃないか。まったく、恥ずかしがり屋さんには困ったものだ。
…………。
……友達が欲しい。人の友達が……。一緒に温泉に入ってくれるような、男友達が欲しいです。
次回、そろそろ旅立つのか!?さらば、マッドスキッパー。さらば、仲間たち。さらば、愛しき日々!!




