第三十二話 裸で何が悪い、裸で何が悪い
32.
それから、あっという間に時間が経過した。俺は剣術の授業を履修したり、グウェンちゃんのスキル学を履修したりと忙しかったというのもある。
ナクアさんは何と言うか、その、ね? ……野生化した。
例えるなら、ジャンガリアンハムスターからタスマニアデビルへと進化したようなものだ。いや、タスマニアデビルについてはよく知らないけど、名前の響きがね? 強そうでしょ? デビルだよ?デビルかっこよくない?
可憐だった彼女は口調以外もう、存在しない。オークの肉を生で齧りつく、実にワイルドな女性へと変貌した。豚肉だとしたら、生で食べるのは危険ではないのだろうか……。魔力がどうにかしてくれているはずだ、そう信じている。
彼女の両親に知れたら、なにをされるかわかったものじゃないな。クームが日々、戦々恐々としているのが見て取れる。
彼女自身は軟弱な自分と言うコンプレックスを弾き飛ばせたみたいだから、やって良かったということにしておこう。
巻き込んだ委員長からは恨み言を囁かれ続けたけどね。
一応、俺が日記形式で彼女の変遷を記していたから、そこから抜粋して記載しよう。
○月○日
今日からナクアず、ブートキャンプ開始だ。第五層で行おう。彼女は緊張しているが俺達もいるから大丈夫だろう。今日はゴブリンと大蛇を倒した。
○月×日
今日は、オークを集めて狩り倒した。彼女は必死だった。持ってきていた棒が折れてからは、涙目になりながら、ただただ殴り倒していた。彼女は多くのケガをしたが、致命傷が無いので続行とする。
キーちゃんが足のケガだけ、丁寧に治療していたのが印象に残った。
○月△日
魔物の血潮を浴びた彼女は、体を洗いたいらしい。血の臭いがして魔物が集まってくるのだ。それを洗い落とすなんてとんでもない。
○月□日
警邏隊の人から、魔物を呼びよせるような危険な方法するな、と怒られた。ナクアさんは安心したようだった。バカめ、ならば外でやるだけだ。嫌がる彼女を引きずり、更に南進し、森林地帯へと足を踏み出した。
○月●日
南部森林地帯は第五層と比べ、強い魔物が多かった。ゴブリンの上位種であるゴブリン:○にも出会った。額に丸印がついた青色の個体だった、分かりやすくていいと思う。
オークは高品質がたくさんいた。稼ぎが加速するね、やったねナクアさん。
毒などを用いる厄介な魔物がいない分、楽だった。
△月×日
ここ最近、彼女の元気がない、目にもハイライトが消えている。レベルアップ痛で体が痛むのだろうか? どうにかならないかと、みんなで悩んだが良い案が出てこない。
委員長はため息をついていた。疲れたのだろうか。
△月△日
彼女を元気付けるために、俺が特性ドリンクを差し入れした。『濃縮還元ゴブリン酢』を元にして、複数種類の果実の搾り汁で割ったものだ。俺も飲んでみたが、問題なしと判断したので彼女に投与した。
△月□日
昨日から彼女の様子がおかしい。体が洗えないんなら、血で洗えばいいじゃない! と言いだして、自分から魔物の血潮を浴びている。ついでに、水分の補給もしちゃお! といって血をガブガブ飲んでいる。怖い。でも、良い笑顔だ。俺も負けてはいられないな。
□月○日
クームが泣きごとを言ってきた。自らの知っているナクアさんから変貌をきたしていることに、感情がついてこられないようだ。最近は人の言葉を話していない時があるから、俺も心配だ。ここではリントの言葉で話してもらいたいものだな。
クームの元気が出るようにと、特性ドリンクを飲むかと聞いてみると、恐ろしい勢いで断られた。なぜだ。
×月×日
俺が夜番をしていると、ナクアさんが襲いかかってきた。夜間の実戦訓練が行いたいみたいだ。存分に相手をしてあげた。
急所ばかり狙ってくるので、逆に動きが単調で読みやすい。要改善箇所だな。
ボロボロになったナクアさんに、元気が出るようにと、特性ドリンクを飲みこませてあげた。動けない体で必死に拒否していたが、俺の嗜虐心をいたずらに煽っただけだった。
×月○日
彼女の様子がいよいよを持って、おかしくなっていると認識せざるを得ない。今日は生きたままのゴブリンを咀嚼していた。ゴブリンの恐怖に歪んだ顔が忘れられない。
委員長からは、あんたのせいであの子は変わったわ……いえ、私も含めたみんなが悪いわ……、としみじみとした言葉をいただいた。確かに強くなっていると思うが、求めていた強さとは異なる気がしてならない。俺は何かを間違ったのだろうか。
思えば、特性ドリンクを試飲してからの俺の行動は、狂気的を通り越した何かになっていたと感じる。やはり、『濃縮還元ゴブリン酢』には軽々と触れてはならないのだろうか。
●月□日
グウェンちゃんが他の教師を伴って様子を見に来た。
南部森林地帯での異常の調査依頼要請が、冒険者組合を通して学校にもあったらしい。なんでも、魔物が極端に少ないのだそうだ。
この日、グウェンちゃんから、ナクアず、ブートキャンプの中止が言い渡された。
教師の強権で、学生の自由が束縛されるのはどうかと思うが、所詮学生の身では仕様がないことなのだろう。
なぜか、俺だけベア先生とグウェンちゃんのコンビに説教された。毒を仲間に盛るなとか散々に言われたが、身に覚えがないな。あるけど。てへへ。
この日記は、ここで筆を置くとしよう。
ずれ込んだが、クラス対抗戦も無事に全日程が終わり、無事?賞金をゲットすることができた。賞金は学内で使える商品券五万ビッテル分だった。
安いと見るべきか、最近の稼ぎが異常な額になっているのか判断に迷うところだ。百人以上分と考えると大盤振る舞いなのかもしれないな。
学生は三月から四月にかけて、管理棟で発行されている学割証を持っていくことで、格安でステータスチェックを受けることができるらしい。
この季節になっても桜の様な季節の花を見ることがないのは少し寂しいかも知れないな。お花見という文化を俺発祥で広めても良いかもね。あまり、花を植えたりしていないから場所を探すのが大変そうだ。今度ベア先生にでも聞いてみよう。
ステータスチェックに行ってみることにしようかな。もちろん、すっかりお馴染みとなったいつものメンバーでね。
なんてことを話していたら、どこからか出現したグウェンちゃんが引率するのじゃ! と言いだして着いて来ることになった。いや、幼稚園児じゃないのだから大丈夫だけどね。
心使いはうれしいので一緒に行くことにした。だけど、スキルは見せないよ!
グウェンちゃんはスキル学の授業を受けてわかったが、グウェンちゃんにはスキル研究者というかスキルマニアのようなところがある。
「けちんぼ!! 良いではないか!聞いたぞ、『毒無効:一部上場』なんという分けのわからんスキルを持ちおってからに! どうせ、他にもみょうちくりんなスキルをバンバン持っておるのじゃろうが、わたしにもみせい!」
鋭い!! だが、見せると俺が異世界から転生して来たとバレてしまう。
そうなったら、グウェンちゃんのことだから俺を鹵獲して解剖した上、技術の発展には犠牲はつきものなのでーすなのじゃ、とか言ってのけそうだ。それだけは何としても避けなければならないな。解剖ENDとか誰得だよ!
さて、学校傍の『ミズーリ第三神殿』へとやってきた。神殿の入り口で学割証を見せ、一万ビッテルを払う。学割が効いてもこの金額か・・・。実際はどれだけ阿漕な商売をしていることだか。
さって、今回も気合を入れて祈ろうとしていると、
「ズクタロウよ、なんだか妙に気合が入っているようじゃな。ふむ、ここ第三神殿には祈り子の間という部屋があっての、学生の利用は自由なんじゃが、そこを利用して見んか? 他の学生たちにも、集中できると好評な部屋じゃぞ」
へぇ、さすが学校傍の神殿だけあるな。せっかくだかそこを使ってみる。
俺はみんなと別れて、グウェンちゃんに連れられて、祈り子の間にやってきた。グウェンちゃんは部屋には入らず、俺だけが中に通された。どうやら、一人きりで祈りたいものが使うための部屋のようだな。
ふむ、真ん中に証言台のようなものがあるだけの部屋だな。確かに祈るには丁度いいかも知れない。
俺は証言台に立った。う~ん、裁判にかけられているみたいな気分だな。
よし、さっそく祈ってみよう・・・て、アレ? まだ祈っていないのに食べられる紙に文字が浮かんできたぞ。どうやらステータスのようだ。
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氏名 ここからはやくにげなさい
レベル このままでは殺されます
HP はやくにげてぇ~
MP あぶない、あぶないよ
STR バラバラにされちゃうよ!
CON かこまれるの、はやく逃げるの
DEX ぼおっとすんな、ズクタロウ! 捕まるぞ!!
INT はやくしろ、まにあわなくなってもしらんぞ
POW お願いです、生き残ってください
LUK (´・ω・`)アキラメンナヨッ!
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なん、だ、これは? 警告されている? 誰かに襲われる? なぜ? 誰に? いや、今は一刻も早くここから逃げなければ!!
弾かれたように振り返った。そして、動き出そうとした俺の体の自由は突然奪われた。
「ぐっがぁ、な!!!!」
くそ! 口がうまく回らない!! なんだ、何をされたんだ。
「……すまん、ズクタロウ。……許さなくてよいのじゃ」
そこには、グウェンちゃんが悲壮ながらも決意した顔で立っていた。その後ろには、薔薇をあしらった派手な神官服を着た連中がいる。
「ほお、『無貌の呪縛』に囚われても、なお意識が残っているとはな。さすが、魔法の素養を持つだけはある」
フードを被っていて見えないが、声に年輪を感じさせる、おそらくかなりのおっさんなのだろう。
「意識があるのは邪魔ですね、ニョグ!気絶させなさい」
今度は女の声だ。おそらくニョグであろう男が俺の首に手を当てた。締め落とす気だろうか。
「ぐっ、つぁ! がぁ!! ぐえ、ん、ちぁ、……」
俺の視界が徐々に黒くなっていく。俺が最後に目にしたのは、涙を流すグウェンちゃんだった。
俺が目を覚ましたところは、牢屋の中だった。白く輝く金属で作られた格子が目に眩しい。
「どこだ、ここは? つぅ! なんだこれは!!」
俺の首には首輪の様なものが埋め込まれている。完全に肉に突き刺さったそれは、魔力を循環させようとすると、恐ろしい激痛を送り込んでくるのがわかる。
「ほう、起きたようだね」
いつの間にか、目の前には黒衣を着た研究者の様な、病的なまでに痩せた男がいた。
「ボクはアタルという、しがない研究者だよ。君がズクタロウ君かぁ、うんうん、その首輪が気になるだろう? それはね、君の魔力に反応して苦しみを発生させるという、中々にめずらしい魔道具だよ。あまり無理をしないでね、痛くて痛くて気が狂ってしまうかも知れないからさ」
あ、そうですか、ご丁寧にありがとうございます。
「・・・なんで俺は捕まったんだ?」
相手がおっさんだから冷静になれたね。冷静なのは大事ですよ、猿渡さん!これがかわいい女医さんとかだったら緊張しちゃうよね。昔、肛門科を受診したときに、羞恥と興奮でギンギンになっちゃったもんね。
「それはね、君が古代に失われた『魔法素養』を持つ、言うなれば先祖返りだからさ。ボクの雇い主たちはね、その失われた力がほしくてほしくてほしくてほしくてほしくて、頭がおかしくなってしまうほどほしがっている人たちなのだよ。」
頭がおかしいなんて、かわいそうな人たちだ。
「『魔法素養』ね。そんなスキルは持っていないけどね」
そんなスキルは表示されていない。
「そうかもね、でも、それは関係ないんだ。上の人たちは神なる存在など、利用こそすれ、信じることなどありえないと思っている人ばかりだからね」
まあ、確かに地球でも宗教は金になるって言うけどさ。実際に啓示をくれるのに、その扱いってどうなのだろうか。
「そんで、おじさん、これからアタシどうなっちゃうの?」
ちょっとかわいく言ってみた。気分はピーチ姫だ。伏せ字が機能しているはずなのに、機能していない気がする、不思議だな。
「おや、この状況で余裕があるとは良いことだ。だけど、本当に知りたいかい? とてもじゃないが、許容できる内容じゃないと思うよ」
さっさと教えてよ。もう、しょうがないなぁ、サービスしてあげますか。
「カモーン! オウ、イエス! カモンカモンカモーン!」
「……気狂いだとは聞いていたけど、実際に見ると気持ち悪いね。いいよ、教えようか。君はこれから長い時間をかけて調べつくされる。触診され、採血され、解剖され……どんどんバラサレテいくよ。そして、その身を構成する肉片ひとかけらまで、人類のために利用されつくすことになる」
あらまあ、マジで解剖ENDだったか。グウェンちゃんにされるのならまだいいが、こんなおっさんにされると思うと嫌だね。いや、グウェンちゃんにされるのも嫌だけど。
それにしても、人類のためねぇ……。
上の人たちは、推測だけど、神殿関係者か貴族だな。
神殿で捕まったから神殿がグルなのは当然だな。グウェンちゃんが関わっているから、学校にも権力が及ぶ者たちだろう。学校に権力が及ぶのは、国の上層部だけだ。それならば、技術者集団が元になっている貴族が関わっていると思って間違いないだろうな。
「お、卸すなら三枚下ろしにしてね!たたきは嫌よ!おいしく食べてね」
刺身でもいいよ。醤油が沁みそうだから、マヨネーズもかけてね。
「君との会話は楽しいが、申し訳ないね。……実験の時間だ」
地下だと思われる空間に叫び声が響き渡った。俺の声だった。
グウェンちゃん、助けて。あ、売られたんだった。
次回、おっさんは捕まっちゃいました。がんばれ、おっさん! がんばって逃げよう。神様たちも応援しているぞ!




