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第6話:巨人達の初戦

ここは第6話です。間違いではありません。

当方の都合により、第4話を前後編に分割させて戴きました。

従って、第4話の後に第5話が続いて掲載されています。

誠に申し訳ございません。

「これが、あのロボット……」

 線二郎達は目の当たりにした巨大ロボットに圧倒されて思考も全身も硬直した。

 その隙を突いて鉄子が靴も履かず、開かれていたリビングの大窓から外へ飛び出す。

 「私の事はいいから逃げてッ!! こいつらに捕まったら何をされるか分からないッ!!」

 路上に出た徹子が声を張り上げて逃亡を促していると、

 「お客様に失礼な事を言うな!」

 追い駆けてきた線二郎が鉄子を押さえ付けた。しかし、ポォが放ったトパーズイエローの光線が背中に当たると、弱々しく手を放してその場にへたり込む。

 父から逃れた鉄子は、まだ眼が青い玉虫色のロボットの足元に駆け寄った。

 だが、不意に現れた黒い影に行く手を遮られた。それと同時にプロペラ音が彼女の耳を激しく打つ。

 見上げると、玉虫色のロボットの頭上を6機の大型ヘリコプターがホバリングしていた。幾条ものライトが巨体を照らし出す。

 そして、特殊部隊みたいな男達が忍者の様な俊敏な動きと尋常でない跳躍力で飛び回り、瞬く間に玉虫色の巨体をワイヤーで何重にもグルグル巻きにした。

 「待機させておいて正解でした」

 追い付いた秀臣が、鉄子に向かって勝ち誇った。

 「予想通りですね。君を追い詰めれば来ると確信していました。だから、準備は万端だったのですよ」

 これだけの騒ぎなのに、近所から野次馬で1人も出てこない。

 実は事前に近隣住民を近所の小学校に避難させると同時に、手塚宅がある町内を立ち入り禁止にしていた――筈なのだが、何処からともなく老若男女が集まり、捕縛された玉虫色のロボットとヘリコプター部隊を撮影し始めた。

 瞬間移動してきた巨大ロボットを見た人々が、野次馬根性丸出しで避難所から抜け出してきたのだ。やはり、巨大ロボット出現という前代未聞の事件となれば、火災や立て籠もり事件が発生した時みたいな警戒心は薄れてしまうのだろう。

 特殊部隊の男達の一部は、

 「危険ですから離れて!」

 と、再度避難を促す。そのうち1人が拡声器を持って、

 「こちらは大帝院総合研究所です。政府から委託を受け、危険なロボットの回収に参りました。どうか御協力をお願いします」

 と喧伝し、他のメンバーは手早くヘリコプターとロボットをワイヤーで連結させた。

 「強引に連れていく気!?」

 「君が素直に快諾しないからですよ。プランA――交渉は失敗だが、プランB――ヘリ部隊による回収はスムーズにいきそうです」

 早くも成功を確信した秀臣は、今にも勝利の美酒を呑みそうな笑みを浮かべている。

 眼前に男達が立ち塞がる鉄子は、玉虫色のロボットが連れ去られるのを黙って見ているしかなかった――と思いきや、誰もが予想外の事態に。

 ヘリコプター全機のプロペラが、同時に見えない手で握り潰された様に鉄の塊と化したのだ。それなのに、全ての機体は落下せず空中に留まり続けている。異様な状況に驚愕の声が上がり、続いてスマートフォンのシャッター音とフラッシュが増えた。

 そして、ポォと同じく頭頂部の胸角からルビーレッドの光線が幾度も射出され、頭角のY字型先端の間を通過して直進し、ヘリコプターと自身を繋いでいるワイヤーを残らず切断した。

 更に連射すると、どの光線も急に鋭角カーブを描いて全身を拘束しているワイヤーを寸断した。

 「光線が曲がっただとッ!?」

 有り得ない現象に秀臣は眼を見開いて固まった。

 いとも簡単に自由を取り戻した玉虫色のロボットは、間髪入れずトパーズイエローの光線を射った。それは何本も枝分かれし、何度も鋭角カーブを描くと宙に固定された機体の中に入った。その直後、一斉に悲鳴が上がった。狙い違わず、全ての搭乗員に命中させたのは明白だった。

 その後、忍者に等しい動きでロボットを拘束した男達も、同様に黄色い光線を喰らってその場に倒れ込む。何処までも追尾するそれから逃げ切れた者は1人もいなかった。

 続いて、サファイヤブルーの光線を発射した。同じく何本も枝分かれし、動けなくなって呂律が回らない呻き声を上げているだけの全搭乗員と全特殊部隊員に命中した。

 やがて、6機のヘリコプターは同時にゆっくりと降下し、静かに路面に着地した。地上にいた特殊部隊の一部が慌てて助け出すが、彼等は誰もが恐怖で顔を引きつらせていた。親と離れ離れになった幼子みたいに泣きじゃくっている者も少なくなかった。そして、あのサラリーマンと同じく額に謎の紋様が浮かび上がっている。

 「あのロボットは何をしたッ!? あの光線は何だッ!?」

 秀臣が鉄子に詰め寄った。けれども、間にポォが割って入って彼女から引き離された。

 3種類の光線について何も知らない鉄子は答えようがなかった。返答に困って口を噤んでいると、

 「そこまでッ!」

 更に白銀の巨体と男子の声が割り込んで鉄子を庇った。

 秀臣の前に立ち塞がっているのはフェッルムで、電馬が背中の座席に立っていた。

 「そこまでにしておきましょう、屋坂博士。これ以上はいけません」

 「おやおや、この私と知りながら指図するとは。身の程知らずな君は誰です?」

 「初めまして。高い所から失礼します。堤中高校3年生、異端科学部部長の疋島電馬です」

 「疋島?……もしや、あの疋島博士の……。そして、三流研究所の手下・底辺部活の部長ですか」

 「うわぁ~! 予想通り辛辣ですね」

 「これでも穏やかに表現してあげたのですよ。――お前もいるしなッ!!」

 秀臣が睨み付けた相手は電馬ではなく、振り向いた先にいるコバルトゥムから降り立った詳子だった。

 彼女は飽く迄も穏やかな笑みを崩さず、

 「これはこれは、穏やかではないお出迎え。それに、私達は『初めまして』では?」

 「……チッ! そうでしたね」

 「涙の再会を喜ぶのは後にした方が良いみたいですよ」

 電馬は詳子と秀臣の間に見えない火花が激しく散っているのに気圧されつつ、平静を装って口を挟んだ。

 「あのロボットは手塚君の敵を完全に排除するまで活動し続けます。この状況を引き起こしたのは博士ですよね? だったら、早く逃げないと……」

 電馬が指差した先には、既に赤くなった眼でこちらを見下ろす玉虫色のロボットがいた。

 正確には秀臣だけを見据えている。しかも、右剣印の切っ先を彼に突き付けていた。四肢のラインもルビーレッドに変わっている。

 「何があっても、彼をあなた達に絶対渡しません」

 鉄子が毅然と言い放った。けれども、秀臣は鼻で笑った。

 「これぐらい想定内ですよ。――プランCに移行」

 傍にいた隊員に告げると、彼は通信機でその旨を通達した。

 すると、巨大なタイヤを8本備えた装甲車が疾走してきた。

 驚いた電馬が指差す。

 「反対側からも来た! あっちやそっちからもだ!」

 実は昼間に近所の河川敷や小学校のグラウンド等4箇所に配置し、巨大なシートで覆い隠していた。ヘリコプターでの強制輸送が失敗した場合を想定して、今まで待機していたのだ。

 「あれは、16(ひとろく)式機動戦闘車!」

 「その通り」

 自衛隊の装甲車を一目で言い当てた詳子に、秀臣が誇らしげに応える。国家の暴力装置でさえグループの意のままになっている事実を示す事で、大帝院家の権力を誇示出来るのが嬉しいみたいだ。

 「陸自すら動かすとは。そこまでして欲しいのですか?」

 「当然。いつ周辺の国々から侵略を受けるとも知れぬのに、防衛手段を強化しないのは愚の骨頂。しかも、どの国もロボット兵器の開発を急ピッチで進めている」

 近年、AI搭載の自律型兵器の開発競争が熾烈化している。

 ロシアは2030年迄に地上戦を担えるロボット部隊の創設を発表している。

 また、中国も同じ年にAIの軍事利用で世界の頂点に立つと宣言。

 そして、アメリカも一般兵士とAIパイロットの混成部隊を目指している。

 何故なら、軍事兵器に搭載されたAIは敵の動きを正確に予測し、人間よりも早く判断を下し、かつ短時間で無数の情報を処理する。しかも、接近戦への恐怖を抱かず、Gの負荷には人体を上回る耐性を持つからだ。

 「だからこそ、我々もロボット兵器の開発に遅れを取ってはならない。あのロボットを研究すれば、我が国は最強のロボット兵器を配備可能になる」

 「国防強化に異論はありません。

 学校や会社で弱い者は舐められ、心身共に虐げられ、一方的に奪われる。

 それと同様、弱い国も相手と同等もしくは相手以上の力が無くては対等に接して貰えない。

 どの国も武器・兵器を保持していない完全平和なぞ、現実から眼を背けた夢想家と楽天家達の夢物語」

 詳子はその点だけは同意した。悲しそうな、やるせない表情で。

 「しかし、その問題は大人達だけで対処すべき。未成年者を巻き添えにするのは間違っている」

 「子供が強力な兵器を手にしておきながら、我々大人に差し出さないのが悪い。刑事達が来た時点で素直に応じれば良かったのですよ」

 「やはり、警察もグループの走狗に成り下がっていましたか」

 「それは違う。あのロボットの接収を喫緊の課題と考えた政府の命令です。私は地球外生物対策委員会のメンバーとして任務を遂行しているに過ぎないので」

 「同時に、〈大帝〉の命令も受けて、でしょうね」

 「……相変わらず鋭い奴め」

 秀臣が唾を吐く様に答えた時、玉虫色のロボットから距離を置いて包囲した4機の機動戦闘車が一斉に砲撃した。射出された4つの砲弾は同時に空中分解し、そのロボットの頭上に巨大なネットが覆い被さってきた。

 ところが、その巨体を捕獲する寸前、放たれたルビーレッドの光線が螺旋を描き、自身を包み込んだ。ネットが覆い被さった途端、一瞬にしてズタズタに斬り裂かれて路面や近所の庭に落ちた。

 「また曲がった!? だが、まだ手はある!」

 秀臣は隊員から拡声器を奪い取ると、

 「ロボットのパイロットに警告します。これ以上、抵抗はしない方が利口です。こんな所で暴れたら、かなりの被害が出る。大人しく私達に従いなさい」

 「あのロボットの中にパイロットはいません! AIで動いているんです!……多分」

 「ならば、君の口から刃向かうなと指示しなさい」

 しかし、鉄子は激しく首を横に振った。

 「嫌ですッ! そっちこそ諦めて帰って下さい!」

 「チッ! 生意気だな。あの底辺部の連中はどいつもこいつもッ!」

 秀臣は苛立ちを隠さず、隊員に命令を下した。

 「直ちにプランDに移行!――徹甲弾を使えッ! 多少破壊しても構わん!」

 それに応えるべく、正面と背後にいる機動戦闘車の砲口から105mm徹甲弾が同時に発射された。

 この距離ではどちらも避けられないのは明白。鉄子も秀臣も、胴体に大穴が空いた玉虫色のロボットの姿が脳裏に浮かんだ。

 しかし、玉虫色のロボットはガーネットオレンジに光る斜方立方八面体に包まれた。それに炸裂した瞬間、2つの砲弾は潰れてマッシュルーム状態になり、音を立てて路面に落ちた。

 「徹甲弾が貫通出来ないだとッ!?……ならば、次の手段だ!」

 すると、今度は10m程の巨体が4方向から走ってきた。

 「巨大ロボットだとぉッ!? マジかッ!? 凄いなッ!!」

 電馬は思わず歓声を上げた。けれども、鉄子と詳子の冷ややかな視線に気付いて気まずそうに黙り込む。

 モスグリーンの機体は見るからに軍用と分かるデザインで、右手にはガトリング砲を、左手には方形の盾を構えていた。動きの速さや滑らかさは姫科研の同サイズのモーターヴァーレットと同じレベルだが、玉虫色のロボットには及ばない。

 「やはり、大帝院グループも10メートル級を実用化していたのか」

 詳子が呟くと、

 「その通り。巨大人型ロボットを開発していたのはお前達だけではない! 我が大帝院グループが実用化に成功した、24(にいよん)式人型機動戦闘車〈三厳(みつよし)〉だ!」

 秀臣が勝ち誇って言い放つ。

 「しかも、三流研究所のロボットよりも動作性が優れている。これほど滑らかな動きが出来ているか? 走る事が出来るか?」

 優越感に任せて自慢するが、予想に反して詳子は悔しがらない。

 「いや、出来ていますよ。言う程、遜色無いです。恥ずかしいぐらい贔屓目(ひいきめ)で見過ぎ。科学者とは思えない観察眼と分析力ですな」

 「何だと!?」

 「あと、ロボットとのサイズ差は、まるで大人と子供ですね。軽くあしらわれそうですよ」

 「機体のサイズ差が勝敗を決める訳ではない! 強く優れた方が勝つ!」

 しかし、電馬の発言で微妙な空気になった。

 「何か、パトレイバーに似てない? 98式と言うより零式に」

 「言われてみれば、確かに」

 詳子は頷くが、知らない鉄子と秀臣はピンとこない。

 「これは明らかにパトレイバーのパクリだねぇ。パチモンだよ」

 「では、パチレイバーですな」

 「勝手な綽名を付けるなッ!!」

 納得する詳子達に秀臣が怒声を放つ。けれども、詳子は平然と言い返す。

 「いやいや、三厳だと名前負けしているので、パチレイバーで充分でしょう。柳生十兵衛とヘッドギアに全力で謝罪すべき事案」

 「黙れッ! パクリでもパチモンでもないッ! 名前負けしていないッ! 高性能を目の当たりにして驚き(おのの)くがいいッ!!」

 玉虫色のロボットに急接近した4機の三厳は、腹や腰等にガトリングの砲口を至近距離で突き付けた。

 「ほぅ。M16バルカンをロボット用のハンドガンに改造したのか」

 詳子の言う通り、同時に銃爪(ひきがね)を引いた途端、高速回転する砲口から絶え間無く噴き出す弾丸は全て玉虫色のロボットに炸裂した。

 「この距離でバリアが出せるか! この距離でこれだけの連射を受けて無傷でいられるか!」

 秀臣が逆転を確信して高らかに言い放つ。

 だが、先程の徹甲弾と同様、どの弾丸もマッシュルーム状態と化して三厳の全身に降り注ぎ、音を立てて路面に転がった。玉虫色の装甲には掠り傷すら付かない。

 射ち尽くした4機の三厳は、すぐさま右腰に装備していたコンバットナイフを引き抜くや否や、ロボットの関節や接合部に刃先を突き刺した。

 ところが、(えぐ)ろうと(ひね)ったら刀身がへし折れた。

 「ここまで頑丈なのかッ!?」

 笑顔が崩れて驚き慄く秀臣に向かって、詳子が半ば呆れた表情と口調で、

 「アメリカ等が目指しているロボット兵器とは、既存の兵器に人間を乗せず、ドローン兵器の様に遠隔操縦する、もしくは搭載したAIに操縦を代替する。つまり、兵士の死傷というリスクを減らす事と、より効率的で成功率が高い軍事行動を遂行させる事が目的です。

 それなのに、わざわざ人型に造って、かつ搭乗タイプにする理由は?」

 「……答える必要は無い」

 「もしかして、開発チームの科学者と技術者がアニメや特撮のオタクばかりでは? 内部操縦方式人型巨大ロボットを自らの手で再現する事が最優先になっているのでは?」

 「…………ッ!!」

 「その沈黙は肯定ですね。やれやれ、メンバーを入れ替え、非オタクだけ集めれば良いのに」

 「人材不足だッ! 優秀な者ばかり選んだら、何故か全員が……」

 「これはこれは、お気の毒に」

 (恐らく、技能が足りずに姫科研に入れなかった。もしくは、所長の怒りに触れて追放されたマッドサイエンティストやマッドエンジニア達が、偶々グループにスカウトされ、これ幸いと好き勝手しているのだろう)

 一方、4機の三厳は反撃を受けない様に、急いで玉虫色のロボットと距離を取った。

 対するロボットは例によって“儀式”を始めた。右手の剣印の切っ先を正面の三厳に突き付ける。すると、自身が時計回りに回転を始めた。鉄子が驚きの声を上げる。

 「浮いてるッ!?」

 玉虫色のロボットの両足は路面から1メートル程離れ、その巨体は宙に浮遊していた。そして、残りの3機にも順番に剣印を突き付ける。

 「挑発的だな。だが、格好付けていると負けた時が恥ずかしいぞ」

 秀臣はぎこちなく笑みを浮かべて煽る。しかし、虚勢は脆くも崩された。

 4機の三厳は背中に装備していたメイスやバトルアックスを構えると、急速に間合いを詰めた。

 玉虫色のロボットの腹と腰に武骨な鎚頭が、左右の大腿部に肉厚の刃が叩き込まれる。

 だが、効果は全く無い。何度も打ち込むと、そのどれもが砕けた。玉虫色の装甲はまだ無傷を誇っている。

 しかも、正面の三厳の両腕が斬り落とされた。

 「サブアームだとッ!?」

 玉虫色のロボットの両肩から蟷螂の前脚に酷似したサブアームが素早く飛び出し、両腕を挟み込むとルビーレッドの光で形成された刃が瞬時に切断したのだ。

 そして、今度は右拳にルビーレッドの光で形成された円錐が出現。間髪入れず、予想外の反撃に怯んでいる三厳の腹に打ち込んで背中まで貫いた。

 そして、重量を感じさせないスピードで背後の三厳に、ノールックで後ろ蹴りを喰らわせた。体勢を崩して仰け反った瞬間、左拳の円錐が腹を貫通した。これでどちらも路面に倒れ、再び動き出す気配は無かった。

 正に一撃必殺。あたかも雀蜂が毒針で獲物を仕留めるが如く。

 しかも、左右から遅れて襲撃してきた2機の三厳に対し、それぞれエルボースマッシュとニーキックを顔面に命中させる。当然、肘と膝から例の円錐が突き出ていた。

 「何て強さだッ! しかし、2機はメインカメラをやられただけだ! サブがまだ生きてい――」

 ところが、これで終わらない。

 「――浮かんだだとぉッ!?」

 頭部を失った2機は同時にゆっくりと路面から離れ、1m程の高さで固定された。これでは高性能な最新機であっても本領を発揮出来ない。

 常に冷静な詳子ですら驚きを禁じ得なかった。

 「やはり、サイコキネシスが使えるのか!?」

 「AIで動くロボットなのにィ!? やっぱり、人が乗っているんじゃ……いや、それとも生体部品が使われていて……いやいや、そもそもサイコキネシスなんて有り得ないッ!」

 「ですが、部長。先程プロペラを潰し、機体を空中に固定した事を考えると、そうとしか」

 「うーん、そうだねぇ。――にしても、異星文明の科学技術って凄いんだなぁ」

 敵味方を問わず、誰もがその光景に思考と行動が停止した。

 宙に浮いた2機は逆様(さかさま)になった。すると、胸ハッチが開いて操縦者が路面に落ちた。その後、空っぽになった2機は再びゆっくり移動し、路面から10mぐらい離れ、かつ玉虫色のロボットから100m以上離れた正面に集まった。

 すると、ロボットはそれに向かって走り出した。今度はバッタの後脚に酷似したサブレッグが飛び出し、両脚と共に路面を蹴って宙に躍り出た。

 それを目の当たりにした鉄子は黄色い悲鳴を上げ、電馬も「うぉぅッ! ライダージャンプ!!」と、テンションが上がった。

 山なりの跳躍の頂点で素早く前転。そして、右脚を伸ばした直後に足裏からルビーレッドの円錐が出現した。

 一気に急降下してきたそれに貫かれた2機は、串刺しのまま小学校のグラウンドに叩き付けられて大破。玉虫色のロボットがサブレッグで大地を蹴り、素早く飛び退いて距離を取った瞬間、激しく爆発した。

 鉄子は黄色い悲鳴を(ほとばし)らせ、電馬も「うぉぅッ! ライダーキック!!」と大はしゃぎ。

 そして、詳子は呟く。

 「人類史上初の巨大ロボット同士の戦いを制したのは、やはり異星のロボットか」

 鉄子の歓声を受けながら、玉虫色のロボットはすかさず、角からアクアマリンブルーの光線を放ち、炎上する残骸に照射した。すると、瞬く間に凍り付いて炎は完全に消えた。

 「冷凍光線だって!? 有り得ないッ! まるでアニメか特撮だ!」

 「昨日、ポォが煙草の火を消したのと同じだ! それも威力がスゴい! こんな事まで出来るなんて……」

 電馬は驚きと嬉しさが混ざった感想を口にし、鉄子は狂喜して歓声を上げた後、うっとりした顔付きで玉虫色のロボットを見上げていた。

 鉄子からの熱い視線を浴びている玉虫色のロボットは、再びサファイアブルーの光線を放ち、逃げている全ての操縦者に命中させた。

 「まるで恋する乙女だな」

 玉虫色のロボットを見つめている鉄子を眺めていた詳子が呟くと、ハイテンションだった電馬は一気に冷めて表情が曇った。

 ところが、これで終わりではなかった。

 凍結した2機は、アメシストパープルの斜方立方八面体に包まれて瞬時に消失した。

 「消滅した!?」

 「いや、違う」

 驚愕した秀臣の言葉を詳子が否定した。

 「何処かに飛ばしたのですよ。あれはテレポーテーションかワープか……」

 「何だとッ!? キャシー、追跡出来るか?」

 「残念ながら、全機GPSが機能していません」

 タブレットを操作していたキャサリンの返答に秀臣は舌打ちした。

 詳子は神経を逆撫でする口調で、

 「御覧の通り、異星文明のロボットは地球人類(わたしたち)の概念と技術を遥かに凌駕しています。それでも完全に制御出来る自信はおありで?」

 煽られた秀臣は今にも怒りが噴き出しそうな表情だ。

 けれども、その横に立つキャサリンは淡々と呟いた。

 「私達の予想以上ですね」

 彼女は氷の如き微笑を浮かべた。すると、鉄子達は言い知れぬ(おぞ)ましいものを見てしまった感覚に襲われ、思わず彼女から眼を逸らした。

 一方、秀臣は見慣れているのか、その微笑みに対し、落ち着きを取り戻した笑顔で応える。

 「そうだな。つまり、楽しくなってきた訳だ。やはり、簡単に手に入ると面白くない。特に異星文明の産物はな」

 秀臣は鉄子に向き直ると、

 「今日は大人しく引き下がってあげましょう。ですが、次は必ず回収します」

 「これはこれは、お手本の様な負け犬の遠吠えですね。屋坂博士ともあろう御方が、女子高生相手に恥ずかしくないのですか?」

 鬼の形相を浮かべた秀臣は詳子の煽り文句に応えず、光線の餌食になっていない隊員達に撤収命令を下した。

 彼等は現れた時と同じく、すぐさま町内から消え失せた。機動戦闘車の走行音が小さくなっていく。

 「ヘリは置いてけぼりなんだ」

 電馬が呟くと詳子が指差して、

 「いや、テイクアウトするみたいですよ」

 残されたヘリコプターも次々に例の八面体に包まれ、まとめて瞬間移動させられた。

 その時、詳子が鉄子に、

 「まだ消されていない2機のパチレイバーを、私達にくれる様に頼んでくれないか。回収して姫科研で分析したい」

 「分かりました。――お願い、残りのロボットを私達にくれないかな?」

 鉄子が頼むと玉虫色のロボットは頷いた。

 「ありがとう。悪い人達は帰ったし、無理矢理連れて行かれなくて済んだし、本当に良かったね。

 ――あと、すっごく格好良かったよ」

 こちらに帰ってきた玉虫色のロボットに鉄子が話し掛けると、彼は「リィィィン、リィィィン」と心地良い鳴き声で応えた。

 この時、鉄子はロボットの2つの変化を目の当たりにした。

 1つは複眼と四肢のラインがルビーレッドからトパーズイエローへ、そしてサファイアブルーに戻っていった。もう1つは――

 「今、黄色くなった!」

 サファイアブルーに光っていた胸の三重八芒星が、トパーズイエローに変わったのだ。しかも、変色と同時に「テュゥゥゥン! テュゥゥゥン!」と柔らかめの警告音を発し始めた。

 「これは一体……」

 詳子が考察を始める前に、玉虫色のロボットは背中に蜻蛉の翅を生やして夜空の彼方へ飛び去ってしまった。

 電馬がまだ学校にいた雷馬に電話で訊くと、そちらには帰ってきていないらしい。

 遅れて警察が到着すると、一部始終を目撃していた野次馬達を整列させ、ブーイングを聞き流しながら簡単な事情聴取を始めた。

 続いてマスコミの大群が押し寄せて来た。

 当然、手塚一家も双方から質問攻めにあった。当初、鉄子は警察署に連れて行かれそうになったり、マスコミにも取り囲まれたりしたが、詳子が説明するとどちらも学校に来た刑事達と同じく手を引いた。

 「やはり、おかしい」

 「とうしたのかな、ショタ子君」

 訝しがる詳子に電馬が訊くと、

 「警察とマスコミは屋坂博士達が完全に撤退したのを確認してから来たのでは?」

 「つまり、両方が大帝院グループに忖度したって事? まさか――」

 「そのまさかが有り得るのですよ。あの大帝院グループですから。政府と結託しているなは間違いないでしょう。実際、路上に車が1台も無いのは、事前に交通規制をして排除していたからだと考えられます」

 「やっぱり、身内の証言は信憑性が――済まない。また口が滑った」

 「気にしていません。事実なので」

 鉄子は重要な事を聞いた気がしたが、より気になる事があったのでそちらを優先した。

 「じゃあ、また狙われるのですか?」

 「そうだよ、テッコ君。だから、充分に注意すべきだ。――と言っても、ポォもあのロボットも途轍も無く強いから、そんなに不安にならなくても大丈夫だろう。勿論、油断しない程度にね」

 「分かりました。気を付けます」

 「今日は色々な事があり過ぎて疲れただろう。もう遅いし、あのロボットも消えちゃったから調査出来ないし、これで解散しよう」

 電馬の提案に鉄子と詳子は頷き、それぞれ帰途に就いた。

 鉄子が家に入ると、両親と双子の妹達が怯えていた。その眼は明らかに鉄子を異質の存在として見ている。これまでは家族に紛れ込んだ異分子扱いだったが、今は恐怖の対象になっていた。

 そして、線二郎は三和土(たたき)に両脚をだらしなく投げ出して床に座っていたが、まだ麻痺が消えていないのか路枝に支えられていた。

 その横をすり抜けて、汚れた靴下を脱いで床に上がった鉄子は彼等に一言も掛けず、バックパックを取りにダイニングに向かった。

 その後を追い駆けていたポォは、「これ以上、彼女に関わるな」と言わんばかりに、複眼をトパーズイエローに輝かせて「キュィィィン」と鳴きながら4人の眼前を迂回した。

 路枝と妹達は顔を強張らせて何も言えなくなり、線二郎は舌打ちするしかなかった。

 鉄子はいつもの様に自室で遅めの夕食を取りながら、先程の戦いを思い返していた。

 やがて、コンビニの麻婆焼きそばを挟んでいた箸が止まり、うっとりした表情で中空を見上げる。

 (格好良かったなぁ)

 玉虫色のロボットの勇姿が脳内再生され、やがて有りもしなかった鉄子へのサムズアップが見えた。

 鉄子は思わず頭を激しく何度も振りながら、脳内で黄色い悲鳴を上げた。

 (いやいやいやいやッ!! 彼の事がドンドン気になるぅッ!! 何で何でッ!? どうしてぇぇぇッ!?)

 巨大ロボットを“彼”と呼んでいる時点で、もう…… 

☆次回予告


陰謀はまだ終わらない。

眠る鉄子に迫る魔の手。

侵入者どもを迎え撃つのは果たして誰か?

今宵、仮面を着けた鬼才達が暗躍する。

第7話「忍び寄る夜風――女王達の狂宴」


そのドレサージュは因果応報。

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