第五十九話 ポケットの中にビスケットと戦争
59.
西区ハンター組合で話し合いをしている。
都市が消失したことによるざわめきが起こっているが、ここに残っている三百人で騒いだところで大した騒ぎでもなかった。せいぜい、泣き喚く声や諦めや諦観のためか力無く伏せている者達がごちゃまぜで存在しているくらいだった。
冷静なのは俺達異邦人と、マツオさんが従えた一派の人間くらいだろうか。
「魔物の襲撃からはぁよ、助かったとぉ考えてもぉいいんじゃねえかい。そんでこれからだぁな。都市がなくなりやがったぁ、どうすっかねぇ」
俺達とマツオさん達で集まってどうするかの方針を相談中だ。
「マツオさん、実はですね……」
以前あったことを説明することにした。
「なるほど~。その黒石魔物はミズーリでも見られていて、ダンジョンを生み出したことがあったんですね」
「モズタローの兄貴が巻き込まれたことが!? じゃあ、都市の連中もダンジョン内で生きてんのか!! それじゃあ、救出に行く……。ここに居る連中でダンジョンアタック何て可能なのか?」
どうだろう? 俺は入り口から入ったことがないからわからないな。カドちゃんもアキちゃんも無事でよかった。指示を出せる人間が取り込まれていたら大変だったからね。
「ふむ、ダンジョンを攻めるのは大人数では難しいのじゃ。人が多ければそれだけ魔物を呼び寄せてしまうし、水や食糧の補給もままならんからのう。じゃから、普通は少数精鋭で進むのじゃ」
しかし、生き残りの救助となると話は別だよな。どれほどの作業になるのか想像もつかない。
「はいはいはい! 私行きたーい!! ちょー行きたーい! 前の時は私だけおいてけぼりだったもん。今度は行くよー。救助じゃないよ、ダンジョンマスターをぶっ殺せばいいんでしょう?」
確かに前回はそれで事なきを得たのだけれど、前回と違うのはマッドスキッパーそのものが取り込まれてしまったことだな。
「……ダンジョンを破壊したら、都市はどうなるので候? 某らは、かなり違う場所に出現したで候。これが都市の場合はどうなってしまうので候?」
「どうじゃろうな。都市は取り込まれてしもうたが、都市は生き物ではないのじゃ。つまり魔力を持たんと言うことじゃ。それは自身の存在を証明する手段を持たんと言っても過言ではないのじゃ。じゃからな、……すでにダンジョンの一部となり果てている可能性の方が高いのじゃ」
つまり、ダンジョンを破壊したら、人員は帰ってくるが都市自体はそのまま失われてしまう可能性が高いと言う事か。
「それに内部がどうなっているかも、想像がつかないでござるよ。前回とは異なる点が山ほどあるでござるから、ダンジョンに入り調査することが必要でござるな。にんにん」
「あくまで、都市の住人を救おうとするのならそうなるでしょうね。実際、私達にはこのままここを去るという選択肢もあるわよ?」
数カ月お世話になった都市のために何かしたいとは思うが、委員長の意見ももっともだな。危険を冒す必要性をそれほど感じない・・・か。他人を簡単に見捨てる様で悪いが、自分と仲間たちの命が大事だ。そうだとは思うのだけれど。だが、それを大声言うのはちょっとね。
「タロー達みたいに、巻き込まれた連中が自力でどうにかしてくれるかも知れないもんね~。ほっといて風来坊に戻るのもいいんじゃない、タロー?」
クー、ここにはマッドスキッパー住民の方々がいるから、あんまり大きな声で言うのは止めてくれ。委員長も少し自重してね。彼らは家族を都市内に避難させていた人達も大勢いたのだから、何もせず放っておくなんてできやしないだろう。
「……わかったよ~」
「……そうね、ごめんなさい。周りが見えていなかったみたいだわ」
冷静だと思っていた俺達も混乱しているようだな。
少し、本格的な休息を取ろう。俺が見張っているから、気を抜いて皆休んでくれ。そうしたら、良い案が浮かんでくるかも知れないよ。
「すまんな。モズタロー、お前もちゃんと休めよ、どうせお前は動きっぱなしなんだろうしさ」
ナクアさんは余裕ができたら、エリーさんに事の次第を説明しておいてくれ。
「わかったよ~、ふう、次から次に大変だね。うん、私! 冒険者してる! あぁ~楽しみだなぁ~ダンジョンか~。今度はどんな場所が広がってるのかな」
そもそも、あの扉然としたものが扉とは限らないけどね。ダンジョンの入り口であるかも未だ不明だ。
俺達に与えられた部屋で皆は雑魚寝をしている。
俺は異次元鞄から輝く泥団子を取りだし、しゃくしゃく食べているとマツオさんが横にやってきた。
「おぅ、モズタロー、握り飯……じゃねぇ! 何食ってんだ! 泥団子!? まじでか、いや、それなら何か普通のもんを、……え? これがいい? お、おぅ」
ところで何か御用ですか?
「おれぁ達は選抜隊を組んで、門とその周辺を調査して見ることになった。おれぁ達にお前さん達から誰かつけてくれなねぇか?めんぼくねぇが、戦闘力って面でみらぁお前さん達は頭ひとつ抜けてっからな」
それじゃ、三羽スズメをつけましょう。というわけで、いってらっしゃい、三羽とも。
「チュン♪」「チュチュン!」「ハラヘッリ!!」
そうか、こいつらにも餌をやらないとな。空中戦をしたから腹も減っただろう。スモウの華は空中戦だものね。えっと、鞄に何かないかな。カニで良いか。
ほい、どうぞ。山盛りのカニをお食べ~。
「「「~♪♪♪」」」
そう言う分けで、こいつらでいいですか?
「いいわけねぇだろうよ……」
ですよねぇー。
「拙者が行くでござるよ。ナクアと違って拙者は温存しながら戦っていたでござるから、余裕があるでござる。にんにん」
あら、起きていたのか。それじゃあクームさん、お願いしちゃってよろしいですの? まあまあ、勤労なことでおっさんびっくりしちゃったよ、よろしくね~。
「わかった。黒猫の嬢ちゃんが来てくれるんならぁ、心強ぇな。よろしくたのんまぁ」
そう言って、マツオさんとクームは俺達に与えられた部屋を出て行った。
昼過ぎになった。倒れる様にして眠っていた皆も起きだしてきた。
調査に出たクーム達はまだ帰って来ない。マツオさんも同行したが、大丈夫だったのだろうか。遠目からでも確認に行くべきだろうか。
今現場の指揮は、アキちゃんとカドちゃんが中心となって仕切っている。この人数だ、設備をフルで使っても、飯の用意にも一苦労だ。
「兄貴~、飯持ってきたぞ。ささ、客人の皆さまも、どうぞ粗末なもんですが、召し上がってくだせえ」
アキちゃんとカドちゃんが昼食を持ってきてくれた。少しだけ具が浮かんだ重湯と漬物だな。いやぁ、ごめんね。こっちは休んでいるのに働かせちゃってさ。
うわっ、漬物かと思ったら砂糖漬けだ! 塩じゃ無いの!? そういえば不足していたか。
「モズタローさん気にしないでね。昨日の皆さんの活躍はここにいる人達の目に入っていますから、誰も文句なんか言わないですよ」
昨日、先陣を切って突撃した俺達を慮ってくれているのだろう。まあ、俺が拠点造りや救助に駆けずり回ったことも効いているのだろうか。他の人達から批判が出ないのであればありがたく甘えるとしよう。
「もしゃもしゃ、モズタロー、もしゃ、こっから、もしゃどーする」
キーちゃん、そんな砂糖を口にぶち込みながら話をするのを止めてちょうだい。これからどうすると言われてもな、マツオさん達が帰って来ないな。調査結果を聞いたうえで動き出したいから、早く帰って来てほしいな。
「……戦闘になる可能性が高いのでご候、某らも動くべきかと」
そうだな、待ちの姿勢は愚策だろうな。
「そうだね~、拙速を尊ぼうね! クームも連れないなぁ~、起こしてくれたらよかったのに~」
ナクアさんは砂糖漬けをむしゃむしゃ食べている。女の子は砂糖とスパイスで出来ている物だからね。存分に補給してください。
「う~じゃりじゃりするのじゃ、砂糖が大量にあるからと言ってそればかり喰うのは辛いのじゃ~、こんなに大量に砂糖を食うたら頭痛がしてくるのじゃ」
俺が回収した物資は砂糖が多かった。おそらく砂糖の保管庫を漁ることができたのだろう。砂糖がほしくて積極的に漁った分けではないよ。本当だよ?
「タロー、カニちょうだい! あと、塩も! 塩気が足らないよ。クーは甘い物より、しょっぱい物が好き」
はいはい。カニの残りも乏しくなったな。塩はまだ大量にある。はいどうぞ、岩塩一塊お待ち! 三十キロはあるな。
「ちょ! こんなに塩を持ってたの!! さっさと出しなさいよ、もう」
俺の岩塩はあとプール一杯分あるぞ。委員長も驚いたようだ。塩不足で参っていたのは委員長たちも同じだったのかな。この際、倉庫に塩を詰めてこよう。目立つとか目立たないとか言っていられる状況じゃなくなったな。
あぁ、カップ麺が食べたいなぁ~。この状況で食べていたら、人気商品になるチャンスだと思うよ!
夕方になってもクーム達は帰って来なかった。
俺達は遠くから眺めたが、そこには門があるだけだった。調査隊はどこへ行ってしまったのだろう。クームが心配だ。
次回、突入作戦開始。情報は危険だと言う以外何もないけど大丈夫?




