《闘法士と百手の巨人》
こう言っちゃ何だが、『ヘカトンケイル』という男は、その二つ名が皮肉なんじゃないかと思うくらい体格に恵まれていなかった。まぁ、それでもアスパーンよりは背が高いが。
高いと言っても、成長期のアスパーンよりも、僅かに高いくらいだろう。
先日自分の身長を測ったら、確か百六十五メルチ(≒センチメートル)だったので、高めに見積もっても百七十メルチ程度だろう。
体格としても、痩身という程でもないが戦士の体躯としては小柄な部類に入る筈だ。
多分だが、アスパーンの方が体重は重いだろう。
普通、この体躯の人間ならば得物は長剣や槍と相場が決まっていたが、噂によると巨大な両手持ちの得物を片手に一振りずつ持って扱うらしい。
(……ホントに?)
正直、アスパーンはその噂に疑問符を付けざるを得ない。
但し、その姿に見覚えはあった。
イルミナの近くでは無かったが、アスパーンとリチャードの鍛錬を食い入るように見ていたのが印象に残っている。
「……ブラフマンさん、彼らが、さっきの話題の?」
イルミナと偶然の再会を果たした直後ではあったが、『ヘカトンケイル』ことルイゾン・ファン・グーデンベルグはコチラの方をツイと指差すと、ブラフマンに確認を取る。
「戦闘能力だけ有ればいいんじゃろう? あまり率先して広めたい話ではないが、足を引っ張らない程度にはなると保証出来る」
ブラフマンがいつものように、髭を擦りながら答える。
「彼らの訓練は見た。それなりだとは思うが、充分とは言えない」
「訓練? あぁ、裏庭でやっとるアレかの?」
ブラフマンが、ルイゾンの言葉を聞いて、思い出したように頷く。
「ああ。大剣使いは、身体能力は申し分ないが間合いの測り方が甘い。こちらの彼は逆に技量に問題はないが、俺が手古摺った奴を相手にするにはパワー不足だ」
「フム……じゃ、そうじゃが?」
ブラフマンが頭を振ってからアスパーンの方を見遣る。
まぁ、実際ブラフマンはアスパーンとリチャードが訓練しているところを少し見た後、自分の仕事に戻ってしまうことが多かったが、アレが『遊び』で有ることは理解しているのだろう。
何せ、ブラフマンもまた、前回の実戦を共にした内の一人だ。
アレが『確認作業』で有ることは良く解っている筈だ。
「いつのことを言ってるのか良く分からないけど、あんな遊びで『訓練を見た』って言われてもなぁ。お互い、身体馴らしだし。特にリチャードは新しく覚えたのを身体に馴染ませてる最中だから、間合いの測り方なんか甘くなって当たり前だと思うけど」
アスパーンは思わず頬を掻いた。
自分のパワー不足に付いては事実なので今更何をいうつもりも無い。
成長期のアスパーンの身体は、大人の冒険者達から見ればさぞかし華奢で頼りなく見えることだろう。
まぁ、アスパーンより華奢に見えるルイゾンが『ヘカトンケイル』なんて二つ名を戴くくらいだから、世の中にはもっと不思議なことは沢山あるのだろうが。
アスパーンは成長期であることと、複数の武器を扱うが故に、敢えて筋肉をつけていない部分がある。
骨格が整ってそれに伴う良質の筋肉がつくまでは、その部分に蓋をしないようにきつく言われていたし、アスパーン自身、自分が未だ成長期にあることは理解していたのでそのいいつけを率先して破る気はなかった。
シェルダンの一件……『生み出すもの』との闘いで使った『八十一式(旋風四連)』ですら、本来は強い体幹を要するため、普段は控えている技なのだ。
パワー不足を補うための技術は『当て』の技術も含めて幾つか有って、その術を身に付けているが、あくまで補っているに過ぎず、不足自体は反論のしようが無い。
勿論、リチャードがしているような『気』による肉体強化はアスパーンにも可能で、やろうと思えばパワーを発揮することが出来なくも無いが、あの遊びのような立合い稽古でのアスパーン達の目的は相手を破壊することでもパワーを誇示することでもなく『技術や能力の確認』だ。
そんな確認作業に本気で立合い稽古をする必要も無いだろう。
「……アレが実力だと思われては、困る。と?」
「まぁ、自力として活かせるようになるかの訓練中だったかなぁ、リチャードに関しては」
ルイゾンの言葉をはぐらかすようにアスパーンが答えると、何故か、妙な空気が流れた。
『険悪』と言うのはこういうことなのかも知れない。
「ちょっと、ルイ。その人達はウチが今から誘おうとしてるのに!」
「足手纏いになられると、却って困る。いくらブラフマンさんの紹介でも、イルミナが認めていてもな」
イルミナがルイゾンに制止をかけるが、当のルイゾンはお構いなしだ。
自分の目を馬鹿にされたとでも思っているのかも知れない。
アスパーンが困ってマレヌに視線をやると、マレヌも困ったように肩を竦めた。
そこに、背後から知っている気配が近寄ってきた。
「……どうした? 何か知らない間に、険悪な空気が流れてるけど?」
裏口から入って来たリチャードが、こちらに声をかける。
「んー、まぁ、話すと長くなるんでざっくり話すと。こちらのイルミナさんとルイゾンさんに同行して遺跡に行こうかって話があったんだけど、ルイゾンさん曰く、『俺達じゃ力不足』なんじゃないかって話になってね。どうも俺とアンタが裏庭でやってる『遊び』をみてそう思ったみたいなんだけど、どうやって説明したものやら、と」
「う、ウチは疑ってないよ! あんなものを見た後じゃ、どうやったって」
イルミナが両手を振って否定する。
イルミナ曰くの『あんなもの』というのが多分『当て』のことであるのは、多分アスパーンとリチャードしか理解していない。
「いや、だからざっくりだって」
アスパーンはそれを宥める。
イルミナとルイゾンを一つの集団として見たとき、そういう話になるだけだ。
と、言うより、リチャードに分かるようにざっくりとした説明をするとなるとそれ以上に上手くは説明が出来ない。
「まぁ、細かいことまで言うと長いですし、それでいいんじゃないでしょうか」
マレヌも苦笑いしながらも了承してくれた。
とはいえ、困った。
事実を言っただけのつもりだが、思いよらず『ヘカトンケイル』などという二つ名を持つ大物に喧嘩を売った形になってしまっている。
折角金になる話が舞い込んできたと言うのに、このままでは無かったことにされてしまう。
「それなら、立合うのが一番早いんじゃないのか?」
「立合い? 誰と誰が?」
「お前がやれば? その、ルイゾンさんと」
リチャードがこともなげに提案する。
「幸いブラフマンも居ることだし、怪我したって直ぐに治してもらえるぞ」
「フム、紹介した手前、実力を証明するためにやると言うのなら、それでワシは構わん。戦わせることで生まれるものを大切にするのが創造と戦の神の教えでもあるでな。で、小僧、やるのか?」
ブラフマンはその提案に納得したのか、助力を申し出る。
形として自分が喧嘩を売ったことになっていることも有るのだろうが、リチャードの提案は『責任は自分で取れ』と言わんばかりだ。
「なんで俺がワザワザそんなことを……」
「俺は構わん。人手が増えるのなら、本来はそれで歓迎だし、俺も『創造と戦の神』の信者だ。神官殿の言う通り、言うだけの実力を直に試せるのなら、歓迎すべきいい機会では有る」
一方で、喧嘩を売られたと勘違いしているルイゾンの方は乗り気だった。
創造と戦の神信者ってのはどうしてこう、殴り合いが好きなんだろう。
いずれにせよ、ここまで来て、今更引くわけにも行くまい。
「…………分かった。やればいいんだろ」
アスパーンは何かいい方法が無いか考えたが、結局は実力行使しか無さそうな気がしたので考えることをやめた。
仕方がないので、取り敢えずマレヌに視線を向ける。
「一応シルファーンを呼んでおいてもらえる? 多分部屋に居ると思うんだけど」
「分かりました。まぁ、彼女なら貴方がたが何かしていれば気付いて降りてくると思いますけどね」
大いに有り得そうな想像で、アスパーンの気持ちは正直萎えた。
多分、後で怒られる。
アスパーンとルイゾンの一悶着は既に衆目に対決の気配を予測させていたのか、二人が裏庭に到着するより先に、裏庭は人でごった返していた。
そりゃそうだろう。
『林檎亭』屈指の使い手として有名らしい『ヘカトンケイル』と、つい先ほど珍しいことをしたらしい『フリーロールの知り合い』が立合うと言うのだから。
「で、アンタは素手でいい訳? 噂では片手で両手用武器を振り回すような怪力だって聞いたんだけど」
相手が素手のままで出てきたので、アスパーンとしては少々意外に感じながら訊ねる。
「今から用意する」
ルイゾンは腰に下げていたポーチに手を伸ばすと、その中から明らかにサイズオーバーの大剣を二本、取り出した。
見た目的には、ポーチから大剣が二本、生えてきたような印象に近い。
「マジックアイテム……? いや『遺品』だな、それ。そうか『遺品使い』だったのか、あんた」
「『無尽の宝物庫』という」
遺跡に時折眠っているオーバーテクノロジー、通称『遺品』を扱う人間を『遺品使い』という。
今、ルイゾンがしてみせたのと同じように、魔術的に似たような効果を持つバックパックが存在していて、魔術師ギルドの商品として売り出されているが、流石にあそこまでの小型化は成功したという話を聞いたことが無い。
つまり、アレは立派なオーバーテクノロジー、『遺品』ということだ。
魔術師ギルドで売られているアイテムとは異なり、『遺品』を取り扱うにはそれなりのルールが有り、『遺品使い』はそのルールを理解する程度の知識と経験が求められる。それはどちらかと言うと錬金術の分野で、職人であるブラフマンや盗賊であるティルト、或いは魔術師であるマレヌの方がその辺の知識には詳しいだろう。
つまり、ルイゾンはそちらの知識にも明るいと言うことになる。
まぁ、それは置くとしても、本当に大剣二本を片手ずつに持つとは、少々意外だった。
「では、いくぞ」
「どうぞ宜しく」
アスパーンは長柄の長剣を片手にして、左手を腰の後ろにする。
「あ」
いつもそこにあるべき盾が無い。訓練中で使っていなかったのだから当たり前なのだが、それに気付いた時には、既にルイゾンは動き出していた。
颶風。
そう表現するに相応しいような速度の踏み込みで、強烈な打ち込みが、アスパーンの左から襲いかかってくる。
(しゃあないっ!)
アスパーンはそれを右後方へのバックステップで交わす。
そこに合わせるように、ルイゾンの左の大剣が鋭い踏み込みと共に打ち込まれる。
(なるほど、最初からその腹だったわけか……)
アスパーンは『気合』を足に込めると、軽くステップを踏んでその一撃を見切る。
「!?」
突然脚力が増したように感じられたのだろう、ルイゾンの表情が変わった。
躱された方は、アスパーンのステップワークが良く分からなかったに違いない。
普通、右に交わしている最中に反対側から攻撃を食らえば、どんなに頑張ったところで最初に交わした以上の歩幅で攻撃を交わすことは出来ない。
出来るとすれば最初からそれを読んでステップを変えられるように歩法で調節していたか、イカサマをしたかのどちらかだ。
今のアスパーンの場合は完璧に後者だ。
取りも直さず、ルイゾンの驚愕の表情は、躱される筈の無い攻撃を躱されたことへの驚きだろう。
「のっけから危ない攻撃するなぁ。両方共大剣ってのは流石にあまり見ないから、ちょっとびっくりしたわ」
「避ける方は大したもんだな。その歳でよくやる方だ」
「そりゃどうも」
この人の戦い方は実戦慣れしてはいるけど、剣術の類ではない。
漠然とアスパーンはそう感じていた。
シールダーであり、アタッカーでもあると言った感じか。
寧ろ、リチャードのように、チャンスを見出すまで『受け』に徹するタイプでも無いように見受けられるので、シールダーとしては努力して積み上げた部分を感じる。創造と戦の神信者なのも、もしかすると治癒魔術の必要性を意識したからかも知れない。
『林檎亭』に所属しながら何処かのパーティに入らない理由も、何となく察しがついた。
この人は、戦士でありながら一人でなんでもできるタイプなのだ。
『無尽の宝物庫』がどれほどの物資を保存出来るのかは分からないが、アレに何でも入れておけるのであれば、補給や治療にも強くなる。
大剣を片手で扱う膂力と『遺品使い』としての知識や能力を加えただけでも、充分な脅威だ。
弓を持てば相当の強弓を引けるということだし、身体の小ささを考えれば、身も軽い方なのだろう。
この人は強い。この得物で生き物を殺してきた迫力もしっかりある。
――――だが。
この人はただ、強いだけだ。
ならば。
アスパーンの思索を他所に、ルイゾンが宣言する。
「だが、次はない」
ルイゾンが大きく踏み込んできた。
大剣が先程と同様に、左から、今度は袈裟懸けに吹き込んでくる。
今度は斜め十字に斬りつける気だ。
その方が、より『躱し難い』から。
しかし、アスパーンは慌てなかった。
一本目を見切って体を外側に傾けて躱すと、後から来る方の剣を迎え撃つ。
「アンタ金持ちそうだから、剣の一本くらいいいよな」
アスパーンは無造作に一歩踏み込むと、長柄の長剣を下段から振り上げた。
二十四式(石火熾し)
下段から切り上げるカウンター技だ。
『気合』で肉体強化された脚力は、踏み込みの幅だけでなく、震脚の威力も大きく変える。
リチャードはその調整に手間取っていたが、『気合』を自然に扱ってきたアスパーンはそうではない。
ルイゾンの懐に入り込みながら下段から切り上げられた二十四式(石火熾し)の一撃は、袈裟懸けの一撃を真正面から衝突した。
「っ!?」
「ぉりゃっ!」
そこに『徹し』の一撃を加える。
見た目以上の強烈な衝撃と共に、長柄の長剣と大剣が激突し、轟音を立てた。
「なっ!?」
直後。
驚愕とともに大きく退いたのはルイゾンの方だった。
通常、重力に逆らわない上段からの攻撃が、下段の攻撃に押し負けることなどない。
ましてやその大剣の一撃に攻撃を加えたのは、両手持ちとはいえ長柄の長剣だ。
しかも、『ヘカトンケイル』の異名を持つルイゾンの大剣が、押し負けるなどということは、経験のないことだったろう。しかし今は、そのルイゾンの大剣が、激しい衝撃と共に真二つに折れていた。
否。
アスパーンが『折った』のだ。
斬ることも出来たのだが、斬ったわけではない。
折った。
そのことによって手に残るであろう激しい痺れで、その一撃に込められたパワーを感じ取ってもらうためだ。
一方で、大剣を下段から叩き折るような真似をしてみせたアスパーンの長柄の長剣は、当然のように無傷を保っていた。
「こっちだって両手持ちの得物だよ? 大剣とは言え片手で振った武器を折ったくらいで、驚かないでよ」
アスパーンはニヤリと笑い、敢えてルイゾンを挑発する。
「パワーが無くても、力の伝え方一つで、この程度のことは出来るよ。さ、次行ってみようか。『ヘカトンケイル』なんて御大層な名前の『遺品使い』なんだ、まさか武器がそれだけってことはないんでしょ?」
アスパーンは敢えてそれ以上攻撃はせず、ルイゾンの懐を離脱する。
ルイゾンが『無尽の宝物庫』から武器を取り出す時間を与えるためだ。
「……お前、何者だ?」
ルイゾンが次に選んだのは巨大な棍棒だった。
なるほど、そういうことね。
棍棒ならば、剣のような破壊は出来ないと踏んだわけだ。
「ブラフマンさんの話なら、俺が足を引っ張りさえしなければ何者でも構わないんだろ? 要は『アンタの役に立つかどうか』だ」
ギャラリーが息を飲んでいるのが分かった。
アスパーンが次にどうするのか、ルイゾンがあの棍棒で何をするのかに注目しているのだろう。
一方で、アスパーンはと言えば、あの遺品にどの位の数の武器が貯蔵されているのかが気になっていた。
「さて、後どの位壊せば終わるかな」
売ったつもりはない喧嘩だが、舐められっ放しも性に合わない。
あちらが納得行くまで、何本でも壊すつもりになってきていた。
「吐かせ!」
ルイゾンが声を荒らげつつ、右手の大剣を横に、左の棍棒を上から十字に振るう。
アスパーンは一歩下がりながら、舌を巻く。
あれほど巨大な武器を、バランス良く振るい続けるには、十字に振るのが一番難しい。
しかし、ルイゾンは充分な踏み込みをしながら左右異なる得物でそれをしてのけたのだ。
「なるほど、力自慢だけはある。そんだけの技量がありゃ、確かにあんな遊びじゃ物足りないわな」
「いつまで軽口叩いていられるか、見ものだな」
ルイゾンが再び十字に剣と棍棒を振るう。
アスパーンは再び一歩、今度はその踏み込みを見切って身を躱すと、剣と棍棒が重なる直前に袈裟懸けの一撃を加える。
「これが『貫』」
棍棒を『抜いて』伝えられた衝撃が大剣を弾き飛ばし、その衝撃で大剣が折れ曲がる。
決して不慮の事故などではない。
剣の芯を折ったのだ。
「その棍棒ももらうよ」
軌道を変えられて地面に突き立てられた棍棒に、軽く一撃を加えると、アスパーンは今度は容赦なくルイゾンの顔面を狙って攻撃を仕掛けた。
ルイゾンは残っている棍棒でアスパーンの剣を弾くべく、下段から棍棒を振り上げ、一撃を加えようとする。
――――が、出来ない。
振り上げられた棍棒はアスパーンの攻撃を軽く受け止めると、その段階で粉々に砕け散っていた。
「くぅっ!?」
砕け散った棍棒の木片が目に入らないように、ルイゾンが退く。
アスパーンは『気合』で強化済みの脚力であっさり追いつくと、ルイゾンの目の前に剣と突きつけた。
「残念、その武器はさっき『居抜き』を掛けさせてもらったからね。次は斧、それとも槍?」
「いや、もういい……。お前の言うとおり、俺の見立てが甘かった。パワー不足だというのは、訂正させてもらおう」
ルイゾンが驚愕の表情を浮かべたまま、ガックリとその場に尻餅をつく。
周囲を沈黙が支配した。
「いや、アンタに較べれば、確かに俺は遥かにパワーはないと思うけどね。俺は『力の伝え方』をアンタより良く知ってるだけだよ。まぁ、どっちにしても、これで俺達が同行するのも了解してもらえるってことでいいのかな?」
沈黙が気まずくなって、アスパーンは剣を納めると、ルイゾンに手を差し伸べる。
「ああ。……いや、それに関しては寧ろ、コチラの方からも頼む。お前たちがやってた訓練とやらが、本当にただのお遊びに過ぎなかったのは、良く分かった。それに、この攻撃なら、俺達が引かざるを得なくなったアイツにも通用しそうだ」
一度認めてしまえば素直な性格なのか、ルイゾンは差し伸べた手を掴んで起き上がると、直ぐに頭を下げてきた。
「改めて名乗らせてくれ。俺はルイゾン・ファン・グーデンベルグだ。ルイで構わない」
「そっか。宜しく、ルイ。俺はアスパーン。三週間くらい前に入った新入りだよ」
その途端、ギャラリーが沸いた。
新人が古株の『ヘカトンケイル』に実力を認めさせたのが、衝撃だったのだろう。
が、その直後、アスパーンは逃げ出した。
歓声に混じって、聞き間違えようの無い人物の、自分を呼ぶ声が聞こえたからだった。




