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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第四章 ここは難攻不落の城だった
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お食事はこちらへ

 真っ暗なベッドルームのベッドの上で、私を抱きしめる彼と彼を抱き締める私は、お互いしかこの世界に存在しないという風に唇を合わせていた。いいえ、互いを求めあわねば消えてしまうという風に抱き合い口づけあっていたのである。


 カチッと互いの前歯がぶつかった。

 クラインはクスクス笑いながら、私の鼻の先に軽いキスを落とす。そのキスは私を宥めるように、だった。では、しゃにむに相手にしがみ付いて相手を貪ろうとしていたのは、私だけだったのだろう。


 それは仕方がない事だ。

 私はクラインを愛しているのだ。

 彼が私にリイラを投影していなかったとしても。


 いいえ。

 私は彼のその気持ちを知っているからこそ利用して、私をリイラだと思わせながら、必死に彼を自分に縫い付けようとしているのだ。


「り」


 私は彼がリイラと唱える前に彼の口を塞いでいた。

 ただ唇を唇で塞いだだけでなく、私は両腕で彼にさらにしがみ付き、彼の胸に自分の胸を押しつけてもいる。リイラであろうと振舞いながら、リイラと彼に呼ばれたくは無いだなんて、なんて私は自分勝手なのだろう。

 けれど、クラインは私の行為を好意的に受け取っただけのようだ。

 クスクス笑いだった彼はさらに笑い出し、私を抱く腕に力を込めてきたのだ。


 パッ!!


「きゃあ。いやだ」


 私は叫んでいた。

 急に部屋が明るくなり、それはまるで発情した犬に水をかける行為にも似て、私は自分の浅ましさを思い知らされたと慌てたのである。


「おい!!」


 クラインが不機嫌な声を上げたのは、部屋が明るくなったからというよりも、私が自分を守るためだけにクラインの体を押しのけてしまっていたからであろう。

 私に押しのけられたクラインは、コロンと仰向けに転がると、天井に向かって本気で忌々しそうな言葉にならない声を上げた。それから彼は私を罵るどころか、上半身裸の私に毛布を掛けてくれたではないか。


「ありがとってきゃあ」


 仕返しのようにして私のお尻を叩くとは、もう!!

 何か言い返そうと私は毛布を顔から捲る。あら、クラインは既にベッドの上に胡坐をかいた姿で起き上がっており、私達の邪魔をした戸口に立つ男を睨みつけているではないか。


 戸口には、アトロフスカの陰の支配者と噂の、ケレウスの執事じいやがいた。


「クライン様。夕餉のお時間ですので案内に参りました」


 あ、ジョーゼフはクラインの睨みなどどこ吹く風という風に笑顔で流した。クラインが自分に向けた怒りの眼光など、アトロフスカ城主のじいやな彼には、叱られたばかりの子供が大人に向ける反抗的な眼つきでしかないのであろう。

 あ、クラインが牛みたいに唸った。


「腹が空いたら勝手にするよ。今までだってそうだろう」


「本日は本日の大事なお話し合いもありますので、食堂ではなく伯爵様の執務室にご用意させて頂いております。どうぞ移動を、クライン様」


「それは、俺だけ来い、ということか?ジョーゼフ。俺は、しんこん、だって君に言わなかったっけ?」


「存じあげているからこそ、です。泥臭い話し合いに新婚の奥様を巻き込まれるのはどうかと思いますよ。セニリス様は我儘も言わずにすでに席についていらっしゃいます。弟君が兄上様の真似をしてもよろしいのであれば、どうぞ、お好きなように」


「弟が俺の真似をして銀髪女としけこむってか?確かに次期レブチア伯爵様が身元の知れない女とよろしくなったら俺の親族達は困るかもな。俺はいっこうに構わないけどね」


「セニリス様の想い人は他にいらっしゃると私は聞いておりますが?」


「じゃあ尚の事、セニリスはその銀髪に癒して貰う必要があるってことだよ」


「さようでございますね。リイラ様が聖女に食べられていた、とは、なんとむごいことでございましょうか」


 私はびくっと体を震わせてしまった。

 私はセニリスの希望までうち砕いていた?

 ぎゅっと私の肩をクラインが毛布越しに掴む。

 私を宥めるため?あなたこそリイラの死を思い出したという苦しみ?


「失意の中での判断は不幸しか呼びません。そうではありませんか?絶望を癒そうと手近な欲望に身を任す、よくあることです」


 クラインは私の肩を掴む手に、さらに力を籠めた。私は再び身を震わせていた。

 ぎゅうと掴まれた肩の痛みによってではなく、ジョーゼフの台詞によって、だ。


 ジョーゼフはセニリスについて語っているようだが、その実、クラインこそを諫めているのだ。


 ジョーゼフはクラインの嘘を真に受けている。

 それでのこの当て擦りに違いない。

 きっと私との結婚をクラインがリイラを忘れるための代替行為だと心配して、恐らく彼にとっては大事なクラインを私から引き離そうとも考えているのだろう。


「いや、だから」


 クラインが珍しく口ごもった。

 結婚が嘘とは言えない。

 嘘と言えば私を聖女として、いえ、リイラを殺した化け物として、クラインこそが私に手を下さなければいけなくなる。


 クラインこそ、リイラ奪還の為だけに全てを捨てて生きてきた人だったではないか。だからこそ、私をリイラと見立ててリイラを故郷に連れ帰る、という旅をする事をクラインは決めているのではないのか?


「あなた?私は一人でも大丈夫よ。食事の後はあなたと一緒なのでしょう?」


 私の肩を掴む手はゆるみ、その代わりという風に毛布越しに温かな唇を頭の天辺に感じた。クラインが私の頭頂部に口づけたのだ。


「ラブ。夕飯の前のひと時よりも、夕飯の後の方が朝までずっとの素晴らしい時間があるって思い出させてくれてありがとう」


 体が震えてしまったのは、クラインのかすれ声が素晴らしかったからだわ。

 クラインは私の震えを知って、さらに喉を鳴らして笑い声を立てる。


「クライン様」


「行くよ、行く。ジョーゼフ、君の優しさに俺は気が付くべきだった。俺達が飯を取っている間に、君は俺達の為の客室を整えてくれるんだろう?」


「部屋は用意してございます。守られるべきご婦人は、本日のこの動乱からできる限り遠ざけてさし上げるのが男の仕事。ロセア様、アラメア様、そして、ジアーナ夫人がお休みになれるように領主夫人のお部屋にベッドを三つ揃えさせていただきました」


「お前!!」


「クライン様。今日のお仕事は今日中にお片付けされましたら、明日には明日のご予定を立てられるのでは無いですか?」


 クラインは毛布越しでも聞こえるぐらいに、大きく歯ぎしりの音を立てた。

 そして、どうして私のお尻を叩くのよ。

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