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早退させていただきます。もう、悪役令嬢キャラには疲れました  作者: おでこ
第二章

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第33話 「悪役令嬢は、もういない」


 年が明けた。



 学園が再開した初日、廊下の空気がまた少し変わっていた。


 年末から年始にかけての休みの間に、イザドラの処分について正式な結論が出た。


 卒業資格は認められる。ただし、以後の登校は禁止。課題の提出と試験への対応は別途行う形となった。卒業式を含む学園行事への参加も、一切認められない。実質的に、学園から切り離された形だった。


 学園側からの公式な発表は静かなものだったが、年明けには多くの生徒が内容を知っていた。


 廊下を歩く生徒たちの顔が、また少し変わった。晴れやかというほどではなかった。でも、何かが終わったという感覚が、学園全体に静かに広がっていた。


 一月の学園は、冬の光の中にあった。でも、去年の今頃よりも、どこか軽い空気があった。


 エリーゼはその廊下を、いつも通りに歩いた。



        ◇



「エリーゼ」


 声をかけてきたのは、クロード殿下だった。


 側近を少し離れた場所に残して、こちらに歩いてきた。


 エリーゼは立ち止まった。


「……殿下」


 クロードが、少し間を置いた。以前よりも少し、顔が落ち着いた気がした。


「イザドラの件、見ていた」


「……あれは、見事だった」


 少しの沈黙があった。


「それと、もう一つ言わなければならないことがあった」


「何でしょうか」


「一学期のあの大広間で、お前が書類を読もうとしていたとき。私は遮った」


「……ええ」


「それは、間違っていた。お前は事実を持っていたが、信じなかった……」


「そのことで、謝りたかった」


 エリーゼはしばらく、クロードを見た。


「……ありがとうございます」


 静かに言った。


「ですが、もう終わったことです。私はもう前に進んでいます。後悔もしていません」


 クロードが少し目を伏せた。


「だが……」


「殿下も、ご自身の道を歩まれてください。私たちはもう、それぞれ別の道を行くのですから」


 それだけ言って、エリーゼは歩き始めた。


 クロードはその場に立ったまま、少しの間、廊下を見ていた。


 遠ざかるエリーゼの背中を見ながら、小さく呟いた。


「……本当に、すまなかった」


 誰にも届かない声だった。



        ◇



 図書室では、転校生がすでに来ていた。


 エリーゼが入ると、顔を上げた。


「今年もよろしくお願いします」


 エリーゼが言った。


「ああ、今年もよろしく頼む」


 転校生が答えた。


 それだけだった。でも、悪い挨拶ではなかった。


 エリーゼはいつもの席に座った。本を開いた。転校生も本に視線を落とした。


 年が明けても、この時間だけはいつも通りだった。


 (……あと、何ヶ月だろう)


 エリーゼはふと思った。三月になれば、卒業だった。この学園での時間が、残り少なくなっていた。


 本のページをめくった。旅する少女が、また新しい町に入るところだった。少女は何度旅をしても、新しい場所に入る前に少しだけ立ち止まる。それから、前を向いて歩き出す。そういう少女だった。


 (……私も、似たようなものかもしれない)


 エリーゼはそう思った。この学園を卒業して、次の新しい場所では、自分はどんな顔をしているだろう。


 だけど。


 今は、まだここにいる。



        ◇



 年明けの学園は、少しずつ動き始めていた。


 フローラが友人たちと笑いながら廊下を歩いていた。以前より、その笑い声が軽かった。


 リナは、人に囲まれていた。


 以前のような計算した輪ではなかった。ただ、自然に人が集まっていた。話しかけてくる者があって、リナがそれに答えて、また誰かが加わる。そういう輪だった。無理に作った場所ではなく、気づいたらそこにある、そういう感じだった。


 エリーゼはその光景を、廊下の端から少し見た。


 (……本来の学園の姿に戻ったのかな)


 そう思った。


 転校生が言っていた言葉が、今日改めて腑に落ちた。



        ◇



 帰り際、廊下の窓から外を見た。


 冬の空だった。でも、年末よりも少しだけ空が高い気がした。


 三月まで、あと二ヶ月ほどだった。卒業まで、残り少なくなっている。この廊下を歩くのも、この図書室で本を読むのも、あとどれくらいあるだろう。そう思ったとき、不思議と寂しいという感覚より先に、充実していたという感覚があった。


 (……あの中庭のベンチに、また座れる季節になるかな)


 そう思った。


 転校生が隣に並んだ。同じように、窓の外を見た。


「寒いな、まだ」


「ええ。でも、もう少ししたら」


「暖かくなる」


「そうですね」


 それだけだった。


 二人で廊下を歩き始めた。窓の外に、冬の夕方の光が長く伸びていた。白い光の中を、二人の影が並んで伸びていた。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


続きが気になる!と少しでも思っていただけたなら、

評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やリアクションで応援いただけると、本当に飛び上がって喜びます!


また次回でも、お会いできることを楽しみにしております(*‘ω‘ *)/

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