第二十四話 同情はする
「ダメだ、また空振りだ!!」
日も昇らない刻、アパートの一室の玄関扉を開け放ってライトは言った。獣が逃走してから三日が経った..にもかかわらず未だその足取りは闇の中だ。毎晩ライトもネオンの眩しい町に繰り出し、必死の捜索を行うもその努力が実ることはなかった。前夜もそう、町行く人に聞き込みを試みたものの、めぼしい情報は得られず、得たのは酔っ払いのパンチ(ちゃんと躱した)だけだった。
「お疲れ様..こっちも特に情報は無いなぁ..」
部屋の中にいる星奈が出迎え、その机の上ではパソコンの画面が光っている。
「そうか..ハァァ〜」
「しっかし、こんな見つかんないもんかね..また潜ってるのかな??」
「そんな痕跡無かった....それよりSNSの方はどうだ??」
「無いねぇ..誰かしら見たって人がいてもおかしくないと思うんだけど..」
「....食われたのかもな」
部屋の中に沈黙が流れた。そもそもの始まりは警備員が喰われたところから始まってるのでありえないわけではない、むしろ最有力候補な気さえする。満ち溢れる重苦しい雰囲気を打ち砕くようにライトが切り出した。
「ま..まぁ、悪いように捉えても仕方ない。 今すべきことは一刻も早く魔獣の居場所を突き止めることだ.. じゃあまた行ってくる」
「あのさ!! ..私思ったんだけどさぁ....」
出て行こうとドアノブに手をかけたライトを星奈の呼び声が留める。その声にライトは首だけ向き直した。
「確か犬とか狼的な魔獣だったんだよね??」
「そうだ」
「だったら山に帰った..ってことはないかな??」
「ほぼない」
星奈の考えをライトはバッサリと一刀両断する。今度は体も向き直し、教授のように歩きながらそう答えた訳を説明する。
「まずそもそも..魔獣の役目は知性生命体を抹殺することだ、地球の場合は人間だな.... だからより効率よく駆除を行うために、魔獣はそういう知性生命体が多くいる土地を目指すよう本能的に定められてる。 だったら今回も人がいっぱいいるところにいる、そう考えるべきだ。 ただ、今回実はちょっとおかしいとこがある..」
「おかしなとこ??」
「あぁ、さっき思い出したんだが....最初の警備員、あとオレが男性を助けた時、アイツは捕食行動に出ていた。 あれは明らかに異常な行動だった..」
「なんで?? 何か食べるのは普通でしょ」
「お前たちはな.. 魔獣は食べないんだよ..活動に必要なエネルギー、全部自己でまかなえるから」
その事実を聞いた時、星奈は驚いた。同時に便利だと思った、自分の食費を思い浮かべ、それを全て娯楽に回せるとしたらかなりの贅沢が出来る、そう感じていた。
「話がズレたな.. 簡単に言うと、基本的に魔獣はたくさん人がいるところに出るようになってる、だから人口密集地の町にいるのが普通!! ただ今回の魔獣は色々例外があるのでそうじゃないかもしれない!! と、言うわけで結論は“ほぼない"だ!! 分かった??」
「うん分かった」
「よかった.. じゃ、オレ行くから」
長々と言い終えると再びライトは魔獣を探しに出ていった。
「..いってらっしゃい」
パソコンの画面を閉じると、朝日が差し込む部屋で星奈は微睡みに落ちたのだった。彼女にできることはもう全てやった、あとはライトを信じるだけである。
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「にしてもほんと..どこにいるんだよ..」
さて時刻は昼過ぎ、晴れ渡っていた空はまるでライトの心情を投影するかのように徐々に雲行きが怪しくなり始め、今にも雨が降りそうだった。そしてこれまでライトが捜索に費やした時間は六十時間を超えていた..そうなれば愚痴の一つや二つも出る。
「もうサクッと出てこいよ.. てゆうかこんな時間かかるとは思わねぇよ、普通に出てこいよ.. 別に大した魔獣じゃねぇだろッ!! ..引っ張るなッ!!」
自身の服の袖口を握る子供にもキツめにあたるライト。いつものライトならこれぐらい笑って許せるがイライラMAXの今のライトはちょっとしたことでも周りに当たり散らす。こうなったら周りはこの嵐が過ぎ去るのを平身低頭待つしかない。が、そんな中一人恐れを知らずこの嵐に突っ込む者がいた。
「随分と..荒れてるなぁ」
「シャドウ.... お前なら、何か知ってるよなぁ!! 今回の件」
その正体はこれまで幾度となくライトに戦いを挑んだ宿命の相手シャドウ、当然今回の件にも一枚噛んでいる。というか真の元凶はコイツである。
「知りたいか.. だったらボクについて来い!! 教えてやるよ、アイツの居場所.. それと、他にもいいことをな」
そう言うとニヤッと笑ってシャドウは歩き出す。その後ろを怪訝な顔をしながらライトが追う。二人の間には警戒心から常に一定の距離が保たれ、互いにものすごい圧を発していた。その禍々しい雰囲気に道行く人も勝手に避けるため、二人はさしづめモーセのように人の海を割りながら歩き続けた。
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「ここだ」
歩き続けて二時間、二人がやってきたのは都内の公園の中にある林であった。山ではないが星奈の勘もある意味当たってはいた。
「本当にいるんだろうな!?」
「ああ..お前が探してる魔獣はここいる。 もちろん嘘なんかついてない.. それとこれから話すことも全てが事実だ」
「何の話をするんだ!?」
「フフフ.... とある狼の話だ」
シャドウが林に入り、ライトも続く。だがシャドウの姿はなかった、どうやら木々の影の中に入り込んだらしく声だけが囲むように聞こえてくる。
「昔々..ある所にニラカウルフという種類の狼がいました.. その性格は獰猛かつ狡猾、狙った獲物は決して逃がさない..そんな彼らは別名〈森の王者〉と呼ばれていたそうだ。 だがそんな王者と呼ばれた彼らが今はもうこの星に一匹たりも残っていない、全て絶滅した!! なぜか!? ..人間が....狩り尽くしたからだ!!」
突風が吹き木々がザワザワと揺れる。もう日が落ち、光の差し込まない林でライトの目だけが爛々と光っている。
「お前が追ってる魔獣の元になったはそのニラカウルフの剥製だ。 よっぽど人間が憎いんだろうなぁ.. アイツの武装見ただろ?? あの武装はかつて人間がアイツラを狩る時に使ってた武器さ、中々傑作だろ」
「シャドウ..お前は何が言いたい」
「復讐の邪魔をするのは不粋じゃないか?? それに可哀想だとは思わないか、ライト!!」
「....」
ライトは目を閉じた。そして胸に手を当て、目を光とともにカッと見開いた。そのまま吸い込まれるように林の奥へと何も言わずに迷わずまっすぐ進んでいく....
ーザッ ザッ ザッ ザッッ!!ー
「..見つけたぞ」
ついに潜伏先を見つけたライトは所有する剣、〈光剣フォトロン〉を地面に突き刺し、地下にエネルギーを照射した。
ー・・・・ゴ ゴゴゴゴゴゴッ.... ー
「アオォォォォン!!」
土埃を上げながら魔獣は地上に飛び出した。そしてすぐさまライトを見つけ、臨戦態勢に入る。
「ゥゥゥゥ....」
かつて狼だった頃の記憶から魔獣は唸り声をあげ威嚇する。その声が心なしかライトには悲しげに聞こえた。それに応えるようにライトは口を開いた。
「お前は復讐なんか望んじゃいない....お前は..ただ生きていられればそれでいい..そうだろう..」
「Grrrrr..ガウ!!」
ーズザザザザッー
聞く耳など持たずに魔獣はライトに襲いかかった。
ーザンッッー
だが、手痛い反撃を喰らい魔獣は跳び退いた。ライトの目に迷いはない、その目でまっすぐ魔獣を見つめる。
「..確かに同情はする、だが」
逃走しようとした魔獣の目の前にライトは錐揉みジャンプで回り込み、腹部を斬撃で切り裂いた。
「容赦はしない!!」
ーズダダダダダダッッー
魔獣は銃撃を放つがライトは木々を次々に乗り移り回避、その姿はさながら天狗のよう。自由自在に跳び回り魔獣を翻弄する。最初町で戦った時は両者は互角だった。しかしもう手の内が全てバレているためこの戦いは終始ライトの優勢、魔獣の反撃は虚しくも全くライトに届かない。
「..とっとと終わらせよう.. こんな戦い!!」
「ガァァァァァァ!!!!」
ーダッッ ズバンッッッッー
木を蹴って跳び上がり、勢いをつけて振ったライトの剣が急所を捉えた。血溜まりができるほど大量の血が吹き出し魔獣は力無くその場に倒れ伏した。間違いなく即死する出血量..のはずだった。
「......Grrrr」
だが魔獣はそれでも死なない、それどころか力強く二本足で立ってみせた。それは本来ならあり得ないことだった。ライトも思わず後ずさりした。
「それが..生きる思いの....力か」
「....」
ライトは剣を構えた。しかし、魔獣はもう反応しない....立ち上がったところで全ての力を使い果たし永遠なる眠りについたのだ。最期に意地を示し..
その亡骸をクリスタルに封じ込み、誰も掘り返せないよう地中深くに埋めると、ライトは来た時よりも険しい面持ちでその場を離れた。
この夜、灰色の雲からは初雪が観測され、東京全土を絹のような純白で覆ったという。




