第十六話 血を超えろ
あるところにそれはそれは仲のいい夫婦がいました。楽しい時は思いっきり笑って、悲しい時は思いっきり泣いて、時にはぶつかり合いながらも最後は必ず元通りになる、そんな風に二人は日常を送っていました。しかし、そんな二人にはある悩みがありました。とても仲のいい夫婦なのに二人には子供がいなかったのでした。自分達が世界で一番幸せな夫婦なのに変わりはない、それでも子供がいれば世界で一番幸せな家族になれるのにと二人は時々思っていました。
そんな二人に転機が訪れたのは二人が三十五歳になった年の夏、当時町長を務めていた夫が通報を受け神社に駆けつけると、賽銭箱の前にまだ小さな赤ん坊が捨てられていました。結局その赤ん坊の親は見つからず、赤ん坊はその仲のいい夫婦の元へ引き取られることになりました。“大樹”と名付けられたその赤ん坊は夫婦の愛情を一身に受け、すくすくと健やかに成長していきました。
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〈十二年後〉
「ただいまぁ....」
「おかえり、大樹 台所におやつあるからねぇ」
「分かったー....」
大樹は小学六年生になっていた。明るくて運動神経に優れていた大樹は運動会やイベントものでは常にみんなの中心にいた。勉強は....まぁ頑張っていた。性格も両親の愛情の注ぎ方が良かったらしく、優しい真っ直ぐな心の持ち主に育った。そしてその人柄から色んな人に好かれており、大樹もそんな人達のことが好きだったのでとても充実した毎日を送っていた。
ーギィィィ....バタムッー
「.......」
しかし今、大樹は大きな悩みを抱えていた。
ーズズズッ.... フワッッー
二ヶ月前にどういうわけか突然超能力に目覚めたのだった。最初こそは鉛筆を転がす程度の力しかなかったが、今ではベッドくらいなら軽く持ち上げられるほどになってしまった。
「..はぁ....」
大樹は自身の力に怯えていた。最初は軽く考えていたが魔獣のせいで今人間はそういう超常現象に非常に敏感になっている。仮にこの力がバレたら何をされるか分からない。しかしそんなことよりも重いことがあった。
「大樹ーー!! ちょっと悪いんだけどお使い頼んでもいい??」
「いいよぉ....母さん..」
超能力の発現によって大樹は気づいてしまったのだ、父と母が本当の親ではないことに.... その事実が何より大樹の胸を締め付けるのだった....
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ーホゥホゥ...ホゥホゥ..ー
「どうすればいいんだ..」
夜、ベッドに寝転びながら大樹はこれからどうすべきか考えた。かれこれ二ヶ月同じことを考え続けているが答えは出ない。結局、その都度問題を先送りにするだけであった。なぜなら気づかなければ何も起きはしなかったから。だから気づかないふりをするつもりだったが日に日に強くなる超能力が大樹に否が応でもそのことを思い出させた。
「はぁ..寝よ....」
結局、この日も答えは出ずにいつも通り布団をかぶって眠りについた。ただこの夜はいつもとは違う、特別な夜になることを大樹は知らなかった。
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「zzz..zz..........んん??」
いつもなら一度眠れば朝までぐっすりなのだが、今日は途中で目を覚ました。正確には覚まさせられたのが正解だが....
「.......え?? 何だよ....これ.....??」
大樹が目を覚ましたのはいつもの自室ではなかった。そこは辺り一面真っ白の何もない空間、上も下も時間さえも存在しない未知の世界だった。
「ゆ..夢だよな....」
大樹は右手で頰をつまみ....思いきり引っ張った!!
「いててて........あれ?? 痛くない....」
頰がちぎれるほど思いきり引っ張ったにもかかわらず大樹は全然痛みを感じなかった。ついでに左手でも引っ張ったがやっぱり感じなかった。
「なんだ....夢か....」
パッと手を離し、大樹はホッと一息ついた。夢なら何が起きようと別に構わない。
「イイヤコレハ夢デハナイ....」
「!!!!」
突然、大樹には声が聞こえた。恐る恐る大樹は体を後ろへ向けた。
「....!! ゆ..幽霊??」
「マッタク..コノ出来損ナイメ....オバケデハナイ」
大樹が目を向ける先には黒いガスが広がっていた。ガスにもかかわらず目が付いていてたが、喋ったはずなのに口は付いていない、さっきから繰り広げられる会話はテレパシーで行われている。
「じゃあ....なんなんです....??」
震えながらも大樹はそのガス状生命体に問いかけた。そしてその答えは予想だにしないものだった。
「ワタシハオ前ノ創造主ダ....分カリヤスク言エバ....オ前ノ親ダ....」
「......えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
大樹は今までの人生で一番絶叫した。よもや親がこんなよく分からないガスだとは思いつきすらしなかった、人間じゃないにしろせめて人間みたいな姿はしていると大樹は思っていた。
「えぇ〜..マジ??」
「まじダ」
「マジか....マジで親なのか....」
大樹は分かりやすく肩を落とした。だが本当の絶望はここからだった。
「親ト言ウノハ正確デハナイ....ワタシハオ前ヲ造ッタダケダ、生物兵器トシテナ」
「..どういう事だよ....なんだよ生物兵器って!!!!」
声を荒らげて聞く大樹に、ガス状生命体はただ淡々と答える。
「オ前ノ事ダ、ハピネス....オ前ハワレワレガコノ星ヲ手ニ入レルタメダケニ造ラレタ....ソシテ十二年前、オ前ハコノ星....地球ニ送リ込コマレタノダ....人間ノ赤ン坊トシテナ..」
ガス状生命体は大樹の出自から自身の地球侵略計画までわざわざ細かく説明した。それでも大樹は納得しない、いや分かっていても納得できない。だが大樹の心をへし折るべく、さらなる追い討ちをかける。
「オ前モ気ヅイテイルダロウ..自分ニ人トハ違ウぱわーガアルノニ....サァ使命ヲ果タセ、ハピネス!!!!」
「....」
二ヶ月以上悩み続けていた事実に触れられ、大樹は俯いた。だが、まだ揺るぎない事実があった。
「もし..僕が生物兵器だとしても....この星を侵略なんかしない!! だって僕には大切な父さんと母さん....それに友達がいる!! だからお前の言うことなんか聞かないっ!!!!」
毅然とした態度で大樹は言った。
「ハハハハハハッ!!」
「何がおかしい!!!!」
あざ笑うガス状生命体に大樹は怒りをにじませ問いただす。余裕たっぷりの様子で生命体は答えた。
「無駄ダ..オ前ハ戦イカラ逃ゲルコトハデキナイ..オ前ニ流レル血ハ戦イヲ望ンデイル....全テヲ壊シ、制スルコトヲ」
「そんな事ない!! デタラメ言うな!!!!」
「スグニ分カル、血ニハ逆ラエナイコトニ....」
「ふざ..ふざけんなぁぁああ!!!!」
ーバチッッー
「ハァ..ハァ....あれ??」
気づいた時には大樹は自分の部屋に戻っていた。時刻はもう午前六時、布団に入ってからあっという間に七時間が経過していた。
「....夢..だったのかな??」
大樹はベッドの上でしばらく金縛りにあったかのように動かず、さっきまでのことについて物思いにふけっていた。だが五分後に鳴った目覚ましの音で現実に引き戻されると朝の身支度を整えるために階段を降りていった。
「ふわぁぁぁ....ねっむ....」
大きなあくびを一つすると大樹は顔を洗うために洗面所の蛇口をひねった。冷たい水で顔を洗い、タオルで拭く時妙な感覚を大樹は覚えた。
「ん?? ....!!」
鏡を覗き込み、そこに映った自分の顔を見た時大樹は思わず息を飲んだ。
「これって!?」
鏡に映る自分の顔、その頰は赤く腫れあがっていた。この日を境に大樹の超能力は急激に強くなっていき、本気を出せば大型トラックぐらいなら持ち上げられるほどに成長した。そして力が強くなればなるほど胸の奥からより強烈な戦闘欲求が湧き出し、それを理性で抑えるのに必死になった。そんな生活が二週間も続いたある日、ついに恐れていた事態が起こる!!
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「......ごちそうさま..」
朝食を食べ終えた大樹が虚ろな目で言った。ストレスで目の下には隈ができ、顔の色もまるで土のようになっていた。すでに精神も肉体も限界に達していたのだ。そしてそんな大樹を両親が放っておく道理などなく、事情を聞くために話を切り出した。
「大樹....何かあったんでしょ?? 最近元気ないじゃない」
「別に....」
「嘘おっしゃい..ねぇ..何かあるんでしょ?? 言ってごらん....」
「言いにくいなら父さんにでもいいぞ」
「......ウルサイ!! オマエラニャ関係ネーヨ」
その一言で場は凍りついた。いよいよ理性で止められる限界を超えてしまった。大樹はもう止まらない、今まで言えなかった不満をぶちまける。
「ボクガ何モ知ラナイトデモ思ッタカ!? オマエラガ僕ノ本当ノ親ジャナイコトハモウ知ッテイルゾ!!」
「何を言ってるんだ..お前は父さんたちの息子だ!!」
「ナニヲバカナ..コレヲ見テモソウ言エルノカ!?」
ーカッ!! パリリリィィィィィィンー
大樹が目を見開くとあたりの窓ガラスは全て砕け散り、乾いた音が響き渡った。
「何だ!? 何が起きた!?」
「......イイ気分ダ....ナンテイイ気分ナンダ!!!!」
「大樹..お前が....やったのか??」
父親が問いかける、母親は口元を手で押さえ何も言うことができない。そして大樹はもはや正気ではなかった。
「ケケケケケケケッ!! 壊ス壊ス壊ス壊ス....全部全部全部全部ゥゥゥ!!!!」
叫びながら大樹は割れた窓ガラスを通って裸足のまま外に出て行った。両親の呼び声も聞かずに....
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「ケケケケケ!! 壊レロ壊レロォォォオオ!!!!」
ードガッ!! ガシャンッ!! ドゴォォォン!!ー
大樹は超能力を暴走させ暴れまわる。圧倒的な力を止める手立てはない....かと思われたがアイツが駆けつけた!!
「そこまでだッ!!」
「何者ダ、オマエハ!?」
大樹は振り返り、アパートの屋根に立つ人影に向け叫んだ。
「オレの名はライト....宇宙の戦士だ!!!!」
名乗りをあげるとライトは暴挙を止めるべく剣を片手に大樹に猛然と向かっていく。
「邪魔ヲ....スルナッ!!」
ーカッ!! ズンッ!!ー
大樹は右手をかざしてサイコキネシスを発動、ライトを押さえつけて動きを封じにかかった。
「くっ....デェェェリャァァアア!!」
ーバチィィィンー
だがトラックすら浮かせられる力にもかかわらず、ライトは無理矢理拘束を逃れ、再び大樹に猛然と向かう。本人の拘束は無理だと判断した大樹は近くの砂利を巻き上げ、それらをピストルの弾のようにライトに向け発射する。だがライトにとってピストルの弾の回避など簡単なこと、跳躍して大樹の背後に回り込みそれを追って振り返った大樹の眼下をスライディングでくぐり抜け完全に背後を取ると一閃させようと剣を構えた。
『やめて!!!!』
「!!!! ....グハッ!!」
どこからか聞こえた声に怯んでライトが躊躇した隙をついた大樹の強烈パンチが腹を捉え、ライトは血を吐きながら後ろのブロック塀まで吹っ飛ばされた。
「ケケケ..危ナカッタ....危ウク死ヌトコダッタ」
冷や汗をかきながら大樹は呟いた。そして今度は木の枝で作った矢をいくつも構え、ライトに狙いを定めた。
「トドメダ....」
ードスドスドスドスドスドスッー
放たれた矢に対してライトはなんのアクションも取らなかった。当然矢は全て命中し、刺さった箇所から血が流れ出る。
「ケケケケケ!! ナンダ宇宙ノ戦士ノ実力ハコノ程度ナノカ!?」
傷だらけのライトの姿を見て余裕が出たのか大樹は嘲笑した。その様子にもはや人間らしさは残っておらず、完全に生物兵器〈ハピネス〉に成り果てていた。
「......何勝った気になってるんだ、お前は??」
笑う大樹にライトは言った。一瞬驚くもそれでも自分が優位と信じる大樹は余裕の表情のまま。もう一度矢を放ちそれも全て命中させた。
「..その程度か....お前の本気はそんなもんなのか?? もっと来いよ....本気で」
だが大量の矢を浴びてなおライトは立ち上がる。自身の血で黒く染まった顔に白い歯と爛々と光る目をのぞかせ、そのまま血を滴り流しながら大樹に迫る!!
「!! ヤメロ..来ルナ..来ルナァァァアア!!!!」
死の恐怖を覚えた大樹は半狂乱になってあたりにあるものを無差別にライトに向けて投げつける。ライトはそれさえもノーガードで構わず突き進み、ついに剣の射程に大樹を捉える。
「ウアッ....ヤ..ヤメ」
ースパァァァンン ドサッー
「ア....あう....あ....」
大樹はその場に倒れた。想像を絶する恐怖に気を失い、泡を吹きながら体をピクピクと震えさせる。ちなみにライトの剣は大樹の前髪を五ミリくらい斬っただけである。ただし本気で振った..
「まったく..手間かけさせやがって.........複雑だな人間の心は」
ちょうど二人の決着がついた時、だんだんと二人の元に声が近づいてきた。その声は大樹を呼んでいた。
「あぁっ、大樹!!」
その声の主、父親は大樹の姿を見つけるやすぐに走り寄り、抱き寄せた。父親の腕の中で大樹は静かな寝息を立てていた。
「....お前が親か??」
「はいっ....ど..どうされたんですか!? その傷は!?」
全身に矢が刺さり血を流すライトを見て、動揺しながら父親が問いかけた。
「..そんなことはどうでもいい コイツは何者だ??」
「........私たちの......息子です....」
父親が答えた。それを聞いたライトはただ一言だけ言った。
「..そうか.... じゃ、後は任せた」
それだけ言うとライトは現場を後にした。
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ーチュンチュン....チュンー
「zzz..........ん、朝??」
目を覚ました大樹の目に飛び込んできたのは両親の顔だった。色々複雑な大樹は何も言えなかった。
「大樹、何か言うことがあるんじゃないか??」
「........ごめんなさい..メチャクチャして」
「そうだな....あとは??」
「..僕、人間じゃないんだ....」
「そうか..あとは??」
「.........」
「大樹....もっと言いたいことがあるんじゃないか??」
「......僕....これからも、家族でいられる」
その問いに二人は答えない。ただ、何も言わずに思い切り大樹を抱きしめた。その抱きしめる力に大樹は答えを理解した。そして自分が宇宙で一番幸せな生物兵器であることを。




