第三十八話 つっぱることが男の勲章
38.
人同士が争っている。男が四人で、女二人を襲っているようだな。
「あははははははは、股間抑えておもしろーーーい」
「ふはははは、切り刻むとプルプル震えやがる!!」
いや、逆かな。女二人が男四人を襲っているようにも見えるな。だって、男達の方がボコボコなんだもん。
かわいそうだよ、なんで執拗に股間を攻撃しているんだよ! そんな、剣なんかで股間を何度も切り裂いたところで、お宝なんて出てこないよ! 玉が二個出てきたら、それでおしまいだよ!! 珍宝があったな。
ああ、血塗れだ、男達の股間が総じて血塗れだ。俺のあそこがヒュンてなったわ!!
「なんだよ、もう戦意喪失かよ。根性ねえぞ! 追剥するなら、もっとがんばらないといけねぇぞ! そんな粗末なもんが使えなくなったくらいで、へたり込んでんじゃねぇよ!!」
鬼だな。男のあそこをズタズタにされる痛みは女には理解できないだろ? あれだぞ、内臓なんだぞ! 露出した内臓なんだぞ! 繊細なんだぞ!
「そうだよ、あたし達ダブル松コンビを襲うってくらい気合が入ってるんなら。ゴールデンボンバーしたくらいで女々しく泣くんじゃないわよ!」
つ、ら、いよ~ぉ~。しょうがない、男の尊厳を賭けた戦いが、今始まる!!
「待て、待て、待てぃ~。貴様ら! 男の尊厳を玩ぶような行い!! あぁ、お天道様が許そうともぉ~この! もずく大好きズクタロウがぁ、許しちゃあぁ、おけねぇぇえぞ~」
隈取りしていないのが残念だが、蛮族スタイルだからいいかな。かぶけてる?
「なんだ! この追剥の味方……じゃないな。なんだコイツ? アホなの?」
「……うわぁ、手作り感バリバリだよ、酷い格好。……お金をあげたい」
ちょっと、ちょっと~。その反応は酷くない? 久しぶりに人に会えた性でテンションがおかしくなっていたことは認めざるを得ないけど、そう言う反応されるとね! おじさんはね! 興奮をね! 隠せなくなるのだよ!!
もう、怒った! 女の子だからって手加減なんてしてあげないからね!!
「FU○K YOU!!!」
中指をおっ立ててやった。さすがに、挑発していることが伝わったようだ。あ、追剥の男達がこれ幸いと逃げ出した。彼らはこれからオカマちゃんとして生きていくのだろうか。去勢された雄猫みたいに雌化したりするのだろうか。強く生きるのだぞ、追剥くん達!
「ち、なんだよ気狂いかよ! せっかくの稼ぎが逃げやがった、てまえで補填させてもらうかんな!」
俺が金持っているように見えるの? バカなの? 節穴なの?
「一応、自己紹介してあげるわ! あたしはカドマツ、あっちはマツアキ二人合わせて、カドアキコンビとはあたし達のことよ! あと、アキちゃんはバカじゃないわ! 少し残念なだけなのよ!」
ずいぶん、和風? なお名前をしていらっしゃる。それに、先ほどと名乗りが異なる気がするけど、そんなことは大したことではない。今は男の尊厳をいたずらに踏みにじる女どもとの戦いが先だ!!
「くぁ~」
クーさん、眠いの?ごめんねぇ、ごめんねぇ~。
そうして、俺とマツマツコンビとの激闘の火ぶたが切って落とされた。
「さっさと、くたばりな!」
マツアキは剣使いだな、この泥で足場が悪い中で良く動く。だが、俺だって負けていられない。
「ふわはははは、当たらん、当たらんのだトキ!!!」
カサカサ動いて攻撃を全て避ける。この動き、まさにアメンボの如くなり!
「トキって誰よ! アキちゃんよ!! この弾けなさい、火線!!」
む、カドマツは短剣を持っていたが魔術師でもあったか。ジグザグな軌道を描いて炎が俺を目掛けて飛んでくる。
「ぶわはははは、貴様の攻撃など俺の闘気の前には、そよ風の如し!!」
とりあえず受けて見たけど、結構暖かいです。
「なんじゃありゃー! まじで化け物かよ!? ちっくしょうが!! カドの魔術を受けてちょっと服が焦げただけって……くっ、あてがやる!」
今度はマツアキが来たか。ふん、ならば、このゴブリンの骨をつなぎ合わせて作ったゴブリンの石斧の力を存分に受けるがよいわ!!
「なんだその武器!? ふざけてんのか? あ、あてが、こんなバカに押されてる!! なんだこの早さは! 馬鹿力は!? てまえ、オーガかなんかの変異種なのか?」
「アキちゃん! このぉ、……うそ!! 私の剣が折れた!!! 本当に人なの!? 人の硬さじゃないわよ!」
あっははははは!!! 圧倒的ではないか我が軍は!! ひとりだけど。
「くー!!」
あ、痛い。なんですか、クーさん?
え、もういいだろうって? えー!? 痛い痛いって、はいはいわかりましたよ。止めたらいいんでしょ。まったくもう、クーったら女の子には甘いんだからもう! そんなんじゃ将来たらしになっちゃうって、痛いいたいたいた。ごめんごめん、クーも女の子だったね。
「というわけだから、止めていいかい?」
二人に話しかけて見る。
「「…………」」
あれ、無言だな。
「言葉わかる? 公用語わかんないの? グロンギ語のほうがいい?」
どうしよう、グロンギ語なんてわからないよ。
「……てまえ、どっかぶっ壊れてんのか?」
まあ、多少はね?
「……止めても良いけど、なんであたし達を襲ってきたの?」
俺からは襲いかかってないけどね。そりゃあ、ただ殺すのじゃなくて、あんな尊厳を踏みにじり、それを楽しむ様な事をしていたら、男なら誰だって割って入るってもんだ。
無暗に不興を買う様なまねは止めた方がいい、外とは言え誰が見ているかわからないからね。
「……そ、そんなもんか? まあ、……確かに、あてらのやり方に問題があったかもしんねぇ」
「理由はわかったわ。……見逃してくれるってことでいいのね」
まあ、元から殺すつもりはなかったしね。ケガくらいなら、させたかも知れないけど。
二人くらいの相手なら後れを取ることもないってわかっていたからね。俺がすぐ傍まで近づいても気づかないくらいの技量だったし、抑え込むのは簡単そうだったよ。周囲には、もう少し警戒しましょうね。
「そう、手荒い忠告だと思うわ」
「わかった、強い奴の言うことには従うよ」
二人とも素直だね。こんな素直な娘たちが、あんなクレイジーな行為をしていたと思うと背筋が凍るね。何時からこの世界は世紀末になったのだろうか。
「俺はマッドスキッパーに行きたいのだけれど、どっちの方向にあるかわかる?」
本当は人を見つけた際に、真っ先にするはずだった質問をしてみた。
「ん、外から来たのか、わかったよ。あてらが案内してやるよ、あてらも戻るしな。すぐ近くだよ」
「いいわ、挑発されたとはいえ、襲いかかったのはこっち側だしね。今はあなたのことを信用してあげるわ。連れて行ってあげるわよ、あたし達の街にね」
あらあらまあまあ、こんな不審者どころか、蛮族を街に連れて行っていいのかしらね?暴れちゃうわよ~、略奪しちゃうわよ~、火を放つわよ~、アッティラするわよ~。
「……やっぱ、やめとかね?」
「うん、やめましょうか」
あ、ごめん、ごめん、うそです。冗談だよ~、おっさんは良いおっさんだよ~。今は拷問とかされた影響で、少しだけ過激な思考になっているだけで、文明社会に戻れば、普通のおっさんに戻るから安心してね。
「……イカレてんのは拷問せいか、それはなんというか、その、悪かったな」
「ヒドイ! ……かわいそうに、こんなになるほどの拷問だなんて、あなた一体何をしたの?」
え、なにも? ただミズーリで貴族の玩具にされただけだよ。
「そうか、それで逃げてきたのか・・・うん、てまえならきっと上手くやっていけるよ」
「ミズーリから……あそこは良い噂を聞かない所だけど、本当だったのね」
あれ~、予想以上に同情されたことに驚いた、ミズーリの評価低くない? 住みやすいよ、ちょっと窮屈かもしれないけど、餓えないし、教育を受けられるし。
あ、教育は洗脳みたいなのも兼ねていると考えると良し悪しかも知れないね。おっさんみたいに、卒業!? しちゃいたくなる人もいるかも。必須なのは読み書き計算くらいか。あと、レアな能力持っていたら実験台にされちゃうのが玉に傷かな~。
「マッドスキッパーは自由な都市よ。あなたみたいな人達が大勢住んでいるわ、行きましょうか。治安はあまりよくないけれど、外よりはずっと安全よ」
そう言う分けで、俺達はマッドスキッパーに連れて行ってもらえることになった。
道すがらマツアキとカドマツに話を聞いたところ、二人はハンターをしているらしい。
ハンターというのはミズーリで言うところの冒険者みたいなものだ。魔物狩りや、さっきみたいな連中を狩るらしい。ミズーリではトンと縁がなかった人狩りが、かなりの頻度で依頼として成立するとのことだ。
ミズーリのガチガチとも言える体制が盗賊などを発生させなかった、又は発生しようものなら即刻軍によって対応されていた、そう思うと国家としてミズーリは強大なのではなかろうか。
魔物も話も聞いたが、湿地帯という環境も合わさりミズーリよりも厄介な魔物が多そうだった。特に泥造形はやっかいなのだそうだ、生半可な攻撃では倒しきれないのだと。クーさん、怖いです。生半可ではない攻撃できる掌サイズの翼竜なんて怖いっす。
ちなみに、二人はまだまだ駆け出しで、がんばって名声を稼いでいるところだそうだ。
名声というものが、冒険者で言うところのランクに相当するらしい。高くなると、待遇に差がでてくるのだとか。
二人とも、盗賊団相手では厳しいが、さっきの追剥くらいには負けないと熱く語っていた。女二人だから、バカが釣れるのだそうだ。まあ、俺みたいなのが釣れることもあるから、作戦は、命を大事に、に設定してほしいものだ。
また、街中でも油断禁物だそうだ。変なのに絡まれたり、スリにあったり、殺しも日常茶飯事だって。怖いよ~世紀末だよ~。
城壁の中には基本的に一般人は入れないらしく、壁の周囲に街を作っているらしい。その街では、それぞれの場所を締めている連中が法律なんだとさ。ほぇ~やくざ怖いです。トライアドとか清原とか、そんなの人たちがいると思うと、マジで怖いわぁ。
魔物が出現したときの自警団としての役割も大きいと聞くと、これも一種の秩序なのだろうと納得できたけどね。
でも、どっかで問題を起こしたら、他の区画に逃げれば大丈夫とか、重い罪だとその区画の連中に捕まえられて引き渡されたとか、そんな話は聞きたくなかったな。
うれしいこともあった。主食が米だそうだ! やったぜ! 湿地帯で米がたくさん栽培されているらしい。道すがら田園風景を見て興奮してしまった。
あと、特産品は砂糖とレンコンだそうだ。レンコンはともかく、砂糖はうれしいな。ミズーリでは高かったから、甘味を存分に楽しみたいものだ。料理にも期待しちゃっていいかな~?だめかもな。その時は、自分でなんとかしよう。
そんな楽しいおしゃべりをしていると、念願のマッドスキッパーが見えてきた。
今日は手持ちのものを売って宿に泊めてもらおう。そう思っていると、二人が長屋を紹介してくれた。二人は長屋暮らしなのだそうだ。どんなものかはわからないが、それにしよう。
話を聞く限り、月単位での契約になるようだが、塩を売ればなんとかなるだろう。念のために、ゴブリン革で背嚢を作り塩の用意をしておいてよかった。異次元鞄を使いこなしていることを隠さないといけないからね、もう誰かに捕まえられて玩具にされるのはごめんだ。
さぁ、マッドスキッパーに着くぞ、新生活が楽しみだ!
クーもよかったね、チェックとかないみたいだから、入りたい放題だよ! まあ、犯罪者も入りたい放題だから十分に気をつけることにしよう。街中では、光線は禁止だよ! え、俺がいないとできない? そうですか、じゃあ、俺が頼んだらぶっ放してくれる? ダメですか、そうですか。
次回、ついに、マッドスキッパーに着いたおっさん! マッドスキッパー編が始まります。お金ほちぃ、目立たぬぁい、悪いことしにゃい、この三つを達成できるのか!?




