第一話 社屋転移?
私、山元博樹は他人に「髪、薄くなりました?」と言われると、多少傷つくもうじき50のおじさんだ。
そんな私だが、宝くじに当たった3000万を元手に3年前に立ち上げた印刷会社がたまたま王手企業の仕事を引き受ける事になり、たまたま紙媒体の薄い本の仕上がりが良いと評判になったりと、たまたま尽くしであれよと言う間に自社ビルを構えるまでに至ったのは、ほんと社員達のお陰と言って良いだろう。
先日購入した社用車のランボルギーニは、いい音を響かせビルの地下駐車場へと進む。
女性にモテたい一心で購入した高級車だったが、高級クラブの女性と良い感じになっても、最近はもっぱら私の息子が無反応に等しい。
お薬のお世話にもなったが、中折れどころか根本折れを起す次第だ……情けない。
だが最近いい薬が手に入ったので、社長室に着いたら早速薬を飲んでAV鑑賞としゃれこもうと思う。
等と車のエンジンを切ったその瞬間――世界が暗転した。
――――
――。
――ドンドンドン「社長!社長!」
車のドアを叩かれる音に私は目を覚ます。
いつもはひと眠りすると顔が脂っぽくて不快な感じがするのだが、今はなんとなくスッキリした感じがする。
ガルウィングを上げ車から降り立つと、地下の駐車場だったはずの場所は見知らぬなんとも未来的な空間だった。
「社長、ですよね?」
声の主は私が初めて雇った大卒の青年、並木啓介君だ。
「並木君、ここは一体何だい?」
「はい、私も先程営業から帰って来て車を止めたら意識を失ってしまって。前を走るランボが地下へ入ったので社長かと……そして気が付いたらこのありさまです」
「そうか、君もか」
言いながら彼の方へ振り向く。
「な、並木君?」
「はい、並木です……って社長?」
お互いがお互いを見つめ時が止まる。
「並木君、猫耳に髭って……あ、尻尾もあるのね」
「社長、若返りました?と言うか……息子さん?」
慌ててお互いが車のサイドミラーで顔を確認する。
と言うか、サイドミラーはあるけど車のはずのランボルギーニが戦闘機ぽい何かに変わっている。いや、元から戦闘機ぽいけども!
「並木君、私は間違いなく山元博樹だよ。若返ったと言うより誰これって感じだけど……君は並木君で間違いないね」
「は、はい社長!申し訳ありません」
息子さんと言ったのを気にしていたのか姿勢を改める。
「気にしないで、それよりこんな夢みたいな異常事態だ。他の社員が心配だから少し移動しようか。それに自社ビルと言っても他のテナントさんも入ってるからそれも気になるし」
「流石社長です。こんな時も社員を気に掛けて頂いて恐縮です」
「社長が社員を心配するのは当たり前じゃないか。あ、別に労働力って意味じゃないよ?君たちは私より優秀だからね」
私のその言葉に「恥ずかしい限りです」と顔を伏せ、エレベーターだった場所へと移動する。
「エレベーターみたいだけど……最上階の事務所まで行ってみようか。最上階に事務所があればだけど」
扉が開きエレベーターへと乗り込むが、ボタンが無い。
「あははっ、これじゃ最上階まで行けないね」
と、言ったとたん女性の声が頭上から響く。
「声紋、網膜、指紋認識オールクリア、体温血圧正常、最上階事務所……艦橋までの移動を開始致します」
エレベーターは重力を感じさせないまま動き出した。
「か、艦橋とか言ってますね」
「あははっ、なんだろね艦橋って。戦艦か何かかなぁ?」
――エレベーターから何故か見える宇宙の景色を見ながら私は彼に微笑んだ。
「流石です」
何が流石?超ドキドキですけど!?
私は狭い所が好きだ、賃貸の部屋も昔と変わらず狭い所で住み続けるくらい好きだ。なのでエレベーターも狭い空間なのでなんとなくだが落ち着く空間のはずが、本当に全然落ち着かない。全天の宇宙とかふざけるにも程がある!
だけど社員の前で落ち着きのない姿を見せる訳にはいかないじゃない。
常に冷静を装い、余裕の笑みを絶やしてはならない――て、どっかの漫画で読んだ事がある。
――――
――
並木啓介26歳、入社3年目にして営業部長を務めるエリートである。
東京の国立大を卒業後、就職もせずに趣味の同人誌を描いていたが、印刷屋の社長である山元社長が声を掛けてくれたお陰で社会人としてやっていけている。
そもそも周りの同校の友人達は印刷屋?と馬鹿にしていたが、給料が破格だった。
初任給で100万を超える印刷屋など聞いた事がない。
社長は宝くじに当たったから、等と言っていたがそんな嘘は子供にも通用しないだろう。
要するに人に気付かれぬ努力をし、才能と努力で会社を此処までににした人物。それが山元博樹と言う俺にとっては尊敬する英雄にも匹敵する御方なのだ。
眼前に広がる大宇宙。
エレベーターに乗ったはずなのに、目の前が宇宙だなんて足が震えて、さきっきから眩暈もしている気がする。
そんな中社長は変わらず落ち着いてらっしゃる。
「か、艦橋とか言ってますね」
「あははっ、なんだろね艦橋って。戦艦か何かかなぁ?」
やっと出せた一言なのに、社長の余裕は人知を超えてるとしか言いようがなく俺は――「流石です」としか言えなかった。




