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第11話:海上のパジャマパーティー

 波乱に満ちた部活が終わった後、学校のグラウンドには輸送用大型ヘリコプターが着地した。

 参加者と野次馬達が歓声を上げる中、その後部が開くと、詳子自らが参加者達を出迎え始めた。参加者一人一人に対して丁寧に挨拶を交わし、機内へ案内する。

 鉄子の隣には章子がいた。詳子から「同行したい友達がいるなら何人連れて来ても良い」と言われたので、唯一無二の親友を誘ったのだ。

 当然、「漫画のネタになる! 取材になる!」と喜んで付いてきた。

 「――で、体は大丈夫なの?」

 章子は不安そうな表情で鉄子に尋ねた。

 詳子から送って貰った、『スティールメイデン・エウメニデス』の対覇王大帝戦の動画を見せて貰った章子は、最初は鉄子の変身に驚き、その美麗さと戦いぶりに感動していたが、

 「ほんとに大丈夫? だって、翅と触角が生えたんだよ!」

 「生えた時も今も、痛くも苦しくもないよ」

 「でも、明日、姫科研で身体検査を受けるんだよね?」

 「一応ね。まぁ、元々はポォに血を吸われた影響を調べる為だけど……

  多分、何ともないと思う。何も心配しないで今夜は思いっ切り楽しもう」

 鉄子が章子の不安を払拭していると、

 「テッコ君は初めてだったね」

 出迎えてくれた詳子はタブレットで出欠を確認しながら言った。

 「はい、そうです。宜しくお願いします」

 「初めまして、ショタ子先輩」

 鉄子に続いて章子が挨拶すると詳子は、

 「ほぅ、漫画の神様と同じくベレー帽と眼鏡――君がテッコ君の友人の藤尾章子君だね。初めまして」

 「あたしの事、知ってるんですか!?」

 「テッコ君から聞いているよ。名前の読みが私と同じだから憶えている。もし良かったら君の漫画を読ませて欲しいな。今日は存分に楽しんでくれまえ」

 「はい! ありがとうございます! 今日は宜しくお願いします!」

 あのマドンナ・クインテットの1人が自身を知っていたのだ。しかも、自作の漫画を読みたいと言ってきた。章子はそれが社交辞令と分かっていても舞い上がらずにはいられなかった。

 ただし、その横で鉄子は、

 (ショコラのどぎついBLを見せても大丈夫かな?)

 と、不安になっていたが。

 2人が入った機内は元々大量の荷物が積み込まれる荷室だが、改造して旅客機の客室みたいになっている。20数人の参加者がシートに座ると、機内アナウンスで安全ベルトを締める様に指示された。

 やがて、機体は上昇を開始した。

 今回初参加と思われる生徒達は、ヘリコプター搭乗初体験に大はしゃぎしている。当然、鉄子と章子も機内を見回したり、窓から外の景色を覗き込んだりと楽しんでいた。

 「そう言えば、乗り物酔いは大丈夫?」

 章子が心配して訊くと、鉄子は笑顔で、

 「今のところ平気。多分、ストレスが無いからだと思う。だって、チュウさんに乗った時は全然酔わないし」

 「そっか。良かった」

 「一応、酔い止めは持ってきてるから」

 「使わないで済むと良いね」

 そんな彼女達を乗せた機体は市街地を越え、やがて海原(うなばら)の真っ只中に。すると、セレブ達が世界一周ツアーで乗っている様な超豪華客船が浮かんでいるのが見えた。

 「……おぉっと! まさか、あそこに行くのかな?」

 章子が呟くと、前のシートに座っていた詳子が顔を出して言った。

 「我が家――プリンセス・テュラムーヌス号にようこそ」

 ヘリコプターは客船後部に備わっているヘリポートに降着した。

 機体から出た鉄子達から感嘆が漏れ出る。

 「マジかッ!? この船がショタ子先輩の自宅!? 豪邸ってそう言う事か!」

 章子はテンションが上がったままスマートフォンをあちこちに向けて写真を撮る。同じ事をしている他の生徒達と異なり、漫画の資料を得るという点で真剣さの度合いが違っていた。

 「ショコラ、眼が血走ってるって」

 「だって、コネと参加費1000円ポッキリで超豪華客船に乗れるんだよ! 骨の髄までしゃぶり尽くさないと勿体無いじゃん!」

 「うわぁ~。漫画家って貪欲だねぇ」

 「この世の全てがネタで資料だからね」

 「ところで、ショタ子先輩」

 鉄子は傍にいた詳子に尋ねた。

 「この船、いつも陸からかなり離れてるんですか?」

 「いや。普段はうちで所有している港に停泊しているが――」

 「プライベートビーチじゃあなくてプライベートポート!」

 「セレブみたいなパワーワード!」

 「乗ってきたヘリも自家用だって言うし!」

 「飛び級でHIT卒の天才からリッチエピソードが次々出てくるなんて!」

 驚愕する章子と鉄子に対し、詳子は淡々と説明を続けた。

 「女子会を開催する日はセキュリティーの観点から航行している。止まっていると侵入されやすいからね」

 「そんなに泥棒に狙われているんですか?」

 驚く鉄子に、

 「盗賊よりも、(むし)ろ私に恨みを持つ輩だな。船底に爆弾を仕掛けられたり、フル武装した船がぶつかってきたり、あとは――」

 「どんだけ恨みを買ってるんですか!?」

 さらに驚く鉄子の質問に、詳子は形の良い顎にレースで覆われた手を当てて答えた。

 「いや、こちらから売った(おぼ)えは一度も無いのだが……」

 「恨みを買いやすい人って、みんなそう言うんですよ」

 「気を付けて下さいね。特に天才は逆恨みされやすいから」

 鉄子と章子が心配してそう言うと、詳子は「御忠告、感謝する」と軽く頭を下げた。まるで心配してくれるのが嬉しいみたいに笑みを浮かべて。

 そんな彼女は参加者達に向かって、

 「さて、みんなの部屋はこちらで割り振らせて貰った。向こうにフロントがあるから、各自参加費を払ってルームキーを受け取ってくれ」

 そう言って指し示した方には、高級ホテル正面玄関に酷似した出入口があった。

 参加者達は自動ドアを通り抜け、数人のメイドが待っているフロントに向かう。自身の名前を告げながら参加費を支払うと、丁寧な仕草でキーを手渡された。

 「うわっ、カードキーじゃん! 金ピカで高そー」

 「で、ショコラは何号室?」

 鉄子が尋ねると、自身と同じツインルームだった。

 指定された客室がある階を目指して長い廊下を歩き、エスカレーターに乗り、また長い廊下を歩く。

 「あたしと一晩一緒かぁ。去年のお泊りクリスマス会以来だね」

 「そうだね。ショコラママンの手料理と手作りケーキ、どれも美味しかったなぁ」

 「パパンもママンも『あの子は良い子だ』『いつでもおいで』って言ってたよ」

 「ありがとう。でも、どれもボリュームがスゴいんだよね」

 「ウチはみんな食べるのが大好きだからねぇ」

 「あと、漫画と同人誌とブルーレイもスゴい数あったけど、行くたび増えてない?」

 「3人で色々買っちゃうし、自分達で描いているからね」

 章子の両親は趣味で同人誌を作っている、大型即売会の常連である。父はオリジナルの特撮風SF漫画を、母もオリジナルのファンタジー漫画を描いている。

 2人共エロは全く描いていないにも関わらず、何故か娘はBLばかり描いていた。

 「それにしても、部屋を一緒にしてくれるなんてショタ子先輩は気が利いているねぇ。さっすが、“女ダビンチ”」

 章子が詳子の数ある綽名の1つを口にすると、鉄子が慌てて注意した。

 「それ、気に入ってないから言わない方が良いよ」

 「どうして? 褒めてるのに」

 「前にそう呼ばれた時『レオナルド・ダ・ヴィンチは〈ヴィンチ村のレオナルド〉と云う意味だから、それだと〈ヴィンチ村の女〉になる。私はモブではないし、その村に行った事すらも無いのに』って相手に詰め寄ってたから」

 「そっか。じゃあ、もう言わない」

 こうして自分達の部屋に到着した2人は、期待に胸を躍らせながら入った。

 その瞬間、声にならない歓声が同時に洩れ出た。

 調度品はどれも一級品なのが素人の眼でも分かる。一般客室なのだが、彼女達からすればVIPルームに思えた。

 「……ここ、マジで使っても良いのぉ?」

 章子は気圧されていた。けれども鉄子は、

 「オーシャンビューだぁ! すっご~い!」

 「そりゃそうだよ。だって、船の中だから周りは海ばっかじゃん」

 章子は有頂天になっている鉄子に不安そうに尋ねる。

 「ねぇ、マジでここで寝泊まりして良いの? 後で追加料金取られないよね? その辺、ショタ子先輩からちゃんと聞いてる?」

 「大丈夫だって。うわぁ~、ベッド広~い!」

 初めて見る高級セミダブルベッドに興奮した鉄子は、行儀悪く靴を脱ぎ捨てると飛び込んで大の字に寝転がった。

 「ふっかふかだぁ~!」

 高品質の弾力と肌触りを思い切り堪能する鉄子に、章子は呆れていた。

 「結構大胆ね。汚したりしたら弁償だよ、きっと」

 「大丈夫だって、多分」

 その時、船内放送が流れた。その内容は夕食前に大浴場が解放されるとの事だった。

 「ここにバスルームがあるけど、やっぱ大浴場に行ってみたいよね。テッコはどうする?」

 「勿論、私も行きた~い」

 必要な物を用意した2人は大浴場に向かった。

 その途中で章子が、

 「そう言えば、船酔いはしてない?」

 「大丈夫だよ。むしろ、家にいる時よりスッキリ爽快」

 「乗り物に乗って平気そうなのは初めて見た」

 「やっぱり、ストレスが無いのが大きいんだよ」

 到着した更衣室はスーパー銭湯のそれと変わり無く、広くて無数のロッカーが並んでいた。ただし、内装は上品でかなり金をかけているのが分かる。

 浴室に繋がる引き戸の前で詳子と再会した。

 一糸纏わぬ彼女の体は、同性から見ても溜息が洩れる程美しかった。

 全体的に肉付きは良くて、触り心地が良さそうな真っ白い餅肌。Iカップと噂されている爆乳なのに形が崩れていない胸。無駄な肉が付いていなくてくびれている腹回り。肌艶(はだつや)も形も綺麗な美巨尻。腋毛も陰毛も完全に脱毛している。

 一方、痩せ気味で小柄なBカップの鉄子も、普段から丼ものとチョコレートを食べ過ぎな上に運動不足のぐーたらボテボテボディーなAカップの章子も、そんな己の体を美の化身みたいな詳子の眼前に晒すのが恥ずかしくなった。

 それでも章子は思った事を口にしてしまった。

 「うぅっわ~ッ、美白でボンッ・キュッ・ボンッじゃん! しかも、脱毛ばっちりパイパン!」

 「ちょっ!? おいっ、ショコラぁッ!!」

 「はははっ。よく言われるから気にしていないよ」

 「済みませんッ! 後でキツぅ~く言っておきますので!」

 鉄子は深々と頭を下げながら、章子の頭を押さえ付けて頭を下げさせる。

 詳子は「褒め言葉と受け取っておくから」と言いながら引き戸を開けた。その途端、温泉独特の匂いが鼻孔を刺激した。鉄子は、

 (この匂いって、まさか……)

 「うわぁ~、マジで大浴場じゃん! てか、温泉じゃん! 露天風呂じゃん!」

 テンションが急上昇した章子の言う通り、目の前には岩風呂があった。横にも広い上に奥行きがあり、突き当りは崖になっていて大量の熱湯が滝となって流れ落ちている。山奥の秘湯をそのまま移してきたと言っても信じてしまいそうだ。しかも、天井は無くて茜色の空が丸見えだった。けれども、潮の香りが全くしない。

 「露天風呂なのに海風が入ってきてない! 何で?」

 章子も気付いたらしい。その呟きに詳子が答えた。

 「温泉の雰囲気を壊さない為、透明度が高い強化ガラスのドームで覆っているからね。だから、真冬でも暴風雨でも無粋な天井を眺めずに堪能出来る寸法なのだよ」

 「じゃあ、この浴場のお湯はもしかして――」

 鉄子が訊くと詳子は嬉しそうに、

 「驚いたよ。匂いだけで気付くとはね。

  そう、ここで使われているお湯は森華の森にある温泉と同じ水質だよ」

 「まさか、わざわざ汲んできたのですか?」

 「いやいや、化学に通じている部員達が試行錯誤を何度も重ねて同じ泉質を再現したのだよ。去年、手塚博士から依頼されてね」

 「大伯母さんが!?」

 「うん。『海外にいる間も私の森にある温泉に浸かりたい』とね。伝説のOGからの依頼に応えようと、みんな頑張ったよ。完成品の感想を聞いた時、全員が狂喜乱舞したものだ」

 「この香りだけで分かりますよ。まるで現地にいるみたいです」

 「博士も同じ事をおっしゃっていた。私達も温泉が好きだから、その温泉の素をこうして今も利用している。勿論、博士か許可は取っているよ」

 「それで、ですか。やっぱりスゴいですね」

 改めて異端科学部の実力を目の当たりにした鉄子は感嘆を洩らした。

 だが、次の瞬間にはその感動は消し去られてしまった。

 ふと視線を落とすと、予想だにしなかった者がいたからだ。

 眼に飛び込んで来たのが、純金で造られたと錯覚してしまう程見事なブロンドをまとめた大きなシニョンと、鉄子と違って日に焼けていない箇所が全く無いミルクチョコレート色の綺麗な背中だった。

 つまり、金髪の黒ギャルが三つ指を突いてお出迎えしているのだ。

 彼女の傍には銀色の大きなエアマットと、正方形に近い枠型で上辺の真ん中が抜けている椅子が置かれていた。

 「本日はよぉこそ~。御予約の詳子様ですね。お待ちしておりましたぁ~」

 3人は数秒間絶句した。

 最初に口を開いたのは鉄子だった。

 「……ショタ子先輩、御指名ですよ。いや、指名してたんですね?」

 「私は何も知らない。同じ『しょうこ』の君と間違えているのでは?」

 「こっちに振らないで下さいよぉ! あたし、薔薇は好きだけど百合は苦手だし、オタクに優しくなさそうなギャルはもっと苦手で……」

 その黒ギャルが顔を上げた。詳子に匹敵する美貌だった。

 虹彩はリゾート地の海原を連想させるターコイズブルーで、眉毛までブロンド。顔付きからヨーロッパ系ハーフだと思われる。

 ところが、鉄子はその顔に見覚えがあった。決して忘れられない。

 「せ、生徒会長ォッ!?」

 素っ頓狂な声を上げて震える鉄子に、ハーフ美少女は少し不機嫌そうに首を横に振った。

 「アイツと間違えないでくれる。あーしは“クロっち”って言いますぅ~。今日はよろしくお願いしまぁ~す」

 「クロっち? でも、その顔は……」

 「あたしも生徒会長だと思ったけど、あの人、美白だったじゃん。こんなに早く焼ける?」

 混乱している鉄子と章子に、天牛山グレースの色違いが激しく否定する。

 「あんなブスと一緒くたにされたら超メーワクなんですけどぉ!」

 「もしかして、生徒会長の双子の妹って――」

 「正解だよ、テッコ君。私と同じ2年生の天牛山クロエだ」

 「不正解だよッ! こっちが姉だっつーのッ!」

 すると、章子が驚きの声を上げた。

 「じゃあ、マドンナ・クインテットの!?」

 「そーそー。勉強もスポーツも出来ちゃう超絶美少女だからね~」 

 「生徒会長と違って入試前にいざこざを起こさなかった方の?」

 「そーそー。あーしはアイツと違って人間が出来てるからね~」

 「いや、入試は朝寝坊して遅刻寸前で駆け込んだだろう。既に怯えていた試験担当官は何も言わなかっただけだ」

 「余計なコトゆーなよ、ショタ子」

 「それに、入試前夜にバーで口説き落とした大学生と明け方近く迄ふしだらな事をしまくっての寝坊だから」

 「うっさいっつーの!」

 「しかも、入学式は同じく前夜に意気投合した外科医と明け方近く迄ふしだらな事をしまくっての遅刻だからな。こいつも質が悪い。タチだけに」

 「だから、うっさいっつーの!」

 そこで章子が話を戻す。

 「そして、日本人とスマラクト人のハーフで、その美巨乳と褐色美肌から“クロいホルスタイン”って呼ばれてる、あの?」

 「そーそー。その綽名は気に入ってる。カッコイイっしょ」

 「他にも“クロいセーラームーン”や“クロいミク”」

 「そーそー。どっちもカワイイ。あーしにピッタリっしょ」

 「そして、女子高生なのに“堤中高校の種牛”――って、“新宿の種馬”って呼ばれてるシティハンター並みじゃん!」

 そこで詳子が補足する。

 「まぁ、事実だからな。無節操かつ破廉恥にして好色荒淫この上ない。仮に陰茎と精巣があれば、妊娠させた女性の人数は両手足の指の数では収まらない筈だ」

 「だーかーらー、余計なコトゆーなって。まぁ、それだけモテてるってコトだし」

 「更に“黒グレース”」

 「あぁ~、それは気に入ってない」

 急に真顔になるクロエ。

 「アイツのパチモンみたいでヤダ。こっちがオリジナルなのに。今度言ったら叩っ斬っちゃうよ」

 「斬るって何ッ!? 何か分かりませんが、もう二度と言いませんッ!」

 「だから、向こうを“白クロエ”って呼ぶよーに」

 「わ、分かりましたッ! 分かりましたからッ!」

 怯える章子は何度も頷いた。

 「あと、どんなのがあるの?」

 クロエに訊かれた章子は恐る恐る答えた。

 「他には、“乳牛(ちちうし)山脈”」

 「あぁ~、それも気に入ってない」

 再び真顔になるクロエ。そして、更に怯える章子。

 「だって、あーしはGカップでショタ子はIカップ。あからさまにショタ子の方がデカいのに、あーしの方が山脈呼ばわりってヒドくね? しかも、ショタ子におっぱい関係の綽名が1個も無いのにィィィッ!!」

 「マドンナ・クインテットって綽名の地雷が多いなぁ」

 章子が呟いた時、クロエが立ち上がった。

 露わになった胸は詳子よりやや小さいが形は整っていて綺麗だ。全身が鍛え抜かれた筋肉によって引き締まっており、美巨乳とのギャップが凄まじい。尚、詳子と同様に腋毛と陰毛は完全に除去されている。しかも、胸の谷間の左乳房側と右太腿の内側にキスマークの、下腹部にハートマークと♀を融合させて子宮を象った紋様のタトゥーが入っていた。

 「腹筋はシックスパックバキバキで板チョコ状態! でも、Gカップって奇跡じゃないですか!」

 章子からの称賛にクロエの機嫌が戻った。

 「でしょでしょ~。分かってるねぇ。この大きさと形と色ツヤを維持しながらキレキレってマジで凄いっしょ」

 「それに、これだけ肌を焼いても乳首ピンクって、アポロチョコじゃあないですか!」

 「遊んでるのに黒ずんでないのが自慢」

 「しかも、下腹部のタトゥーは淫紋ですよね!?」

 「最近、流行ってるみたいだから入れてみたんだ。どぉ?」

 「ドエロくて格好イイです!」

 親指を立てた章子の称賛にクロエの鼻は高くなった。

 「あーしを褒めてくれるイイ子は好みじゃなくても憶えとかないと。名前は?」

 章子が自己紹介すると、

 「ふ~ん。アンタは漫画研究同好部――漫好部の新人かぁ」

 「その略し方はちょっと……」

 「ペンネームは可愛いね。確か、陰でメガネジャイ子って呼ばれてなかったっけ?」

 「そうですけど、本人に訊くかぁ……」

 苦笑する章子の横で、詳子が鉄子を紹介した。すると、

 「アンタが異科部の新人かぁ。陰でケムシマユゲって呼ばれてる子だっけ?」

 「まぁ、そうですけど……」

 「本人に面と向かって言うとは……」

 詳子は呆れたが鉄子と章子は、

 「私は気にしてませんから」

 「あたしも大丈夫ですよ」

 「そう? でも、アンタはテッコって呼ぶから安心して。そっちの方が短くて呼びやすいし」

 「それはどうも」

 「モチロン、漫好部のアンタも陰口の方じゃなくてペンネームで呼ぶし」

 「はぁ。どうも」

 「だから、あーしの事もクロっちって呼んでね」

 「お互いに自己紹介を終えたところで本題に入ろう。

  ――尋問するぞ、天牛山」

 クロエに冷たい視線を突き立てる詳子が椅子とマットを指差して、

 「これらのいかがわしい物、どうやって持ち込んだ? しかも、前回とは違う代物だな」

 「それは。ヒ・ミ・ツ」

 「次回から君だけには徹底的に検問しよう」

 「ひっでーッ! 親友をゴリゴリに疑うなんて!」

 「疑うも何も、たった今、自白した。あと、親友ではない」

 「チッ。ショタ子にしてやられたぁ~」

 「君が自滅しただけだが。

  このままでは邪魔だから、それらは壁際に置いておく様に。明日、絶対に持って帰る事。さもなくば、こちらで処分する。理解したな?」

 「しょーがねぇなぁ。今回だけだぞ」

 「では、君の乗船も今回だけだぞ。それとも、今すぐ降ろそうか?」

 「さーせん。もうしません。全裸(まっぱ)で太平洋にダイブはキチーっす」

 「ところで、クロっち先輩」

 鉄子が興味津々といった表情で椅子を指して、

 「マットはどう使うのか知ってますが、こっちは風呂場の椅子にしては大き過ぎませんか? 真ん中も欠けてるし、空洞も大きいし、使いにくそう」

 すると、クロエが驚きの声を上げた。

 「信じらんなーい! JKなのに知らねーの!?」

 「普通の女子高生は知らないものだ。君と違ってな」

 「じゃあ、何でショタ子は知ってんのぉ?」

 ニヤニヤしながら詰め寄ってくるクロエに、詳子は心底嫌そうに答えた。

 「君が持ち込むからだ。前回、アレを蜂須賀に訊いて恥をかいたぞ。その時、コレの存在も知らされた」

 「アイツは知ってたのか。むっつリーゼントめ」

 「そっか。テッコはBLは読むけど、男の子向けの薄い本は読んだ事が無いから……」

 章子が呟くとクロエが尋ねてきた。

 「でも、マット知ってるならチェアも知ってんじゃね?」

 「いや、金色の円い方は知ってる筈です。前にうちの先輩が描いたイケメンソープが舞台のBLを貸した事があるので。でも、こっちの女の人がくぐれる方は見た事も聞いた事も無いと思いますよ。あたしも実物を見るのは初めてですし。こんなの何処で買ったんです?」

 「この前、バイト代が入ったから、アマゾネスでポチった。プレイの幅が広がるし」

 「やれやれ、無駄遣いにも程がある」

 詳子は呆れた。すると、クロエは甘えた声で、

 「ショタ子の為に買ったのにぃ~。しょーがないから他の子に使っちゃおうかなぁ~」

 「これ以上、犠牲者を増やすな、ドス黒い種牛。前にも言ったが、船内で淫行に及ぶなら二度と招待しないし、交遊も断絶させて貰う」

 「さーせんッ! ガチで反省しゃーす! だから絶交は勘弁ッ!!」

 ひたすら許しを請うクロエを見ながら、鉄子は章子に訊いた。

 「で、結局これは何?」

     ~ ☆ ~

 コントみたいなやりとりが終わると、4人は洗い場に移動した。

 「温泉なのにメッチャ泡立つ!」

 章子が驚き声を上げると詳子が、

 「ここのボディーソープとシャンプーも化学や薬学に通じた部員達が開発した物でね。温泉のお湯でもしっかり泡立つのだよ」

 すると、クロエが泡だらけの両手を詳子に向けて、

 「ショ~タ~子、仲良く洗いっこしよ~」

 「色欲にまみれた眼で私を見るな! その手つきをやめろ! 万年発情種牛め!」

 コントを再開した先輩2人に章子が問い掛けた。

 「あのぅ、クロっち先輩って、もしかして百合の人ですか?」

 「やっぱ気付いた?」

 クロエは何故か誇らしげに自慢の胸を反らして、

 「あーしはビアンでタチ。そして、ショタ子にゴチ恋する可憐なオ・ト・メ」

 「残念だが、私はビアンでもネコでもクロエに恋する乙女でもない。更に、君は断じて可憐ではない」

 「無慈悲に否定されまくりましたよ、クロっち先輩」

 「しょーがない。だって、ショタ子はツンデレだから」

 「ならば、一生100%ツンだな」

 「素直じゃないなぁ。でも、そんなところも好き~」

 「私は君のそんなところが嫌いだ」

 「お二人は本当に仲が良いんですね」

 鉄子がそう言った途端、普段はクールな詳子は渋面になって溜息を吐き、クロエは満面の笑みを浮かべた。

 「そう見えるなら、テッコ君の眼は節穴だな」

 「そう見えるのかぁ。やっぱ、あーしとショタ子は相性ばっちりラブラブ~」

 「やはり、見解の相違があるな」

 「そーかな? じゃあ、意見が合う様に今夜は体を合わせ――」

 「以前、警告した筈だが。次に夜這いして来たら容赦無く――」

 「わーってるって! ショタ子はマジであーしに当たりがキツイなぁ」

 ((自業自得じゃないかなぁ))

 鉄子と章子はそう思ったが口には出さなかった。

 クロエはふと思い出した様に、

 「そういえば、有塚は?」

 「週末はバイトだから、今回も不参加」

 「またかよ。ガッカリだな~」

 「クロっち先輩は、有塚先輩と親しいのですか?」

 鉄子は先日、図書室で静かに読書していたハーフの文学美少女と、目の前の騒々しいハーフの黒ギャルが何処に接点があるのか不思議に思いながら訊いた。ところが、予想外の答えが返ってきた。

 「全然。クラスも違うし、じっくり話した事も無い」

 「えっ!?」

 「だってさー、こっちから話し掛けても『今、これを読んでるから』ってボソボソ言って毎回相手にしてくんないんだよねー。いくら眼隠れ陰キャだとしても無愛想過ぎるっしょ」

 「それは君が図々しくて厚かましくて鬱陶しいからだ」

 「ヒデーな、ショタ子。いい加減、オブラートに包むってのを覚えな」

 「ならば、君は節度と羞恥心を早急に学習すべきだ」

 「そんなの覚えたら、天真爛漫が長所のあーしじゃなくなる」

 開き直っているクロエに鉄子が訊いた。

 「どうして有塚先輩に何度も話し掛けるんですか?」

 「だって、金髪美巨乳美巨尻ハーフだから」

 「は!? それは先輩もでは?」

 「そうなんだけどぉ」

 「謙虚も覚えるべきだな」

 「ショタ子は黙ってな。

  ――あの子って、前髪で隠してるけど実は可愛い顔してるし、ガチでエロい体してるもっこりちゃんじゃん」

 「いやいや、もっこりちゃん、って。いくら種牛って呼ばれてても、おティンティン付いてないじゃあないですか」

 章子がツッコミを入れると、

 「んな、きったねーもん無くったって、女でももっこりするに決まってんじゃん」

 「何処がッ!?」

 「そりゃあ、ク――」

 「それ以上言うと、被検体にする」

 「わーった、言わない。ショタ子はガチで容赦ねーな」

 結構本気で怯えているクロエに鉄子は、

 「えぇと、その、つまり?」

 「だ~か~ら~、口説き落として、朝までビアンビアンやりまくりたいの! マットとチェアとローションは、その為にも買ったのにぃ!」

 絶句した鉄子に詳子が言った。

 「聞かない方が良かっただろう?」

 「……はい」

 「まぁ、彼女の正体を知らないでいられるのは幸いかな」

 意味深に微笑む詳子に鉄子は訊いた。

 「有塚先輩がですか?」

 「いや、天牛山が」

 「ん?」

 こんな()り取りをしながら全身を洗い終えた4人は岩風呂に向かった。

 すると、湯船の一角では複数の女子が談笑していた。そして、鉄子はその中心にいる生徒に見覚えがあった。

 「……な、何でここにいるんですかッ!?」

 鉄子が愕然として叫び、指差した先には美王が湯に浸かっていた。

 「どうしてそこまで驚く!? それに君は誰!?」

 「どうしても何もここは女湯ですよ!」

 それを聞いたクロエは腹を抱えて大笑いした。ようやく鉄子の誤解を察した美王は、

 「またこのパターンか! 待て待て落ち着け。私は女だ」

 「嘘だ! 顔も声もイケメンじゃないですか!」

 「そう思うのは無理も無いけど、女だから」

 「だって、どう見ても身長が180近くあったし」

 「確かに178センチで女性にしては結構高い方だけど、全然いない訳じゃないだろ」

 「それに、リーゼントしてたし」

 「欧米では女性だってリーゼントにするよ。少ないけど」

 「あと、胸だって無いし」

 「初対面なのに失礼だなッ! 君だって無いじゃないか!」

 「いや、全然違うし」

 クロエが口を挟んで来た。

 「あーしの見たところ、テッコはBカップだけどアンタはAAだよね。この差は結構デカイよぉ~」

 すると、鉄子は自身の胸を慌てて隠して、

 「うわっ、当たってる! 何で!?」

 一方、顔をしかめた美王は、

 「乳牛山脈は黙っていろ!」

 「うっせー、乳無し平野!」

 「クロっち先輩って見ただけで何カップか分かるんですか!?」

 驚く章子にクロエは、

 「まぁね~。乳ソムリエって呼んでくれてもイイよ」

 そう言って巨豊な胸を張る。

 「ついでに言うと、ショコラはAカップだろ」

 「ウソぉッ! 当たった。マジで一目で分かるんですね。怖~ッ!」

 怯える章子の横で鉄子が詰問を続ける。

 「それに疋島部長は『女子にモテるイケメンでプリンス・クインテットの1人だ』って言ってました」

 「女子にモテるのもイケメンなのもプリンス・クインテットなのも事実だけど、私は女だよ。疋島先輩から聞いていないのかな?――はぁ、仕方無い」

 謙虚から最も掛け離れた認め方をすると、勢いよく立ち上がった。

 鉄子は股間を見まいとして、慌てて両手で眼を覆い隠しそうとしたが間に合わなかった。章子はここぞとばかりに眼を見開いたが。

 無駄な肉が全く付いていないスーパーモデルの様なプロポーションに2人は眼を奪われた。よく見ると、胸の隆起は微かにあった。そして、

 「……無いッ!?」

 驚いた鉄子に続いて章子が叫ぶ。

 「腐女子のハートと子宮にティンとくるおティンティンが無いッ!!」

 「キュンとくる、みたいに言うなって」

 章子にクロエが冷静にツッコミを入れる。すると、詳子も冷静に窘める。

 「普段の君も似た様なものだぞ」

 「まっさかぁ~」

 すっ惚けるクロエの横で、章子が驚きの表情を浮かべて呟く。

 「蜂須賀先輩の名前は知ってたけど、まさか女だったなんて……」

 「でも、どうしてプリンス・クインテットに?」

 「それは私も知りたい」

 揃って首を傾げる鉄子と美王に、クロエがニヤニヤしながら答えた。

 「女子なのに顔も声も発言も行動もイケメン過ぎるから入れられちゃったんだよなぁ~。堤中高校史上初らしい」

 「じゃあ、プリンス・クインテットの今のメンバーは男子4人に女子1人って事ですか?」

 「そーそー。で、綽名は“美王子”。本人は女の()なりたくなかったのになぁ~」

 「女の子になりたくない? でも、女子扱いされたいんでしょ?」

 「テッコは勘違いしてる」

 章子が説明を始めた。

 「女の(せがれ)って書いて『おんなのこ』って読むの。男の娘の逆は『雄んなの子』だけど、最近はこういう単語も出てきたの」

 「つまり、雄んなの子=女の倅、って訳ね」

 「私はそんなもの目指していないのに」

 美王が否定すると、彼女を取り囲んでいた女子達が異口同音に「え~っ!」と残念そうに洩らした。

 「本当に女子だったんですね。済みません。図書室でジャージだったから余計に勘違いしてしまいました」

 「あの日、6時限目が体育だったんだよ。帰宅するだけで着替えるのが面倒臭かったから。今度からなるべく制服でいるよ」

 すると、取り巻きの女子達から再び「え~っ!」が洩れ出た。

 「そういう需要もあるのね」

 章子が呟くと、美王は眉をひそめた。

 「私は供給する気なんて、さらさら無いのに」

 やはり、取り巻きの女子達から三度(みたび)「え~っ!」が洩れ出た。

☆次回予告


夜の海を()く豪邸に、

襲撃者がどもが殺到する。

迎え撃つは夜風を纏うくノ一。

そして、玉虫色の異形なるマシン。

第12話「第三の鋼虫(こうちゅう)


それは海原(うなばら)を駆け、星空を(かけ)る。

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