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第5話:招かれざる使者ども〈後編〉

 「あっ、どうもです」

 「またまた会うとはねぇ」

 「確実に首謀者扱いですな。ふふふっ」

 生徒会前で揃った3人は、自分達を連行してきた男子生徒達に促されて渋々入室した。

 そこは校長室の次に内装が整っており、奥には校長のそれに匹敵するデスクが配置されている。

 その生徒会長専用の椅子には、金髪碧眼で色白巨乳ハーフ美少女が仏頂面で両腕を組んで待ち構えていた。

 光彩はリゾート地の穏やかな海と同じターコイズブルーだが、眼光は高校生とは思えないぐらい鋭くて獲物を狙う猛禽類みたいだった。(まばゆ)いブロンドを頭の後ろで束ねているが、ポニーテールと言うより剣豪の茶筅髷(ちゃせんまげ)に見える。

 そんな彼女の背後には墨痕(ぼっこん)鮮やかに「勧善懲悪」と描かれた掛け軸が下がっており、その前に置かれた黒漆(くろうるし)塗りの刀掛けには打刀(うちがたな)脇差(わきざし)が横たわっている。

 そして、左右の壁に沿って役員達と風紀委員達が軍隊の様に直立していた。

 「遅いッ!」

 入室した鉄子達を、生徒会長の右隣に立っている副会長の馬川(うまかわ)(いわお)が叱責した。

 「愚昧な弱者の分際で会長を待たせるな!」

 いきなり喧嘩腰(けんかごし)なので鉄子は委縮してしまった。

 けれども、詳子は涼しい顔で言い返す。

 「申し訳ありません。何処に出しても恥ずかしい愚昧な弱者なので」

 「……毎回トップの貴様が言うな。嫌味にしか聞こえん」

 生徒会長の天牛山(てんぎゅうざん)グレースは、口調は静かだが、こちらに対する激しい敵意と戦意を隠そうともしない。

 「毎回トップは君もだろう」

 詳子が言うと、グレースは睨み付けて言い返した。

 「だが、貴様は元大学生。しかも、HITを飛び級かつ最高得点で入学し、首席で卒業した。トップの重みが違う」

 彼女の左隣に立っている書記が「会長、もう少し穏やかに……」と恐る恐る進言するも、

 「この私に配慮しろ、と?」

 そう言って一瞥(いちべつ)すると、「ご、ごめんなさい」と青ざめて体を縮めた。

 「そこの愚者ども」

 巌が冷たく言い放つと、

 「もしかして、私の事ですか?」

 「それって、僕も入ります?」

 自らを指差す鉄子と電馬に、

 「当然だろう。上の上ランクにすら入れぬ愚昧な敗者はその自覚すら無いのか?」

 (副会長だけあって、堤中イズムがスゴいなぁ)

 鉄子は気圧されながらも呆れていた。

 (こうなると、生徒会長はもっと厳しいんだろうなぁ)

 グレースは日本人の父とスマラクトラント人の母を持ち、同学年の詳子と同じく入学試験以来、常にトップである。当然、マドンナ・クインテットの1人だ。

 そんな彼女が有名になったのは一昨年の冬、入試の日に起こした事件だった。

     ~ ☆ ~

 グレースが校門を通過する寸前、受験生の服装や髪型等に眼を光らせていた教師と風紀委員達に捕まったのだ。

 勿論、グレースは自身がハーフ故にどちらも生まれつきだと説明した。ところが、

 「伝統ある我が校は、どんな理由があろうとも髪も眼も黒以外は許さない。今すぐ髪を黒く染め、黒のカラコンを()めてこい。さもないと入試は受けさせん!」

 教師が持っていた竹刀の切っ先をグレースの鼻先に突き付けてそう言い放った直後、その刀身は鍔元(つばもと)から斬り飛ばされていた。

 そして、グレースの手にはいつの間にか抜身の打刀が握られており、竹刀が乾いた音を立てて路面に落ちた時、ゆっくり(さや)に納めていた。

 「生来の髪と眼の色を否定するなら、相応の覚悟はあるのだろうな?」

 ()く迄、静かな口調と無表情で訊くグレースの気迫と威圧感、そして一目で真剣だと分かる刃の輝きに教師と風紀委員達は全身硬直した。

 「しかも、竹刀とは言え剣だ。剣をこちらに突き付けたという事は宣戦布告であり、斬られる覚悟があると解釈して構わないな?」

 そう言いながら腰を少し落として脚を開き、居合斬りの構えを見せた。すると、数人の風紀委員は気を失い、残りの風紀委員達と教師は腰が抜けてへたり込む。彼女が発する殺気に圧倒されたのだ。

 ようやく刺又(さすまた)を持った複数の警備員や教師が駆け付けたが、瞬時に全ての先端を切り飛ばされ、ただの棒に変えられてしまった。

 「無双流――天牛山グレース。挑んでくるならば、誰であろうと容赦も躊躇(ちゅうちょ)も無く斬り捨てる」

 誰もが死を感じた時、鳴り響くパトカーのサイレンが段々大きくなり、通報を受けた複数の警官が到着した。これで危険人物は速やかに排除される、と誰もが胸を()で下ろした。

 ところが、グレースの顔を見た途端、警官全員の顔色が変わり、「失礼しました」と一斉に深く頭を下げた。

 それどころか、驚く教師達に「何も問題ありません。この方は違法行為を全くしていない」と言い切ったのだ。

 教師達はグレースを逮捕・連行して貰おうと強く抗議したが、警官達は問題無いの一転張り。

 そのうち、校長が大慌てで駆け寄ってきた。

 「その方はいいんだッ! 何も問題無い。黙って通してくれ!」

 青ざめた校長は驚く教師達を尻目に、グレースに深々と頭を下げて謝罪した。

 (俺は知らんぞ。責任はあんたが取るんだろうな)

 そう思った教師達は、急いでグレースから離れた。責任の所在が自身に無いと判明したし、こんな事で命を(うしな)いたくないのは全員同じだった。

 全員から敵意が消え、警官達が去ったのを確認したグレースは切っていた鯉口(こいぐち)を納め、悠々(ゆうゆう)と校門を通り抜けた。尚、その直後、打刀は消えていた。

 その後、入学試験は無事に全科目終了した。ただし、この騒動で心を乱されて実力を発揮出来なかった者達は後日涙を飲んだ。

 そして、入学式の日。全クラスのホームルームにて担任教師の口から校則に「生まれつき黒髪・黒目でない場合は誰からも責められない」の条文が追加されると発表があった。

 更に翌月の連休明け、生徒会長が突如辞任を発表。しかも、後継者としてグレースを指名した。これは堤中高校史上、前例の無い事件である。

 勿論、理由を問われたが生徒会長だった男子生徒は「自身の力不足、不適格だったのを思い知った」と項垂(うなだ)れて答えるだけ。数日後には自主退学した。

 一方、多くの生徒が選挙を求めたが、グレースの一瞥で口を(つぐ)んだ。校門事件が知れ渡っているのもあるが、女子高生とは思えない眼光と全身に漂う威圧感に委縮したのだ。

 こうして初の新入生生徒会長が無投票で誕生した。

 その後、彼女は矢継(やつ)(ばや)に校則を変えていく。本人は改革のつもりだが、元々厳しかった内容がますます苛烈(かれつ)になった。プリンス並びにマドンナ・クインテットに入っている生徒や他の成績上位者達にとっては痛くも痒くもないが、上の中以下の生徒達にとってディストピアの法律みたいな校則に変容していたのだ。

 9割近くの生徒が反対したが、グレースは校訓五条を挙げて「愚者・弱者・敗者には異論・反論を口にする権利も資格も無い」と言い切って相手にしなかった。実際、彼女に睨まれるだけで恐怖に襲われて何も言えなくなる。

 時にはこれみよがしに鯉口を切り、

「不平不満があるなら、私を倒してみろ。強者であれば 」

 と、言い放つ。当然、挑む者は1人もいない。

 そんな生徒の保護者達も(いきどお)ったが、PTA総会に現れたグレースに気圧され、反対の声は消えた。しかも、彼女が求めるレベルの指導能力を持たない教師達は次々に退職した。

 それから1年。〈堤中高校の真の優等生〉〈堤中イズムの体現者〉と恐れられた生徒会長は、今も絶対権力として君臨している。

 尚、マドンナ・クインテットには生徒会長に就任すると同時に入った。一年生でなれた事も前代未聞だが、実は詳子も同時期に入っている。

     ~ ☆ ~

 「あのロボットに関して当人から聞きたい。天道、詳しい説明を」

 グレースの有無を言わせない迫力に対し、詳子は面倒臭そうに、

 「先程、校長室で説明したので、詳しい事はそこにいた先生達から――」

 「会長が聞きたいと言っているんだ。尚、これは質問ではなく尋問だ。貴様等には拒否権も黙秘権も無いと知れ」

 と、すぐさま巌が遮った。すると、詳子はアメリカのコメディードラマの登場人物みたいに両肩を(すく)めて、

 「やれやれ仕方無い。テッコ君、面倒臭いけどよろしく」

 「えっ!? あ、はい」

 いきなり任された鉄子は、戸惑(とまど)いながらも話し始めようとした。ところが、グレースから不意に、

 「貴様、恋をしているな!」

 心当たりが全く無い指摘をされ、鉄子は眼を見開いて硬直した。それを聞いた電馬は狼狽(うろた)え、詳子は納得した様に軽く頷いた。

 「私が、ですか?」

 「そうだ。眼を見て声を聞けば分かる。中の中(ごと)きが恋愛感情を抱くなぞ身の程を知れ」

 「いや、私は――」

 「誤魔化すな」

 「誤魔化してはいない」

 詳子が割って入った。

 「今は自覚が無いだけ。だから、そう責め立てないで貰いたい。それよりも本題だ」

 「……いいだろう」

 「ところで、君はテッコ君の成績を知っているのか?」

 「知らぬ。だが、顔を見れば分かる」

 「本当かな?」

 「私は誰であろうと、一目でレベルが分かる。――また本題から逸れたな。話せ」

 「は、はい! では――」

 こうして校長室と同じく鉄子が最初から説明し、詳子が時々的確に補足し、電馬は出る幕が無いので居心地悪そうにしていた。

 説明を聞き終えたグレースは苦虫を嚙み潰したみたいな表情で、

 「経緯は理解した」

 「では、我々に落ち度は何1つ無い事が判明した。つまり、これにて解散――」

 「させるかッ!!」

 詳子の言葉を巌が遮った。その途端、鉄子と電馬がビクリと全身を震わせた。ところが、詳子はその反応を予想していたのか、澄まし顔で淡々と続ける。

 「何故かな? 堤中高校の校則には巨大ロボットの持ち込みを禁じる条項は無いのに」

 「確かに禁止されていない。それは認めよう」

 「しかも、私と部長のモーターヴァーレットは『通学用自転車と同等』として持ち込みは許可されているのに」

 「会長は容認していない。貴様等が勝手にそう解釈し、無許可で乗り入れているだけだ。話も常識も通じないマッドサイエンティストどもが!」

 「それは異端科学部(われわれ)にとって誉め言葉だよ」

 罵倒すら通じない事に思わず舌打ちした巌は、

 「とにかく、貴様等の好き勝手にされるのは気に入らない。あのロボットを校内から追い出せ。二度と持ち込むな」

 「いやいや、とても生徒会役員の言葉とは思えない」

 電馬が首を横に振った。

 「生徒と学校の事を考えてではなく、単に君や会長が僕達を気に入らないから追い出せなんて」

 「それの何処が問題だ?」

 グレースは平然と言い返す。睨まれた電馬は震え上がった。

 「私は全生徒の頂点に立つ者。私のレベルに達しない者どもに配慮する必要なぞ無い」

 「ふふふっ。まるで覇王か独裁者だな。覇道の行く末は凋落(ちょうらく)だと歴史は物語っているが、よもや知らぬ君ではあるまい」

 この場で詳子だけが余裕の笑みを浮かべている。揶揄(やゆ)されたグレースはますます語気を強めた。

 「黙れッ! 非力で愚昧な分際で身の程を(わきま)えず、怪しげな実験を繰り返し、いかがわしい発明を使って校内の秩序と風紀を乱し、上の中以下の生徒達に悪影響を及ぼす。――そんな貴様等の思うがままにさせておく必要は無い」

 そして、巌が言葉を継いだ。

 「貴様等の通学用ロボットと違い、あのロボットは見るからに軍事兵器に転用出来そうだ。いわば戦車が校内に侵入してきたも同然。いくら校則で禁止されていないと言っても、戦車で乗り込んでくるバカはいない。記載していなくても分かる事だ」

 こちらもグレース同様、言葉の端々(はしばし)に鉄子達に対する敵を含んでいる。

 巌も2年生で、グレースの右腕だと自他共に認めている。彼女が目指す理想の堤中高校を実現化すべく、目を付けた生徒達を容赦無く処分していく。それ故に、2人セットで“猛牛悍馬(もうぎゅうかんば)”“堤中高の牛頭馬頭(ごずめず)”“地獄から来たミノタウロス&ケンタウロス”等と恐れられている。

 また、成績優秀で文武両道にして美形なので、当然プリンス・クインテットに入っている。グレースが堤中高校にとって理想の女子生徒なら、巌は理想の男子生徒だった。

 「やはり、頭が固くて回転が遅い校長達みたいに容易(たやす)くいかないか」

 詳子は苦笑を洩らした。

 「済まない。自分でも気付かぬうちに君達を少し侮っていた。その点については謝罪しよう」

 そう言うと頭を下げた。しかし、

 「だが、あのロボットを校外に追い出す気は無い」

 「まだ言うかッ!」

 「軍事兵器に転用可能な異星文明の産物――そんな物騒で面白い物を姫科研が調査中なんだ。中断させるなんて勿体無(もったいな)い」

 「それが本心かッ!」

 巌は背後に隠し持っていた1本の棒を構え、先端を鉄子達に突き付ける。それは何の変哲も無い、長さが120センチメートル程の木製の棒だった。

 巌が杖術の達人なのは知れ渡っている。その腕前は反抗的な生徒達を黙らせ、能力不足の教師達を叱責するのに充分だった。

 当然、鉄子と電馬は恐怖で固まった。けれども、詳子は平然としている。

 「おやおや、暴力はこの場に於いて最も悪手だよ」

 「ここは僕にとってホームだが? アウェイに立たされている貴様が虚勢を張るべきではないな」

 「それは認識不足と言うもの。直ちに武器を手放す事を強くお勧めする」

 そう忠告した直後、「キュィィィン! キュィィィン!」と不快な警告音が鳴り響き、山葵臭が鼻孔を刺激する。

 鉄子の左肩に乗っていたポォが飛び立ち、両眼をトパーズイエローに光らせて巌の前でホバリングしていた。

 「君は人間相手には無敵だろう。しかし、異星文明の産物を相手に勝てるとでも?」

 「こんなオモチャ如きッ!」

 詳子の忠告を無視した巌は愛用の武器を()いだ。小さな標的だが、狙いは外れていない。

 ところが、炸裂する直前にポォが放ったルビーレッドの光線が命中し、棒の先端が()ぜた。

そして、両手を襲った衝撃に負け、思わず手放してしまっただけでなく、無様に尻餅を突いてしまった。

 乾いた音を立てて床に転がる棒を、巌は愕然として見つめていた。やがて絞り出す様に、

 「……こ、こんなの卑怯だッ!」

 「どちらが?」

 詳子が煽る様な口調で訊いた。

 「君は武器を持たない、戦意すら抱いていない私達に武器を振るった。それこそ卑怯なのでは?」

 言葉に詰まった巌に代わり、グレースが言い放つ。

 「己の弱さと愚かさを自覚せず、生徒会(われわれ)に逆らう輩に対する懲罰(ちょうばつ)を卑怯とは言わない!

  むしろ、卑怯と呼ぶべきは、生身の人間に地球のそれを凌駕(りょうが)する宇宙人の機械を使って反撃する事だ!」

 「やれやれ、自覚が無いのは果たしてどちらかな?」

 詳子は再び大袈裟に両肩を竦めた。

 「もうやめて下さいッ!」

 鉄子は勇気を振り絞ってグレースに訴えた。

 「これ以上は危険です。ポォは私に危害を加える者だと認めた瞬間から攻撃します」

 「君達もあの動画を見たのだろう? 自転車を切り裂く光線や麻痺光線を放つのを」

 詳子が補足すると鉄子は続ける。

 「そして、あのロボットを呼び寄せます。彼は誰にも容赦しません」

 「これも見たのだろう? 男性を路面に叩き付けようとしたのを。テッコ君が止めなければどうなっていたか」

 「だから、貴様等を見逃せ、と?」

 グレースはそう言いながら立ち上がった。

 「そして、不当かつ絶大な暴力に屈しろ、と?」

 すると、詳子が毅然と言い返す。

 「それは君達が普段から大勢の生徒達に行っている事だろう?」

 「やはり、貴様等は自身の愚かさにより下された懲罰をそう捉えるのだな」

 「やれやれ、見解の相違だな」

 「ならば、過ちを正してやろう」

 その直後、グレースは裂帛(れっぱく)の気合を(ほとばし)らせ、金属同士が激しくぶつかった様な轟音が鼓膜を打った。

 グレースはいつの間にか背後の打刀を抜き放っていた。

 だが、必殺の白刃はポォを包み込むガーネットオレンジに光る斜方立方八面体に阻まれていた。

 「……馬鹿なッ!? 電光や結界すら斬り断つこの剣でも斬れぬだとッ!?」

 グレースは受け入れ(がた)い現実に、苦虫10匹を一度に嚙み潰した様な表情を見せた。

 「流石(さすが)の御神刀でも、このバリアは斬れなかったか。(すさ)まじいな、異星文明の科学技術は」

 驚きを隠せないグレースと詳子。

 「ごしんとう?」

 「って、どういう事かな?」

 そう呟いた鉄子と電馬に詳子が説明する。

 「彼女の愛刀は、江戸時代にある神社に奉納され、代々伝えられてきた御神刀なのです」

 グレースが説明を継ぐ。

 「そう。これは“天月明(あめのつきあかり)比売命(ひめのみこと)”と言う神聖な名刀。数多の妖怪変化を斬って倒した伝説が残っている。それなのに……」

 「様々な経緯があって、それを受け継いだとか。入試前に竹刀や刺又を斬り捨てたのも、この刀だよ」

 「でも、ポォのバリアは斬れなかった。――本当に妖怪を退治した神聖な刀なんですか?」

 「黙れッ!!」

 鉄子が口にした疑問にグレースは苛立った。そして、詳子に詰問する。

 「どうして、刀の由来を知っている? 生徒会の上位メンバー以外に話した事は無いのに」

 「以前、君がよく知る誰かさんが教えてくれてね」

 「……あいつかッ!!」

 グレースには心当たりがあるらしい。

 詳子は口元に意味ありげな微笑を浮かべて答えた。

 「君のお姉さんだよ、白クロエ君」

 「その呼び方をするなッ!! 私が姉だ!」

 冷徹沈着な態度が一変して気色ばんだ。けれども、すぐに我に返って落ち着きを取り戻し、

 「それにしても、相変わらず上の口も下の口も(ゆる)い奴だ」

 鉄子はその意味が分からずキョトンとしているが、電馬はニヤニヤを抑えるのに必死だった。

 「ところで、以前から思っていたのだが、その刀を是非とも調べたい。1週間で良いから貸してくれないだろうか?」

 「断るッ!」

 グレースは詳子の頼みを即座に拒絶した。

 「(おそ)れを知らぬ罰当たりめ」

 「科学者としての探求心がそうさせるのだよ」

 「何が科学者だ。マッドサイエンティストめ!」

 「ならば、恐れ知らずは尚更(なおさら)だな。マッドサイエンティストは倫理観も信仰心も捨てているのが世の常だろう?

  ――さて、渾身の一撃がバリアを斬れない以上、君はポォを斬れない。あの巨大ロボットなら尚の事だろう」

 詳子が事実を指摘すると、グレースは歯噛みした。

 「即抜瞬斬、再抜不要――斬るべき時に即座に抜いて、斬るべきものを瞬時に斬る。そして、一撃必殺であるが故に、二の太刀は要らない。――これが無双流の流儀なのだろう? この失態を君の師匠が知れば……それに、これ以上の対立はそちらの不利になると思うが?」

 「……分かった。今回はこちらが退こう」

 グレースは鞘に納めた愛刀を刀掛けに戻した。巌を始めとする役員達は驚きを隠せない。

 尚、一見素直だが、苦虫100匹を一気に嚙み潰したみたいな表情になっている。

 「だから、さっさと出て行けッ!

  だが、くれぐれも無罪放免だと思い上がるな。いずれ必ず懲罰を喰らわせてやるッ!!」

 鉄子と電馬は全身から()めど無く殺気を放つグレースから逃げる様に、詳子は悠々と生徒会室を後にした。

     ~ ☆ ~

 朝から衝撃的な事件があり、2度も呼び出しを喰らったが、授業は全て(とどこお)り無く終了した。

 放課後、鉄子が再び調査本部になっているテントに来た時、

 「そうだ、色々あり過ぎて忘れてたよ」

 先に来ていた電馬は、白衣のポケットから取り出した物を鉄子に差し出した。

 「これ、あげるよ」

 受け取った彼女はそれらを見て顔が(ほころ)んだ。

 1つは、細い鎖付きルーペ。

 もう1つは、ブローチだった。

 「このルーペ、前に持っていたのと同じじゃないですか!」

 「これがあった方が君らしいからね」

 「わざわざ買ってきてくれたんですか?」

 「昨日、その店で買いたい物があったから一緒に買ったんだ」

 「それに、このブローチは? 変わった形ですね」

 「一応、ポォが掴まりやすい様に造ったんだ」

 「まさか、部長の手作りですか?」

 「えへへ、まぁね」

 「いつも器用ですね。ありがとうございます。大切に使わせて戴きます」

 照れ笑いを浮かべて自身の首筋を扇子で叩いている電馬に、鉄子は嬉しそうに微笑みながら丁寧に頭を下げた。

 早速ルーペを胸元に下げ、白衣の左胸に取り付けたブローチにポォを近付ける。すると、思惑通り掴まった。事情を知らない人からは兜虫のブローチに見える。

 「よ、よく似合ってるよ」

 「ありがとうございます。とっても嬉しいです」

 小躍(こおど)りする鉄子を、電馬は眼を細めて眺める。やがて、真剣な表情になると、

 「それでだけど、実は、その、僕は――」

 「部長もなかなか隅に置けませんな」

 いつの間にか、彼の背後に訳知り顔の詳子が立っていた。

 「うぉぅッ!? ショタ子君いたのかッ!?」

 「当然です。こんな面白い事を放置しておけますか」

 彼女だけでなく、他の部員達も集まってニヤニヤしていた。

 「あっれれ~。顔色が悪いですよ」

 「何かあったんですかぁ?」

 「べ、別に何でもないよ。ショタ子君に驚かされたからだよ、きっと」

 必死に弁解する電馬に、詳子は意味深な視線を送り、

 「では、そういう事にしておきましょう。――そうだ。私もテッコ君に用があってね」

 「何ですか? もしかして、先輩も――」

 「残念だが、私は手ぶらだ」

 詳子はそう言いながら、レースのフィンガーレスグラブに包まれた両手をヒラヒラさせた。

 「確固たる証拠が無いので、まだ推測の域を出ないが、恐らくポォはテッコ君の危険を感知し、あのロボットを呼び寄せる為の端末装置(ターミナル)と見て間違いないだろう」

 「えぇと、つまり、防犯ブザーですか?」

 「その解釈で構わないよ。そして、あのロボットはテッコ君を(おびや)かす存在を排除する為に動いている。いわば、安全保持(セキュリティー)装置(システム)だな」

 「確かに、いつも私を守ってくれている感じです。あの大きさなので、やり過ぎになってしまいそうですけど」

 「さて、ポォに認定された持ち主を守るのがあのロボットの役割だとすれば、どうしてアンリはこのシステムを使わなかったのだろう?」

 「……言われてみればそうですね。最初からポォに助けて貰っていれば、私に見付かる前にあのロボットが仲間のいる所に連れて行ってくれた筈」

 そこで電馬が話に加わった。

 「彼女のポォは故障していたかもしれないよ。それなら、彼女の周りにポォがいなかった事も、あのロボットが現れなかった事も説明が付くだろ?」

 「ふむ。その線は濃厚ですね」

 「アンリ達と言葉が通じたら色々知れたのに」

 「謎に満ちているね、君の友人は」

 詳子が呟くと、海老茶色(えびちゃいろ)矢絣(やがすり)の白衣を着た女子部員が別の疑問を口にした。

 「謎と言えば、あのロボットが昨日とさっきやってたアレは何でしょうか?」

 「両腕を上げる動作の事かな?」

 「そうです。わたしは誰かに何かを捧げている様に見えたんですけど」

 すると、他の部員達も次々に、

 「ぼくは何かを受け取っている様に見えたな」

 「準備運動――いや、ロボットだから暖機運転じゃないの?」

 「きっと、赤射と梅花の型だよ」

 「部長、今の子達は宇宙刑事も昭和ライダーも分かりません。オダギリジョーがクウガだった事も知らない世代ですよ」

 詳子が丁寧に指摘すると、電馬は「そうかぁ」と残念そうな表情を浮かべた。勿論、鉄子は分からないのでキョトンとしている。

 今度はペイズリー柄の白衣を着た部員が、

 「両腕もそうだけど、あの指ビシッも気になるな。どういう意味があるんだろう?」

 「おっさんや刑事達に突き付けていた理由は、まぁ分かる」

 「あれは『今からお前を倒す!』だろうね」

 「立てた親指で首を()き切る仕草の後、指先を下に向ける様なものか」

 「容赦無いなー。巨大ロボットが人をフルボッコる気満々なんて」

 「じゃあ、テッコに向かってしたのは何だろう?」

 「挨拶じゃない。『初めまして、こんにちは』みたいな」

 「ハンドサインと言うか、手話に近いのかな?」 

 「僕は(いん)だと思った」

 電馬が口を開いた。

 「密教僧や修験者(しゅげんじゃ)が魔を(はら)う際に使う剣印(けんいん)があの形なんだよ。確か『呪術廻戦』や『孔雀王』とかで見た気がする」

 すると、提灯鮟鱇(チョウチンアンコウ)を可愛くデフォルメした帽子を被り、寿司屋の湯吞茶碗(ゆのみぢゃわん)みたいに魚偏(さかなへん)の漢字がビッシリ書き込まれた白衣を着た女子部員が、

 「剣に見立てた指を敵に向けて突き出すのは意味が分かりますぎょ。でも、その印を結んだまま指の腹をテッコに向けるのは、どういう意味があるんですぎょ?」

 「う~ん。それは見た事無いから分からない」

 電馬が答えに詰まると詳子が、

 「テッコ君に向けたハンドサインは、宗教絵画で見られる受胎告知に似ていますよ」

 「じゅたいこくち?」

 「大天使ガブリエルが、聖母と呼ばれる前にマリアに対して、

  『おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる』

  と、祝辞を述べながら、神の子イエスを身籠(みごも)った事への祝福を込めて剣印に似たハンドサインをしているのです。

  ただし、あのロボットはそれとは逆の手でしていますが」

 その説明を聞いた電馬の顔から血の気が引いた。

 「て、て、手塚クンッ! ま、ま、まさか、妊娠を――」

 「いやいやッ、してませんってッ!!」

 鉄子が慌てて否定するが、電馬の顔色はなかなか戻らない。

 その様子を目の当たりにした、竹箒(たけぼうき)を持って黄八丈(きはちじょう)の白衣を着た女子部員がわざとらしく首を傾げる。

 「ねぇねぇねぇのねぇ~。何で部長は焦ってるんですかねぇ~?」

 「はてさて、私にも全く分からない」

 両肩を大袈裟に竦め、惚けてみせた詳子は話を戻して自身の推測を述べた。

 「つまり、テッコ君へのハンドサインは『君を守る』だと思われる。指先を突き付けるのが敵に対する攻撃の意思表示なら、指の腹を見せるのはその逆――護衛の意思表示では?」

 「言われてみれば、実際に2度も守ってる」

 「敵には剣の切っ先を向け、守る対象には剣を立てて誓っている、と捉えて良いかな?」

 「つまり『俺がテッコ姫を守ります!』っていうナニト宣言か!」

 それを耳にした瞬間、電馬は思わず歯ぎしりしそうになったのをギリギリ耐えた。

 ユアチューブでのみ配信している5人組アイドルユニットの集合写真を背中に、他の画像を前や袖にプリントした白衣を着た部員が新たな疑問を口にした。

 「じゃあ、テッコに絡んだサラリーマンのおでこに付けられたマークは何です?」

 「青い光が命中したら浮かび上がったんだよな」

 「罪の証とか?」

 「その罪って、テッコにウザ絡みした事か?」

 「罪人(つみびと)の額に紋様――まるで、江戸時代の入墨刑(にゅうぼくけい)か、カインの刻印だな」

 詳子がそう呟いた時、鉄子の制服のポケットからコール音が鳴り響いた。

 「誰だろう?……うっ」

 スマートフォンの画面を見た途端、章子といる時や部活では見せた事が無い渋面になった。

 「父からです」

 そう言うと、詳子達に背を向けて電話に出た。

 「何?」

 素っ気無く尋ねると、ますます表情が歪んだ。

 「分かった。すぐ帰るから……何度も言わせないで!」

 電話を切っても険しい表情のままだ。

 「はぁ……『今すぐ帰ってこい。お前に客が来ている』って言われました」

 「客って誰だろう?」

 電馬が呟くと、鉄子は首を横に振った。

 「分かりません。『早く帰ってこい』の一点張りで全然説明してくれなかったので」

 「ポォも調べたかったが仕方無い。今日は帰って良いよ」

 詳子が促すと、鉄子は頭を下げた。

 「済みません。お先に失礼します」

 こうしてお預けを食らった鉄子は、ペダルを踏む足に怒りを込めて帰途を急いだ。

     ~ ☆ ~

 自宅の近所で交通規制がされていた。

 「ガス管の破損が見付かったので、急遽工事しています」

 赤く光る誘導棒を持っている警備員が、自転車に乗った鉄子の前に立ち塞がってそう言った。

 鉄子は仕方無いので彼の指示に従って停車している。

 帰宅を急ぐ彼女は気付かない。自宅近辺からこちらに向かってくる人や車はあっても、自身と同じ方向――自宅近辺に向かう人や車は全く無い事に。

 鉄子が走り去った後、警備員は小型インカムに(ささや)いた。

 「こちらブラボー。目標が通過。予定通り自宅に向かっています」

     ~ ☆ ~

 自宅周辺はマスコミや野次馬が取り囲んでいると思っていたが、誰もいなくて不自然なぐらい静かだった。

 玄関の扉を開けると、見慣れない靴が2足あった。男物と女物で、どちらも有名ブランドだが、鉄子はその方面に詳しくないので気付かない。

 ダイニングではテーブルに線二郎と路枝、そして見知らぬ男女が向かい合わせに座っていた。客は2人とも30代後半と思われる。

 男性の方は、モデルみたいに美形で長身だった。鉄子は分からなかったが、着ているスーツと巻いている腕時計、掛けている眼鏡も高級ブランドだ。そして、傲慢(ごうまん)な性格が隠しきれておらず、眼付きと顔付き、全身から漂う雰囲気に表れていた。

 女性の方は、金髪碧眼の白人で、やはりモデル並みの美女。アイスピックの様に眼付きが冷たくて鋭い。巨乳と蜂腰(ほうよう)を包み込むスーツも彼と同様に一流ブランド。そして、匂い立つ様な色香を漂わせていた。

 それに惑わされた線二郎は鼻の下を伸ばし、路枝に肘で小突かれていた。しかし、路枝も彼女を見る眼が怪しく、表情が緩んでいる。

 「やっと帰ってきたか」

 冷たい口調で声を掛けてきた線二郎に、「これでも急いできた」と同じく冷淡に返した鉄子は急に顔をしかめた。

 4人の前に置かれたティーカップと吸い殻が溜まっている灰皿から、鉄子が大嫌いなコーヒーと煙草の匂いが漂っている。

 混ざり合った悪臭に顔をしかめた彼女は、制服の内ポケットからシルフの吐息を取り出すや否や、森の香りを大量に撒き散らした。

 「またやりやがった!」

 線二郎が苦悶の表情で咳き込みながら怒声を浴びせ、路枝が慌ててキッチンの窓を開けて換気扇を回す。

 男性客も表情を歪ませ、すぐに取り出したハンカチで自身の鼻と口を押えた。しかし、女性客の方は平然としている。

 「これぐらい我慢しろッ!」

 キッチンに隣接しているリビングの大きな窓を全開にした線二郎が怒鳴ると、鉄子は睨み付けて言い返す。

 「こっちの嫌いな匂いを、それも2種類も嗅がせているのに我慢しろって言うなら、そっちも嫌いな匂いを我慢すれば! しかも、たったの1種類なんだから!」

 鉄子は更に怒声をぶつけられる前に、線二郎が座っていた椅子に座って客達に尋ねた。

 「さて、どちら様ですか?」

 すると、眼の前の男性客はハンカチをポケットに戻して、

 「初めまして。私は屋坂(やさか)秀臣(ひでおみ)と申します。そして、こちらは秘書のキャサリン・モーガン」

 線二郎は貰っていた名刺を鉄子に見せた。そこに記されている肩書は〈工学博士〉と〈大帝院(たいていいん)総合研究所ロボット開発部部長〉と〈地球外生物対策委員会委員〉だった。

 (大帝院グループ傘下の研究所――って、確か自衛隊のロボット兵器を開発しているとか部長が話してたな。それで、地球外生物対策委員会って何? まるでアニメか特撮じゃない。ふざけてるの?)

 大帝院グループは明治中期から日本の政財界に多大な影響を及ぼしている。線二郎もグループ傘下の企業に勤めているので鉄子と無関係とは言えない。

 鉄子はバックパックから取り出したペットボトルのジャスミンティーで喉を潤し、消えかかっているシルフの吐息の残り香を吸い込んで緊張を(ほぐ)す。そして、

 「どんな御用件ですか?」

 見当は付いているが、敢えて尋ねた。すると、秀臣から予想通りの答えが返ってきた。

 「君が手に入れた例のロボットを、わたくしどもの研究所で預からせて戴きたいのです」

 (やっぱり! 横取りに来たか!)

 そう思いつつ平静を装って訊いてみる。

 「どうしてです? 姫科研による調査は始まってますけど」

 「最強だの万能だのと名乗る研究所は信用できますかね? こちらは政府の調査機関ですよ」

 キャサリンがアタッシェケースから取り出した、玉虫色のロボットの調査は地球外生物対策委員が大帝院総合研究所にて行う、と言う内容の正式な書類を見せられても鉄子は怯まなかった。

 「地球外生物対策委員会っ、て初めて聞きました。こんな組織、本当にあるんですか?」

 「公になっていないだけです。社会の混乱を防ぐ為、秘密裏に行動しなければならないので」

 「そうですか。例え政府の組織であっても、姫科研の方が信用出来ますよ。うちの部のOBやOGが大勢いますし、数々の実績もありますから」

 「既に各国のスパイが七府市内に入り込んでいるとの報告が多数来ています。だから、早急に安全な場所に移さないと奪われる恐れがあります。あの研究所では不安がありますし、研究成果を悪用しないとも限らないでしょう」

 「それは、政府とグループと委員会にも言えますよね。むしろ、そっちの方が胡散臭(うさんくさ)い」

 「鉄子ッ! 失礼な事を言うな!」

 線二郎が血相を変えて叱咤した。

 (あぁ、そうか。逆らえないんだ)

 線二郎はしがない中間管理職。相手は研究所の重鎮にして政府の使者。ならば「従う」以外の選択肢は無い。

 「こちらの研究所は、あんなイカれた研究所とは訳が違う。実績も社会的信用もある。しかも、政府の後ろ盾がある。あんな所に任せるより、この人の言う通りにした方が良いんだ」

 「イカれた? 凡才凡庸の一般人が天才達の研究内容や成果を理解出来るとでも?」

 「何だその口の利き方はッ!」

 「この子は、親に向かって……」

 今度は路枝も加わって鉄子を責めた。そこに秀臣も加わる。

 「御両親に対して、そんな言い方は良くありませんよ」

 「最近の工学博士は他所の家庭に立ち入るの? それとも、うちの家庭も対策するぐらい暇なの?」

 「やれやれ、目上に対する礼儀を弁えないと損をするのはあなたですよ」

 秀臣の予想通りの反応に鉄子は失笑しそうになった。

 「生意気な子で申し訳ありません」

 「後できつく言っておきますので」

 両親は深々と頭を下げた。そして、線二郎は鉄子に向かって、

 「とにかく、あのロボットはグループの研究所に持って行って貰う」

 「勝手に決めるなんて酷いッ!」

 「うるさいッ! お前は黙って言う事を聞けば良いんだ!」

 「絶対イヤッ!」

 「いい加減にしろッ!」

 断固として拒絶する鉄子に線二郎が詰め寄ったその時、ブローチからポォが飛び立ち、彼女を庇う様に2人の間に割って入った。複眼はトパーズイエローに輝き、山葵臭を発しながら警告音を鳴り響かせる。

 「な、何だこれは!? イカれ部活の変な発明か? それともイカれ研究所の? とにかく止めろ!」

 「ポォが警告してるの。あのロボットの事は諦めてッ! 私達の事は放っておいてッ!!」

 鉄子の叫び声に呼応したのか、ポォの複眼の輝きがルビーレッドに、そして警告音もより不快なものに変わった。

 その直後、外にアメシストパープルに輝く斜方立方八面体が出現。消えるのと入れ替わりに、玉虫色のロボットが夜空に向かって右腕を力強く突き上げていた。

☆次回予告


遂に大帝院グループが牙を()く。

卑劣な罠によりロボットは拘束され、

予想外の新兵器が襲い来る。

だが、見えざる力が罠も陰謀も打ち破る!

第6話「巨人達の初戦」


異星文明の申し子を侮るなかれ。

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