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私を殺した兄嫁様、断罪される覚悟はよろしくて?~死に戻り王女ですが、助けてくれた隣国の密偵がメロくて困る~  作者: 雨沢雫


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46.仰せのままに、愛しき人


 エドウィンが城を去って、一ヶ月が経った。


 ジェイルズ侯爵家の悪事に関わった者たちの処罰も決まり、ステラはようやく国王としての仕事に集中できるようになった。元々国政の代行をしていたおかげで、公務の対応に困ることはなかったが、不在にしていた分の遅れを取り戻さなければならず、多忙を極めている。


 来月には、ヴァルデア王家との会合を執り行う予定だ。互いの国の未来について語り合う場になるだろう。彼らには改めて礼がしたいと思っていただけに、早々に会合の場を設けることができてステラは嬉しく思っていた。


 弟のノエルや宰相のシルヴァスターからは、仕事のしすぎだとペースを落とすよう言われているが、ステラは言うことを聞かなかった。忙しくしていないと、レグルスのことを思い出してしまいそうになるからだ。


 彼を思い浮かべると、どうしても心が虚しくなってしまう。思い出とするには、まだ時間が足りなかった。


 この日もステラは、朝早くから仕事に追われていた。


 国王の執務室には、各大臣たちが代わるがわるやって来る。重要な決議の判断を仰いだり、大量の決裁書類を持ってきたり、政策の方向性の相談に来たり……。ステラは手元の書類を片付けつつ、彼らが持ってくる案件も全て完璧にこなしてみせた。


 人の出入りが落ち着き、もうすぐお昼になろうという頃、弟のノエルが息を切らして執務室にやってきた。


「お姉様、失礼いたします!」


「どうしたの、ノエル。そんなに慌てて」


 普段は落ち着いているノエルが城の廊下を走り息を切らしてやってきたことに、ステラは目を丸くして驚いた。彼があまりに焦った様子なので、何か大事件でも起きたのかと不安を覚える。


「お姉様にお客様がお見えになっています! 今すぐお越しください!」


「え……? 今日は誰とも約束していないけれど……」


「お姉様にとって、とても大切なお客様です! どうかお早く!」


「誰なの? そのお客様って」


「ああ~……もう!」


 ノエルはじれったいと言わんばかりに大股でステラの元まで来ると、手首をむんずと掴んだ。そしてそのまま腕を引っ張り、無理やり連れて行こうとする。


「お姉様、急いでください!」


「ちょ、ちょっと、ノエル。わかったから、そのお客様が誰か教えて頂戴!」


「会えばわかりますから!」


 結局ノエルに事情を説明してもらえることはなく、ステラは王家専用の客間へと連れていかれた。役目を終えたノエルは「人払いは済んでいますから」とだけ言って満足そうに笑うと、そのまま踵を返し去っていった。


「一体なんなのよ……」


 ステラはノエルの背を見つめたまま小さくつぶやいたが、客間の中にいる人物が誰なのか、考えるだけ無駄だと思い、さっさと部屋に入ることにした。


 部屋の前にいた衛兵二人が、扉を開けてくれる。一歩中に足を踏み入れると、大きな窓から差し込んだ光に、ステラは思わず目を細めた。


 背に光を浴びて、一人の男が立っていた。男はその場で、恭しく一礼する。


「お久しぶりです、ステラ女王陛下。この度のご即位、誠におめでとうございます」


 聞きなれた声だった。そして、黒髪に、宝石のような深紅の瞳。


 ステラは目の前の光景が信じられなくて、一歩、また一歩と男に近づきながら、目をこすった。


「……疲れているのかしら。一番会いたかった人が、目の前にいる気がするのだけれど……」


「会いたかったのって、俺のこと?」


 その男は――レグルスは、くしゃりと人懐っこい笑みを浮かべた。まさしく記憶の中の彼と一致するが、今のレグルスは貴族の身なりをしている。ここはグレイヴ王城で、国王に会いに来たのだから、ちゃんとした格好をしていて当然ではあるのだが、ステラはいつもと違う彼に驚き、そして見惚れた。


「ど……して……」


 今の状況に混乱したステラは、辛うじてそれだけ言葉を発した。戸惑うステラに、レグルスはふわりと笑う。


「俺さ、当主の座をレティシアに譲ったんだ。それから、ヴァルデア国王に新しく侯爵位を賜った。今は土地を持たない役職貴族だよ」


 彼の答えに、混乱が驚愕に変わる。そして、ステラの中でいろいろと繋がり始めた。


「最後に会ったあの夜に言っていた、『帰ってやらなきゃいけない大事な用』って、そのことだったの……?」


「うん。できる限り急いだんだけど、それなりに時間がかかってしまってね」


「でも、どうしてそんな急に……?」


 ステラがアークライト公爵家に滞在していた時には、レグルスが家督を譲るなどという話は全く出ていなかった。むしろ、レティシアがレグルスのいないところで「早く家督を譲ればいいのに」と文句を垂れていたくらいだ。恐らく、彼の意思がここ一か月ほどで大きく変化したきっかけが何かあったのだろう。


 その答えは、すぐに返ってきた。


「それは、君を支えたいがために」


 レグルスはそう言ってステラの前まで歩み寄ると、その場で跪いた。そして、そっとステラの手を取る。


「ステラ女王陛下。私は国外移住の許可をヴァルデア国王より賜っており、この国に移住してあなた様を支えたいと望んでいます。願わくば、この私に、あなた様にお仕えする機会をお与えください」


 深紅の瞳は真剣そのものだった。


 レグルスはステラを支えるために、公爵家当主という肩書と立場を捨て、国まで捨てる覚悟で、ここまでやって来たのだ。彼の並々ならぬ覚悟に、胸を打たれないはずがなかった。自分のためにそうまでしてくれたことが申し訳なくもあり、この上なく嬉しくもあった。


 ステラの目には涙が滲んでいた。震えてしまわないよう、ぎゅっと唇を閉じる。


「あなたのことを、心から愛しています、ステラ女王陛下。私の力の全てを持って、あなたをお支えすると誓いましょう」


 レグルスからの真っ直ぐな言葉に、もう我慢ができなくなった。ステラは握られた彼の手を思いっきり引っ張ってレグルスを立たせると、勢いのまま彼の胸に飛び込んだ。そして、彼の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。


「私も愛しているわ……! だから、ずっと……ずっとそばにいなさい……!」


 仕えるだとか支えるだとか、そんなことはどうでもいい。ただ、レグルスにそばにいて欲しい。それだけでいい。


 ステラはエドウィンから言われた言葉を思い出していた。


『欲しいものは欲しいと思った時に手に入れなければ、永遠に得る機会を失うと思え』


 今、レグルスを手に入れなければ、彼のそばにいる機会を一生失う気がしてならなかった。彼のことが、どうしても欲しい。


 ステラが抱きしめる力を強めると、レグルスは優しく抱きしめ返してくれた。そして、彼は耳元でこう囁く。


「仰せのままに、愛しき人」




 


 グレイヴ王国の歴史には、こう記されている。


 王国初の女王となったステラは、王位に就いている間は子を設けるどころか結婚すらしなかった。周囲の臣下から「早く世継ぎを」と求められても、彼女は頑なに婿を取ろうとはしなかった。


 やがて王弟のノエルが十八歳になった時、ステラはあっさりと彼に王位を譲った。姉の背を見て育ったノエルは、その頃には十分に国政を担えるほど、立派な人物となっていたのだ。


 そして、退位したステラは、長きにわたって彼女を支えたとある貴族と結婚し、二人の子宝に恵まれたという――。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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皆様と別作品で再びお会いできることを願っております。


【書籍化情報】

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【連載情報】

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婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜

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〜あらすじ〜

エレノアは表ではしがない文具屋を営み、裏では婚約破棄の代行を生業としている見目麗しい女店主。

そんな彼女の元には様々な事情を抱えた依頼人が訪れる。

断罪された令嬢、虐げられた姉、白い結婚を言い渡された男などなど。

しかし、彼女たちの依頼には裏があって――?



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