《章間 ~猫娘の苦境~》
一時はどうなることかと、冷や冷やさせられた。
アスパーンはやはり、あのメリス家の、『三英雄』と呼ばれた女王バイメリアの弟だった。
あの技を見た今ならば確信出来る。
メリス家の末子たる彼には『遺跡守り』と対峙して余りある実力がある、と。
しかし、問題だったのは、自分が目をつけたパーティとルイゾンには繋がりがあり、ルイゾンが以前見た彼らの訓練にケチをつけたことから立合いをしてその実力を確かめることになってしまったことだ。
イルミナは、アスパーンのしてみせたあの技を見ているから、アスパーンの主張する通り、アレが『訓練』などではなく『遊び』だったというアスパーンの主張は直ぐに理解出来たが、ルイゾンはその場面を見ていない。
彼らの『遊び』を理解出来ないことも、無理ないことだった。
加えて、武術の腕前についてはイルミナよりルイゾンの方がプロフェッショナルだ。
普通に考えれば到底『遊び』には見えない訓練風景を見ていたことも有って、ルイゾンが引き下がれないのも理解出来た。
何しろ相手にしなければならないのは『遺跡守り』。
遺跡最強との呼び声もある、難敵なのだ。
実力の不足した相手に声を掛けて、彼らに怪我をさせるわけにも行かないという、ルイゾンの責任感も、感じる話であった。
結果としてはアスパーンがルイゾンに、イルミナ達に見せたのと同じ技を見せ、実力を見せつけてくれたことで、却って自体は好転したように思える。
ルイゾンも納得したし、もう他のメンバーを探している時間もない。
これで後は、彼らの助けを得られればいいのだが……。
イルミナは左手の腕輪を握り締めると、薄く浮かんでくる数字を確かめる。
『十九』。
古代文字で浮かんでくるその数字を見て、イルミナは溜息をついた。
今、集落の仲間たちはどうなっているだろう。
都会に較べてみれば明らかに環境は良いので、イルミナほど病状は進んでいないだろうが、同じ苦境に立たされていることに変わりはない。
集落の仲間たちを思うと、イルミナの心にはさざめきが起こる。
自らの苦境が、仲間たちにも降りかかっていることを思うと、焦りが止められない。
やはり、一刻も早く『遺跡守り』を倒し、『アレ』を見つけなければ……。