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10-2

 キッチンへ戻るとテキパキと処理をしている生田万が目に入った。


「これ、五番テーブルにぜんぶ運び終わったら、事務所行って。神田さん呼んできて欲しい。もうすごいの。部活終わりの生徒が十人テイクアウトに来てる。タコスヘルプ!」

「はい!」


 生田万の特徴的な、のびのびとした口調が崩れて慌てふためいているように見えた。

 こんなときでも手だけは的確に動かしていて流石さすがだなと思う。

 一等席に料理を運び終わり、事務所に行って神田を呼ぶ。神田はワイシャツの上から急いでかけたであろう、斜めによれたエプロン姿でキッチンに入って、手を洗っている。


「えっとお、何個だっけえ? とりあえずで作っちゃってるけどお」

 ものすごい勢いで、玉ねぎ数個をみじん切りにしている神田が言う。

 生田万はトマトを切りながら、ときおり器用に才琉が頼んだ注文の鍋の様子見ている。


「十個です。恩田さんはー、ソースの準備手伝って欲しいー」

「わかりました」

「ああ、恩田さん。外は暑いし雨降ってるから、中で待つよう言ってもらえるかなあ」

「はい!」

 神田の指示で、外にいた生徒に声をかける。

 予想通りあざみ川高の人だ。

 男女あわせて十人ほど仲良く来店したようで、レジ前にある空間の椅子に誘導する。


 こういうことはよくある。

 高校が近いから、部活帰りのお腹をすかせた生徒がタコスを買い食いするのだ。

「コンビニがあるのに、ウチに来てくれるのはありがたいよねえ」と言う話題がたびたびあがるくらいには、グラシアスは生徒から認知されていた。



「ああ涼しい! 生き返るー」

 女生徒の一人が制服のむなもとをパタパタと空気を送りながら言った。

「もう少々お待ちください。ただいま準備しております」

「あのー、もうすこしって、どれくらいですかー」

「あたしたち、めーっちゃお腹空いてるんです」

 数人の生徒たちがどう調ちようしたようにくすくす笑う。

 いま、光莉はきっと困った顔をしている。


「もう少々は――もう少々です。今、作っています。座って待ってもらえませんか?」

「はぁい。待ちまーす」

「お前ら、お腹空いてるからって、あんま当たんなよ。ごめんね店員さん」

「あー! クニハルが店員さんナンパし始めたあ!」

「してねーし。どこがだよ。あの、待ってますから行ってください」


 集団というのはなんとも恐ろしい。

 とたんに気が大きくなって、訳が分からないからだ。

 とりあえず、この場は何とかなりそうなので光莉はキッチンへ急いだ。


 みじん切りを終えた神田がひき肉を焼いている。

「ええと、ソースのレシピ、どこに貼ってあります?」

「ここに貼ってある。基本小さじだよ。ケチャップだけおおさじ。気をつけてー」

 生田万が言う。

 光莉が計量スプーンで材料を計っているときにホールの方で「才琉」という単語が聞こえた気がしていつしゆん意識がむかった。が、光莉は手一杯でそれどころではなかった。




 高校生のれは嵐のように来店して、嵐のように去った。

 一等席の家族連れも帰って店内には才琉しかいない。

 空いた皿を下げるために席へ向かう。

 パチリと目が合って、同情の色を隠さない才琉が話しかけてきた。

 才琉は光莉の意図を察して、すぐに残りの薄いアイスティーを飲み干している。


「なんか途中からすごかったね。いつもああなの?」

「いつもでは、無いんですけど……」

 グラスの中の溶けた氷がカラリと音をたてた。空になったグラスをトレーに載せる。


「ふうん――ねえ、バイト何時まで? もうすぐあがる?」

「八時上がりなので、あと五分です」時計を見て言う。

「じゃあ、一緒に帰ろ。ねえ、いいでしょ?」

 いつも通りこちらを見ながら、耳をくすぐるような甘ったるい声が聞こえた。

 やや溜めて、こくりと頷く。雨はもう止んでいた。 

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