表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早退させていただきます。もう、悪役令嬢キャラには疲れました  作者: おでこ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/39

第32話 「早退令嬢と、冬の図書室」


 断罪から数日後、学園の空気が変わっていた。



 廊下を歩く生徒たちの表情が、以前までとは少し違った。明らかに、緊張感が薄れていた。声が、心なしか大きくなっていた。笑い声が、以前より自然に聞こえた。


 イザドラが作っていた空気が、少しずつ溶けていた。


 十二月の中旬になった。窓の外の木は枝だけになっている。


 エリーゼはその廊下を、いつも通りに歩いていた。扇は持たず、顎も上げていなかった。ただ、自分のペースで歩いていた。



        ◇



「エリーゼ様」


 声をかけてきたのは、以前エリーゼの取り巻きであったフローラが話しかけてきた。


 フローラが、少し緊張した顔をしていた。


「少し、よろしいですか」


「ええ」


 少し間が空いた。


「あの日の、エリーゼ様……すごかったです」


 声に、感情がこもっていた。


「あの大広間に入ってきたとき、息が止まりそうになって。あの頃のエリーゼ様が、戻ってきたと思って」


「そうですか」


「イザドラ様に、誰もずっと何もできなかったのに。エリーゼ様があそこに立ってくださって、本当に……」


 フローラが言葉を続けようとして、少し止まった。


 エリーゼを、もう一度見た。


 あの日の大広間のエリーゼではなかった。扇もなく、令嬢としての覇気がない。廊下を歩く、ただの生徒の顔をしていた。


「……あの、エリーゼ様は、これからまたお戻りになるのですか」


「戻る? 何にでしょうか」


「その、以前のような……令嬢として、皆の中心に」

 

 エリーゼは、少し間を置いた。


「いいえ」


 静かに言った。


「昨日だけです。今日は、図書室に行こうと思っています」


 フローラが、少し困った顔をした。


「そう、ですか……」


 何かを言いたそうだった。でも、言葉が見つからないようだった。エリーゼが戻ってきたと思ったのに、目の前にいるエリーゼはあの頃の令嬢ではない。それに戸惑っているのが、表情からわかった。


「フローラさん」


 エリーゼが言った。


「フローラさんには、ずっとお世話になりましたわ」


 フローラが、少し目を丸くした。


「一緒にいてくれた時間も、あなたなりに私のことを思ってくれていたことも、わかっていました。感謝しています」


「……でも、私はエリーゼ様を、あの大広間で」


「それも、あなたなりのことだったと思っています。もう終わったことです」


 フローラの目が、少し赤くなった。


「私のことはもういいのです。これからは、あなた自身を大切にしてください」


 フローラは、しばらく何も言わなかった。


「……ありがとうございます」


 俯きながら、絞り出した小さな声だった。


 エリーゼは小さく頷いて、廊下を歩き始めた。



        ◇



 廊下の先で、リナが立っていた。


 令嬢が数人、リナに話しかけていた。以前は距離を置いていたはずの顔だった。でも今日は違った。輪というほどではない。ただ、人が少し戻ってきていた。


 話しながら、リナは少し戸惑っているように感じた。突然の変化に、対応しながらも笑顔を作っている。そのような様子だった。


 エリーゼがその横を通り過ぎたとき、リナは気づいていなかった。話に集中していたからか、それとも人が話しかけてくること自体に気を取られていたからか。


 (……少しずつ、戻っていくのかもしれない)


 エリーゼはそう思いながら、廊下をそのまま歩いていった。ただ、悪くない光景だと思った。



        ◇



 図書室は静かだった。


 エリーゼはいつもの席に座って、本を開いた。旅する少女の二周目を読んでいた。


 今まで、図書室で一人でいる時間が続いていた。中庭に行けなくなってから、ここで過ごすことが増えた。いつもどこか寂しさを感じていた。


 でも今日は、少し違った。落ち着く、という感じだった。何が変わったのかはうまく言葉にできなかったが、同じ静けさでも種類が違った。


 椅子を引く音がした。


 隣に、転校生が座った。


 本を開いた。何も言わなかった。


 しばらく、二人とも黙って読んでいた。


 (……ああ、この人だ)


 エリーゼは思った。この静けさが、落ち着く理由だった。



        ◇



 しばらくして、転校生が本から顔を上げた。


「昨日は、助かった」


 エリーゼは本から顔を上げた。


「一人では、あのまま言いくるめられていた。途中でわかっていた」


「……私は、何もしておりません。あなたとリナ様が全部用意してくださっていたので。私はただ、あの場にいただけです」


「そんなことはない」


 転校生が言った。


「エリーゼがいなければ、あの場は終わらなかった」


 エリーゼは少し止まった。名前を呼ばれた、と気づいた。今まで、そういう呼ばれ方をすることはなかった。いつも短い言葉で話す人だったが、今日は少し違う温度があった。


「……ありがとうございます」


 少し間を置いてから言った。


 転校生が、また本に視線を落とした。


 エリーゼも本に戻ろうとしたとき、転校生がまた口を開いた。


「あれから学園の雰囲気がよくなった気がしている」


「……私もそう思います。笑い声が増えた気がします」


「ああ。圧もなくなった」


「誰かに見られているような緊張が、消えたんだと思います」


 転校生が少し間を置いた。


「本来の学園の姿に戻ったのかもな」


 エリーゼは転校生を見た。


「……そうですね」


 短い言葉だったが、何かがそこにあった。この人がそう言うのを、エリーゼは初めて聞いた気がした。


 二人はまた本に視線を落とした。


 十二月の図書室は、窓の外が白かった。曇り空が低く広がっていて、今にも雪が降りそうだった。


 中庭とは違う静けさだったが、それでよかった。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


続きが気になる!と少しでも思っていただけたなら、

評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やリアクションで応援いただけると、本当に飛び上がって喜びます!


また次回でも、お会いできることを楽しみにしております(*‘ω‘ *)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ