第三十六話 おっさん探険隊、おっさん臭い洞窟を行く
36.
ふぅむ、ダンジョンではないと思う。
ク・リトゥ・リトゥのように空間が異なっているような感覚を受けない。空気も澱んでいるが、外とそう変わらない。川が続いていることから、何か漆黒のウジについての情報でも得られないかと思ったが、ただの洞窟だったのかな。
まあ、いいや。結構深いみたいだし、奥に何があるかを確認するくらいはいいだろう。ズクタロウ探険隊出発進行~。いくぞ!クー隊員!
「ク~ケー!」
乗りがいいじゃないか、キーちゃん達も最初はなかなか乗ってくれなかったのに、この愛い奴め~なでなですりすりしてやるぞ~。
「クゥクゥ♪」
かわいい!全力で懐いて来る子猫みたいだ。飛んでいるけど、ゴブリンぼりぼり食べるけど。そんなことはこの魅力の前ではどうでもいいことだ。
ワイバーンなのだから爬虫類みたいなものだと思っていたが、クーは温いな、変温動物じゃないのか~。こう、纏わりついてこられるといいものだ、しかも、絶妙に俺の邪魔にならないようにしてくれているし、……もしかしてすごくあざといのだろうか。
「クーはあざといさんなの?」
「く~? け~?」
くっ、その、分かんないよ~、みたいな顔もあざといではないか! しかし、それにしても本当にワイバーンなのだろうか? 前追いかけてきたのは、ここまでの知能があるようには見えなかったな。
ふ~む、良く見ると色だけじゃなく体毛なんかもある時点で、ワイバーンとは大きく異なっている気がしてきた。何だろう、大丈夫かな? まあ、いいや。今のかわいさが全てさ。かわいいは正義!そ の結果、俺が死ぬことになるのは勘弁してほしいけどね。
おや、なんだかおっさんの枕みたいな臭いがしてきたぞ。人でもいるのだろうか? 加齢臭で感じる人間の気配ってのは、何か嫌!あ、前方が開けているぞ。
「よ~し、飛び込め~」
「くー!」
ズンズンと奥に進んでいく俺達。
「うげぇぁ~、すえた臭いがするなり~」
「くけぇ~」
洞窟の奥には広間があった。広間の壁に壁画が描かれていた。周辺には誰かが生活していたような痕跡が多数残っている。ぼろぼろのベッドや、壊れた光源用の魔道具、何かの実験器具であろう使途不明の装置がボロボロの状態で並んでいた。
「川は……向こうに続いているけど、これ以上は徒歩で溯るのは不可能だな」
仕方がないな、この広間を調べて戻ることにしよう。この壁画は……なんだろうまったくわからん。数式?魔術式?どちらにせよ、新しい物だな。古代の遺物という分けではなさそうだ。
えっと、死体などは特にないな。机でもあさるか。そう思い、一段だけの引き出しを引いてみる。
「ひょえ!」
吃驚した!! まさか、中にウジがびっしりと詰まっているとは!! しかも、あの漆黒のウジだ! ウゾウゾ蠢いていて気色悪いよ。
「く……けぇ~」
あ、クーの心が折れそうになっている。そんな弱気な声を出すなよ~。こっちにはアンチウジウェポンが既にあるのだ。
「ふはははは、塩を喰らえ~!! 貴様らなど、体の水分を全て奪われ乾きつくしてしまえばよかろうなのだ!!!!」
塩をかけてあげた。
「ア、、アアアアァァァッァァ」
うるさいよ! ウジのくせによぉ! 断末魔なんか叫ぶんじゃねぇよ! 大人しく土に還れ!! うぃーたー!!!
ウジが死滅した引き出しを引き抜いて、ひっくり返すと中には手帳が入っていた。情報源になりそうだな。見ておこう。
あちゃ~、ウジの水分なのか、湿気なのかわからないが読み取れるところがあんまりないな。
ク・リトゥ・リトゥの時と同じだな、あの時も湿気にやられたのか、魔素の影響でもあったのか、無事な書物を見つけることが、ほとんどできなかったんだよね。
いくつか状態のましだったものは、判読不明な絵文字で書かれていたから、読むのは不可能だった。ちなみにその絵文字は、グウェンちゃん曰く、なんらかの暗号として用いられていたのではないか、とのことだった。数点持ち帰っていたけど解読作業は進んでいるのかね。
まあ、今回はオスアナア大陸の公用語で書かれているから読めるところだけ、読ませていただこう。
中身は日記のようだな、どれどれ
X年○月×日
あの、バカどもに×××××を追い出された。×××凍土に閉じこもって×××よいのだ。私の××××××が××××。
見ていろ、自らの××を××してやる。××××
Y年□月△日
ついにやった! ××××原×料×にして、ダンジョ×を人工××××ができることが×××れた。×××……。××××私自らが××××しなければ・・・××××だが、×××、自らの発明に身を奉げるのならば後悔など存在××××がない。
Z年●月◎日
この日記も今日が最後になる。私の体は既に、××そ××××。×に×川に身を投じることにしよう。××××、×××。人類に栄光あれ!!!
母なる魔×、父なる魔力 ×類を救いためへ ダイラス×リーン
読み取れたところはこんなものか。むぅ、研究者の日記みたいだが、いくつか気になることがあるな。
自らの発明に身を奉げる、という文章と、原×料にして、ダンジョンを人工、という文章だな。なんだろうダンジョンを人の手で発生させる研究でもしていたのだろうか。
まあ、推測の域をでないから、今どうこうできることはない。漆黒のウジが引き出しに入っていたことから、なんらかの関係がある、それぐらいの考えでいいだろう。
あとは、ダイラス×リーンという人物を知っている人を探してみても良いかもしれないな。すんなり見つかるとは限らないけど、追い出された研究者であれば、知っている人は知っているのかもね。この日記を書いたものはすでに死んでいるようだけど、探している人もいるかも知れないな。
実際に黒石魔物が現れる原因がわかったところで、個人の力で解決できたりするのはゲームの中だけだ。物事は複雑に絡み付き、表面に顕れる頃には根が張り巡らされてしまっている。気づいた時には問題を根本から解決する手段など、地道にできることを成していくしか残されていないものだろう。
そう自分に言い訳して、この問題にのめり込み過ぎないようにしよう。嫌だよ、あんな魔物とやり合う生活なんてさ。今の俺は自分が生きることに手いっぱいなんだよ!いいじゃん、誰かが何とかしてくれるさ。他力本願他力本願、おっさんの実家は浄土真宗でした。
「クー、ここをもう出ようか。自分の部屋の臭いを思い出して不愉快になってきたよ」
「クーケケッ」
そうして、俺達は洞窟を後にした。
一応、壁画はできるだけメモしておいたけど、自作のゴブリン皮紙を使って初めて書いたのが意味不明な図式となると、すこし悲しい気分だ。
さて、本格的にマッドスキッパーを目指さなくては、このままでは野人になってしまう。文明の中で生きてこそ、人は動物から人になったのだよ。具体的には、やわらかい布製のおパンツがほしいです。
でも、都市に着いたらクーはどうしたらいいのだろうか。普通には入れるだろうか? 市民登録が無かろうが、門番は存在するだろうしな~。
「クーさん、どうにかなりませんか?」
「ケー!」
ダメそうですね。まあ、手乗りサイズでかわいいからオッケーだ。たぶん。俺が決めた! 今決めた! だからオッケーさ。
そんなことを思いながら山を西へ西へと進んでいく俺達、無事にたどり着けるのやら。
次回、魔物の種類が変わったことを感じるおっさん。でもゴブリンはでる。どこにでも出る。すごいぞゴブリン! 生存能力はトップクラスだ! そして、冒険者らしき集団を発見するおっさん。どうやら、おっさんはマッドスキッパー近くまで来ているみたいだぞ! がんばれ、おっさん!




