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枕は我が家を救う

 枕を新調したのだが、それが非常に良かった。

 

 かねてよりいびきがひどく、毎朝目を覚ますと鼻の奥に痛みを感じており、いつしか寝起きの声もしゃがれるようになっていった。しかし、一ヶ月もすればその状態に慣れてきて、一年も経てばそれが当たり前になり、違和感すら抱かなくなっていた。

 

 それではなぜ、今さらになって新調しようと思ったかというと、一緒に寝ている愛しい我が子が夜中に私のいびきで目を覚まし、そのけたたましいいびきの音に、恐怖のあまり泣き叫ぶようになってしまったからである。

 

 気持ちよく寝ているところを起こして恐怖を与えてしまう申し訳なさはもちろんのこと、こちらも気持ちよく寝ているところを突然の叫び声で起こされるので心臓に悪く、お互いに恐怖を与え合う関係性になりつつあり、困っていた。

 

 そのため、早急にいびきをどうにかしなければならないと思ったのだが、私は今までいびき対策など、しようと思ったこともなければ考えたことすらなかった。そこで、もともといびきで悩んでいた夫に相談することにした。

 

 思い立ったら即行動派なので、朝起きてすぐに夫の書斎へと向かった。すると夫は、私がいびきの『い』の字を出すやいなや「枕だな」と言った。恐らく、私のいびきが夫の書斎まで響いていたのだろうが、それにしても凄まじい察知能力だ。

 

 夫は一緒に暮らし始めたころから、私の「ゴオオォォォオオオオ」というドラゴンの鳴き声のようないびきを聞いたり、くたびれた枕を見たりしては、その度、自分に合う枕を買い直したほうがいいと打診してきていたのだが、私はそれをことごとく受け流していた。

 

 もちろん、聞かないふりをしたことには理由がある。その枕は交際が始まって間もない頃、夫が初めて買ってくれたものなので、非常に想い入れがあるのだ。取り急ぎ選んだため自分の体には合っていないだろうし、早々にくたびれてしまったのだが、初めてのプレゼントだと思うとそう易々と変えることができなかった。

 

 (それにしても夫は、そんな大切な思い出の詰まった枕だということなどすっかり忘れ、しかし一方で、私の体を思いやって買い直しを勧めてくれるものだから、酷なのか優しいのかいまひとつ決めがたい。)

 

 だが、とうとう思い出よりもいびきを止めることを優先しなければならないときがきた。そうでなければ、いつまでも子どもは私に起こされ、その子どもに私も起こされ、二人揃って寝不足の日々が続いてしまう。この日々に終止符を打たなければならないと思い、満を持して新調することにした。

 

 デパートの寝具売り場に行くと、既製品とオーダーメイドの見本品が並べられていた。わざわざオーダーメイドにするのもなぁと思いつつ、一方で、ここまできたら割り切って高値でこだわり抜いた物を選んだほうがいいのではないかと自問自答を繰り返していた。

 

 しかし、惜しまずにお金を出して上質な眠りが手に入るなら安いものだが、この期に及んでも枕にそこまでの信頼がおけていない私は、買って失敗だったと嘆く自分ばかり想像してしまい、とうとうその場に立ち尽くしてしまった。

 

 見かねた店員が私のところへきた。店員は、枕の高さがわからないので、実際に寝て試してみて、ちょうどいい高さを見てくれると言った。とうとうオーダーメイドに手を出すときが来たかとそわそわしたが、店員はそれを雰囲気で察したのか、あるいは、たまたま既製品で間に合ったのか、オーダーメイドには一切触れることなく、既製品でしっくりくるものを見つけてくれた。

 

 そして、使っているマットレスの硬さによっても使い心地が変わるらしく、試したときに使用したマットレスより自宅のもののほうが硬くても柔らかくても、枕のクッションを出し入れして高さを調節することで自分に合わせられるものにしてもらった。

 

 自宅に帰り、既製品とはいえ今まで使っていた枕の何倍もする高価な枕をマットレスの上に置き、どうか無駄な買い物になりませんようにと願いながら眠りについた。

 

 翌朝起き上がると肩や首の痛みがなくなっており、そこで初めて「体ってこんなに軽かったんだ」「私ってずっと不調だったんだ」と気づいた。そして、件のいびきだが、鼻の奥の痛みや喉のしゃがれもなく、娘の叫び声も上がらなかったことから、恐らくかかずに眠れたのだろうと思う(夫に聞きたかったが、夫のほうが遅く起きたため聞こえておらず、確認できなかった)。

 

 いたるところで枕選びは重要と聞いてはいたものの、まさかここまで実感することになるとは思ってもみなかった。


 こうしてようやく我が家に平和な夜が訪れた。私の信頼を得た枕は、今夜も私に快適な睡眠を与えてくれる。

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