28. クロスリーパーの真実
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
「ええ、時系列の話をする前になぜマリアは"狂喜"と呼ばれたのかを話しするわね」
アリスの言葉に、五人はただ無言で耳を傾ける。
「“狂喜のマリア”──そう呼ばれるに至るには、これを語らなければ話にならない、ある村での出来事がきっかけなの。
その村の名前はクロスマイン。
名の由来は、深夜から朝にかけて光鉱石が採れることから付けられたと言われているわ」
「クロスマインだと? 聞いたことがない名前だな」
アンディが言うと、グラフもアルスも首を横に振る。
「まあ、とりあえず話を聞いて」
「ああ、話を折ってすまない。続けてくれ」
「その村の鉱石には特殊な効果があったの。それは、鉱石を使った物には死者を寄せ付けないというもの。死者から身を守るため、人間にとっては是が非でも欲しい代物だったの。
そして、その鉱石にいち早く目を付けたのがリベリオン。
だけど……その鉱石はクロスマインの職人しか扱うことができず、持ち帰った時にはただの石となり、ゴミ同然になっていた」
アンディの脳裏に、何か引っかかるものがあったのか、額から汗が流れる。
(……嫌な予感がする)
「だけどリベリオンは諦めることなくクロスマインへ足を運び、商品を独占できるよう交渉を続けていた。
だけど、村が首を縦に振ることはなく、交渉は平行線のままだった。
そんなある日の夜、村に火の手が上がった。
リベリオンが軍を率いて攻めて来たのよ……その時、軍を指揮していた将が、当時から異名を持つ“神速のレーヴ”」
アリスの言葉にジェシカが反応する。
「え……神速のレーヴって」
「四代厄災だな」
アンディが答えるが、額の汗は止まらない。
「え、アンディ大丈夫?」
「ああ……大丈夫だ。少し思うところがあるだけだ。続けてくれ」
紅茶を口に運び、ゆっくりと飲み込むアリス。
「村人はリベリオン軍の攻撃を受け、命を落とした者もいたわ。だけど、これはほんの序章に過ぎず、襲撃を受けた時に光鉱石で造られた外壁は壊され、その日を境に村へは死者が襲われる者や死者と変貌する者、それでも容赦なく軍は攻め込み、壊滅寸前まで追い込まれてしまっていたのよ。
そんな中、村人たちはこのままでは自分たちの血が途切れることを恐れ、“リーパー”という用心棒を雇い、死者と軍から守ってもらおうと考えた」
「リーパー? クロスリーパーじゃなくて?」
「ええ、そうよ。リーパーよ」
アリスはジェシカの質問に即答した。
「ただ、依頼はしたけど村は壊滅状態だったため、多額のお金を用意することができずにいた。
そんな状況を知る由もなく、依頼して二日後、クロスマインに一人のリーパーが現れたの。
名はリーン・ホーク・マリア」
五人は黙って話を聞いている。
「村人はリーパーであるマリアに事情を話したのだけど……依頼金がなければ受けることはできないと言われ、マリアは村を去ろうとした。
だけどその時、一人の村人が言ったの。
“この村にいる一人を、好きに選んでもらって構わない”と」
(……それって……)
「要は、生け贄を捧げる代わりに村を救ってくれ、という交換条件だったわけね。
なぜかマリアはその条件を受け入れて、選ばれたのが若いエルドレッドだった……」
「……っ」
「リーパーであるマリアは血を使い、死者やリベリオン軍を一人で抑え、その力を誇示していたわ。
そしてその代償として、血の渇きを潤すために使われていたのがエルドレッド。
次第にマリアの力によって抑えられていったリベリオンは痺れを切らせ、武力だけではなく毒を使って殺す作戦を計画したのよ。
作戦実行日には神速のレーヴを筆頭に村を囲み、前線には死者に毒を盛って攻めさせた。
マリアは普段と変わることなく村を守っていたつもりだった。
だけど死者の体から毒が流れ、臭気となり村人はそれを吸い、血を吐き、もがき苦しみ、その場に倒れて命を落としていった。
それでも死者たちは村人を襲い、食べていたわ。
(やめて……)
マリアは異変に気付きエルドレッドのもとへ急いで向かった。
そして……そこにはエルドレッドも同様に吐血し、目や耳、鼻から血を垂れ流し、今にも息を引き取ろうとしていた。
──怒り。
──憎しみ。
──慢心。
──傲慢。
すべての感情が一気にマリアへと降り注ぎ──気がつけば、マリアは歪んだ笑みを浮かべていた。
そしてマリアは指先から血を伝わせ、苦しむエルドレッドの口へ一滴落としたのよ」
「眷属契約……」
ジェシカの言葉にアリスが頷く。
「そう、リーパーとして初めての眷属契約」
「そ、そんな……」
ジェシカは目に涙を浮かべる。
「そうね……そこからエルドレッドはマリアの血をもらったことでリーパーとなり、さっきまで苦しんでいたのが嘘のように回復したの。
そしてマリアはエルドレッドを連れてリブリオン軍から逃げるように村を離れ、どこかへ姿を消したの。
ここまでが古代文献に書かれている“狂喜のマリア誕生”よ」
アリスの話を聞いたアンディが、震える声で質問した。
「アリス……その村とは、まさか……」
カップとソーサーの擦れる音が小さく響き、アリスは口にする。
「ええ、そうよ。アンディだけじゃなく、クロスリーパーとしてマリア以降の全員が生まれた場所よ」
その一言で、空気が凍りつきクロード以外の全員がその場で固まっていた。
「……少し休憩しましょうか。まだ続きは長いわよ」
そう言うとアリスはポットを手に取り、リビングを後にしたのだった。




