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聖女の相棒は横暴な聖騎士様  作者: 蔵前
第二章 逃亡中にて
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いばりんぼは褒められるのに慣れていない

 私のした事を察したらしいクラインは、私に旅行用ドレスを着せるのを諦め、私が男の子の扮装を続けることを受け入れた。

 だが、その諦めた分彼は不機嫌であり、宿の食堂のテーブルに着いた時など、テーブルを挟んだ私こそを喰ってやりたいという威圧感ばかりであった。


「信じられないが、君は自分が生きている可能性ありな行動を取ったんだな?」


「守り石を壊すわけにはいかなかったし」


「ど阿呆が!お前が壊せば二つ目だ。影響がしっかり出たはずだ。そうすりゃ、いかな間抜けだろうが、これ以上の聖女の粛清は危険だと思い知るはずだった」


「これ以上の聖女の粛清は危険って、ああ、あなたは本当に聖騎士だったのね。私だけでなく、出来る限りの聖女の安全を考えていらしゃったのね!」


 私はクラインの本当の一面が知れたと嬉しくなり、両手の指を組んで祈りの手にすると、我らが神様に感謝という祈りを捧げた。


「我らが神、サーレ様。慈悲深き御心によって我がもとに救いの希望、騎士ジアーナをお遣わし下さったことを感謝いたします」


「皮肉は止めてくれ」


 え、皮肉?

 クラインは言葉を続けるどころか忌々しそうに溜息を吐き、次には鼻の頭に皺を寄せて私に顎をしゃくった。彼の動作を受けて視線を動かせば、皿を持った宿の給仕人が私達のテーブルの横に辿り着くところだった。

 そうね、私達の正体がバレたら大変。


「お待たせいたしました」


 私達の目の前に同じ内容の朝食の皿がそれぞれ置かれた。

 緑の葉野菜が皿の縁に置かれ、皿の中央には目玉焼きとハムと溶けたチーズが乗っている薄い茶色のシートの様なものが鎮座している。

 初めて目にした美味しそうな料理だ。

 私は嬉しいばかりとなって顔を上げ、そこで凍った。


 クラインが給仕人にチップを渡しているところでしかないが、とっても肉感的な給仕人とクラインがイチャイチャしてるようにしか見えないのだ。

 コインを指先で摘まんでいるクラインの手に彼女は不必要な程に触れていて、クラインの手を自分の豊満なる胸に押し付けながらコインを受け取っているのだ。


 いいえ、クラインこそ彼女の胸の谷間にコインを落して喜んでいる?

 あなたは聖騎士でしょう!


 クラインは私の視線に気が付き私を見返したが、それ見た事かという風な軽く左眉をあげての彼の視線だった。

 男の子の格好をした私では、クラインが女性と戯れても注意出来ない。

 いえ、そんなことないはず。


「姉さんに浮気したって言いつけるよ」


 給仕人を追い払うためにクラインには妻か恋人がいると誤解するような台詞を吐いたのだが、クラインは私のせっかくの行動を台無しにした。

 給仕人の手を取って上手に自分に引き寄せると、彼女の耳元に何かを囁いたのだ。彼女は媚態という言葉がぴったりな振舞い、クラインの肩にしなでかかるようにして手を置いただけでなく、婀娜っぽい笑い声も立てた。


「まあ、ウフフ。悪い人ね」


「頼んだよ、俺の為に」


「かしこまりました、あなた」


 あなた?

 給仕人はクラインにキスの真似事みたいにアヒルみたいに唇を突き出したあと、アヒルのようにお尻を振りながら私達のテーブルを去って行った。

 私は料理をクラインとあの給仕人だと見立ててフォークで乱暴に突き立て、苛立った勢いで大きな塊を口に抛り込んだ。


「あらやだおいしい。なあに、これ。凄く美味しいわ」


「あ、食べた事が無かったのか?小麦が育ちにくいこっちの郷土料理だろ?小麦粉代わりにサラセン(ソバ)の粉で作ったお焼きだよ」


「ま、まああ。サラセンでこんなおいしいものが出来たのね。サラセンは団子にして野菜スープで煮て食べるものばかりだと思っていたわ」


「哀れな!俺のお陰で君は初体験か」


「ええその通りね。素敵な初体験をありがとう」


 私は数分前にクラインに苛立たせられたことも忘れ、彼にお礼を言っていた。

 だって本当に美味しい料理だし、こんな料理を食べられるのは彼がこの宿を選んでくれたからだもの。


 あら、クラインが咽た。

 頬や耳が赤くなっている?

 もしかして、クラインは人から素直に感謝されるのに弱いの?

 だからわざと憎まれ口を余計に叩くの?


「世知に長けていらっしゃるあなたと一緒なら、これからももっと色々な初体験をさせていただけるのね。ええ、期待ばかりよ」


 さらに咽た。

 クラインは拳にした左手を口元に当てて顔を俯け、その代わりのようにして私に右手を閃かせた。その手の動きは、良いから黙って食え、ね。

 なんだか、勝った、気がした。

 私は勝利感に浸りながら、サラセンのお焼きにさらにフォークを入れた。


「ああ本当に美味しい!」


 美味しい料理って、どうしてこんなに人を幸せにするのかしら。

 私は本気で感謝いっぱいのまま、クラインを見返した。


「あら」


 クラインは数分前が嘘のように機嫌が悪そうになっていた。

 テーブルに肘をついた右手に頭を乗せ、左手に持つゴブレットの中を敵のようにして睨んでいるのだ。

 どこから見ても二日酔いでひどい頭痛に悩まされている人である。

 私は急にどうしたのかと聞こうとして、クラインがゴブレットの中の水を現状を探る水鏡にしているということにすぐに気が付いた。

 私達が聖騎士と聖女と見咎められてはいけない。

 周囲に魔法を使っていることを知られないように、あなたは本当に気を付けていらっしゃるのね。


「ここまでとは」


「え?」


 物凄く不機嫌で低い声をクラインは出した。その上私には聞き取れない言葉で罵りの言葉を一つ二つ吐いた後、彼は乱暴にゴブレットをテーブルに置いた。


「お前さ、俺が体を張ってお膳立てした事を全部台無しにしやがったな」


「え?」


 演技どころか周囲の誰もの目に映っている通りに、クラインは普通に機嫌が悪くなっているだけだった。

 それも私がした事を知って!

お読みいただきありがとうございます。

そば粉といえばガレットですが、

異世界なのにガレットと言っちゃっていいのかな、とお焼きにしました。

だったらサラセンと書かずに別の名称を作ればいいのに、ですが、

そばと書けば、小麦が育ちにくい乾燥地で寒冷地でも育つ、という説明をしなくともいいかな、と。

正直に言えば、私に新名称作る技能が無い事が一番の理由ですが。

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