第十四話 宇宙の幻
時計の針が六時二十分を指すと教室からはぞろぞろと学生が出てくる。長かった夏休みが終わりまた戻ってきた学生生活、その最初の一週間が今終わり、廊下はガヤガヤと多くの人でごった返している。
「でさでさ....」
「マジでかっ!!....」
ーザワザワザワザワザワザワー
思い思いのたわいのない話が飛び交う中を星奈もまた二人の友達と歩いていた。
「じゃあ結局夏は帰んなかったん??」
「まぁちょっち出費が増えてねぇ」
「にしても良いなぁ、イタリアとか」
「星奈はまだマシじゃん、ウチなんてずっっと家よ!! なんの面白みもないって」
星奈ら三人の話題は夏の思い出についてだった。仲良しとて事情が違えば過ごし方にもそれぞれ個性は出るものだ。三人は門のところまでは一緒だったが最寄駅の関係で星奈だけは二人と別れ、一人となった。そしてそれを待ってたとばかりに星奈に話しかける女子がいた。
「あれ〜ケイケイじゃん、何か用??」
「あ..星奈ちゃん....えっとね....その..ちょっといいかな...」
オドオドと今にも消えそうな声で星奈に話しかけたのは星奈の友達の一人の鹿島楓、通称ケイケイであった。星奈とは色々な意味で正反対であるが意外とかなり仲がよく、二人きりで出かけることも少なくない。
「うん!! いーよー」
「よ..よかった....あ..でもここだとちょっと....場所変えてもいい??」
そのお願いに星奈は二つ返事でオーケーし、二人は近くのコーヒーショップに場所を移した。着席して早々星奈が切り出す。
「で何?? またUMA??」
「う..さすが星奈ちゃん、私のことよく分かってるね....」
UMA、すなわち未確認生物。有名どころで言えばツチノコ、河童、海外ならネッシーなどが挙げられるだろう。ケイケイは子供の頃からそう言った生物に興味を持ち続け、ついには大学でUMA研究サークル(非公認)を発足させるまでに至った。星奈もこのサークルの一員だ、星奈以外メンバーはいないが....
「そう..実は今回興味深い動画があって....」
「ほうほう」
「ちょっと見解を聞いてみたいなって」
そう言ってケイケイは眼鏡をかけ、動画のファイルを開いた。
「えっと..まずこの動画は今年の八月二十三日に撮られたもので最初は虫捕りの動画だったの、けどそこにUMAが...」
「映ってるの!?」
「じゃないかなって私は思うんだけどとりあえず動画見て」
さっきと打って変わってやたら饒舌に話すケイケイ、その豹変っぷりがUMAへの熱い情熱をこれでもかとアピールする。そして動画はスタートした。
『はい、どうも皆さんこんばんは、チュウチーの昆虫大好き!! 今回は東京で、あの、オオクワガタを採ろうと思いまーす!!』
「虫が好きな人ってなんで好きなんだろうね....」
そもそもの企画が理解できない星奈が思わず心境をこぼす。それを聞いてケイケイはうっすらと苦笑いした。
「問題の動画は十二分からなんだ」
後の部分は特に重要じゃないのでケイケイはマウスでそこまで動画をスキップする。しかし肝心な動画は霧でほとんど何も見えない。
『いやーだいぶ霧が出てきちゃいましたねぇ....これは動かない方が良さげですね......』
ーガサガサッ ....ガサッッー
『ん...うわっ、びっく....え、何?? え、え、ちょっ、うわぁぁああああ!!!!!!』
霧で視界が悪い上に映像はブレブレ、絶叫だけがこだまする。ただ撮影者には確かに何かが見えている、恐怖心を刺激する何かが..
「これだけだと何も分からないでしょ??」
ケイケイの問いに星奈は首を縦に振る。そう言うのを見越していたらしくケイケイはもう一つの動画ファイルを開いた。その動画はさっきの動画の修正版だった。
「じゃ、流すね」
ーガサガサッ ....ガサッッー
『・・ん...うわっ、びっく....え、何?? え、え、ちょっ、うわぁぁああああ!!!!!!』
その動画には恐怖の主がガッツリと映っていた。人間の半分くらいの体長で茶色い肌を持つよくわからない生物が....
「ずいぶんガッツリ映ってるんだね!? それにしてもよく手に入れたね....この映像....それでなんだと思うのこれは??」
「....多分、ゴブリンじゃないかな??」
そう言われて、改めて星奈も確認すると頭にちっちゃい角が生えていたり、爪が伸びていたり、鋭い歯が生え揃っていたりと確かにゴブリンらしい。少なくともこんな生物地球にはいない、紛れもなくUMAだ。とりあえず良かったねと星奈は言ったがケイケイは首を縦には振らなかった。
「問題は動画の信憑性....合成の可能性がなくはない」
今のご時世、合成はちょっと知識があれば誰でも容易に行える。ましてや恒常的に動画を投稿する者ならなおさらだ。
「星奈ちゃんはどう思う??」
「んー....どっちもどっちな気もするなぁ..」
UMAにしてはハッキリしすぎな気がするが、ハッキリしているUMAを実際に何度も見ている..というか住んでるので星奈は返答に困った。
「これは専門家に見てもらうしかないかなぁ」
「専門家?? 知り合いにいるの??」
「へへっ、まあね その人に見せれば何かわかるかもね」
結局この日は結論は出ず、後日に持ち越しとなった。
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〈東京奥地・当麻〉
「.......あ、来た!! こっちこっち!!」
「ご....ごめんね遅くなって....この方は??」
「はい....えぇ〜....ウマ?? UMA?? 研究家のライ....ンン"ッ ヒカルです..どうぞよろしく..」
台本感丸出しな自己紹介をヒカル..もといライトがする。昨晩の協議の結果、ライトの正体はここでは伏せる事になったのだった。隣からは変なことを口走るなよという星奈の鋭い目線が浴びせられた。とりあえずお互いに自己紹介を済ませると早速本題に入った。
「あの..あのUMAは..本物だと思いますか??」
恐る恐るケイケイが昨日送った例の動画、それに映るUMAの真偽についての答えを求めた。
「分からん!!」
「....そ..そうですか..」
これまで数々の星を渡り歩いたライトにさえ例の動画の生物は未知のものだった、つまりあのUMAはかなりハイレベルのUMAだ。
「で、どうすんだこの後は??」
ライトはそう言ったがすでにやる事は決まっていた。というのもここ当麻こそがその動画の撮影地がある場所だからだ。
「調べましょう....私たちの手で」
「..やっぱそうなるのか....」
かくして調査隊は結成された。メンバーも隊長、副隊長、戦闘員と割とバランスが良い。そして調査隊は例の森に移動し、早速足を踏み入れ....
「ケイケイっ!! 迷子になった時用に私は森に入らないで残っておく!! いいよね、ね、ね、ねっ!?」
「「........」」
というわけで星奈はここで無念のリタイアとなり残された二人が森に足を踏み入れていった。入ってすぐこそまだ足場はあったものの、早々に地面には草が生い茂り始め、時折虫が飛び出してくる。星奈は来なくて正解だった、来たら間違いなくエライことになっていた。
「あの..ヒカルさんって普段は何をされているんですか??」
「......あっ、オレか えぇ〜と....何されてるように見えます??」
「....学生ですか??」
「あ、はい..そうです......」
だが星奈の離脱はこの二人を苦境に追い込んだ。ライトは人外バレしないための警戒から、ケイケイは人見知りから会話が思うように弾まない。
「.......」
「.......」
しまいには二人とも黙り込んでひたすらUMAの痕跡を探し始め、あたりには木々が揺れる音だけが発される。
「........ん?? これは....」
「な..何かありました??」
だいぶ黙っていた後に不意にライトが声をあげた。恐る恐るケイケイが問いかけ、それにライトは地面をゆび指して答える。
「おぉっ、これは....そうかもしれませんね」
ライトが指した先にあったのは足跡、しかも靴ではなく裸足のものだ。こんな森の中に裸足の人間がいるはずないのでこれはUMAの足跡になる。その足跡は草むらに続いているが、UMAが通ったとみられる箇所は草が倒れ獣道のようになっていた。
「ど..どうされます??」
「見たいんでしょUMA??」
「....はい」
「じゃ、行こう!! 心配すんな!! 何かあったらオレがなんとかする」
その言葉に後押しされ、ケイケイは痕跡を追い始めた。しかしいくら進めど痕跡は見つかるがUMA本人は一向に姿を現さない。徐々に日が暮れ始め、これ以上先に進むのは危険である判断し、残念ながら調査はここまでとして二人は来た道を引き返し始めた。
「残念だったね...」
「はい....でも簡単に見つからない方がロマンがあっていいですよ」
そうは言いながらもため息をつきながらケイケイは歩く、それをライトはただ黙って見守ることしかできなかった。そんな沈んだ気持ちに呼応したのかあたりには深い霧が立ち込み始め、二人は足止めを食うことになった。
「霧深いですねぇ....!!!!」
「そうだなぁ....どうした??」
なぜかケイケイが自身の顔を見て驚いたのでライトは疑問を投げかけた。
「え....いや..その....目..光ってます......」
「....え!?」
霧の中でライトの目はまるで獣のように煌々と輝いていた。人間ならこんな現象は起きないためケイケイは驚いたのだが、逆にライトはなんで驚かれているのかわからない。そのためついおかしな事を口走った。
「..それが何か??」
「は?? いや....え..??」
しまったとライトが感づいた時にはすでに遅かった。ケイケイにズイッと詰め寄られ、言い逃れできない状況にライトが追い込まれた、その時!!
ーガサガサガサッ....ー
「BTAAAAAaaaa....」
「「.......」」
草むらから謎の茶色い生物が両手を挙げ、牙をむき出しにしながら飛び出してきた。驚かしたつもりだったのだろうが耐性のあるライトは大して驚かなかった。そしてケイケイは目を輝かせた。
「ほ..ほほほ....本物だぁぁあああ!!!!!!」
ついに姿を現したUMAにケイケイのボルテージは一気に最高潮となった。しかしライトは冷静でUMAに詰め寄ろうとするケイケイを制止し、尋ねた。
「お前は何者だ!?」
「う..え..ワタクシでありますか??」
「お前以外誰がいる??」
「え、ホラあなたの後ろに....」
「こいつは俺の連れだ..........やべっ」
「...........」
背後から凄まじい疑惑の目線を浴びせられ、ライトは冷や汗が止まらない。流石にもうこれ以上誤魔化しは効かない、ライトは観念した。
「えぇ〜と....オレ何者だと思います??」
「....人間ではないですよね??」
「........はい」
その答えを聞くや否や、ケイケイはライトの手を取った。
「じゃああなたもUMAなんですか!?!?」
「....一応....まぁ..」
ケイケイの目の輝きは一層光を増した。
「ほんとですかっ!! もうなんでもっと早く言ってくれないんですか!! そしたらもっと色々お話しできたのに、UMAに会ったら聞いてみたかったことがいっっっぱいあるんですよ!!」
「お..おう」
圧倒的な圧に押されライトもタジタジであった。そしてその隙にUMAは姿を消し、霧もすっかり晴れていた。
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「.....あ、やっと帰ってきた」
夕焼けが綺麗なうちに二人は帰ってきた。意気投合して小躍りしながら。
「星奈ちゃん!! もうやり残した事はない、帰ろう」
「いやぁ、コイツ話すと結構おもしろいな!!」
「..何があったの、一体....」
「秘密!! ねぇ!?」
「はっはっは〜、そうだな」
「えぇ〜、教えてよ」
これにてUMA調査隊の冒険は当初の目的からは外れたが成功で終わったのだった。
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〈後日..〉
霧の深い森にライトは再び降り立った。
「でお前は結局何者なんだ??」
「ワタクシはエモー星人でございます」
「エモー星人!? ....なぜ地球に??」
「それはこの宇宙から逃げるためのエネルギーを集めるためです....誠に残念ながらワタクシたちの星はもう滅ぼされました..」
「......」
「いずれこの宇宙も滅び去ります..ですからそうなる前にワタクシたちは別の宇宙へ逃れるのです」
「......で、その膨大なエネルギーはどうやって集めるんだ??」
「それは..ですね....人間の恐怖のエネルギーを利用するのです」
「......なるほど、それでここに来た奴を驚かしてるのか」
「ここだけではありません....他の場所では同士が....人間を......しかしワタクシたちにも存亡がかかっているのです、もはや手段は....」
「....聞かなかったことにする......で、今はどのくらい溜まってるんだ??」
「もうじき、この宇宙ともおさらばです」
「そうか....そうか....」
この数週間後、彼らは別の宇宙に向け飛び立った。そして二度とこの宇宙に帰る事はなく、彼らはこの宇宙の幻の存在となった。




