第四十八話 最大の進軍
それは明朝のことだった。朝焼け色に染まった、雲一つない空を汚す落書きのように、マゼンタ色の不気味な魔法陣が一つ不意に刻まれた。
それが醸し出す、不気味さに街はざわめき、見上げる人々は得体の知れない恐怖を本能的に感じ取っていた。
しかしこれはあくまで、これから巻き起こる大争乱の幕開けを告げるサインに過ぎなかった。そしてそのことを彼らが知るには....一分と掛からなかった。
「..来やがったな」
その場に既に到着、というか待ち伏せていたライトも、刻まれた魔法陣を見つめていた。
すると、魔法陣から唸るような機械音が低く響き出したのだ。次第にその音は大きくなり、そして目の前に広がった理外の光景に人々は情けなく口を開けた。
巨大な影が街を覆った。その魔法陣からは、太陽の光を遮るほど巨大な宇宙船が送り込まれたのだ。
一瞬の静寂の後、あたりは喧騒で包まれた。だが、それすらもかき消す砲撃が即座に開始された。
砲音が轟くたびに、街からは次々に火柱が上がる。築き上げてきた物は容赦ない力に、無抵抗に崩されていく。
眼前に広がる凄惨な光景に、ライトは唇を噛んだ。そして風車に立ち向かうドン・キホーテのように、巨大な宇宙船に向け、光剣を構えた。
だが船は無機質で、機械音を唸らせながら真っ直ぐ街へ進軍を開始した。
なんとしても進軍を食い止めんと、ライトは追いかけようとした。
しかしその時、その邪魔をするよう船からは電光を帯びた光弾が放たれ、さらにそのエネルギーは徐々に形を魔獣に変えていった。
姿を固めた魔獣は一つ咆哮すると、ライトの前に立ち塞がる。
「足止めか..」
ライトは舌打ちし、刃を光らせた。そして緊張が走った、その時..
『・・・・ライトに告ぐ』
「!!!! (この声は..)」
突如、魔獣は言葉を発した。と言っても、あくまで魔獣自身の言葉ではなく、スピーカー代わりになっているだけである。その言葉の主は、かつてライトにとって畏怖の象徴だった者、魔帝アノウのものだった。
『今から最後の猶予を与える』
厳かな声で、アノウは語りかける。
「猶予だと」
驚くライトに対し、アノウは淡々と続けた。
『直ちにその星を去り、再び余に忠誠を誓うならば..その命だけは貴様のものだ..
だが、もし貴様が余に楯突くと言うのならば..その星の愚かな生命と共に....滅び去るしかない..
死にたくないのならば.. 再び余のもとにつけ、ライトよ..』
その問いかけに、ガラにもなくライトは不敵に笑った。どう答えるかなんて、最初から決まっていた。
「..悪いが断る。一つ言っておくが、もうオレはお前に従う気は1%だって持ってない。お前から離れたあの時から、オレの心は決まってる。この宇宙に生きる命を守ってみせる、てな..
あともう一つ、これはお前が訂正するんだが..」
次の瞬間、魔獣は地面に倒れ臥す。アスファルトが砕け、火花が散った。
「この星の命が、お前なんぞに奪えると思うな!!」
睨みを利かせると、ライトは剣先を魔獣に向けた。
『あくまで楯突くという訳か.. いいだろう.. ならば己の愚かさと無力さを胸に抱いたまま.. その星もろとも......滅び去れ.. 貴様らに、明日はない..』
魔獣が火球を吐く。それをライトはジャンプしてかわし、そのまま背後に回り込んだ。
「オレは明日を切り拓く」
-ズバッッ-
魔獣が振り返った時にはすでに懐、綺麗な斬撃音が響くと魔獣はよろめいた。脚を斬られたのだ。
剣を振ったままにローリングソバット、華麗な連撃だ。
「ブレードショット!!」
至近距離から対遠距離用の光の刃を飛ばす攻撃でさらに追撃、着実にダメージを与えていく。
が、魔獣はかなりタフだ。ここまで三発も手痛い一撃を食らいながら果敢に反撃を仕掛ける。
唾液を撒き散らしながら剣士のライトの腕に嚙みつこうと大口を開けた。
しかし噛んだのは虚空だった。そして反対に、ライトによって剣を首を回され、締め上げられた。
暴れまわる魔獣。だがライトが密着させた剣をノコギリのように引くと、首筋から火花が散った。
「ゴアッ!!」
魔獣が振り向きざまに殴りかかった。
-ガギンッ-
ライトは剣で余裕のガード、勢いで地面を滑るがダメージはゼロだ。
-ゴゴゴ.... バババババッッ!!-
魔獣が口に溜めた火炎を連続で吐き続ける。
-ガガガガンッッ......バヂィィンッ-
「ぬぁッ!! ..チッ!!」
その波状攻撃を剣で弾くライト、だが最後の一発が左肩に被弾、回転しながら地面に崩れ落ちる。
-バゥッ-
が、ライトはその回転中に光の刃を飛ばして魔獣に攻撃、隙に攻め入ることを許さない。
立ち上がったライトは肩の煤を払い、そして脇目で街に砲撃を続ける船を見やった。
「....時間がない..これで決める..」
手に持つ光剣が光り輝いた。そして無駄のない無駄な動きで剣を舞わすと、跳び上がり、そしてドリルのように回転しながら魔獣に突撃する。
「ブレードライナー!!」
-ガガガガガズバシュッッ-
苛烈な一撃によって魔獣の胸は大きく抉れた。が、瀕死とはいえ魔獣はまだ立ち続ける。
しかし、それを見たライトの剣は再び輝く。
「光剣連斬!!!!」
右へ、左へ、光の軌跡が次々に引かれては消え、また引かれる。
-ズバババババッッッ ザンッッ-
その連撃に魔獣は無残に爆散、炎と塵に成り果てた。
「ふん、見たか!!」
飛び散る爆炎を背に、ライトは剣を下ろした。
-ズズーンッ-
「!?」
魔獣は倒れても、船は止まらない。低い砲撃音は未だ轟いていた。そして街の至る所から黒煙が立ち上っていた。
「マズイな.. 早く止めないと..」
険しい顔でライトは剣の柄を強く握った。だが、その時!!
-ガガンッッ-
再び、船から放たれた光球が目の前に着弾し、さっきのソレと同様に魔獣の姿を象った。しかも今度は....
「さらに二体だと!?」
一体だけではなかった。そして二体の魔獣は動揺するライトを挟み咆哮した。
連戦、二体の魔獣を同時に相手取るという状況に追い込まれたライトは、それぞれに対応するためにしきりに首を振る。
-バウッ-
「ッ..」
放たれた火球をライトは前転で回避、が..
-ドェッ-
「グゥッ!!」
すぐさま背後から放たれたもう一発になすすべなく被弾、崩れ落ちた。
-バオッ-
「クッ..」
さらにまた背後から迫る火球、すんでのところで剣で叩き落とす。
-ドンッ-
「ッ..ヴッ!!」
がしかし、容赦ない波状攻撃に対応しきれずまたも被弾、吹っ飛ばされ地面を転がった。
「Gruuu..」
「!!」
顔を上げると魔獣の腕が振り下ろされていた。即座にライトはガード、だが無理な体勢で力が入らずあえなく突破され、またも地面を転がる。
-グシャッ-
「ガハッ..!!」
うつ伏せに倒れるライトを一体の魔獣が踏みつけた。
「..こうなったら!!」
劣勢を覆すため、ライトは真紅のクリスタルを手に取り、そして叫ぶ。
「来い..魔双剣パンドラ!!」
そして魔双剣が召喚されると同時に衝撃が走り、二体の魔獣はともに後退、その隙にライトはなんとか立ち上がった。
「もう好き勝手できると思うなよ..」
ライトが剣で宙に円を描くと、それの環状に沿ってエネルギーの剣が生成される。
「仲良く共に散れ、とっとと!!」
そして生成された剣はアーチを描き、流星群のように降り注いだ。
-ズダダダダッッ.. ズガァァンッ-
剣を浴びた二体の魔獣は、共に一瞬の間を空けて爆散、熱気が伝わった。
が、それと同時にライトは左肩には焼けるような痛みが走り、自身も地面に倒れていた。
「..し....しつこい奴らめ..」
視線の先にいたのはさらに召喚された魔獣、口からは硝煙が立ち上っている。
「こんなところで、足踏みしてる場合じゃねぇんだよ!!」
「Gaaa!!」
-ズババッッ-
「!!」
-ドカァァン-
瞬間移動、そしてすれ違いざまに魔獣を両断。だがまだ終わらない。
「Gruuu..」
「キリがねぇ..」
倒すたびに湧いて出る魔獣、真綿で首を絞めるようにジワリジワリとライトを追い詰める。
そして気づけば四体の魔獣に周りを取り囲まれていた。
-バオッッ!!-
四体の魔獣は完全にコントロールされている。逃げ場のないように火球を放つ。
が、爆炎の中にライトはいない、瞬間移動で離脱していた。
「....ソード・ア・ロット..結合、ソードオーバーロード..」
無数のエネルギー剣を一つに集めてできた巨大な剣を勢いよく振り下ろす。
四体のうち二体の魔獣は真っ二つにされ爆発、残りの二体も爆発に巻き込まれ悶えた、かと思えば同じく爆発した。
「..スラッシュ・ラッシュ..」
痛烈な一閃で、一気にカタをつけた。が、連戦に次ぐ連戦にライトは片膝をついた。
『見事見事.. さて..あと何体持ちこたえられるかな』
またもや四体の魔獣が召喚され、耳を裂く咆哮をあげる。
「キリがねぇ..」
ライトはもはや苛立ちを忘れ、薄っすら絶望感を覚えていた。
「Gruu..」
「....」
-パッッ-
瞬間移動でライトは魔獣たちの前から姿を消した。その移動先はそう遠くない背の低いビルの屋上だ。
「先にこっちから片付ける!!」
空にそびえる船、ライトはそれに狙いを定めた。
-スパッ スパッ..-
空間をX字に斬ると、今にもマゼンタ色のエネルギーが溢れそうだ。
「時空大斬波!!」
それに横棒を加えると、エネルギーは太い光線となって船へと直進する。
-バチィィンッ-
だが命中するも軽々と弾かれる。片手間で墜とせるほど船はヤワではなかった。
「電磁バリアか!?」
-ドゴオォッ-
「ウァァッ..」
それに気を取られているうちに、居場所に気づいた魔獣による集中砲火を受けて地に落ちた。そして這いつくばるライトにアノウの声が響く。
『貴様を倒すことなど、容易いものだ』
「ふざけんな..ふざけるなよ..」
ライトは立ち上がるもフラつき、また崩れ落ちる。
『貴様一人で何が出来る。勝ち目など..ないのだよ』
「ぐッ....ウゥッ..」
ライトの思いに体が追いついてこない。そして、四体の魔獣がジリジリと迫る。
「..(くそッッ.. 力が.. 動け!! 動いてくれ!!)」
しかし願えど、どうしても体が言うことを聞かない。今回の連戦、魔双剣パンドラを操るに必要な膨大なエネルギー、そしてこれまでの一年の戦い、今まで酷使されてきた体が悲鳴をあげていた。
「..(ここまで..か)」
ついにライトがそう思った、その時だった。
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「何諦めてんだ、クズ野郎!!」
「!? (この声は)」
聞き覚えのある声が聞こえた、そして魔獣の前にカッター状のエネルギー弾が炸裂した。
そして、一人の宇宙人が舞い降りた。彼女は魔獣にさらにもう一発をお見舞いした。
「お前を殺すのはアタシだ。勝手に死ぬなんて許さないからな!!」
「....アイカ..」
思わずその名をライトは呟いた。
「ホラ立て!! いつまで寝てんだ!!」
ぶっきらぼうに差し出されたその手を、ライトは掴み、そして再び立ち上がった。
「..すまない」
彼女はライトが立つなり即座に手を振りほどいた。
「不本意だし、不愉快だ。けど仕方ない、勝つためだ。アタシたちの力をお前に貸す」
彼女は早口でまくしたてた。
「ありがとう......たち??」
そのライトの問いに彼女は空を指差した。その空には四つの円盤が浮かんでいた。




