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【完結】ペーパームーンニューライト  作者: 一七


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36/45

16-1.私というもの

 ★


 それからほどなくして、ノエルは見つかりました。


「ノエル! よかった⋯⋯!」


 木竜君の読み通り、ノエルは駐在所に保護されていました。心配で疲れ果てている私とは対照的に、ノエルは元気でした。


「林道の奥にいたのを、近くのじいさんが連れて来てくれたらしい」


 連絡を受けて、水瀬君と一緒に駆けつけた私に、木竜君が説明してくれます。

 ノエルは泥と木の葉まみれで、それでも満足そうに尻尾を振っていました。


「あの、本当に、本当にありがとうございました!」


 頭を下げながらノエルを抱きしめると、集まってきた皆が口々に「よかったな」と声をかけてくれました。

 それに照れつつも答えていると、駐在所の前に一台の車が止まりました。


「理央!」


 慌てたように助手席から降りてきたのは母でした。まさかの登場に「ど、どうして」と、言いかけると、母はキッと目を吊り上げました。


「どうしてじゃないわよ! 何回連絡を入れたと思ってるの?!」


 そういえば、ノエルを探すのに夢中でスマホすら持って来ていませんでした。

 やっと冷静になった頭で、私は焦ります。


(こんな凡ミスで、母の仕事の邪魔をしてしまった)


 反射的に顔が見れませんでした。


(怒っていたら、どうしよう⋯⋯)


「ごめんなさい、仕事の」


 邪魔をしてしまって、と言おうとした次の瞬間、何かにぶつかりました。


「心配、したのよ⋯⋯!」


 母は私を抱きしめていました。


 予想外の行動に動けずにいると、母の足元が目に入ります。いつも綺麗にしているクリーム色のパンプスは小石を引っ掛けたのか傷だらけでした。ワイシャツの袖口はくしゃくしゃに捲られているし、髪は風に煽られたのか乱れていました。


「良かった、本当に⋯⋯無事で⋯⋯」


  その声は、いつの間にか胸の奥に溜まっていた何かを、じんわりと溶かしていきました。

 母の背中越しに、水瀬君と目が合います。


「良かったな」


 彼の口元が、そうひっそりと動きました。


 私は彼に抱きついてお礼を言いたい気持ちでした。もちろんそんなことはしませんが、それくらいの気持ちだったのです。

 ですが引き留める間もなく、彼はサッカー部員に肩を組まれ、輪の中へと引き込まれて行きました。

 木竜君や斉藤君、マネージャーと笑い合う水瀬君の横顔は、とても楽しそうで、屈託がなくて、そして本当に綺麗で。


 ーーー彼が本当にいたい場所は、そこなんだとわかりました。


「理央?」


 遠くを見る私の顔を、母が不思議そうに覗き込みます。


「どうしたの、そんな泣きそうな顔して。どこか痛いの?」


「⋯⋯ううん」


 悲しくなんてありませんでした。

 だってノエルが無事に見つかって、こんなにも沢山の人に助けてもらえたのですから。

 それはとてもありがたいことで、水瀬君の友達にも感謝してるし、しなければならないのです。


 でも、水瀬君が一番楽しそうにするのは、その横にいるのは、その顔をさせるのは⋯⋯私であって欲しかった。


 本当は、私は、誰かの側にいたかったし、いてもらいたかった。


 何かあった時は誰かに庇ってもらいたいし、他を捨ててでも私だけの味方でいて欲しかった。


 ーーーその誰かは、水瀬君が良かった。


 水瀬君に、私だけの友達でいて欲しかった。


 こぼれ落ちた本音は、身の程知らずで、到底叶いっこなくて、無謀さを思うと泣けてきます。


 でも、これ以上ないくらい本当の気持ちだったのです。


 それでも、せっかく認めた自分の一部を無駄にしたくなくて、私は母の腕をそっと抜け出しました。


 それは、他の人からすれば些細なことで、当然のことかもしれません。でも、私にとっては勇気のいる一歩でした。


 ーーー今日、協力してくれた皆に一人一人お礼を言おう。


 もしかしたら、一緒に探してくれた誰かが、私の管理不足を怒るかもしれません。木竜君に、情けないと改めて叱られるかもしれません。


(それがもっともだとしても、正直少し怖いけど)


 それでも、きっと私は一人ではないのです。


 だって水瀬君は、私がしょんぼりと独りでいたら、皆の輪から抜けてきて、声をかけてくれるでしょう。

 そうして私が元気になったら、また彼の世界に戻っていくのです。


 でも、それで良いのです。


 彼は私だけの味方ではないけれど、私の味方には変わらないのですから。



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