私が華々しく自爆する必要があったのは?
お読みいただきありがとうございます。
その上、誤字脱字報告までして下さり、本当にありがとうございます。
クラインはゴブレットの水を水鏡にして現状を探っていた。
そして、私がしでかした事態を知ったのだろう。
彼は私を見据えながら、私の方へずいっと身を乗り出して来たのである。
周りのテーブルには聞こえない囁き声を出して、私を叱責するために。
「どういうことですかと説明して欲しいですよ?生きている可能性ありを匂わすどころか、ぜったいに生きているって分かるようなことを成された訳を、ね」
うわあ、初対面の頃の慇懃な喋り方をされてる。
私はクラインから目を逸らした。
クラインは親が子供を叱る時にするように、テーブルをトントンと叩いた。
「いいからこっち向け。どういうことだよ?壊すべき神殿こそ無傷で粉々になったのは治療院だけ。これじゃあ、お前は逃げましたって、大声で公言しているも同じじゃないか」
「クライン。罪のない人達を巻き込んで死なすわけにはいかないでしょう」
「神殿は無人だったよな?俺の命懸けの芝居で、神殿や治療院にいた奴は全員、そこから遠くに逃げて行っただろう?民を巻き込みたくはない。そこは当たり前で同感だ。だが神殿と治療院だけはね、お前が死んだと誰もが思えるぐらいの大破壊をして、そこに地獄の入り口ぐらいの大穴を作り上げて欲しかったな」
「だって、治療が必要な人がいたらって思ったら壊せないわ。治療行為が出来るように、どちらかは残さないと」
「治療なんざ、治療できる奴がいれば何とかなる」
「治療するにはお薬は必要だわ。まともな治療が受けられなくなったら皆が困るわ。それが分かっていて、薬草庫のある神殿を壊せるわけなどないでしょう」
「そここそお前を殺そうとした奴が被るとこなんだよ」
「罪のない人達が不都合を被ることこそいけないわ」
「それで罪のないお前は自分を一生の囚人にしていたのか」
「クライン?」
クラインは私の聞き返しに大きく舌打ちしただけだった。それから彼は自分の顔を右手で拭い、椅子の背もたれに脱力した様に寄りかかり天井を見上げた。
「俺は何してんだろうな」
そう呟いた彼は、天井に向かって大きく息を吐き出した。
呆れられた?
「ごめんなさい。私は独りよがりだったわね」
「そうだな。一人ぼっちだったな」
「クライン?」
「君は今まで一人ぼっちだったんだ。仕方がない。俺も独りよがりだった」
私を庇った?慰めた?
私はクラインをまじまじと見つめると、クラインは面倒くさそうな顔をしながらそっぽを向き、私に向けて左手を閃かせた。
「良いから食べろ。この先はゆっくり飯が食えるとは限らない」
「ごめんなさい」
急に食欲を失った。
けれど、今度こそクラインが用意した心遣いは無にしてはいけないと思いながら、私はお焼きに再びフォークを入れた。
「おいしい」
私の食欲は一瞬で戻り、すると、向いに座るクラインがクスッと笑った。
それから彼は私に対して目尻を下げて微笑む,なんて顔を向けたではないか。
再び私から食欲が消えた。
なぜか胸がいっぱいになったのだ。
「クライン」
「いいから食べろ。君はもう少し太った方がいい」
「あなたは優し――」
「鳥ガラじゃ無くなれば、アプリリスじゃ無いって誤魔化せるからな」
「あなたは!」
「見つけたぞ、聖騎士ジアーナ!いいや、大逆臣ジアーナ!」
大声は食堂中に響き渡り、椅子の脚が床を擦る音がそこかしこで起きた。食堂にいた人達が、これから起きる事に巻き込まれる前に逃げ出そうと、次々に席を立ったからである。
食堂の両開きの扉が大きく開いていた。
自警団風の武装した男達の一群が、そこから次々と食堂に入ってきている。
そしてこの状況を作りクラインを逆臣呼ばわりしたのは、クラインと同じぐらいの年齢で、今のクラインと似たような格好をしている優男だった。
いいえ、優男はよく言い過ぎだわ。
クラインが着ているジャケットやパンツよりも派手派手しいものを着ていても、クラインよりもしっかりと髪を整えていても、クラインと同じ金髪碧眼でも、彼がそこいらの酒場のチンピラにしか見えないのだから。
けれど、クラインを追い詰めたと確信したチンピラ男は、クラインへの勝利感に突き動かされたのか、更なる罵倒の声を上げた。
「お前の横にいるのが聖女だな。ハハハ!目立つお前に守られて可哀想に。どんなに隠れても、お前のせいであっさり見つかってしまう!」
私は何となくクラインを見つめてしまった。
男の台詞のせいで気が付いてしまった事があるのだ。
いいえ、もしかしたら?という疑問が漠然と湧いたのだ。
聖女粛清の号令が首都から届いた時、誰にも迷惑をかけられないと思うが死にたくもない私は、夜陰に紛れて一人で逃げる事を考えた。
けれど、私が逃げ出す前に人の盾が治療院に出来てしまった。
この状態で私が逃げたら、彼ら全員が私を逃がした咎で処刑されるのは確実。
そこで私はクラインの言う通りに治療院の倉庫の箱の中に隠れ、クラインからの逃亡の合図を待つことになったのだ。
つまり私に沸いた疑問とは、クラインが私に華々しい破壊ばかりを望んでいたのは、自分がぴかぴかに目立つせいで隠密行動が絶対に取れないって考えたからじゃないかしら?それでもって守る対象の私が勝手に逃げたら本末転倒。
だから私を逃がさないために、人の盾など一連の出来事を彼が作ったのではないのか?というものだ。
「クライン?人の盾を作ったのは、あなた、だった?」
「引越しする時にはね、猫は籠に入れとくものだろう?」
いけしゃあしゃあと言って見せた男は、にやっと笑って私に片目を瞑った。
それから彼は男へと顔を向けた後、食堂中に響く大声を上げた。
「よお、ファルマ伯爵。名声のないかかし男よ!女に囲まれる俺が羨ましいか。俺はお前と違って花の蜜みたいに女を呼び寄せるからな」
クラインにかかしと呼ばれたチンピラ風男がファルマ伯爵だったなんてびっくりだが、彼は分かりやすく怒りで顔を真っ赤に染めた。
そして、そんな男がするだろう行動を取ったのだ。
「ち、ちくしょう!成り上がりの騎士風情が!捕まえろ!まずはジアーナの横にいる女だ!」
ファルマ伯爵が指さすと、彼の私兵の一人が動いた。
固そうな黒い棒を武器として持っている男だ。
「く、クライン」
クラインは悠然と椅子に座ったままだ。
私はどうしたらいいのかわからずに動けなくなり、私達に向かって来た男は下卑た笑みを顔に作ると、聖女を捕まえるべく腕を伸ばした。




