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おっさんの異世界転生 <俺もテンプレ世界で冒険してぇなぁ~>  作者: ところてんはあんまり・・・
第三章 前略旅路の上より、風来編
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第四十九話 巻き寿司はサラダ巻きが好き。長い物に巻かれるならカリフォルニアロールがいいと思う。米が体に張り付かなさそうだし

49.



「すいまえんでした……」


 泣いてしまった。あまりにも怒られて、あまり聞いていなかったのだが、なぜかむなしくなって涙が零れてしまった。涙君サヨナラ。おっさんには、アレは涙が零れおちるからサヨナラだと思っていた時期がありました。


「タローはバカじゃないよね。次からは同じ失敗しないよね。あんな爆発事故起こさないよね。クーね、信じてるよ。タローはやればできる子だって」

 なぜか母親の様な事を言いだしている。

「……ふぅ、私も落ち着きました! 今はここを離れ、洞窟の方にいるタカさんと合流しましょう」


「いるぞ」

 あ、タカさんだ来ていたのですね。どうしたのでしょうか、そのような不憫なものを見る目を俺に向けなさって。

 「いや、しばらく前からいたんだが、あんまりにも二人が罵声……いや、お叱りが激しかったからな。その、遠巻きに眺めていた」

 酷いです、助けてくれてもいいじゃないですか~。そう怨みがましくタカさんを見つめていると。


「モズタロー、お前はすごい力を持っている、俺なんかじゃ想像がつかねえよ。そんでな、その事を理解した方がいい。お前の大切な奴が死んでからじゃ遅いからな」

 いつになく真剣な目をして俺に語りかけてきた。エリーさんも暗い顔をしている。二人にはどのような事情があるのだろうか。

 ……大切な人たちを捨てて、マッドスキッパーに逃げたも同然の俺には重たい言葉だ、いや、軽いのかな。彼らを守るためだったと信じているが、彼女の流した涙を拭えなかったことが俺の心にトゲを残している。

「……なんだかやばい雰囲気がしやがる。それにあれだけの爆発だ、ここにいたら調査に誰か来るかもしれない、洞窟に戻ろうや」

 タカさんの言う通りだな。今は洞窟に戻るか。


「タロー……」

 その声は俺には届かなかった。






 私、カタリアはミズーリ以外の都市を訪ねるのは初めてのことだった。普通はそうでしょう、グウェン先生クラスの冒険者集団で無ければ都市間移動など不可能に近い。

 都市から離れるということはそれほどに危険が伴う行為よ。カロン君の家族がどれほど優秀だったのかわかるでしょう。行商を行えるほどの優秀な冒険者にして商人というのは非常に少ないわ。冒険者全体の1%未満でしょうね。



 この半年は実に散々だったわ。

 まず、マッドスキッパーを目指す旅、これが私の想像していたものの数十倍は過酷だった。ワイバーン、土龍頭ミミズ、ヒクイドリ、ゴブリン:◎などミズーリ近郊ではありえない強力な魔物達。奴らには幾度となく、昼も夜もなく、襲われ続けた。


 学校で教わった事だけど、人という種は総じて体内に魔石を持たない、それゆえ魔力は全身の骨格、正確には髄から生成され肉体を覆うように流れている。人が持つその魔力は魔物にとって豊潤で芳しく何よりも魅力的なものであるそうよ。彼らにとって人の集団はご馳走以外の何物でもない。だから、未開の地を進む冒険者は、少しでも見つからないようにと少数精鋭で行動をする。

 気の休まる暇が存在しない。ダンジョンに一月近くも閉じ込められ生還することが、どれほどの偉業であるかを身にしみて理解することができた。皆はバカンスみたいなもので意外と楽しかったと言っていたけど、気を使ってくれていたのね。



 特にゴブリンの上位種であるゴブリン:◎は非常に危険な相手だった。額に二重丸の印を持つ赤橙色のゴブリンで、巨大なゴブリン集団を掌握していたその個体は、初めは大規模な軍勢で仕掛けてきた。いくらゴブリンとはいえ、上位種や弓など様々な武器や道具で武装した彼らは強敵だった。

 激戦を繰り広げゴブリンの死体が小山になったころ、彼らは単純な戦闘で私達に勝利できないことを理解したように引き下がっていった。しかし、彼らは諦めなかった。今度は消耗戦をしかけてきた。

 ゴブリン:◎の手勢は昼も夜も私達を感知圏外から見張り、多くの罠を仕掛けてきた。

 特に厄介だったのが、多くの魔物を引き寄せて来て、私達の進路にぶつける作戦だった。


 グウェン先生曰く、トレイナー、と呼ばれる高い知能を持つ魔物が行う行為だそうだ。これは魔物種族名ではなく、そういうことを行う魔物全般を指す名称ね。

 最終的には山間部の洞窟に隠されていたゴブリンの住処である、ダンジョンまで乗り込みナクアが尽く血の海に沈めたわ。ズクタロウ君が行方不明になってから、治まっていた彼女の狂気が少しずつ戻り始めている事に気付いたのはこの頃よ。

 皆は引いていたけど、私は正直、彼女がうらやましかった。あれほど自由に快活に自らの望むままに振舞えたらどれほど気持ちがいいのだろうか。それを想像すると、私の下腹部は熱を帯びたことを自覚せざるを得なかった。決して、血の海で舞踊る美しいナクアを見て興奮した分けではないと信じたい。

 もぎ取ったゴブリン:◎の頭蓋で杯を作り、ナクアはにやにや楽しんでいる。食事時に見せられると食欲が失せる珠玉の逸品よ。

 あの子の状態については、初めは皆でどうにかしようとしていたのだけれど、今は皆スルーすることにしている。突っ込めば危険が己の身にも降り懸かりかねないのよ。ま、まぁ、私達には危害を成すことがないのが救いかしら。



 そんな困難を乗り越え、ようやくマッドスキッパーに辿り着いた私達は、カロン君の勧めで新人ハンターに紛れることにした。潜伏先は新人ハンターの狩り場が最も近く、新人ハンター達の生活の場でもある外周街北区を選んだ。


 正直に言うと、外から来た私達が住居を借りることができるのが北区だけだったというのもある。都市から追い出されたもの余所から来たもの、それらを一括して同じ場所にまとめ監視することが目的みたいね。

 北区で生活し、外周街に危害を加えないものだと判断された者達は、他の区へと移り住むことを許可されていたようなものだった。

 断っておくけど、北区に住むことは絶対ではないし、ルールも存在していなかったわ。ただ目立つことを避けたかったから選択肢がなかった、と言うだけね。新人の受け皿であるため、北区には賃貸住宅が多いということも、理由にあったわ。



 都市内に入りきらない人数が、都市の外で街を作り生活しているというのは話には聞いていたが、実態は散々なものだった。

 まず汚い。どこもかしこも汚い。外周街とはこれほど汚いの?掃除しないの?都市内はどうなっているのかしら、気になるけど立ち入りは制限されている。

 そして、治安は良くなかった。何度絡まれた事かわからない。チンピラの様な連中がうじゃうじゃ生息していたわ。だけど、驚くほど脆弱だった、ミズーリほど戦闘教育を受けてはいないとは言え体の作りが根本から違うのではないかと思うほど貧弱な連中が多かった。そう考えると、スリや盗みに気をつければ生活しやすいとも言えなく無いかも知れない。


 ただ、食糧事情は思うより素晴らしかった。米最高! ミズーリで食べる物と品種が違うのかしら、もっちもちしていてほんのり甘くて、炊きたてを頬張るとこの世にこれ以上の幸せは無いと感じさせてくれる穀物だったわ。

 それにミズーリに比べてさっぱりとした肉質の魔物が多いわ。これが湿気の多い気候と合致して、よりお米のおいしさを醸し出してくれる。タレにつけて焼いた肉をお米の上に乗せて、口に頬張ると幸せが全身を駆け巡るのよ。


 それに公衆浴場という施設もよかった。この施設だけは不自然なほど清潔に保たれていた、誰か清潔好きな人が関わっているかしら。

 湯に浸かるという行為がこれほど素晴らしいとは思いもよらなかったし、衛生環境にも良い影響をもたらしてくれたわ。



 私達は二人ずつ三つの長屋を借りて生活を始めたわ。私はグウェン先生、じゃなくてグウェンちゃん共同生活を送ることになったわ。

 グウェンちゃんは熟練の冒険者であっただけはあり、旅の道中では非常に役に立ってくれたわ。だけど、一緒に生活してわかったことだけど、寝起きが悪すぎる。他にも色々無精なところがあった。

 旅の間はそんなことは無かったから、気を張っていてくれたのだろう。長屋で生活し始めた途端に、ぐにゃぐにゃになってしまった。そこそこ広い長屋だったからしっかり居住空間を分けたお陰でたいした問題は起こらなかったけど。


 そうしてハンター仕事をしながら、ズクタロウ君の情報を集めることにしたわ。ズクタロウ君は、そこそこめずらしい黒髪という特徴を持っていたから、マッドスキッパーに来ているのならすぐに見つかるのでは、と甘い見積もりをしていたわ。

 ぜっぜん、見つからないの! 来てないのかしら?ナクアの言い分ではないのだけれど、野生に帰っていたら見つけようがないわね。

 私達よりも遅れて到着することも十分に考えられるから、時間をかけて探すことにしたわ。

 北区周辺の魔物は弱く、そのおかげで生活はすぐに安定したのだけれどズクタロウ君の情報はなかなか得られなかった。



 そんな日々を過ごしている中、私達新人長屋の周辺で演説を行う人がよく現れるようになったわ。

 内容は、今の自分達は搾取されているだとか、いいように支配されていてこのままでは使い捨てられるとか、団結して支配者階級と戦うべきだとか、そんなような内容だったと思う。演説している人物は、『相互互助会』という組織の者だったのを覚えている。

 いつしか、長屋周辺だけではなく商店街や各施設などでも、その様な話を聞く機会が多くなっていったわ。


 そして、北区代表組織である、『トウシロ会』と呼ばれる組織と新人ハンター達や弱者層の人達の間で争いが起こった。勢力争いの様だったから、生還していたのだけれど、利用していた商店に大規模な強盗事件が発生や、ケンカ騒ぎが多くなっていったことで、判断を迫られる事になったわ。



 私達の目的はズクタロウ君と合流することであって、余計な問題に首を突っ込む事ではないから私は無視を決め込み、南区などへの移住を提案したわ。皆もそれに納得してくれて、いざ引越となった前日の晩に長屋に火を放たれた。

 大勢が寝静まった深夜だったこともあり、その日は風が強く火の回りが早かったこともあり、大火災となってしまったの。私達は引越の準備が済んでいたこともあり、手早く避難できたけど、大勢の死者が出たわ。

 私は友達をたくさん作れる性格じゃないから長屋に友人など皆以外いなかったけど、ナクアにはいたわ。それが引き金だった。


 ナクアは激怒していたわ。住居に火を放つなど許される事ではないから、当然でしょうけど、その怒りっぷりは恐ろしかった。

 火点けの犯人を探して彼女は、まず初めにトウシロ会を襲撃したわ。酷いものだった。会長の屋敷に詰めていた連中は皆殺しだったわ。カロン君とキッス君が青い顔をして帰ってきたのを覚えている。

 攫ってきた会長に酷い拷問を行い、犯人がトウシロ会ではないと確信を持ったあと、今度は相互互助会を襲撃したわ。この相互互助会とは非常に不透明な組織で、中々実態を掴むことができなかった。末端を襲撃したところで、一段上の情報が得ることができればいいところで、どうどう巡りの様になり情報を得ることができないことも多かった。ただの新人の互助組織には思えないほど複雑な構造をしていたわ。

 ある酒蔵の主人を締めあげた時、相互互助会は都市内の人物が発起人となり組織されたものだとわかった。そして、外周街全体の力を削ぐ計画を都市内はずっと行っていて、その一環として相互互助会が組織されたと聞いたわ。



 都市内は主に二つの商会によって運営されていて、それぞれ『カギ屋』、『タマ屋』というらしい。この二つの商会に全ての施設が所属していて、技術を競い合う事で発展しようとしているそうよ。今の一大事業は、カギ屋が北をタマ屋が南を担当して、どれだけ外周街の力を削げるかの競争をしているのだとか。


 なぜ外周街の力を減らすのだろうか。魔物が都市を攻めることもあるというのに、私には初めは理解ができなかった。何人かを締めあげたのちにわかったことだが、都市内には貴族の様な王族によって選定された権力者というものが存在していないこと、そして王族が政治には一切関わらないことが原因だと理解できた。

 特権階級が存在しないため、いつでも成り変られてしまうという恐怖が、都市を支配している者達の不安を煽るのだろう。都市内であれば自分達の武力でどうとでもなるが、外周街は彼らの支配が及ばす、力を持つことを極端に恐れていた。

 なぜ外周街に支配が及ばないのだろうか考えてみましょう、彼らが資金を捻出して働きかければよいのではと考えたけど、外周街の成り立ちを聞くにそれは難しいのでしょうね。外周街の住人は元々が棄民よ。全体として都市内からの干渉など受けたくもないのね。都市内から表立って、普通の商取引以上の、干渉することが不可能と言ってもいいでしょう。

 王家や貴族が自ら率先して、第四層と第五層の開発が行われているミズーリと比べるとなんともなさけない話だと思う。利益を優先する商人が、利益を優先したがために棄民など行うからこうなるのよ。問題を先送りにしただけじゃない。そしてそのツケが今回ってきているのね。



 ナクアは実行犯を今も探しているけど見つからない。ナクアは都市内まで襲撃しそうな勢いだったのだけれど、それはさすがに自重したみたいだったわ。

 こうして、頭を失い統率の取れなくなったトウシロ会と相互互助会の戦いは泥沼の様相を呈していったわ。北区は地獄の一丁目と言ったところかしら、私は南区をよく利用することになった。


 南区は外周街でもっとも力を持つと言われるだけあり、街も綺麗で住民も陽気な人が多かった。お店の品ぞろえもよかったし、仲良しの店員さんもできた。

「そういえばカドさんとアキさんは、ズクタロウという人を知りませんか。その、黒髪でアホな人なんですけど。実は私は仲間と一緒に彼を探しに来てるんですよ」

 ここ最近忙しくてすっかり忘れていたが、仲良くなったなんでも屋マツオの店員である、カドマツさんとマツアキさんに聞いてみたのだ。


「えっと、かっちゃんさ、その人なんで探してんの」

 私は事情を説明することにした。二人は十分に信用できる人達だと思ったからだ。

「そっか、……仲間って、いいね。……信じあってるんだね。それで、生まれた都市を捨ててまでだなんて。その人、愛されてるんだね。私なんてさ……。あ、ごめんね、黒髪の人は知らないかな、名前は聞いたことある様な気がするのだけれど……どこだったかなぁ~」

 べ、べつに愛してとかいないわよ!変なこと言わないでよ、カドさん!

「一人で都市を移動できたと信じてるのか、まだ十三なんだろ? ……あては無理だとおもうけどな、世の中そんなに都合よく出来てねぇと思うよ。あても黒髪には知り合いはいねぇんだけど、でもどっかで聞いた気が……。あぁ、人探しなら、この辺りじゃマツオの親父に話を聞くのが一番いいと思うぜ。」

 マツオさんとはこの辺を仕切るマツオ組の組長らしい。マツオさんの邸宅を教えてもらえたので、今度訪ねて見ることにしよう。


「ただ、最近妙にピリピリしてっから、かっちゃんも気をつけてな。親父はあれでやべえところもあるからさ」

「カタリアさんなら大丈夫かな~。うー。ちょっと不安かも、仲間の人と行った方がいいかもしれないね」

 なるほど、相手はこの辺りを治める暴力組織の親玉とも言える人物だものね。警戒するに越したことはないか、北区の会長さんを拷問した時は知らないと言っていたし、ズクタロウ君も権力者にほいほい近づかないとは思うから知っているかは微妙ね。

 帰ってから皆と相談することにしましょう。



 相談の結果、カロン君、クーム、ナクアの三人が忍びこんで話を聞いて来ることになった。普通に行け! と最後まで説得したのだけれど、めたるぎあそりっどと言って聞かなかった。潜入任務のことらしいけど、ズクタロウ君から教えてもらったであろう言葉は意味不明なものが多いわね、所詮は狂人の戯言だと思うけど。

 私も子どもの時に、既存の文字と絵や記号を入れ替えた暗号表を作って遊んでいたからそれと同じようなものなのかしら。



 私とグウェン先生とキース君は西区借りている宿屋に待機して、三人の結果を待つことにしたわ。

「ズクタロウ……。見つかるといいのじゃがな」

 グウェンちゃんはずっとこんな感じよ。以前ほど快活なおしゃべりではなくなったわね、あの姿は生徒の情報を抜き出す教師としての姿だったのか、とも思うけどズクタロウ君に会えればまた変わるかも知れないわね。

 こちらのほうが落ちついた雰囲気が出ていて、ミステリアス系幼女として魅力的な気もするけど。


「オレも会ってみたかったぜ、あれだろ? マツオってのは南区の頭なんだろ、どんな悪人面の親玉がでてくるのか楽しみだったのにな。・・・どんな足してるんだろ」

 このアホはアホよ。わかったことは基本的にこいつアホ! 女の足ばかり見つめいてるアホよ! マッドスキッパーの普段着に着流しという物があるのだけれど、構造上足が露出することがあるのよ。このアホはそれをガン見しているのよ? 気持ち悪いったらありゃしないわよ! チラリズムが至高だぜ、ミニスカートは邪道だ、とかまで言い始めてついていけないわよ。

 毎朝毎朝、大通りの横でしゃがみ込んで、ただただ足を眺め続けているのよ!腐れ落ちろ!


 ピカッ!!! ドンッ!!!!!!!!


 一瞬光ったと思った後に、地震が起こった。

「なんじゃ!?」

「うおっ! 地震か! うん、治まったな」

 地震だとしても発光現象を伴う地震など有るのかしら?

 あ、ナクアからの伝心が来たわ。……え!!

「二人とも、今ナクアから連絡が来て、ズクタロウ君の行方が分かったそうよ! 西門で合流することになるから、準備をしましょう」

「なんじゃと!! 外に行くのか? それならば万全の期さねばならぬのじゃ! すぐに用意するのじゃ、ズクタロウ~待っておれよ~」

「わかった。しかし、あいつは外で何してるんだか……仕事中か?まあ、カロンたちと合流してからだな」

 そうね。とりあえず急いで支度しましょうか。状況によっては外周街に戻らないことを想定してほしいそうだから、道具屋や食料品店に行きましょうか。三人は南区からの移動になるから、時間はあるから抜けが無いように念を入れた準備をしましょう。


 用意をするために外に出ると、西北の森から天高くキノコ状の雲が立ち登っているのを見てしまった。灰雨が降るかもしれないわね。

「あのアホは一体何をやってるのよ!!!」

 あれがうちのアホ一号の仕業だとすぐに気づいてしまった。嫌な信頼関係が成立していると思わず笑みがこぼれる。もうすぐ、会えるわね。




 


 それは闇よりも深い、深淵の底とも言える様な山脈が蠢いていた。姿は名状しがたいほど解けて混ざりきっている。それは地獄の窯の内容物と言われれば納得せざるを得ないほどの醜悪な様相を呈していた。

 それは自らに唯一授けられた願いを叶えるために、ただただ準備をし続けていた。無数の祝福を授け、多くの眷族を生み出し、多くのそれ以外に意思を伝える線を持ち、機会を伺い続けてきた。

 だが、どれだけ準備が万全となろうとも、機を示すものが現れなかった。それゆえに、只管に待っていた。決して短くない時間を待っていた。浅き夢を見ていた、願いを叶えるその日を夢見てまどろんでいた。

 

 ある日、それが待ち望んだ‘狼煙’が上がったのだ。それにははっきりと理解できた。自分が働く時が来たのだと、願いを叶える時、昔日の落涙を拭う時が来たのだ。


 それは歓喜した。


 そして、人類のための願いが込められた、恐るべきものが動き始めた。

 




 次回、殺し愛宇宙、君はおっさんの涙を目撃する!


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