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深まる謎

……………………


 ──深まる謎



「はあ? 最新の電子ドラッグに古代火星文明の何か……?」


「どういうことだ、李麗華」


 七海とアドラーは李麗華にそう尋ねた。


「そう、これを見て。これは古代火星文明の遺跡で見つかったとされる紋様。まだどういう意味なのかは解析されていない。そして、こっちはG-APPのコードを解析した結果得られたコード。比べてみて」


「!? このふたつは類似している。コードが古代火星文明と同じ紋様を描いている。まさか、そんな……」


 李麗華が古代火星文明に残された紋様と解析したG-APPのコードを並べる。


 G-APPのコードは複雑な古代火星文明の紋様と同じ図を描くように記されており、ふたつには類似性があることが分かった。


「待て、待ってくれ。これが古代火星文明の紋様? これって……」


「どうしたの、七海?」


「俺、この紋様の意味を知っている」


 そこで七海が呟くようにそう言った。


「知っているとは? 前に見たことがあるのか?」


「これは魔術について記してある。それも死霊術だ。カーウィン学派の死霊術に関するもので、これは魂を操るための魔術だ!」


「し、死霊術? カーウィン学派?」


 今度はアドラーと李麗華が首を傾げる番だった。


「えっとな。死霊術ってのは死体と魂を操る魔術だ。ゾンビとか幽霊とかを操る魔術だと思ってもらえば間違いない。死体に偽りの魂を宿させることで生み出されるのがゾンビ、幽霊は死者の魂を束縛して操る」


「それがこの古代火星文明の紋様だと? お前は異世界でそれを学んだのか?」


「ああ。異世界でこの手の魔術ついて教わった。火星ではなくてな」


 アドラーが真剣に尋ねるのに七海はそう答える。


「ふむふむ? 異世界の魔術がどういうわけか、私が調べている古代火星文明の遺跡にその痕跡を残していた、か。どういうことだろうね?」


「さあ。その点はさっぱりだが、俺がずっと考えてきたことがある。どうして俺は地球ではなく、火星に送られたのか、だ」


 李麗華が述べるのに七海はそう語り始めた。


「俺を召喚したときの召喚魔術は正確だった。俺はピンポイントで異世界に召喚された。なのに返す時にはちょっとって誤差じゃないレベルで間違っている。それには何か理由があるんじゃないかと思うんだ」


 七海が言うように召喚したときは正確に七海を捉えた異世界の魔術が、返すときにだけここまで大胆に間違ったのには理由があるように思われる。


「それに、だ。もし本当に当てずっぽに帰還させたとしたら、宇宙空間に放り出される可能性の方が大きかったはずだ。だって、火星の面積より、宇宙空間の方が広いだろう? そういうわけで俺は火星に何かがあると思うんだ」


 七海はそう自分の推測を語った。


「確かに七海の言うことには一理ある。火星に何かの要素があって、異世界と繋がっている。古代火星文明のそれや、七海がここに現れた理由を説明する何かがある」


「けど、今は情報不足で推測にしかならない。そして、あたしたちが異世界に行くのが難しい以上、できることは火星の側での要因を探すってことだけだ」


 アドラーと李麗華は七海の推測にそう言う。


「話が脱線しちまったが、誰のバックアップ・コンストラクトを探すんだ?」


「君の話の後でこの話をするのも妙なことだけど、カール・セーガン火星大学の教授であったラーシド・アル=サフィーって人間のバックアップ・コンストラクト」


「予想するにそいつは古代火星文明について調べているんだろう?」


「正解。彼は古代火星文明について調べていた」


「過去形?」


「彼は既に死んでるんだよ、七海」


 ラーシド・アル=サフィーは死人だ。既にこの世にいない。


「だから、バックアップ・コンストラクトをというわけか」


「そう、彼は古代火星文明について調べていた研究者のひとりだけど、彼はほとんど著書を残していない。論文はたくさんあったけどインフィニティが圧力をかけて全て非公開にしちゃったしさ」


「またインフィニティか……」


 火星歴史博物館で古代火星文明について調べていたのもインフィニティだ。


「けど、今回は別にインフィニティを敵に回すわけじゃない。彼はインフィニティに雇われていたわけでもないし、彼のバックアップ・コンストラクトを保存している情報保全会社(インフォセック)もインフィニティとは無関係」


「オーケー、オーケー。俺としても解き明かしたい謎になった。協力するよ、李麗華」


「ありがとう、七海ー!」


 七海としても火星、異世界、そして自分の関係は解き明かしておきたい。


「七海がやるなら、私も手伝おう。相棒だからな」


「ああ。やってやろうぜ、アドラー」


 アドラーがそう応じ、七海がニッと笑う。


「それで、情報保全会社(インフォセック)からラーシド・アル=サフィーのバックアップ・コンストラクトを抜く方法は?」


「いろいろと考えてあるけど、穏便にやりたいと思っている。どんぱちはなし」


「そいつは賛成だ」


 七海はついさっき航空宇宙軍とドンパチしてきたばかりである。


「いつものようにID偽装でいくのか?」


「情報保全会社(インフォセック)は商売上、下手なIDで近づけば余計に警戒される。何せ個人情報管理の専門家たちだから。よって方法はひとつしかない。そう、内部の人間と取引する」


「情報漏洩を誘うわけか」


 李麗華が示した方針にアドラーが納得。


「しかし、どうやって取引を? 俺たちにはそんな金の余裕があるわけでもないし」


「そもそも金銭で買収できる相手でもないよ。取引ってのは要は脅迫」


「ほう?」


 七海が李麗華の言葉に興味を示す。


「ラーシド・アル=サフィーのバックアップ・コンストラクトを保存している情報保全会社(インフォセック)はスーパーエゴっていう会社。そこに勤めていて、バックアップ・コンストラクトを抜ける立場にある人間は既に調べておいた」


 李麗華はそう言って情報保全会社(インフォセック)のひとつスーパーエゴと呼ばれる会社に勤めている人間のデータを送る。


「オーウェン・ホンダ。スーパーエゴのチーフシステムエンジニア、か」


「この人物を罠にかけて、脅迫する。それがあたしが示す作戦だよ」


「しかし、脅迫に使うネタは?」


 アドラーはそう李麗華に尋ねる。


「それはこれから作るんだよ。既に調べてある情報によれば、彼は妻帯者で子供もいる。だけど、どうやら夜遊びが好きみたいでさ。もちろん奥さんには黙っているのは言うまでもないよね」


「ははあん。古典的なハニートラップだな?」


「イエス! 彼を甘い罠にかけてしまおう」


 ハニートラップとは性的関係をネタに相手を脅迫するなどの諜報技術のひとつだ。


 李麗華の調べで既に問題のホンダが夜遊び好きであることは判明している。あとはちょっとばかり手を加えれば、ホンダを脅迫できるネタになるだろう。


「オーケー。まずはそのホンダって男を尾行しないとな。どこでどう遊んでいるかを調べないと脅迫のしようもない」


「そうだな。まずは調査だ」


「というわけで、情報収集から始めるってことでいいか?」


 七海がそう李麗華に尋ねた。


「もちろん。あたしの情報だけだと不完全だから、まずはホンダを徹底的に調べ上げないと。調べ上げたのちは協力して彼を罠にはめよう」


「よし。そうと決まればまずはスーパーエゴの社屋に行ってみるか。そこから帰宅するホンダを尾行して、やつが何をしているかを調べるんだ」


「スーパーエゴの住所を送った。大きなビルがあるからすぐに分かるよ」


「あいよっと」


 七海は李麗華からデータを受け取り、マンションからスーパーエゴの本社に向かう。スーパーエゴの本社は当然のことながらオポチュニティ地区にはなく、それが位置しているのは火星の中心部であるカール・セーガン地区だ。


……………………

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