エレナの気持ち
「アトラ、木刀でだけで攻撃する事は悪いことではないがアトラには向いていないな」
昨日の夜にレイトさんに改めて鍛えてもらう事を約束したので今まで以上に厳しく鍛錬を行なっているアトラ。
今はレイトさんと模擬戦の最中だ。
「ハァハァ...どう言う事ですか?」
アトラが言うと、レイトは木刀を持って構えた。アトラには、レイトさんがかかってこいと言っているように思えた。
アトラは木刀を持ってレイトさんに向かって行った。
木刀がぶつかる。ガンガンと激しい音が響く。
すると、レイトさんがアトラと距離をとって膝をついた。息が荒れ苦しそうな表情だ。
チャンスと思いアトラがレイトさんとの距離を詰める。すると、レイトさんが足元の石を投げてきた。
速く、正確に顔面目掛けて飛んでくる石をアトラは木刀で弾くが、弾いたタイミングに合わせレイトさんが腹に一撃いれた。
「こんな感じだな。石を木刀で弾かせ、その隙に一撃入れる。石を弾く事に集中し俺の一撃を防御できなかっただろ」
「僕が躱す可能性もありました」
「その為の疲れた演技だ。アトラはチャンスと思い最短距離で俺との距離を詰めようとした。その為、回避を選択できなかったんだ。まっ、石を避けるにしても石を見るだろ、その隙に一撃いれたけどな」
ーー木刀でだけでなく、その場で使える物は何でも使う。一瞬でもレイトさんから意識を逸らす為の石での攻撃。戦い慣れた動きは、やはり凄い
「よし今日はここまでにしよう」
レイトさんの一言で横で訓練していた。ラティアとエレナもその手を止めた。
その後も1週間、レイトさんやエレナと模擬戦をした。レイトさんは、まだまだ勝てないがエレナには勝てるようにもなった。
そしてフィガルナ王国まであと少しとなった夜。
夜中にトイレで起きたアトラは1人暗闇の中に歩いて行くエレナを見かけた。
ーーこんな時間にどうしたんだろう?
そう思っているとエレナは暗闇の中森に入って行った。
エレナを尾行していると、エレナは暗闇で視界がままならない状態で魔物と戦っていた。
ーーなんて無茶を!視界が不安定な状態で魔物と戦うなんて
すると、エレナがダークウルフの攻撃を受け地面に倒れこんだ。
ーーヤバイ、助けなきゃ
そうして、アトラはエレナの加勢をしてなんとかダークウルフを退くことができた。
「なんて無茶な事をするんだ。夜中に1人で森に入って、魔物とまで戦うなんて死にたいのか」
アトラはかなりの声で怒鳴った。すると、、、
「わか・な・くせ・」
「えっ」
「私の気持ちなんてわからないくせに」
エレナが声を荒げるとは思っていなかったアトラは驚いていた。
「私は小さい頃に、勇者の物語や英雄譚に憧れた。でも、現実はそんなに甘くはない。英雄譚に出てくる主人公は必ず男の子、物語での女の子は常にかよわいイメージでいつも勇者に助けられている。なんで?、女の子だってやれば出来る。なんで弱いって決めつけるの?。だから私は、女性初の剣聖になるんだ。でも、貴方に、たった数週間で追い抜かされた。私の惨めな気持ちなんてわかるの?」
そう言ったエレナは泣いていた。
「エレナ、僕も勇者や英雄ではないよ」
優しく言った。そして続けてまた、アトラは口を開いた。
「エレナ、全て自分の思った通りになんかはならない。僕もそうだ。僕はね、家族に捨てられたんだ。」
エレナは少し驚きこちらを見ている。
「僕はもう、あの家には戻れない。でも、エレナは違うだろ。剣聖になれないなんて、まだ決まってない。だから、こんな形で命を軽く見ないでほしい」
「アトラは、私が剣聖になるのは、おかしいと思わないの?」
ーー私の周りにいた、女の子はいつも、物語のお姫様に憧れていて勇者になりたいと思うのは変って言う人ばかりだったのに
「思わない。エレナ僕はね、村に滞在していた時に1人で特訓している姿を見て綺麗だし凄いと思った。エレナが物語の勇者や英雄譚に憧れてたように僕もエレナに憧れている。だから、死なないでね」
「うぇ~~~~」
そう言いながらエレナはアトラの胸の中で泣いていた。
「エレナには聞いて欲しいかな。僕の過去を...」
それからアトラは自分過去をエレナに話した。
「そんなの酷すぎるじゃない」
「許したわけじゃ無いけど、僕はレイトさんやエレナに会えた事を嬉しく思っている。だから、後悔はしていないよ」
月明かりで少し明るい森を歩きながらアトラはそう言ってエレナは馬車にもどった。
* * * * 《エレナside》
馬車に戻りたい毛布を被り目を瞑り先ほどの出来事を思い出していたエレナ。
「アトラは、私が剣聖になるのは、おかしいと思わないの?」
「思わない。エレナ僕はね、村に滞在していた時に1人で特訓している姿を見て綺麗だし凄いと思った。エレナが物語の勇者や英雄譚に憧れてたように僕もエレナに憧れている。だから、死なないでね」
その事を思い出す度に顔を紅くしていた。
ーーアトラが私を憧れているのよね。私...もしかして喜んでる?いやいや、喜んでいるわけないわ、だってアトラよ。アトラは私にとって【男の子A】的な存在よ。......でも...兎に角寝よう。明日になれば、きっと忘れる気持ちよ。うんうん寝よう。
エレナはその夜はアトラの事をずっと考えていた。