21.区切りと邂逅
登場人物
ディヴァインリーパー
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ソフィア国王 アルス
朝から国全体が、まるで祭りのような歓喜に包まれていた。
そんなミネルバ王国へ帰還したジェシカ達は、
ソフィアが所有する別荘へと身を寄せ、
アリュールとの死闘で疲弊した身体を癒すため、各自ゆっくりと休息を取っていた。
─────。
リビングのソファに寝転び、何も考えず天井を眺めていた時だった。
──ドアノッカーを叩く音が別荘に響いた。
「え……?」
立ち上がってリビングのドアを開け、廊下へ顔を出すと、少し前をグラフが無言で歩いていた。
グラフは振り返り、ジェシカに向かって手を前に出す。
──俺が行く。
そう言わんばかりに、玄関へと向かっていった。
しばらくして、複数人の足音が廊下に響き、
リビングの前で止まる。
ドアが開くと、そこには鎧を着た兵士二名とグラフの姿があった。
一人の兵士が一歩前に出て、ジェシカに向かって深く頭を下げる。
「この度の討伐依頼、誠に感謝いたします」
「つきましては明後日、ミネルバ城にて、ソフィア国王の御前へ参上いただき」
「改めてご報告をお願いしたく存じます」
(えっと……私達、四人で行って大丈夫なのかな……)
ジェシカはグラフの方を見て、目で訴えかけた。
「くっくっ……」
「とりあえず“明日”伺う。そう国王様へ伝えてくれ」
「承知いたしました」
「それでは、失礼いたします」
兵士達が別荘を後にし、城の方へ向かっていく様子を、ジェシカとグラフはリビングの窓越しに見送った。
「もう!どうして私なの!?」
「政のことなんて、全然分からないよ……」
「ふっ、だが形式上必要なことだ。避けられん」
グラフは淡々と言葉を続ける。
「これから俺達は冒険者として動く」
「つまり依頼主との“契約”が常に発生するということだ」
「……」
「そして、その窓口になるのはジェシカ。お前だ」
「今後、同じような場面は何度もある」
「うぅ……」
「政に深入りしろとは言わん」
「だが、“常識的な対応”くらいは覚えておけ」
「わ、分かった……」
「力だけじゃない。社会で生きる力も必要だ」
「くっくっ……」
帽子を深く被り直し、グラフはリビングを後にした。
───────。
翌朝。
朝日が差し込み、ジェシカは目を覚ました。
今日は、国王への報告の日。
そう思いながら支度を済ませ、リビングへ向かうと。
既に三人はソファに座り、紅茶を飲んでいた。
「あら、おはようジェシカ」
やけに上機嫌なアリス。
その隣には力の抜けたアンディ、向かいにはグラフ。
「うふふ、ジェシカの分も用意してあるわよ」
「あ、ありがとうアリス」
「くっくっ……お前達、毎日やりすぎじゃないのか?」
グラフがアンディに視線を向ける。
「うるせぇな、こっちはこっちで大変なんだよ」
ジェシカは会話の意味が分からず、首を傾げていた。
そこへアリスが、良い香りの紅茶を差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
アールグレイの香りが鼻を抜け、
朝の空気と相まって心が落ち着く……。
ジェシカは一口飲み、カップをソーサーに戻すと──おもむろにポケットから小さな塊を取り出し、テーブルに置いた。
最初に反応したのはアンディだった。
「……おい。それ……」
アンディの視線を追い、アリス、そしてグラフも気付く。
「うん。アリュールのダークマター」
──沈黙。
「……は?」
「ちょ、待て……」
「お前、四代厄災の一人から抽出したのか……?」
「え、あ、うん」
「だってアリスが、私には分離と融合のアルカナがあるって……」
ジェシカがアリスを見る。
アリスは口元を押さえたまま、言葉を失っていた……
「……確かに、ジェシカのアルカナは規格外だとは思っていたけど……」
「まさか、ここまでとは……」
「……これ、何かまずかった?」
その時、グラフが肩を震わせ、低く笑った。
「くっくっ……」
「いいか、ジェシカ。この世には“存在するかもしれない”とされる物が山ほどある」
「……?」
「だが実際に目にすることは、ほとんど無い」
「何故だと思う?」
「うーん……分からない」
「今のお前に説明しても理解できんだろう」
「だから一つだけ言ってやる」
グラフは静かに言った。
「お前は──不可能を可能にした」
「……そうなの?」
「ああ」
「詳しく知りたければ、アンディにでも聞け」
「アンディー、教えてよー」
頭を抱えながら、アンディは溜め息を吐く。
「話すと長くなる」
「とりあえず今は国王の所へ行く」
「その後、アルス達の所で説明する。それでいいな?」
「うん、分かった!」
「ただし」
「そのダークマターは、俺達以外に絶対見せるな」
「そして無くすな。いいな?」
「わ、分かった……!」
四人は支度を整え、
ミネルバ城──ソフィア国王の待つ部屋へと向かうのだった。
────。
「お待ちしておりました。今回の依頼、無事に完遂していただいたこと、心より感謝いたします」
「すでにギルドへは私の方から正式な報告を済ませております。報酬はそちらでお受け取りください」
「うん、ありがとうソフィア」
「うふふ……それと、もう一つ」
「今回の依頼の報酬として、これは私個人の判断なのですが」
ソフィアは一瞬言葉を区切り、穏やかな笑みを浮かべた。
「現在お使いになっている別荘、よろしければ貴女達にお譲りしたいと思うのですが、いかがでしょう?」
「えっ!? 本当にいいの!?」
驚きの声を上げるジェシカ。
その様子を見て、黙っていたアリスが一歩前に出た。
「……それはつまり、このミネルバ王国に私達を留めておきたい」
「そういう意図も含まれている、という事かしら?」
「え……?」
アリスの言葉に、ジェシカは戸惑いながら振り向いた。
ソフィアは一瞬だけ目を伏せ、そして正面から視線を返した。
「……確かに、まったく打算が無いと言えば嘘になります」
「ですが、それ以上に……これは私個人としての善意です」
「どうか、そのように受け取っていただけませんか?」
アリスはアンディとグラフの方を見た。
だが二人は何も言わず、静かにジェシカへ視線を向けていた。
「……うふふ」
「ごめんなさい、ジェシカ。少しでしゃばったみたいね」
「ううん、そんなことないよ!」
ジェシカは首を振り、ソフィアの方へ向き直ると、
少し緊張しながら右手を差し出した。
ソフィアはその手を取り、柔らかく握り返す。
こうして──
ミネルバ王国の王政是正、
そして四代厄災・魅惑のアリュール討伐という大きな幕は、静かに降ろされた。
だがそれは、終わりではない。
ジェシカ達は、
ヘレティク壊滅という、さらに大きな戦いへ向けて。
確かな一歩を踏み出したのだった。
─────────────。
第三章へ続く。




