第三十一話 ビリーはどこに消えたの? おっさんはアレで腰を痛めたよ
31.
俺達のクラス対抗戦が終わって、数日が経過した。
「私を鍛えてほしいの!!」
そういう彼女の目には悲壮な覚悟映っていた。
突然、クームと二人で俺達の秘密基地まで来たと思ったら、何を言い出すことやら。
「どしたん? ムッキムキになりたいの? 筋肉革命なの?」
そう聞いたのは俺だ。
「……な、ナクア殿が、き、筋肉ダルマで候」
「まさか、その細い足をそんなに気にしていたとは……」
カロちゃんはなんかショックを受けている。キーちゃん、おめぇは足しか見てねぇのかよ。いや、そんな細くもないと思うよ?普通だと思うよ?綺麗な足をしているよ。太腿なんてムッチリしているよ。
「落ちつくのでござるよ、ナクア、にんにん。実はでござるな……」
そう言って、クームが説明をし始めてくれた。
ふむ、どうやらナクアさんは俺達との実力差が気にかかっているらしい。クラス対抗戦でのことも原因のひとつだろう。
まあ、戦闘能力については確かに差があると思う。委員長も、ああ見えてかなりできる。クラスで言うと三番目くらいには入る実力者だろう。むろん、俺達を除けばだが。
ナクアさんは、良いところ後ろから数えた方が早い、くらいの実力だ。まあ、基礎体力とか戦闘訓練だけでの判断になるから、実力というのは難しいと思うけど。
「つまり、ナクアさん強化計画を発動すればいいんだね」
「お前が言うと改造しそうで不安だな」
「……毒を食わされるで候」
君たちはおっさんをなんだと思っているのだ。食わせるけど。
「……毒を食べさせられるの? ……うん! がんばります!!」
うわーい。気合十分だな~。毒を食べるのをがんばる娘ってのも実際に見ると嫌なもんだ。
「その、毒を食うというのではなくて、皆で知恵を絞ってはくださらぬか?拙者はナクアとは長いのでござるが、それゆえ、方向性を見い出し難いでござるし、判断も甘くなってしまうでござるよ、にんにん」
ふむ、もっともかもね。
じゃあ、まず何ができるかを教えてもらえるかい?
スキル名とかは伏せてもらってかまわないけど、得意なこととかあったらそれを伸ばすべきなんじゃないかね。正直、ナクアさんの戦闘技能については詳しくわからないもの。
「あ、うん。ありがとう! えっとね、私は……」
そう言って彼女は自分のやれることを話し始めた。
「まじか、魔術適正持ちなのか……」
キーちゃんが驚いている。俺も驚いた。魔術適正とは、自然界に存在する魔素に自らの魔力で働きかけることができる、ということを指すので、自らの持つ属性からはずれていても、ある程度の他の属性魔術も行使できるということだ。
「……属性は『感覚魔術』であるか、聞いたこともないで候」
これは、ぶっちゃけちょっと手に余るな。
「牛にゅ……じゃなかった、専門家に相談したいのだけれどいいかい?」
グウェンちゃんは牛乳ではない。みんなもそう思うだろう?
「えっと、誰かな……」
そりゃもちろん、グウェンちゃんですよ。
「う、グウェン先生かぁ」
あ、あれ? 反応が微妙だな。ちびっこくてもすごい人なのよ。
「ナクア、グウェン先生は信頼できるでござるよ。ナクアのことを知っても悪いようにはしないと思うでござる、にんにん」
俺達は一月近く寝食を共にしたから、ほぼ無条件で信頼しているが、他の生徒にとってはそうでもないのかも知れないな。まあ、見た目が幼女だし、のじゃ口調だしで妖しいっちゃ、妖しいかな。グウェンちゃん、まじ妖女。
「みんなが、そう言ってくれるなら……グウェン先生に相談してみる!」
というわけで、グウェンちゃんに御水寮までご足労いただくことにした。
「な、なんじゃと~! ナクア! お主はユニークスキル持ちじゃったか!!」
なんか、グウェンちゃんが予想以上に驚いた。鼻をフンスフンスさせて興奮状態に陥っている。はい、ドウドウ、ドウドウ。
「やめんか! わたしゃ馬か! ズクタロウ、わたしがスキル学の講師をしていることは知っておるじゃろう? わたしはスキル研究家という一面も持っておるのじゃよ。研究者としての観点から見ても、ユニーク持ちは珍しいのじゃ! 持っていても、開示せん者がほとんどじゃし、用途が不明なものばかりなのじゃ、魔術系統のユニークなんぞ文献でしかみたことがないのじゃぞ!! これで興奮するなというのが無理な話なのじゃー」
な、なんだってー。教師で幼女で研究者って属性てんこ盛りじゃん。まあ、そんなことはどうでもいいから、身になる話をしてくださいな。
「ど、どうでもって……グスン。まあ、わかったのじゃ、ナクア詳しく聞かせてもろうても構わんかのぅ」
そう言って、グウェンちゃんとナクアさんの問答が始まった。このやり取りは、数時間に渡った。ちなみに、ユニークスキルとは生まれながらに持っている一般的でないスキルのことを言うらしい。
「なるほどのぅ、『感覚魔術』の全貌がいくらかは見えたのじゃ。ふむ、攻撃向きの魔術ではなさそうじゃの。感覚を魔術で代替させるとなると、有用な使い方は察知系になるというナクアの使い方も間違いではなさそうじゃ」
あらそうなの? グウェンちゃんみたいに、魔術でドカンと攻撃できる分けじゃないのね。
「わたしの『風魔術』は現在使い手が居る中では、もっとも攻撃的な魔術じゃからの」
へぇ~、そうなんだ。てっきり、火の方が攻撃に向いているのかと思ったよ。
「『火魔術』は汎用性に乏しいのじゃ、湿気の多い場所では発動せんかったり、種火がなければ魔力の消費がバカでかいなど扱いがやっかいなのじゃよ。その点、風魔術であれば空気が存在する場所では滞りなく発動することができるからのぅ」
魔術も万能じゃないのね。まあ、万能だったら無敵超人グウェンちゃんになってしまうか。
「グウェン先生、私の魔術はどういった使い方が最適だと思いますか?」
「そうじゃのぅ、自分でこれじゃ! と思うた使い方が大筋の場合は、正しいとは思うのじゃ。しかし、お主には拡張性が足りておらぬと、わたしは考えるのじゃ」
ほう、探知や察知に使うだけではもったいないということか。
「一つ、実現できそうなことが思い当たるのじゃ。伝心じゃ! 魔道具にも遠くの場所に声を届けるためのものがあるのじゃが、これがどのような理論で作られておるのかが未だにわかってはおらぬ。古代文明では感覚魔術を応用してそれらを作成しておった可能性があるとわたしは睨んだのじゃ~」
こういうところはさすがっすねぇ~。ゲポしてるだけのロリじゃないんすねぇ。
「伝心。……遠くの人に声を伝えるですか、わかりました! 試してみます!!」
おぅ、さっそくやるんだ。魔術とは理論だてを行う人もいるが、術理が存在しないものを使うには本人の感覚に頼るのが一番だそうだ。
「うむむむむむ……」
なんだろう、しかめっ面して力んでいる。ちょっとかわいいかも知れない。いいよね、しかめっ面した女の子って、鼻筋をさわさわしてあげたくなっちゃうよね。
そんな不埒なことを考えていると、頭の中に声が響いた。
「……ズクタロウくんはぶたれると時々満足した顔していて気持ち悪い、キースくんは女の子の足をガン見し過ぎていて気持ち悪い、カロンくんはホモ臭い、女性のことを自分の恋の鞘当にしか考えてなさそうで気持ちが悪い、クームは最近にんにんとか言い出した、変な影響を受けているみたいだ。ただでさえ変な口調なのに将来が不安だ……」
ナクアさんの声で、とんでもない罵倒が流れ込んできた。おぅふ、口があんまり御上手じゃないだけで、腹の中には溜めこんでいるものがあったんですね。いいよ、おっさん、女の子に罵られているだけで気持ち良くなってくるから、どんとこい、どすこい。
おや、どうやら俺だけではなく、周りにいた面々にも声が届いたようだ。
「ブフォ! ふはははははっは、あっはははは……」
グウェンちゃんが笑い転げている。よかったね、自分の評価が聞こえなくて、聞いていたら吹飯ものだったと思うけどね。
「ナ、ナクアもいろいろ辛かったのでござるな、拙者……今晩、拙者と一緒に寝るでござるよ、にんにん」
お前はにんにん止めないのか、意外と気に入っているのかな?
「…………」
そこは無言なんだ。まあ、ショックと言えばショックかもしれないけども。
「……某、男色の気は無いで候!!」
あ、カロちゃんが嘆いている。
「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
あ~あ、ナクアさんが頭を抱えてへたり込んじゃったよ。
「ヒッヒ、すまんのじゃ~、おそらくうまく使えるようになれば、己の心情が流れるようなこともなくなると思うぞい。しかし、見た目はかわいいが、中身はなかなかおもしろいのぉ~、ズクタロウと愉快な仲間達にふさわしでわないか、あはははは」
そうですか、すごいですね。まあ、調節がうまく行かなかったから仕方ないよね。人の心の一端に触れたと考えて見たら、この程度で済んでよかったよ。
「ふぅ、よかった。ナクアさんが俺のこと死ねとか思ってなくて。やっぱりすごくいい子なんだね」
人間なんて心の中を見たちゃったら、普通は修羅地獄なのが当たり前だよね。
「ズ、ズクタロウくん……怒ってないの? へ? 今までの人たちに比べたら、ずっとまし?! 私……私がっ、ズクタロウくんに優しくするね!」
あれ、なんでだろう。なぜか優しくしてくれるみたいだ、これ以上優しくされたら、ドロドロに蕩けてしまうよ。
「……某はホモ扱いで候」
あ、こっちは傷が深いみたいだ。遠い眼をして虚空を眺めている。
「悪いか! 足フェチで悪いか! 誰にも迷惑かけてねぇ!! いいじゃん! マグロの御身足に興奮したっていいじゃん!! てめらの足なんかアレ比べたら大根なんだよっ!! 汚ったねぇブーツなんか履き腐りやがってよ!! 臭うんだよ! せめて、毎日丁寧に洗いやがれ!! あと、普段はサンダル履けや!! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
急にしゃべり始めたと思ったら、こっちは、おかしくなっているな。
足フェチがバレていないつもりだったのだろうか。知らぬは本人ばかりなりだな。だけど、ちょっと過激なこと言い始めているね。当て身!
「グフォ! オレが死んでも足は不滅だ……」
お前が死んだくらいで、足が滅された堪ったもんじゃねえよ! お前はそこで乾いて行け。
「ふぅ、まあ、魔術については色々学んでみるとよいじゃろう。本来なら魔術科に転入させるべきかも知れぬが、特例じゃ! 他の魔術についてはわたしが自ら指導することにするかのう」
あれ、そんなことしていいの? 学校側から怒られない?
「そもそも、検査を掻い潜っておるのじゃ、一般的な術を行使するのに難儀なことがあるかも知れん。わたしが研究したいと言う理由が一番じゃがな!」
あ、ふーん、そうですか、すごいですね。
「グウェン先生! ありがとうございます!! よろしくお願いします!!!」
おお、気合が入っているね。これで、強化計画の一段階目が可能になったね。
「なるほどの~、ズクタロウ達との実力差かや……こやつらが異常じゃからのぅ。上級生相手に完勝は、朝飯前だとは思っていたのじゃ。ダンジョンで平然と生き残ったしのう、学生如きでは相手にならんのじゃ。今だからこそ言うがダンジョン取り込まれた時、わたしは絶対死んだと思って絶望していたのじゃ。……そのな、えっとな、ズクタロウには感謝しておるのじゃぞ」
そこまで危険な状況だったのか、確かにグウェンちゃんの様子がしばらくおかしかったな。生き残れたから別にいいか。感謝なんてするのは俺の方ですよ、グウェンちゃんがいなかったら生き残れなかったのは確かですから。
「特にズクタロウ、キッス、カロンには熟練の冒険者でも太刀打ちができんほどの、能力と糞度胸が備わっておる。どうしたものじゃか、『遠征』にでも参加するのが手っ取り早いのじゃが……」
『遠征』とはなんですかね。初耳ですよ。え、初耳じゃない? 嘘、どこで? はへぇ~冒険者組合で半期ごとに行っている狩りのことか、え? 何で俺が知らないのかって? そんなこと知らんよ。
駐屯地を建て、その周辺の魔物の分布や植生を調べるのが主な目的だけど、実際のところは駐屯地に襲い来る魔物を撃退しまくるってのが仕事になるのね。ダンジョン内での戦闘ほどの頻度ではないらしいが、それでも魔物を殺すことで魔素を取りこんで強くなることを考えると有用だそうだ。
「魔素を取り込むための条件は長年研究されておるのじゃが、今のところ魔物と殺し合いをすることが最上の手段である、という意見が多数派じゃ。ズクタロウ達もレベルアップ痛に悩まされておったようじゃし、やはり効率的なのじゃろうな」
うむうむ、自らの意思で、自らの手で、魔物を殺しまくるのか。弱肉強食が極っているね。道は見えた。
「じゃあ、やっちゃう?」
「やっちゃいますかでござる、にんにん」
「やっちゃおうぜ」
「……やるで候」
俺、キーちゃん、カロちゃん、クームで示し合わせる。
「な、なにをするの?」
そんな怖がらなくてもいいよ、ヤサシクするからさぁ。
「な、なにをするつのりなのじゃ……」
そりゃもちろん、
スーパーナクアず、ブートキャンプがはっじまっるよぉ~~!!!!!
スーパーナクアず、ブートキャンプその驚異の内容とは如何に!
俺達の時間が許す限り、魔物狩に出かけ続けるだけだ。金も稼げるし、一石二鳥だね。
授業もないしね。え、履修している授業があるって? 今日からは休め!!
よしよし、聡い子は好きさ、それでは、存分に鍛えることにしよう。
どうやって戦い続けようかな?
オークを呼んだ時に使った手法を使って、戦い続けるってのもよさそうだ。俺が異次元鞄に獲物を入れて定期的に帰還して金に換えればいいし。
せっかくだから、ナクアさんは外に固定で、他のメンバーは交代で帰還して休むという方法で行こうかな。ナクアず、なのに本人がいなかったら、見に来てくれるお客さんに失礼だものね。客など来ないがな! 迎えも、助けもだ!!
彼女の望みを最大限に叶えること、それこそが私たちの願いです。
じゃあ、ナクアさん、逃げないでね。死なないでね。壊れないでね。
「い、いや、やめて、近づいてこないで!! ク、クーム!? みんな、もしかして、さっきのこと、ほんとは、かなり怒ってるの?やめてー!!!」
彼女の絶叫が空に響き渡った。
「お主ら……まぁ、ケガしないようにのぅ~。ナクア、時々、伝心でわたしに無事を伝えるのじゃぞ~、肝心の伝心は時間を見つけて訓練するのじゃぞ」
さすが、自他ともに認める天才グウェンちゃんだ、教育方針が厳しいぜ!
さあ、歌を歌いながら行進していこう。
いざ進めや、屠殺場、狙うはオーク肉、殺したら、皮をむいて、ずるずると啜れ~♪
ついでに、委員長も連れて行こうっと。
次回、今回の話がおもったより長くなった、困ったおっさんは先送りすることにした。さあ、ステータスチェックを行おうではないか。おっさんは結果次第では、神にだって牙を向くかも知れないぞ!




