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宇宙をかけた戦士の戦い  作者: イシハラブルー
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第十三話 陽気なリベンジャー



 〈八月二十八日・午前六時半〉



「....ん.....ふわぁぁ..おはよう..ライト」


 バイトのために早く起きた星奈がライトに言った。普段ならライトはもう起きている時間だが、今日はどういうわけか返事が返ってこない。


「......あれ?? ライト??」


 返事が返ってこないのも当たり前でそもそもライトの姿が見当たらない。


「......いない....どこ行ったんだろう??」


 いくら探せどライトの姿はない。それもそのはず、星奈が目を覚ます四時間ほど前にライトは外に出て行っていた。




「ウオオォォォォ!!」


 ータッッ ダッダッ ビュオッッー


 まだ日の薄い山々をまるで天狗の如く次々に木々を飛び移り、駆けていく。今ライトは東京奥地にある山〈日比野(ひびの)山〉で修行に励んでいた。


「まだまだッ!!」


 ーシュッ ドゴッー


 手頃な木の幹を蹴り飛ばし木の葉を舞わせる。


「いくぞ..光剣連斬」


 前へ後ろへ舞い散る木の葉をひたすら斬り刻んでいく、しかもただ斬っているだけではない。無数に散る木の葉の真ん中を正確に狙い斬っている。


 ーパラパラパラパラパラ...ー


「三枚か...こんなんじゃダメだ..」


 全て斬り刻んだように見えたがわずか三枚だけ斬り損ねていた。もし実戦でこれが毒針だったなら刺さって即死だった。


「もっと..もっと強く..」


 次は剣を振るう腕を鍛えるため逆立ちで崖を目指す。そんな修行が絶え間なく続けられていた。




 〈午前九時・永田町・レストランミライ〉


 ーカランカランー


「ヤッホー、テンチョー」


「おはよう星奈くん、よく来たね てっきり来ないと思ってたよ〜」


「いやぁ、この前休んじゃいましたからね、今日は働きますよ」


 ここミライは星奈がバイトをする二つの店のうちの一つである。そして親しげに話す白髪頭の男こそがオーナー兼料理長の天道(てんどう)長介(ちょうすけ)、略してテンチョーである。和やかな雰囲気の中で開店の準備は進められた。


「どうだった、旅行は楽しかったかい??」


「そうですね..色々いい経験ができましたよ 良くも悪くも..」


「そうかそうかそれは良かった..何しろ若い頃の経験は素晴らしい宝だからね、私も若い頃は....」


「そう言えばテンチョー..」


 話を遮られたテンチョーはお笑い芸人のように思わずずっこけた。


「どうしましたテンチョー!?」


「いや構わん、続けたまえ」


「今日は人少ないですね」


 普段なら最低でもあと二、三人は他にもスタッフが来るはずだがどういうわけか今日いるのは星奈、テンチョー、中谷さんの三人だけである。


「それがみんな電車が運転見合わせでどうにもならないんだって」


「なるほど電車が..それで私にさっきよく来たねって」


「そんなんだ、なんでも架線が切れたらしい」


「へぇ〜そうなんですか....架線が??」


 なんとなく星奈は違和感を覚えた。しかしそんなことよりもホールを一人で担当することの方がよっぽど問題なのでその違和感はすぐにどこかへ消え去った。だが誰よりもその違和感を重大視する者がいた。





 〈大手町二丁目〉



「おかしいなこの辺だと思ったんだが」


 遠く離れた地で修行していたライトがこの町に駆けつけたのはとある違和感からだった。


「でも、魔獣出てたらもっとパニックだよな..気のせいだったか??」


 そうライトはこの町に魔獣がいる気配を感じたのだ。しかし、町行く人の様子は別段普段と変わりない上に肝心の魔獣の姿もない。しかし気配だけは確かに感じていた。


「.....ん??  ..まさか....」


 ライトは地面に横たわり耳をつけた。そしてようやく魔獣の居場所を察知した。


「下か!?!?」


 魔獣は地下にいる。ならば近くにはあるものがあるはずである。


「!! あそこか!!!!」


 一ヶ所だけ人混みができていた。それを押しのけ進んでいくと底の見えないくらい深い巨大な穴がぽっかりと空いていた。早速ライトは穴に入ろうとした。


「おい君、危ないぞ!! これ以上近づくんじゃない!!」


「誰だよアンタ..心配ない、どいてくれ」


 側にいた警官が制止をかけた。流石に警官も素性のわからない奴の言い分を聞き入れる事はなく、ライトが穴に近づくのを必死に防ぐ。


「 参ったな...入れないぞ....」


 結局制止を振り切ることは出来ずライトは人混みに押し戻されてしまった。こうなったら仕方ないが強行突破するしかない。そのためにライトは誰にも見られないビル影で翼のクリスタルを砕いた。


 ーバサッバサッバサッ..ー


「よしここだ....パージ!!」


 翼で空高く飛び上がり、穴の直上でそれを解除し猛スピードで落下しながら穴の中に入っていく、流石にこれを制止できる人はおらずライトは突入に成功した。そして数秒ほどで底にたどり着くとそこは線路で、切れた架線から時折火花が散った。不気味に静まり返った線路上を歩いていくとようやく元凶となった魔獣の姿を捉えた。


「やっぱりお前の仕業か、ディグロード」


「キュゥゥゥ」


 可愛らしい声で鳴くその魔獣の名は穿孔(せんこう)魔獣ディグロード。モフモフで茶色い体毛に覆われ、モグラのようなフォルムをしているが最大の特徴は鼻と尻尾についたドリルだ。このドリルはどんな硬い地盤でも掘り進むことができる。可愛いからといって油断はいけない、他の魔獣と同じく放っておけば星の存亡を脅かす。


「キュゥキュゥ!!」


 威嚇の声をあげると鼻先のドリルを回転させ、レーザーを乱射しながらライトに突進を仕掛ける。ライトは柱の影に身を潜めるが柱はレーザーによって蜂の巣にされた。しかしすでにライトの姿はそこにはない。


「こっちだウスノロ」


 ライトは天井に張り付いていた、そしてディグロードに飛び乗って暴れる魔獣の背中を滅多斬りする。


「ギュゥゥ」


 反撃のために尻尾の先のドリルを振り回す、しかしライトもそれは読んでいるため剣でドリルを迎撃する。だが妙なことに気づく。


「?? 破損してるのか」


 尻尾のドリルはすでに壊れて動いていない、これでいくら攻撃しようとライトは絶対に振り落とせない。そのままライトは一方的に攻め続け、トドメにエネルギーを収束させた剣を背中に突き立てた。


「ギュォォォ!!!!」


 ードォォォォオオオー


 地下だったために爆発音はいつもより良く響いた。ライトは着地を華麗に決め、魔獣退治は無事に完了した。だが....


「ふははははははははははははは!!」


 どこからか誰かの高笑いが聞こえてくる。そして恰幅(かっぷく)のいい男が身体中に装着した機械をガチャガチャ鳴らしながら現れた。


「ふはははは、久しぶりだなライトよ」


「うわっ..お前はバロン」


「ふはは、よく覚えていたな!! いかにも!! わたしはタジスタ星人バロンだ!!」


 その男の姿を見るなりライトが思わず嫌な顔を見せた。しかし男は陽気に名乗りをあげる。そんな男にライトはクレームを入れる。


「あの魔獣はお前が連れて来たんだろ?? アイツのせいでここはボロボロだぞ、どうすんだ!?」


「なにっ!? そうなのか!! そ、それは悪い事をしたなぁ... しかぁし!! お前さんをおびき寄せるにはこうするしかなかったのだ!!」


 うっとおしいぐらいのハイテンションでバロンは話し続ける、ライトは終始複雑な表情を浮かべることしかできない。


「で、オレと戦いたいんだろ??」


 やれやれといった風にライトが質問する。男はその質問に大地を踏みしめ、目に炎を灯し、声を響かせ答える。


「その通り!! ついに完成したのだ!! お前さんを倒すための装具が!!」


 そう言ってガチャガチャ鳴る機械をボディービルダーのように見せつける。


*読み飛ばしていただいて結構です

 ↓   ↓   ↓   ↓

「いいか!? いいな!! まずこの腕の機械はなツボを刺激することでわたしのパワーを何と二倍まで高めることができるのだ、しかし驚くなそれだけでない特殊合金でできたこの機械をそうそう傷つけることなどできない!! つまり!! この機械は鎧にもなるのだ、攻防一体まさにパーフェクト!! そして次に脚だ、これもツボを刺激することで脚力を強化し二倍の速さで走れるようになるぞ、おまけに靴底を見ろぉ!! この噴射口からはジェットが吹き出てなぁ!! 時速二〇〇キロで飛べるのだ!! これで飛んでる時に殴られたら!! どうなるだろうなぁ.. そして胴体の機械は形状記憶合金でできている!! どれだけ殴ろうが壊すことなど出来ない最強の鎧!! にもかかわらず軽くてしなやかで決して動きを阻害しない!! そして極め付けはこのバイザー!! お前さんのスピードに対応できるように作ったコレを装着すればお前さんの攻撃は決して当たらない!! 完璧すぎる!! どうだ!! すごいだろ!!!!」



 長々と話すバロンと対照的にライトはただ一言だけ言った..


「で結論は??」


「この機械をつければわたしは五割の確率でお前さんに勝てる!!」


「五割....」


 なんとも言えない確率....


「さぁいよいよだ、破れ去った仲間のためにも絶対勝つぞぉぉぉぉ!!!!!!」


 モチベーションではすでに圧勝するバロンが声高に叫ぶ。戦闘態勢に入りバイザーを装着し、足の機械からジェットを噴射する。


「いくぞぉぉぉ必殺、ブーストコブーシィィィ!!」


 地面スレスレを飛び、スピードを生かしたパンチをライトの腹めがけて繰り出した。が、普通に剣で受け流され、そのままのスピードで柱に激突したため辺りには砂塵が舞った。


「ケホッケホッ...むぅ流石だ!!」


「なるほど五割か..あながち本当かもな」


 砕けた柱に目をやってライトは言った。コントロールはともかく威力は申し分ない。当たればの話だが..


「まだまだいくぞッ!!」


 何度も殴りかかるが決してライトには当たらず、あたりにクレーターが出来るばかりである。


「ぬぅ、ならばこれはどうだ!! アイアンラッシュゥゥゥゥ!!!!」


 お次はパンチとキックの連続攻撃だ。しかし上下左右から放たれるラッシュをことごとくライトは見切り、攻撃をかわし続ける。


「ハァ..ハァ..ぬぉっ!!」


 ーガゴンッッッー


 疲れで動きが鈍くなったバロンの隙をついてライトは胸に回し蹴りを叩き込んだ。そのダメージは形状記憶合金でできた機械を貫通して本人に入った。


「これもダメか....さすがは手ごわい」


「なんだ、もう....終わりか??」


「なんのっ!! わたしはこの程度で終わる男ではないっ!!!!」


 威勢とは裏腹にバロン本人はあっという間にボロボロである。いくら機械が強くても本人の肉体はそこまで強くないので耐久力はそこまでではない。なので次が最後の攻撃になる。その気合いに答えるかのように全身の機械から蒸気が吹き出た。


「超必殺!!!! 人間ンンン....ミサイルッッ!!!!」


 超スピードでライト..ではなく天井に突っ込んでいった。あっけにとられるライト、しかし威力は絶大だった。


 ーゴゴゴゴゴゴゴゴッッー


 突如として轟音が響き渡り、そして天井が崩れ始め次々とコンクリートの塊が落ちてくる。


「ふははは、生き埋めになるがいい!!!!」


 ーゴッー


「んげっ..........」


 よそ見したをしたせいでコンクリート片が後頭部にクリーンヒットしバロンは気絶した。完全に自滅である。


「.......」


 ライトは落ちてくるコンクリート片を冷静になって見極める。そして足に力を入れた。


「今だッ!!」


 ーシュタッ タッ タッ タッ シュビッッー


 落ちてくるコンクリート片を足場にライトは天井へ駆け登っていく。


 ースパスパスパスパ ズバズバッー


 落ちてくるバロンの装具だけを正確に斬り落とし、そのままバロン本人を脇に抱きかかえると翼を装着して地下から外に飛び出た!! その数秒後にライト達がいた場所は破片で埋められた。


「....危なかったな」


 とりあえずライトは飛びながら適当なビルを見つけるとその屋上にバロンを横たえた。


「..勝負はオレの勝ちだ.......悪かったな...」


 それだけ言い残すとライトは太陽に向かって飛び去っていった。時刻は丁度昼間だった...


 


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