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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第五章 男には男の女には女の戦場があるという
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色情に堕ちている聖女

 クラインがアラメアに、私に虐められていないか、なんてふざけた質問をした。

 その質問に笑えないのは私だけであったようだ。

 朝食の席の出席者は、男性陣だけであるが、笑いをこらえて鼻を鳴らした。


「ご安心なさって、わたくしが監督しております」

「ええ、ええ。ロセア様のおっしゃる通り。ご心配は無用ですわ」


 母は勿論、アラメアの言い方!!

 私がアラメアを虐める人でしかないと、男性陣に訴えたも同然ですわよ。


 実際は、私に脅えるアラメアの為に私こそベッドルームからロセアによって追い出され、サロンの床で毛布に包まって一夜を過ごさねばならなかった、というのに。


 私は全てを忌々しく思う自分を抑えられないと、カップをテーブルに戻した。

 そして、ナフキンを膝から取り上げて立ち上がった。


「ご馳走様。先に失礼させていただくわ」


「リイラ?あなたのその子供じみた性質で聖女に取り込まれなかったのは救いでしたけれど、一人の大人としてその振る舞いはどうかしら?」


 私に咎める声をあげたのは、私を聖女に仕立てた事に罪の意識など抱く事など一生無いであろう、私の実母である。私はロセアを見返し、化け物から解放されようが彼女は彼女のままだったと心の中で溜息を吐いた。

 ロセアは変わらない。

 リイラの記憶を取り戻した事で、私の中から母への思慕が綺麗に消えるとは、本当に皮肉な話である。


 母は父の生前から父が稼いだ財産どころか父が親から引き継いだ財産もすべて、神の名のもとに次々と教会に寄進してしまった人なのだ。

 神の為ではなく、コミュニティにおいて自分の立ち場が大きくなるから、だ。


 納めるものが無くなれば借金してでも寄進する。

 父はそのために大金を稼がねばならなくなり、リスクの高い航海にて命を失い、私達は住む家を失った代りに自宅だったその家の女中となったのだ。


 レブチア伯爵家に感謝して貰う事など一つも無いのよ。

 雇ってもらわねば私達こそ屋根のない場所で飢え死にしていたはずだもの。

 善人であろうとする事は良い事だけれど、母は自分を取り巻く全てが神の意思としか考えない。神の願い通りの、いいえ、周囲に称賛される人を演じるだけの人でしかない。神を否定する事になるならば、愛する家族を捨て去ることも平気な人なのだ。


 きっとロセアには、サーレ神を否定する私はあの化け物達と同じ存在であり、神を信じているばかりに試練を受けてしまったアラメアは、彼女が守るべきか弱き羊なのだろう。


 さらに言えば、真実を聞かされたロセアには、アプリリスは薄汚い存在である。

 神を信じて神が望む貞淑な女性であろうとするロセアには、アプリリス神殿の聖女に色情に負けた者こそ選ばれた事実など到底受け付けられないのだ。


 色情。


 確かに私はアラメアと自分の肉体を比べて、自分の体が男性の気を惹けるかどうかなんて計ってしまった。

 ええ、否定など出来ない色情狂だわ。

 でもそんな事をしてしまうのは、クラインが昨晩から私に冷たいからだわ。


 そう、私はクラインの気が引きたくて堪らないのよ!

 これが色情でなくてなんなの?


 でも、三年前のリイナにはそんな事など考えてもいなかった。

 クラインの事が大好きでも、肉体的に彼を求めたりしてはいない。

 でも?

 だからこそ?

 クラインは過去の私も性的に彼を求めていると思ったから、私が気持ち悪くなって距離を開けようとしている?


「リイナ、お座りなさいな」


 私は母の言葉にはっとしてもの思いから覚めた。

 しかし、もの思いにふけったからこそ、今すぐにこの朝食の席から立ち去りたくて仕方がない。それに私は女官達に君臨してきた三年だってあるじゃない。


「リイナ?」


「ごめんなさい。お母様。私はアプリリスとして振舞うことに慣れていましたから、誰の指示も受けたくないの。私は私で動きます」


「そうでしたねえ。アプリリス様は常にお一人の行動を取られていました。手伝って下さいの一言が言えず、お一人様で苗の植え付けをされるとか、ねえ」


 クラインの嘲りに私の頭はカッと沸き立ち、私は手に持っていたナフキンをテーブルに乱暴に置いた。そして怒りのまま、クラインのところに向かって行った。

 まあ!なんて嬉しそうな顔で私を見返しているの?

 私を揶揄うのがそんなに楽しいの?


「本気で意地悪な男ね」


「お兄さんは意地悪なものだろ?」


「何よそれ。その遊びは何なのよ!」


「俺も知りたいな。お前が俺に何を望んでいるのかな?俺はお前が望む通りに、お前のお兄さんでいてあげているというのにな!!」


「確かに昔もリイナを揶揄っていたけど、兄さんはそんな言い方をリイナにした事はないよ。どうしたの?」

「うるさいな、セニリス。お前は黙って自分の女を口説いてろ」


 クラインは再び私を見返した。

 物凄く偉そうに、ふんぞり返って。

 心なしか私に向けて体を開いて見えるのは、私の勝手な思い込みかしら?


「さあ、聖女サマの望みを聞きましょうか?」


 あなたの腕の中に入ることだと言ったら、あなたはどう答えるのかしら。

 私は時間を巻き戻したいと思った。

 リイラを食べた聖女と自分を思っていた時に戻りたかった。

 クラインと抱き合ってベッドに入ったあの時に戻りたい。


「あなたは昨日どこの部屋で寝たの?」


「急になんだ?俺が誰のベッドに潜り込んだのか興味があるのか?妹として?」


「誰かのベッドに潜り込んでいたの?」


「だとしても君には関係ないのではないのか?」


「そうですよ。リイナ。あなたはクライン様の婚約者でも無いどころか、クライン様をそろそろ自由にして差し上げるべきです。そしてあなたは、サー」

「お黙りなさい!!」


 なんてはすっぱな大声を出しているの、私は。

 私はあの百戦錬磨な女官達にもまれてきたはずでしょう。

 私は高慢そうに顎を上げ、クラインを見下ろすようにして睨みつけた。


「いいえ。一人部屋だったらベッドを貸して頂けたらって思っただけよ。昨日は床に寝る羽目になったから、体は痛いし眠くて仕方が無いの」


 クラインは大きく舌打ちをすると、自分の膝のナフキンをテーブルに乗せた。

 彼の椅子は大きな音を立てて後ろに下がった。

 彼が乱暴に椅子から立ち上がったからで、そんな彼は酒場の荒くれのようにして私の腰に腕を回してきたではないか。


「クライン?」


「昨晩は床に寝た?この馬鹿が。ほんっとにお前は誰にも助けを求めやしない。ほんっとにムカつく女だ」

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