2.清算と打算
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
鍛治師、錬成師
アルス
アルスは出雲刀について語り出した。
「まずな、出雲の国では“剣”じゃなく、“刀”って言うんだ。
だから分かりやすいように、ここでは刀って呼ぶぞ」
「この刀の材料は玉鋼。出雲の国でしか手に入らない」
「三日三晩、火を絶やさず打ち続ける」
「その間、鍛治師は一度も眠らねぇ」
「眠れば──魂が鉄に宿らないからだ」
その話に、アンディはただ驚愕していた。
「待ってくれ……鉄を三日も打てば、薄くなりすぎて使い物にならないだろ……どういう事なんだ……」
「お前の言ってる事は分かるさ。
だが残念ながら、俺は刀を打った事も、実際に目にした事もない。理屈までは分からないんだ」
…………。
そんな二人に、ジェシカが割って入る。
「ねえ、アルス。
その出雲刀なら、私たちが求めてる“進化”を遂げられるの?」
アルスはわずかに目を細め、ゆっくりと答えた。
「今のところ、これ以上の密度を誇る物を俺は知らない。
言えるのは、それくらいだ」
その言葉を聞いた瞬間、ジェシカは振り向いた。
「──行こう!!」
「『は……?』」
あまりに唐突な提案に、三人は思わず間の抜けた声を漏らす。
後ろではアルスが腹を抱えて笑っていた。
「あはは!さすがジェシカだな!」
だが、グラフが静かに口を開く。
「……待て、ジェシカ。
先に片付けるべき事があるだろう。“そっち”が先だ」
「え……何かあったっけ?」
本当に分かっていない様子のジェシカに、グラフはため息を漏らす。
「まずはミネルバ王国の件だ。
前国王フェミルの行く末を見届ける責任がお前にはある」
「それに胸のポケットの血の結晶。ヴェインとの錬成は可能なのか。
さらに依頼の報告と報酬の受領──出雲へ向かう準備も必要だ」
「要するに、勢いだけで話を進めるな。
これからはお前の行動一つで、周りを巻き込む」
「……はい……ごめんなさい……」
肩を落とすジェシカを、アリスが優しく抱きしめた。
「うふふ。グラフの言う事は正論よ。
でも言い方がね……正論過ぎるのも困りものだわ」
グラフは小さく息を吐いた。
「……そうだな。悪かった、ジェシカ。
俺も変わらないといけないらしい」
「ううん。グラフには、いつも感謝してる」
帽子を深く被り直し、グラフは照れを隠した。
────。
アンディが椅子を人数分運んでくる。
「まずは血の結晶の話からだな」
「俺も気になってたんだ……一体、何なんだ」
アルスはジェシカを見つめる。
「う、うん……私が話していいのかな……?」
アンディは無言で頷いた。
「この血の結晶は──魅惑のアリュールなんだよね」
「……は……? 今、何て言った……?」
「だから、アリュールのダークマター」
掌の結晶を見つめ、アルスは固唾を飲む。
「嘘だろ……まさかこの目で、“存在するかもしれない説”を覆す瞬間を見るとはな……」
グラフが顔を上げる。
「そういう事だ。分かったか、ジェシカ」
「なんとなく……」
「で、アルス。進化は可能なのか?」
「そうだな……無理とは言わねえな。
だが、これは鍛治や錬成の話じゃない。根本を変える必要がある」
アンディが静かに頷く。
「玉鋼にダークマターを練り込み、
出雲の鍛治師に叩いてもらい、違う鉱物に変化させてもらう必要がある」
「まあ、そういう事だ」
全員の視線がアンディへ向く。
「ああ……分かってる」
アンディは短く息を吐いた。
「俺は──出雲の国へ行く」
「アンディー!」
ジェシカが勢いよく抱き、アリスが微笑んだ。
「なら私はミネルバに残ってヘレティックを調べるわ。
グラフは?」
「……俺はジェシカと行く」
「決まりね。三人は出雲へ、私は情報収集」
「うん!
あとはギルドに報告して報酬を受け取るだけだね!」
立ち上がろうとした、その時。
「──待ってくれ」
アルスの声に、四人は振り向く。
「五日後、前国王フェミルの処罰が執行される。
それまでは……ここに留まってくれ」
「分かってる、大丈夫。最初からそのつもりだよ」
安堵の息を漏らすアルス。
「……そうか。なら、よかった」
──フェミルの刑罰執行の日まで五日。
それまでに各自、準備をする為、先にジェシカたちは工房を後にし、ギルドへ向かった。




